『三好in戦極姫』   作:零戦

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お久しぶりです


第二十三話

 

 

 

 

 

 

「越前までわざわざ御足労でしたなぁ将和殿」

「いえなに、三好家の繁栄のためなら……」

 

 将和は京を訪れ関白二条晴良の元に赴いていた。

 

「京では噂しとりましたな。「軍神には三好家の筆頭家老も勝てないのではないか?」とな、まぁそれでも跳ね返したのが将和殿でおじゃる。将和殿の評価は高まるばかりでおじゃる」

「……それが些か厄介ですな」

「それを元に長慶殿の耳に入れる輩も増える可能性は無にではありまへんからな」

 

 晴良はそう言って将和が点てた茶を飲む。

 

「……それが将軍家であると?」

「はてさて……京の都は広いですからなぁ……」

 

 将和の問いに晴良はそう笑みを浮かべて返すがその表情は正解に等しかった。

 

「麿らも抑えてはおるが……はてさて、剣豪は刀を振るい知をも試したいと言うておる……難儀でおじゃる」

「将軍家が故に……ですな」

「うむ」

 

 将和の言葉に晴良は頷き茶を啜る。

 

「それもそうでおじゃるが……将和殿に一つ頼むがあるでおじゃる」

「……如何様に?」

「……伊勢でおじゃる」

「………………」

 

 晴良の言葉に将和は目を閉じ、幾分かの時を刻んで目を開いた。

 

「北畠家……でございますな?」

「……如何にもでおじゃる」

 

 晴良は溜め息を吐きながらも菓子を口に付ける。

 

「今現在、伊勢の北畠家は尾張の織田からの侵攻に劣勢……北伊勢は織田家が領有し残りは中伊勢と南伊勢のみ……しかも南伊勢は反北畠派が多いと聞くでおじゃる」

「そして北畠は元は貴族の出ですからな……」

「左様……伊勢が侵攻されていると聞いて帝も大層、心を痛めておるのじゃ。南朝の忠臣とは言え皇室を守護してきた家でおじゃる」

「……織田家と交渉をして北畠家の助命……ですな?」

「麿らも動く。帝も憂慮しているのじゃ」

「ならば……策は一つしかありますまい」

「な、何と!? 策があると言うのでおじゃるか?」

 

 将和の言葉に晴良は目を見開き身を乗り出す。その晴良の様子に苦笑しつつも口を開いた。

 

「……帝からの勅命です」

「ちょ、勅命かや!?」

 

 将和の言葉に晴良は目を見開き思わず茶器を落としてしまう。

 

「いや……しかし……じゃが……確かにそれは可能でおじゃるな……」

 

 腕を組み、ブツブツと呟く晴良。将和はそれを見つつ茶を点て新しい晴良の茶器に茶を注ぐ。

 

「手っ取り早くやるのであれば帝の勅命、これ以外に方法は有りませぬ」

「むぅ……」

「伝家の宝刀はギリギリまで使わない……しかし、そのギリギリを見逃しては伝家の宝刀とは言えません」

「成る程のぅ……伝家の宝刀は今がまさにその時と……」

「勅命が降れば織田も北畠を助命するでしょう。助命を拒否れば……織田家は朝敵となります故……」

「相分かった」

 

 将和の言葉を遮る形に晴良は決断した。

 

「将和殿、麿は直ぐにでも帝の元に参内致すでおじゃる。そして勅命を戴くでおじゃる」

「分かりもうした。ならば使者としては自分が……それと織田家には……」

 

 そして帝の元に参内した晴良は帝に事情を説明し帝も了承、勅命という形で織田・北畠の停戦の使者を三好家から向かわせる事になったのである。なお、三好家からは筆頭家老の将和が使者として、その護衛として高虎に島左近、兵500が付いていく事になったのである。

 

「それで岐阜城に行くのか?」

「いや、高岡城だ。高岡城を信長の軍勢が包囲していると聞く」

「成る程な。岐阜城で待つよりも直で行けるからなぁ」

 

