『三好in戦極姫』   作:零戦

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第二十二話

 

 

 

 

 

「クハハハハハハハ!! 今度こそ三好家も終わりじゃな!!」

 

 義輝は二条城で酒を飲みながら上機嫌だった。それもそのはず、越後の上杉謙信が正式に義輝に加勢する事を表明し加賀国へ侵攻を開始したからである。

 

「三好将和が苦しむ表情……肴が進むわい!!」

 

 そう楽しむ義輝であった。そして言われる将和はというと……。

 

「キレてる?」

「キレてないですよ。俺をキレさせたら大したもんですよ」

 

 長慶の居城である芥川山城で将和は久秀と何故かそのような冗談を言っていた。

 

「兄様、それは……?」

「気にするな」

「は、はぁ……」

「それはさておき……上杉の現状だが……」

「一言で表すなら加賀国を蹂躙する勢いです。迎撃に出た一向衆の主力五万をあっという間に蹴散らした模様です」

「うむ、一向衆は根絶やしだからな。その判断は良いぞ謙信。その判断の評価に百万年無税だ」

「何で敵を応援するんですか……」

 

 将和の呟きに長逸は溜め息を吐くも報告を続ける。

 

「上杉軍は現在、加賀国を攻略中であり全域を掌握するのも恐らくは10日は掛からない……と思っていましたが一向衆も激しい抵抗をしているのでそれ以上は掛かると思います。恐らくは三月は……」

「たくっ……まぁ上杉は厄介だなぁ……それで朝倉からは何か言ってきているか?」

「救援要請を求めています」

「だろうな」

 

 将和は頭をポリポリかいた。加賀という一向衆を長年相手してきた朝倉だが今度は上杉に変わるかもしれないという事態なのだ。藁にもすがる思いなのは明白だった。

 

「だが朝倉を見捨てたら近江への道が開いてしまう」

「ならば……」

「常備軍の一部である5000を率いて俺が向かう」

「兄様……ですが将軍家が……」

「将軍家は京を包囲してその間に関白を動かす」

「成る程。朝廷からの要請であれば……」

「それまでは俺が時を稼ぐ」

「兄様……」

「心配するな長慶。勝って帰ってくるよ(フラグじゃない……フラグじゃない……)」

 

 内心はそう思う将和である。

 

「取り敢えず義輝には尻叩き100連発の刑に処するか」

「し、尻叩き……」

 

 将和の呟きに反応したのは長慶や一存等将和の兄弟らだった。普段は何くそという表情をしている一存でさえ顔を青ざめているのだ。

 流石に不審に思った久秀は思わず隣にいた長逸にひそひそと話すのである。

 

(ちょっと、長慶様達の表情が鬼でも出たかのような表情をしているのだけれど……?)

(あぁ久秀殿は畿内で臣従したから分からないんですね。まぁ所謂将和殿の折檻です)

(折檻?)

(えぇ。長慶様らが元服する前、当主代理をしていた将和殿に悪戯をしまして……)

(それで折檻を?)

(長政殿らが止める間もなく容赦なく長慶様らの尻を……本気で叩いたみたいで……)

(それが記憶にこびりついているのね……)

 

 将和がキレるなんてよっぽどの事をしたのだろうと久秀はそう思う。なお、軍儀に久秀は将和に聞いてみた。

 

「あぁあの件か……メシの茶碗を開けたら茹でた蝦蟇が入っていてな……」

「ウェッ……」

「ハッと扉を見たら一存達がいて笑っていてな。そこで……キレたわけだな」

「あらあら」

「一番最初に一存と実休を掴まえてそのまま尻叩きよ。騒ぎを聞き付けた長政に止められたが仕置きとして関わった者……まぁ長慶も含めてだが……てか長慶から下全員の兄弟がやっていたからな。全員叩き終わったら俺も右手は腫れていたな」

「ウフフ……」

 

 良い情報を聞いたと思う久秀であった。なお、長慶は将和に尻叩きをやられて三日程愚図っていじけていた模様である。

 それはさておき、将和は常備軍の5000を率いて直ぐに越前へ向かったのである。なお、京には友通が3000の兵で駐屯し義輝の動向を見張るのである。

 将和の軍勢が越前一乗谷に到着した時、朝倉義景は涙を流しながら頭を下げた。

 

「将和殿ぉ……此度の援軍はありがとうございまずぅぅぅ……」

「当主が泣くなよ……」

 

