三好家は毛利家を降し配下とした事でそれまで毛利が占領していた博多ーー筑前の一部をも占領した。それに伴ってか毛利隆元経由で長慶や将和らに博多の商人である島井宗室と会っていた。
「島井です。今後とも是非御贔屓に……」
「無論です島井殿。そちらにも石鹸や椎茸、清酒を回しましょう」
「おぉ、あの有名な清酒も回して下さるのですか。これは嬉しい事です」
「ほぅ、九州でも有名なのか?」
「えぇ、そりゃもうッ。九州の人は大酒飲みが多いので」
「フム。なら九州の方では需要が多そうだな」
「なら兄様、清酒の製造方法を教えても宜しいのではないですか?」
島井の言葉に長慶はそう言う。清酒を九州でも広めさせるならそれが一番手っ取り早かったからだ。だが、将和は違う考えがあった。
「フム……島井殿、二つ頼みがある。それが了承出来れば清酒の製造方法を教えよう」
「ほぅ……それは何でしょうか?」
「一つ目、南蛮の大筒が欲しい。恐らくセーカー砲とカルバリン砲の名前だろう」
「……これはまた、三好様はよく御存知ですな。分かりました、南蛮人から貰えるようやってみます」
「なるべく急ぎで頼む。取り敢えず四門ずつ欲しいな」
「分かりました」
「それと二つ目……南蛮人に奴隷で売られた日ノ本人を一人でも多く取り返してもらいたい」
「ッ!?」
将和の言葉に島井は表情を変えた。
「そ、それは……」
「我々の忍びは優秀なモノでな。九州の日ノ本人が鉄砲や大筒と引き換えに拐われて宣教師達に売られている……とな?」
「…………………」
「畏きところにも耳が入ってな。大いに憂慮されている……『元寇の際、九州の民は蒙古に拐われているのにも関わらず愚行を繰り返すのか?』とな」
「……………………」
将和の言葉に島井は顔面蒼白となる。それは当然だろう、畏きところがそう仰ってるなら自分達の未来は破滅するしかなかった。
「おや、どうした島井殿? 顔色が悪いようだが?」
「いや……そんな事は……ありません……」
「ハッハッハ。そんな暗くする事ではありませんぞ島井殿。関白様から言われました。『一人でも多くの人を取り返せば不問に致す』との事です」
「……ははッ!! 死力を尽くします!!」
「それはお心強いですな。なら此方も更に綿花の種を渡しましょう」
「ありがとうございますッ」
島井はそう言って頭を下げるのである。その後、島井は直ぐに博多に戻り、大賀や神屋等の博多の商人達に将和の言葉を伝え、大急ぎで売り渡した日本人の奴隷を買い戻す事になるのである。
それはさておき、この頃の三好家は大きく領土を拡大していた。
【三好家の領地】
『阿波』『讃岐』『河内』『和泉』『大和』『播磨』『摂津』『丹波』『近江』『紀伊』『丹後』『但馬』
【三好家へ臣従する大名】
近江国 浅井家
伊予国 河野家
土佐国 長曽我部家
安芸国 毛利家
備前国 宇喜多家
【三好家と対等な同盟の大名】
越前国 朝倉家
【三好家が支援する大名】
薩摩国 島津家
毛利家の領地は元より、四国も土佐の一条家が漸く長宗我部に降伏したので三好の影響力は四国に繋がる事になる。対して尼子はほぼ死にかけであり長慶は宇喜多、小早川隆景、赤井直正に対して三方向からの尼子攻略を発動させた。これの支援に三好からも軍師黒田官兵衛を派遣するのである。なお、宇喜多は毛利が降伏した後に正式に三好家へ臣従すると言ってきた。
「貴方が正しいかどうか……見極めさせて頂きたい」
芥川山城まで頭を下げに来た宇喜多直家は将和にそう言ったのだ。彼の中でどういう心境の変化があったのかは分からないがそれでも宇喜多が変わったのは確かでありだからこそ宇喜多に備前は元より備中、美作の三ヶ国を任せ、後に伯耆も加わる事になる。
それはさておき、毛利戦後に芥川山城での軍儀にて将和はある発言をする。
「長慶の居城を芥川山城から石山本願寺の跡地に移転してはどうだ?」
「石山本願寺の跡地に?」
将和の言葉に長慶は首を傾げる。
「あぁ、日ノ本の中心で、特に経済を動かすのであれば彼処だろうな」
「………それは兄様の記憶からなのか?」
「まぁな。でもそれだと関東の江戸になるんだよな」
この頃もまだ関東の江戸は湿地帯だらけなので見向きもされていない。開発は徳川家康が江戸入りをしてからである。
