「……フフフ♪……フフフ♪……フフフ♪……」
「ちょっと、あれウザイんだけど?」
「……主君にウザイってのはちょっと……」
政務をしながら何かを思い出すように毎度毎度笑みを浮かべて笑う長慶に一緒に政務をしていた久秀がウンザリしたようにジロリと将和を睨みつつ言う。まぁ原因というか理由は将和と漸く結ばれた事であろう。
将和と結ばれてから直ぐに長慶は別名『三好将和を篭絡して嫁にしてもらいたい軍儀』の面々を招集し嬉しそうに報告するのは言うまでもない。
「ちょっと長慶様!? 私が有利とかの話は何処に行ったんですか!!」
「済まない……気付いたら私が組み伏せられていた♪」
「駄目だこの主君。顔が喜び過ぎて顔の表情が崩れているわ!!」
「昨日は五回もしてくれたよ♪」
「回数もちゃっかり報告してるんですけど~」
「耐えるのですよ二人とも」
にへらと笑いながら報告する長慶に三人衆は色んな意味でツッコミをしている。そこへしゃしゃり出たのが高虎だった。
「よし、なら次は私だな」
「ちょ、ちょっと高虎さん!?」
「抜け駆けは許されへんな~」
フンスと意気込む高虎に順慶と左近が警戒心を露にしている。そんなやいのやいの言ってる最中に何故か義輝、幽斎、椿の三人がいたりする。
「……何でこのようなところに妾達がいるのじゃろうな……?」
「……ねぇ、義輝って実はアホの子?」ヒソヒソ
「……多少ですが実は……」ヒソヒソ
首を傾げる義輝に椿と幽斎はひそひそとそう話す。
「あら、義輝。貴女が将和に求婚されたのは知っているからね」
「な、な、な、な、なッ!?」
クスクスと笑いながら弄る久秀に義輝は顔を真っ赤にする。
「ひ、久秀!?」
「まぁ今の貴女はただの足利義輝だから可能性は0ではないわね」
義輝は将和の話を聞いた後、朝廷に征夷大将軍の職を返上した。これにより約200年は続いた室町幕府は滅亡し日ノ本を統治する機構は現時点では朝廷のみになるがその朝廷も最早、力は無に等しかった。
これにより日ノ本は完全に内乱状態の戦国時代がより活発化するのである。
なお、職を返上した義輝だが今は三好家の客将という形になっていた。というよりこのまま野に放てば虎を放つようなモノと朝廷側から捉えられ帝は「三好家に委任すべし」と事実上の勅命を承っているのでさもありなんである。
「まぁそうよねぇ。次に可能性があるのは義輝よねぇ」
「ま、政康まで……」
「特にその胸は……」
長逸も義輝のたわわに育っている胸(特)を見て思わず溜め息を吐く程である。
そんな軍儀という名の女子会をする長慶らを尻目に我等が主人公の将和は別室で一存や実休らと共に政務をしていた。
「……姉さん達騒がしいな……」
「というより先日まで敵同士だった義輝らもいるのに……」
「やめとけやめとけ。女の思考というのは分からんもんだぞ」
ぼやく一存らに将和はそう言う。
「それはあれか将兄、前世で学んだというヤツか?」
「まぁな……まぁそれでも良く俺を補佐してくれたよ」
将和は脳裏に夕夏達を思い出し僅かの感傷に浸るが直ぐに表情を変えた。
「漸く三好家も天下統一の本来の道に再び歩むが……状況は厳しいだろうな……」
「東……東海道は織田家と徳川家がほぼ制圧しているからな……」
織田家は北畠家が朝廷に戻ってから漸く伊勢の治安維持に成功し戦力の再編に乗り出していた。そして信長は京への道に歩みだそうとしていたのだ。
「西は?」
「毛利と尼子の戦いが熾烈化している」
三好家包囲網後、一旦は大人しくしていた両家だが再び激しく争いを展開していた。
「どうする将兄?」
「……考えはある。だが今此処で言うのはちょっとな……」
「まぁ身内だけの話し合いだもんな……」
「というより兄貴は勝てる自信があると?」
「少なくとも……な」
そう話しているとドタドタと廊下を走ってきて勢いよく戸がスパーンと開かれる。
「将和殿!!」
「ん? 高虎じゃないか……って酒臭!?」
「クハハハハハ、先手必勝という事だな……んちゅるっ」
酒臭い高虎(泥酔)が酒瓶を右手に持ちながらフラフラと将和に歩み寄り……そのまま口吸いをする。
『や、やった!?』
その光景に一存と実休は思わずそう叫ぶ程であった。なお、廊下から更に走ってくるのがいた。義輝と政康だった。二人とも顔を真っ赤にしており両者とも酒をたらふく飲んでいるのが見て取れた。
「あー!? 高虎に先を越された!?」
「おのれ高虎め!!」
「クハハハハハ。早い者勝ちだという事だな!!」
「……何なんだこの状況……って一存と実休はいないし……逃げたなあの二人……」