 将和の返答に左近はそう呟く。そして一行は高岡城を包囲する織田軍に向かうのであるが警戒していた織田軍の小部隊と鉢合わせしてしまうのである。

 

「………」

 

 織田軍が構えた事で高虎と左近も武器を構えるがそれを制したのは将和であった。

 

「将和はん!?」

「逸るな左近、俺達は戦いに来たんじゃない。織田の軍勢とお見受けする。我等は三好家の者である。至急、織田信長殿と御会いしたい」

「えっ、信長様と?」

 

 小部隊の隊長らしき女性武将は将和の言葉に驚きつつも身なりは警戒をしていた。

 

「信長殿に取次をお願いしたい」

「は、はいッ!?」

 

 将和の言葉に女性武将ーー後に木下藤吉郎秀吉と判明ーーは直ぐに信長の元に向かい取次が認められたのである。

 

「此方です」

 

 将和が一つの陣幕に案内され開かれた幕を潜り中に入る。そこには織田家の各武将達が勢揃いをしておりその中央には床几に座った信長が夕食らしい湯漬を食していた。

 その信長の前には床几が置かれており将和はその床几に座る。それと同時に控えていた近習が将和に湯漬が入った食器と箸を渡す。

 

「宜しいのかな?」

「腹が減ってはなんとやらだ。何せ今から貴様と会話による戦をするからな」

 

 梅干しを食していた信長が将和に視線を向けニヤリと笑う。信長の様子に将和もニヤリと笑い返し湯漬を食するのであった。

 

「では話を聞こうか」

 

 湯漬を食してから信長が口を開いた。

 

「三好家筆頭家老、三好河内守将和でございます。信長殿には以前、堺で御会いしたと記憶が有りますが……?」

「ハハハ、バレていたか」

 

 信長の笑いに武将達の座に控えていた米五郎左こと丹羽長秀は溜め息を吐いていた。

 

「あの時は堺に鉄砲の買い付けに来ていてな。主君は息災か?」

「はっ。今は播磨を平定してから同国の治安維持を勤めています」

 

 将和の言葉に信長は眉をピクリと動かす。織田家は伊勢一国で手こずっているのに三好家は播磨を既に平定したと力の差を見せつけたとの意味合いも兼ねていた。

 

「それは重畳な事だ。だが、御使者よ。播磨も阿波も何れは織田家のモノになるかもやしれぬぞ?」

『……………』

 

 信長の言葉に場は緊張感に包まれる。それは織田が三好を食らうと皮肉っていた。それを高虎と左近も理解しており警戒はしていたが信長の発言に怒る筈の将和は大笑いをした。

 

「ハッハッハッハッハッハ。成る程、飛ぶ勢いがある織田家なら有り得るかもしれませんな」

「ハハハ、だろう?」

「しかし、それは織田家が尾張からの国替えかもしれませんな」

「ぶ、無礼であるぞ!!」

 

 将和の発言に「鬼柴田」こと柴田勝家が床几から立ち上がり反論をするが信長はそれを制した。

 

「控えい権六」

「し、しかし……」

「構わん。元々は私から言い出した事だ」

「………」

 

 信長の言葉に勝家は将和を睨みつつも座り直す。

 

「済まないな将和殿、意地悪が過ぎた」

「いえ、それは某もでございます」

「本題に入ろう」

「……これでございます」

 

 将和が懐から書状を取り出し近習に渡し、近習が信長に渡す。書状を一目した信長はニヤリと笑う。

 

「成る程、帝の勅命か」

「如何にも。今頃は北畠家の居城である大河内城にも朝廷からの使者が向かわれているでしょう」

「ふむ……では聞こう。仮に北畠家を助命して公家として京に戻るとしよう……空になった伊勢はどうするのだ?」

「それは今、侵攻している大名が持てば宜しいでしょう」

「ほぅ……?」

 

