『三好in戦極姫』   作:零戦

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第二十五話

 

 

 

 

 

「事態は悪化するばかりね……」

「それは俺の事か?」

「馬鹿ね、三好家の事じゃない」

 

 飯盛山城で療養をする将和の話し相手に今日は久秀がしていた。長慶から受けた傷は思っていたよりも深く(腸等には損傷無し)今は療養をしていたのだ。

 

「三好家、貴方を謀叛人としたら色々四方から言われているじゃない」

 

 将和を切り捨てた三好家だが切り捨ててから数日後、朝廷から「三好河内守が謀叛人とは如何なる了見か!?」と関白の二条がわざわざ使者として芥川山城に出向き長慶らを罵倒する有り様だったと言う。

 他にも堺の商人達ーー今井宗久らの会合衆らも長慶が出した矢銭の提出を明確に拒否した。

 

「わてらは河内守はんと取引をして矢銭を提出していたんや。河内守はんがおらん三好家等に矢銭を出すわけにはイカンわ」

 

 後に見舞いで飯盛山城に訪れた今井宗久はそう言いながら茶を啜るのである。また、他にも紀伊や丹波等三好家が領有していた国の武将からも批難が相次ぎ将和に味方を表明するという書状が送られていたのである。

 また、長慶にとっての一番の打撃は一存、実休らが将和に味方を表明した事であろう。

 

「それで長慶様らは操られていると?」

「可能性は高いわな」

 

 将和は身体を起こして久秀に告げる。

 

「まぁそこら辺は藍がよく知っているからな」

「今は四国に戻っているものね……」

 

 藍は四国の細川らの説得に参加しており細川や四国勢も将和の味方を表明していた。つまり長慶は将和を包囲するつもりが逆に包囲され四面楚歌の状態だったのだ。

 

「だが兄貴、このままでもジリ貧だぞ」

 

 わざわざ淀城から兵を引き上げて飯盛山城まで駆けつけた一存が言う。

 

「それにこの内紛の騒ぎを聞き付けて他国が侵略してくる可能性は十分に……」

「それは分かっている。だが待て」

「けど兄貴」

「幸いにも此方には手札は多くある。これを大いに利用するさ」

「手札……?」

「そう……手札がな。というかあのクソ野郎の義輝はたたっきつぶしてやる」

 

 ニヤリと笑う将和である。そして盛大に高笑いをしていたのは二条御所の義輝だった。

 

「カッハッハッハッハッハッハッハッハ。今日程嬉しい事はないぞ幽斎」

「はい、喜ばしい限りです」

 

 数刻前から酒盛りをする義輝と付き添う幽斎と椿。その下座では長慶以下の三好家が勢揃いして義輝に土下座をしていた。

 

「見よ幽斎。この三好家の土下座を……妾は漸く此処まで来たのじゃ」

「はい……(でもそれは催眠によるモノ……対抗策を向こうが講じれば此方は……)」

「しかし椿、三好将和については後少しじゃったな」

「まぁそうね。でも此方が有利だから大丈夫よ」

「………」

 

 幽斎は何物にも言えぬ嫌な予感を覚えたが口に出す事はなかった。確証はなかったからであり胸の内に閉まっておく事にしたのである。

 

「ヤツは飯盛山城で籠るばかり……ヤツの慌てようが目に浮かぶわ。クハハハハハハハハハ!!」

「………(そうだと良いのですが……)」

 

 内心、そう思う幽斎だった。そして幽斎の心配した通りになってしまうのである。

 

「な、何じゃと!? わ、妾の将軍職を取り上げると申すのか!?」

「ホホホ、取り上げるのでは無い。返上せよと言うておるのじゃよ」

 

 翌日の二条御所にて響き渡る義輝の怒号に朝廷からの使者である山科言継は笑いながら扇子で口元を隠す。

 

「此度の件……帝は大層お怒りになられてのぅ……八百比丘尼を利用しての事は見過ごす事は出来んとの事じゃ」

「まさか……椿を……?」

「平安の高麗からの献上……帝に代々伝わる一人の女子を利用した悲しき過去じゃ……」

 

 言継はそう言うも深くは語らなかった。

 

「……椿を召し出せと!?」

「そのようではない。八百比丘尼を利用した貴様らに帝が愛想を尽かしたとの事じゃ。速やかに将軍職を帝に返上せよ。ただの異国の敵を討つための将軍職じゃからのぅ……日ノ本の乱を治められぬ足利家に異国の敵を討つ力は無いでおじゃろ?」

「貴様ァ!?」

 

 言継の言葉に義輝は携えていた刀を抜くが言継の目がカッと開いた。

 

「愚か者!! 麿の言葉は帝の言葉でおじゃる!! その方、怒りで麿を斬り捨ててみよ。朝敵となるは明白と理解せよ!!」

「グッ……」

 

 流石の義輝も朝敵という言葉には逆らえなかった。しぶしぶではあるが刀を納刀した。

 

「速やかに将軍職を返上せよ……良いな?」

 

 言継はそう告げ部屋を出る。出るのを確認した義輝は畳に拳をぶつけた。

 

「おのれ朝廷めが……」

「しかし朝廷が椿殿の事をご存知だったとは……椿殿も知っておられたので?」

「いえ……私も分からなかったわ。確かにあの時は朝廷……帝からの命で食してからは……逃げていたしね」

 

 幽斎の言葉に椿は『あの時』を思い出しながらそう言う。

 

「ですが義輝様、将軍職は……」

「返上せぬ」

 

 幽斎の言葉に義輝はそう答えた。

 

「……宜しいので?」

「構わぬ。朝廷もそこまで妾達を朝敵にするまで強くはせぬ筈……のらりくらりと避けつつ長く留まる」

 

