さて、三好家が動員をかける中、将和の書状が三好家に味方する各大名、武将等に届けられた。
「流石は将和さんだ、先手を打ってきたね」
北近江の小谷城では近江を統治する浅井長政は将和からの書状を見ながらそう呟く。つい先日、信長から長政に密書が届けられていたが長政は裏切る気も中立したりする気もない。
浅井家は将和の支援もあり清酒の製造販売や椎茸の販売、琵琶湖の水運関連で儲けを出していたので今更裏切る必要は一筋もなかった。しかし、それは長政派であった。
「大変です殿!!」
「どうしたの継潤?」
家臣の宮部継潤が慌ただしく入ってきた。
「竹生島に軟禁していた政之殿が竹生島を脱出して何処かに逃走しました!!」
「なッ!? 政之が!?」
長政の弟である浅井政之は反三好家でありその言動から長政の判断によって竹生島に軟禁されていた。しかし、政之の下に信長からの密書が届き、密かに竹生島を脱出し同じく反三好派である新庄直頼、小川祐忠らと高島郡で合流し兵を集めるのである。
「如何なさいますか?」
「……政之及びそれに加担した者は捕らえ首を刎ねるんだ!! 将和殿に急ぎ書状を書くよ!! 浅井家は三好家に味方するとね!!」
「御意!! 直ちに!!」
長政の言葉に宮部は頭を下げるのである。
「ほぅ、三好家を裏切れ……ですか……」
備前国岡山城、備前・備中・美作を支配する宇喜多直家は信長からの密書を読み徐々に笑い声を出す。
「フフフ……アッハッハッハ!! こいつは御笑いだ、裏切れとは……反吐が出ますね」
宇喜多直家はそう言って密書を破り捨てた。それを見て弟忠家は口を開く。
「では……?」
「無論……三好将和に付きますよ。三好将和がいなければ裏切ってましたけどね」
「ハッハッハ。殿からそう言う言葉が聞けるとは思いませんでしたな。明日は雨ですかな?」
直家の言葉に長船貞親は豪快に笑いながらそう言う。
「五月蝿い貞親。それで、兵は如何程出せる?」
「急なものですから……それに伯耆侵攻の事もありますので多くて5000かと思います」
直家の問いに戸川秀安はそう答える。ちなみに岡家利は伯耆侵攻の総大将なので此処にはいない。また、貞親は万が一に備えて待機する必要はあった。だが直家は決断する。
「私が行きましょう。貞親、貴方も来なさい」
「あいよ!!」
「殿、宜しいのですか?」
「構いません。この戦いは総力戦でしょう。なら手札は出しきる必要があります。秀安は引き続き備前にて待機です」
「御意」
戸川達が準備に掛かり出す中、直家は笑みを浮かべる。
(全く……奴をやるなら裏切りよりも暗殺でしょう……)
かつて三村家親を暗殺したように直家は謀将としての意地もあった。だからこそ劣勢になるやもしれない三好家に加担する気だったのだ。
(見せてもらいますよ三好将和……貴方の力というものを……)
再びニヤニヤと笑みを浮かべる直家であった。
越前国一乗谷城、此処では越前を治め三好家と対等な同盟を結んでいる朝倉家でありその当主である朝倉義景は将和からの書状にあたふたしつつ山崎吉家を呼んだ。
「ハッハッハ、これはまた大胆な事をしましたな三好殿も……」
「そんな事言っている場合じゃないよ吉家!! 直ちに兵を動員して!!」
「それは構いませんが……敵はどちらに?」
吉家の言葉に義景は何を当たり前の事を!!という表情をする。
「そんな事……敵は上杉軍に決まっているでしょ!! 奴等の事だから乱取りは当然なんだから全て持って行かれるよ!!」
「上杉軍なら当然でしょうなぁ」
「だから上杉軍の南下は絶対阻止だからね!!」
「御意。しかし、越前の為に三好殿を裏切るかと思っていました」
「勿論、越前の為だよ!! 将和殿と織田のどっちが良いかと言ったら将和殿でしょ!!」
吉家の言葉に義景はニカッと笑う。
「将和殿とは蹴鞠の勝負もついてないからね。それに後は九頭竜川の治水に全部ぶちこむ必要があるからね」
「でしょうなぁ」
「だから軍の全てを吉家、貴方に任せるよ。越前を侵略者から守り抜いて!!」
「御意。必ずや期待に応えてみせましょうッ」
吉家はそう言って義景に頭を下げるのである。その後、吉家は越前中の民を召集し都合7万8000をかき集めて越前と加賀の国境である北潟湖とその周辺の砦群に詰めて上杉軍を迎え撃つのであった。
また、これを機に義景は三好との対等な同盟を破棄し臣従する事を三好家に通告するのである。
安芸国吉田郡山城では毛利家を本当に受け継いだ毛利隆元が次女吉川元春、三女小早川隆景、末っ子の毛利秀包を呼び将和からの書状を二人に見せた。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんの本音はどっち? 私と隆景、秀包はお姉ちゃんの判断に任せるよ」