コッソリと戦術的後退をかました二人である。なお、なんやかんやで将和も後退に成功(突撃してきた三人が泥酔でダウン)したのである。
「そうか、将和は三好家の内紛を終了させたか」
二月後、岐阜城で美濃・尾張・伊勢の三国を保有する織田信長は京からの間者の報告にニヤリと笑う。それを見た丹羽長秀は溜め息を吐きながら言う。
「嬉しそうですな信長様」
「これが嬉しくてはならないぞ五郎左。漸く合戦で将和と対峙出来る」
信長は笑いながら敦盛を舞う。いつも見ている長秀や秀吉らからすれば今日の敦盛はキレが良かった程である。
「あー……そのですね信長様……」
「何だ天城?」
そこへ軍師である天城が申し訳なさそうに声をかける。
「……岩村城に武田軍が押し寄せているとの事で遠山氏から救援を求める伝令が来ています」
「……おのれ信玄めェ!! 謙信と争っておけば良いものをォ!!」
「如何なされますか?」
「無論、救援を出す!! 天城、今出せる兵力は!?」
「凡そ7000かと」
「それでも構わん。直ちに出陣するぞ!!」
斯くして信長は軍勢を率いて出陣するのである。
「というわけで東は今のところはまだ平穏だな」
「いや兄様。それは平穏では無いような気も……」
芥川山城で将和らは軍儀をしていた。
「というよりも東を混乱させようと今川と武田を利用するとは……」
長逸はやれやれと首を振る。将和は二月前の軍儀にて東ーー織田家を混乱させる手段として今川と武田を利用した。
というのもこの頃、武田は海(塩)を求めて今川義元亡き後の今川領である駿河の駿東郡、富士郡が攻められ武田領となっていた。和夏からの情報で得ていた将和は使者を海路から経て武田と内密に接触させたのである。
「食糧を供与するので美濃の一部を攻めて織田とある程度の時期まで睨み合いをしてほしい」
将和は手始めに3万石の糧食というカードを切った。この時点で武田に供与出来るコメはまだ10万石はあった。
というのも将和が作成して利益を得ていた石鹸や綿花(綿花を利用した布団等)等が堺を経由して売上が陪乗となり資金も余裕となっていたのだ。これにより三好家の貯金は多かった。
それはさておき、三好家に命令されるのは癪だが武田信玄はこれを受け入れる事にした。
「物は考えようです。美濃で睨み合いをするだけで食糧が貰えるのですよ」
信玄の心情としては確かに癪だが信玄は甲斐、信濃を治める大名であるのだ。自身の心情は仕舞い三好家の要請に従う事にした。
ついでに将和はお願いとして甲斐の民になるべく農業はコメ作りの水田から果樹や野菜への農業に方針転換もしくは水田、用水路に入る際には素足で入らない事をと要請したが信玄が素直に従うとは思わなかった。
というのも甲斐国は昔から日本住血吸虫が中間宿主の小型巻貝のミヤイリガイに寄生しており風土病に悩まされていたのだ。
将和は前世の経験からそれらを知っており序でに撲滅をと考えていたがまぁ将和にしてみたら「信玄が言う事を聞いてくれたらいいや」くらいであり撲滅は三好家が天下統一してからでもと考えていたくらいである。
なお、この要請には信玄も幾分か悩んだが方針転換は緩やかにしつつ水田や用水路に入る際は素足で入らないよう厳命するのに留めたのである。まぁこれでも幾分かの感染者や死者は抑えられるようになるのである。
「まぁこれで……西に専念は出来るな」
将和はそう言いながら日ノ本地図を見て西国ーー山陽と山陰を見る。
「播磨を拠点に山陽と山陰に攻め入ろうか」
「それは構わない……が、丹後と但馬も忘れているな兄様……」
「なんやかんやで攻める予定だったのが義輝や謙信のせいで棚上げされていたからなぁ……」
実は今の今まで三好家に攻略はされていなかった丹後と但馬であるが流石に今回は無理そうであった。
「丹後には丹波から攻め入る。直正らを主力にしよう」
「御意、お任せを」
長慶の言葉に直正は頭を下げる。
「但馬には俺が行こう。長慶ら主力は山陽から入り備前の宇喜多を支援という形になろうか」
「そういえば宇喜多は?」
「何とか備前の独立は確保して今は美作を攻略中だな」
三好家の内紛中に毛利から侵攻された宇喜多だが押し返す事に成功し今は美作を攻略中だった。
「まぁ取り敢えずは丹後、但馬の攻略に専念だな。美作は宇喜多に任して長慶らは播磨で支援だな」
「そうなるな」
斯くして三好家は再び動き始めるのであった。
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