 将和に抱きついてワンワン泣く義景に将和は溜め息を吐く。

 

「でもでも、本当に今の越前はヤバイんですよぉ……」

「分かりました分かりました。何とかやりましょう」

「どのような策を?」

「和夏」

「此処に」

 

 将和の言葉に山崎吉家が反応した。山崎の問いに将和は和夏を呼ぶ。

 

「忍びは何人来た?」

「全部で30人くらいだけど?」

「それで良い。上杉の食糧輸送路を襲撃して奴等を日干しにするんだ」

「任された」

 

 和夏はシュタッと作業に掛かり出す。

 

「成る程。メシが無ければ奴等は引き揚げますな」

「策の一つだがな(ゲームの謙信だから人狩りや乱取りはしないだろ……)」

 

 史実でも謙信が許可していたくらいである。

 

「義景殿、直ちに出陣の用意を願います」

「出陣……? まさか上杉に全力で……」

「それは最後の手段です。対陣をする事で和夏達の動きを出来る限り悟られないようにするためです」

「でも上杉が攻めてきたら……」

「……覚悟は決めておいてください」

 

 将和の言葉に義景は泣きそうな表情をするのであった。なお、朝倉側も覚悟を決めて総勢32000の兵力を加賀国に向けて進軍を開始した。

 三好・朝倉連合軍は手取川まで進軍しそこで陣を構えた。

 

「手取川を渡河して陣を構えたのか?」

「はっ、そのようで……」

 

 謙信は重臣である直江兼続からの報告に目を見開く。

 

「……朝倉義景は腹を括ったか、それとも阿呆となったか」

 

 謙信は薄ら笑いをしながら濁り酒が注がれた杯を啜る。

 

「宜しい。ならば手取川を義景の墓場としましょう」

「はっ。それと義景と三好家から援軍も……」

「三好家!? ならば長慶ですか!?」

「い、いえ。三好将和と申す者で……長慶の庶兄のようです」

「……興が削がれるな……」

 

 途端にやる気を無くす謙信だがそれでも全力でぶつかる事にしたのである。斯くして二日後に両軍は対陣するが上杉側は動く事はなかった。

 

「……薬が効いてきましたかな?」

「……かもしれませんな」

 

 ニヤリと笑う山崎吉家に将和はニヤリと笑い返す。効果はあった、最初に布陣した日に謙信は兼続からの報告に頭を抱えていた。

 

「食糧輸送がやられましたか……」

「どうやら忍びを使っているようで……」

「軒猿はどうしているので?」

「向こうの忍びを追っていますがどうやら返り討ちにされているのが多い模様です……」

 

 上杉側にも軒猿という忍びの集団は存在しており和夏らに戦ってはいたが、次期風魔小太郎としての腕前を持つ和夏を筆頭に精鋭の忍び隊に敗走していたのだ。

 

「……このままでは我が上杉は戦わずして敗北する事になる……」

 

 謙信の言葉は現実となる。上杉の陣にも和夏らは侵入をして食糧庫に放火をして上杉軍の糧食を焼き払う事に成功、メシ事情を更に悪化させるのである。そのため謙信は撤退を決断するのであった。

 

「……この屈辱……忘れはしない……」

 

 謙信は三好・朝倉連合軍の陣を睨みつつ夜間に撤退するのである。なお、義景は上杉軍が撤退した事に歓喜の涙を流すのであった。

 

「将和殿ぉ、本当に本当にありがとうございます!!」

「は、はぁ……」

 

 ブンブンと将和の手を握り腕を振り涙を流す義景である。なお、将和らの見送りには義景らほぼ全員が来ており義景達は将和らが見えなくなるまで頭を下げ続けるのであった。

 

「何や今回はカラクリ左近の出番は無かったなぁ……」

 

 帰りの道中で島左近がポツリと呟くが将和は苦笑する。

 

「まぁ今回は真正面からぶち当たる兵力は無かったしその準備も無かったからなぁ……次回に期待してくれ左近」

「まぁええで。そん代わりぃ将和はんが茶店で団子を奢ってな」

「奢り確定かよ……」

「ちょっと狡いですわよ左近さん!!」

 

 左近のやり口に反対するのはこれまた将和の隣で馬上の筒井順慶である。

 

「何や、順慶はんも一緒に食べたらええやん」

「な、ちょ……それも良いですわね」

 

 左近の言葉に驚愕する順慶だがそれもまた良しとし頷く順慶だった。

 

 

 

 

 




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