元春はそう言う。隣にいる隆景と秀包も頷いており視線は隆元に注がれた。対して隆元は目を閉じていたがやがては目を開き口を開いた。
「……三好家に付くよ」
「お母さんがいるから?」
「というよりも三好家側だと儲けられるからね」
隆元はそう言うと算盤を出して計算を始める。
「安芸の海で取れる昆布を朝廷に出してその代わりに三好家から石鹸と綿花の種を貰い綿花を栽培、それを売りに………………」
「あ~、お姉ちゃんの商人魂に火が付いちゃったよ……」
「まぁお姉ちゃんらしいかな」
「ですね」
計算をする隆元を他所に三人は軍儀を続ける。
「隆景、兵を出すならどれくらい出せる?」
「恐らくは3万前後かと」
「せめて4万5000は欲しいね。お姉ちゃんが指揮するなら」
「本陣の兵を含めるとそうなりますね」
「お金ならまだ少し余裕はあるよッ。銭で兵を雇えばそれくらいは可能だよ」
隆元が計算をしながら三人にそう言う。
「なら秀包は姉さんの護衛ですね」
「うん、任せてよッ」
そして毛利家は戦の準備を始めるのであった。そんなこんなで三好家に味方する各大名、武将らは準備する中で将和は飯盛山城にいた。
「わざわざ来て頂いて申し訳ない」
「……儂のような老体に此処まで来させた意味はありますかのぅ?」
「いやいや、意味はありますよ……藤林長門守……」
将和は目の前にいる老人と思わしき男と話していた。男は名を藤林保豊と言い官位は長門守であった。
「ウチの忍びからの情報で織田側に協力していると聞きました。率直に申し上げると我々に付いてほしいです」
「ホッホッホ……契約は履行しなければなりません。織田様より上回る契約はありますかな?」
「無論……伊賀、一国と石鹸は如何ですかな?」
「ほぅ……国と石鹸ですかの?」
将和の言葉に藤林は首を傾げる。
「はい。石鹸はこれまでの椿を主にしていたのを南蛮からオリーブ油という南蛮で使われている石鹸の材料を入手したので作って頂きたい。それと国は伊賀の大名、どうですか?」
「…………………」
将和の言葉に藤林は即答を避けた。というのも伊賀は織田側から「三好家からの接触はあると思うが取り込まれないように」と資金を提供されていたので伊賀としては本音を出さないよう即答を避けたのだ。無論、藤林は三好家に付いても良いと思っていたがそこまでは口に出さなかった。
しかし、即答を避け無言だった事で将和は伊賀に対する興味を喪失し乙案で、ある意味の現状維持を口にした。
「……分かりもうした。それならば藤林殿、現状維持で構いません。しかし、その代わりに一つだけ認めてもらいたいのがあります」
「ほぅ、それは何ですかな?」
「織田・上杉、武田領内での我々の活動を黙認してもらいたい。黙認して頂けるなら即金で5万貫、織田らとの戦が終わり次第更に5万貫をお渡します。どうですかな?」
「成る程。儂はそれで構いません」
(チッ、このクソ爺。他の十二人衆は知らぬというわけか。まぁそうならんがな)
藤林は承諾し、書状を三枚認めて一枚を藤林に渡す。
「おや、残りの二枚は何ですかな?」
「三好家と朝廷に保管するのですよ。何せ契約は大事ですからな」
将和の言葉に藤林は眉をピクリと動かすだけに留まった。その後、和夏が将和に問う。
「伊賀は攻めなくても良いのかい?」
「構わん。わざわざ攻めないように朝廷が伊賀の統治を認めるとしたんだ。それを蹴ったのは向こうだ。黙認しただけでも良い。伊賀は攻めもしないし国境を固めるだけで良い。蟻の子一匹通さないようにしとくか」
「それが良いかもね」
「それよりもだ。和夏、今の諜報隊の編成はどうなっている?」
「歩き巫女は150人、下忍36人、中忍27人、上忍18人になるかな」
(約1個中隊弱か……)
和夏の報告に将和は頷き考えてピンと来た。
「歩き巫女と下忍は風説を流しまくれ。めちゃくちゃ流しまくれ、中忍と上忍は破壊工作だな」
「フム……風説は?」
「……越後には武田が裏切って信濃を攻め、それに伴い北条も攻めてくると流せ。武田はその反対で上杉が織田を裏切って信濃に攻めるとな。それに各武将が裏切るとか色々流すんだ。時折、真実を交ぜ合わせてな。中忍と上忍は前回示した通りに敵方の城に放火や井戸に毒とか投げ込んでくれ」
「了解。直ぐに取り掛かるよ」
和夏はそう言ってスゥッと消えたのである。
「……時間との勝負になるな……」
将和はそう呟き、再び密書を認めるのであった。
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