 義輝の言葉に幽斎は頭を下げるのである。

 

 

 

 

 

 

「と、そのようにのらりくらりとかわしておるでおじゃる」

「……………」

 

 見舞いにと飯盛山城に訪れた近衛前久が将和にそう告げる。なお、前久はニヤニヤとしていた。

 

「帝も大層お怒りになられてる……」

「朝敵に認定すると……?」

「帝や二条達はその気でおじゃる……が、御主はどうじゃな?」

「……………」

 

 前久の言葉に将和は無言で通した。仮に義輝らが朝敵認定されればその配下となっている長慶らにも類が及ぶは必須だった。

 

「義輝があの場で言継を斬れば直ぐに朝敵認定とされ御主を総大将とした討伐軍が編成されていた」

「……ご冗談を……」

「冗談と言えようかや? 御主の陣営には玉藻前がおるではないか?」

「…………」

 

 前久の言葉に将和の介護をしている藍がピクリと眉を潜めハッと気付いた前久は頭を下げる。

 

「済まぬ藍殿。御主を貶める事ではござらぬ。気分を害したのであればこれこの通り。頭を差し出す覚悟でおじゃる」

「……私は今は小少将でございます。昔の名は当に忘れもうしました」

 

 頭を下げる前久に小少将こと藍はクスリと笑う。どうやらわざとしていたのだろう。

 

「それは感謝致すでおじゃる」

「前久殿、話を戻しますが……出来れば伝家の宝刀は抜かないで頂きたく」

「ほぅ……抜かなくて良いのか?」

「如何にも。ちと藍に策があるようでございます」

「フフフ……」

「策が……?」

 

 前久の問いに藍はニコリと笑う。

 

「前久殿、実は京にお戻りの際は……」

 

 ヒソヒソと話す藍、それを聞いた前久はニヤリと笑った。

 

「うむうむ、良かろう。直ちに言いふらそう」

 

 前久は悪戯の餓鬼のように笑いながら見舞いを終え京に戻るのである。

 

「……成功すると思う?」

「するでしょう。だってあのアホですからね」

 

 将和の問いにも藍はニヤリと笑うのであった。更に数日後、義輝の元に一つの報告が来た。

 

「何? 三好将和が重病になったじゃと?」

「はい。飯盛山城に見舞いに行った近衛前久がそう帝に洩らしたそうです。どうやら傷の治りかけに乗馬した際に落馬したようで傷が再び開いたようで今度は高熱を発して魘されているとか……」

 

 長逸がそう報告すると義輝は高笑いをした。

 

「フハハハハハハ!! どうやらあの者に運は消えたようじゃな!!」

 

 義輝はそう言って酒を飲むが幽斎が具申する。

 

「義輝様、念のために忍びを……和夏を物見に出しては如何ですか? 更に上手くいけば三好将和を暗殺する事も……」

「フム……それもそうじゃな。和夏、飯盛山城の三好将和を探ってまいれ」

「御意」

 

 末席にいた和夏が頭を下げるとそのまま姿を消して飯盛山城に向かうのである。そして和夏は呆気なく藍に捕縛されたのであった。

 

「展開早くないか?」

「いや……私も将和の布団で隠れていたが……まさか早いとは……」

 

 藍は風聞を流す事で義輝が様子を探る若しくは襲撃に来ると判断しておりそれに備えて自身は将和の布団にくるまって待機していたのだ。しかし、捕らえてみればまさかの和夏本人とは思いも寄らなかったのである。

 

「取り敢えずそのまま催眠を解除する」

「どのように解除を?」

「簡単な事だ。向こうが掛けた力を更に上回る力で催眠を解除したら良い」

 

 藍はそう言って印を数回組んでから和夏の両肩をパンッと叩いた。叩かれた和夏はビクリと身体を震わせそのまま倒れた。

 

「お、おい和夏!?」

「大丈夫です」

 

 駆け寄ろうとした将和を藍が止める。その間にも和夏はビクビクッと震わせていたがやがては震えも無くなった。

 

「……終わりました。後は数刻もすれば目を覚ますでしょう」

「そうか……一先ずは良かった……」

 

 藍の言葉に将和は安堵の息を吐くのである。

 

「てか、あの印は何のやつだ?」

「あぁ……あれは適当にやりましたよ」

「適当!?」

「相手の身体に力を送れば良いだけなので……まぁソレっぽいのをやれば面白いかなと……」

「お、おぅ。まぁそれで頼むわ」

 

 アハハハと乾いた笑いをする将和である。なお、和夏は二刻程で目を覚ました。目を覚まして和夏が最初にした事は将和の元に白装束で参り大量の涙を流しながら土下座をした事である。

 

「……頭を上げろ和夏。話が出来ん」

「しかしだ将和君!! ワケの分からない妖術に操られていたとはいえ主君たる君を裏切りあまつさえその命まで奪おうとしたのだ。その責を取らねば……私は……私は!!」

 

 和夏は身体を震わせ泣く。だが、将和は和夏に寄り正面に座る。座った事で和夏はビクリと身体を震わせるも将和を見据えた。

 

「和夏、勝負の世界だ。操られたのは仕方ない事だ」

「………」

「その責はお前を操った高橋椿。奴のみだ」

「………」

「和夏、責を感じるのであれば……俺の為に力を貸してくれないか? お前は俺の忍びだ。俺の為にその力、貸してはくれないか?」

「………」

 

 将和の言葉に和夏は袖で涙を拭き取り笑った。

 

「将和君にそう言われたら私も命を尽くそう。私の忍びの力、君に貸す……いや、捧げよう」

 

 和夏はそう言って将和に頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

 




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