「関東の江戸……? 何処だ兄様?」
「まぁ……うん、だろうな(ガダルカナルは何処だみたいな言い方だな……)」
そんな事を思う将和である。ちなみに石山本願寺については既に顕如と山科への移動が合意され山科へ移動しているので跡地になっていた。
「私は兄様が押すならそれで構わない」
「そんな全面的に信用されるとな……」
「フフ、兄様だからだよ」
長慶の言葉に将和は頭をポリポリとかいたのである。ともあれ、石山本願寺の跡地に居城を築城する事が決定され普請奉行として将和が、補佐に高虎が据えられる事になる。
「どうだ天城、兵は整ったか?」
「ハッ、整いました」
美濃国岐阜城、『美濃』『尾張』『伊勢』『志摩』の四か国を治めるまでに成長を遂げた織田信長は軍儀をして天城に視線を向けた。
「織田軍約5万6000、徳川軍1万4000、武田軍1万7000の都合8万7000の兵力。更に上杉軍3万7000が北陸方面で越前に向かいます」
「クックック……まさか将和も思ってはいまいな……武田・上杉と同盟を結んで上洛しようとな……」
天城の報告を受け信長はニヤリと笑みを浮かべる。伊勢長島、三河の一向一揆を鎮圧した信長は武田と上杉に同盟を持ち掛け、三ヶ国での上洛を企図したのだ。織田からの同盟提案に最初に乗ったのは上杉だった。上杉は前回の越前攻めで将和に翻弄されていたので謙信も珍しく直ぐに同盟締結を承諾したのである。
対して武田は三好側から食糧の支援もあったりしたので気が引けたがただそれだけである。織田からの駿河割譲承認のがよっぽど良かったのである。
それはさておき、信長は即断する。
「良し、武田と徳川とは連絡を密にしろ。それと天城、三好家の配下にも密書を送れ、裏切り又は中立を確約するのだ!!」
「分かりました」
「さて、者共!! 忙しくなるぞ!! 三好から天下を取るぞ!!」
『オオオォォォォォォッ!!』
織田家の天下を取る為の戦いが始まったのである。
「何? 織田が?」
「うん。美濃方面に出していた諜報員からの報告で織田が近江へ侵攻する気配有りとの事だ。しかも北陸方面からは上杉軍もだ」
飯盛山城で和夏からの報告に将和は少し驚きつつも漸く来たかと思った。
「それに我が三好家の配下の武将達にも密書を送っているようだ。三好家への裏切りか中立をしろとね」
「ほほぅ……下からの揺さぶりか、思っていた以上にやるな(となると……)」
将和は日ノ本の地図を出して各地域を見て筆で丸を付けていく。
「和夏、全忍びを動員しろ。まず浅井に朝倉、宇喜多、毛利、長宗我部に書状を送れ。次に美濃、尾張、伊勢、三河、甲斐、越後の各主要城に潜り破壊活動・上記国内への風説だ」
「分かった。まず書状は?」
「俺が書く。破壊活動については食糧庫への放火、井戸に毒の投げ込みくらいで良い。風説は後から指示を出す」
「分かった。腕が鳴るね」
「長慶には対処をしてから報告する。時間との勝負だ、頼む!!」
「分かった、将和君に頼まれたら何でもやるさ!!」
和夏は直ぐに仕事に取り掛かる。そして将和も各味方の大名に書状を送ったのである。
『尾張の織田が三好に決戦を挑もうとしている。しかし、織田は此方の下を揺さぶろうと三好に味方する各大名、武将に密書を送っている。判断するのは各自の自由だ、好きにするといい。しかし、裏切るのであれば容赦はしない。これまでは命をあまり取らなかったが俺は容赦せずに一族郎党もろとも首を刎ねる。俺は三好長慶のように甘くはない。味方するのであれば直ちに馳せ参じてもらいたい。これまで以上の君達の発展を約束する。どうかよく考えて行動してもらいたい』
将和は三好家に味方している各大名、武将に対し上記の書状を送り直ちに芥川山城に向かった。
「信長が攻めてくるようだ」
開口一番、将和は長慶にそう告げる。
「成る程……兄様の事だ、対策は打っているのだろう?」
「多少はな。既に動いて事後承諾になる」
「構わない。全てを出すのだろう?」
「そういう事になる」
「フフ、なら任せる兄様」
「あぁ、任された!!」
ニコリと笑う長慶に将和はそう答えたのであった。斯くして三好家は織田家と戦う事になり軍の動員を急がせたのである。
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