 将和の言葉に信長は興味深く将和を見る。

 

「それは朝廷も承知済みの事であるかな?」

「無論、関白の二条晴良様が帝に申し上げ帝も了承したとの事でございます」

「デアルカ」

「何か御懸念でも?」

「三好家の謀将とまで言われた御主の事だ、三好家の軍勢を伊勢に引き入れていると思っていたがな」

「おやおや、伊勢に軍勢を引き入れて欲しかったですかな?」

「それは勘弁願いたいな」

「でしょう? 我が三好家も無駄に敵を増やしたくはありませんので……今は癇癪を起こす剣豪将軍を殴るのだけで精一杯なのでね」

「ハッハッハ、それは良い」

 

 将和の言葉に大笑いをする信長である。

 

「しかし……御主が織田家に要れば織田家は躍進する力は更にあったというものを……どうだ? 三好家から織田家に来ぬか?」

 

 断る前提で信長は将和に問い掛けるが将和は苦笑しながらも口を開いた。

 

「残念ながら自分は三好家で飯を共にしています。嬉しくは思いますが下の兄妹が心配でしてな」

「ハハハ、それは仕方ない」

「ですが……」

「フム?」

「ですが信長殿が白無垢で自分の元に来れば話は違うかもしれませんな?」

『………………』

 

 将和の言葉に場はざわめき、派手な衣装を着している前田慶次等はケラケラと笑い木下藤吉郎は槍に手を掛けようとしていた。しかし、当の信長本人は高笑いをしていた。

 

「ハッハッハッハッハッハ。ウツケと唄われた私が白無垢か。コイツは傑作だ」

 

 暫くは高笑いをする信長だった。

 

「久しぶりに楽しい会話だった。感謝するぞ将和殿」

「それは良うございました」

「そうそう忘れていた……天城」

「はい」

 

 不意に呼ばれたのは徳川家から派遣された一人の軍師だった。

 

「こやつは天城颯馬。今は織田家にいるが訳あって徳川家から派遣されておる」

「ほぅ、織田家の躍進力の源ですかな(ウェーイ、マジで天城颯馬だわ……)」

 

 内心はそう思う将和である。

 

「三好家の謀将である御主に常々教授してもらいたいと口を漏らしていたのでな。一つ何か教授してもらえないか?」

「宜しいのですか? 自分は大したモノじゃありませんがね」

「いえ、そのような事は有りませぬ。何か一つでも良いので……」

 

 天城は将和にそう言う。将和は仕方ないとばかりに口を開いた。

 

「では一つ……戦に勝つ事は何であろうか?」

「戦に勝つ事……采配でしょうか?」

「違うな、それは短絡的過ぎる。戦に勝つ事……それは事前の準備だ」

「事前の準備……ですか?」

「準備が多ければ多い程、戦に勝つ確率は高くなる。まぁ九割だな」

「残りの一割は?」

「……大将に不測の事態が発生する事だな。まぁ討死したりとかのもんだよ」

「成る程」

「ま、後は考えるんだな」

 

 そう言う将和だった。数日後、帝からの勅命を承った北畠具教は降伏を決断し大河内城から一族を連れて信長の陣営を訪れ頭を下げたのである。降伏した具教に信長は約束通り北畠家の助命をし北畠家は朝廷からの使者と共に京へ上る事になるのであった。

 

「借り……ではあるがあまりやる事は無いぞ」

「まぁ義輝の味方をしないだけでも御の字だよ」

 

 大河内城に入城した将和は信長と二人きりの部屋でそう話していた。

 

「フム……」

「織田家とは何れ決戦……とは思っているがな。悪いが両家とも今はその時ではない」

「織田家を買ってくれているという認識で良いのか?」

「むしろ信長、君自身だな」

「フッそれは嬉しい評価だ」

 

 そう微笑む信長であった。

 

 

 

 

 

 




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