フレンズ紹介~ニシローランドゴリラ~
ゴリラちゃんは霊長目ヒト科ゴリラ属の哺乳類、ニシローランドゴリラのフレンズだよ!
ニシローランドゴリラは学名がとても有名だよね! その名も『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ』って、三回も言うの! おかしいよね!
あと、ゴリラっていう名前のゆらいは、毛深い女部族、って意味の言葉みたいなんだけど、ちょっと失礼すぎると思うかな・・・。
体がすっごい大きいイメージがあるけど、身長はちょっと背の高いヒトと同じくらいで、1メートル80センチくらいなの!
でも、筋肉がいっぱいあるし、何より腕が太くて長いから、ヒトよりだいぶ大きい印象だよね!
腕を広げるとその長さは2メートルから3メートルくらいにまでなるみたい! ヒトの場合は腕を広げた長さがだいたい身長と同じくらいだから、すっごい大きいのがわかるよね!
ゴリラは狂暴な動物だって、ずっと思われてたんだけど、実はとても繊細で温厚な動物なんだって! とっても優しいんだよ!
動物園で檻に落ちちゃった子供を、ゴリラが助けたっていう例もあるくらいなんだ!
でも、温厚で繊細だから痛みにも弱いし、ストレスで病気にかかったり、心臓の負担で倒れちゃったりもするんだって・・・。
かわいそうだよね・・・。
【こえ】ともえちゃん(しゅくしちほー)
― ― ―
くびわちゃんの体が、光っている。
そして、それだけじゃなくて、その体の前には、ぼんやりした光の輪郭が浮かんでいる。
その輪郭はしばらくして、はっきりとした像を結んだ。
「りったい、えいぞう・・・?」
頭に浮かんだ言葉を思わず声に出してしまう。
そう。立体映像。何もないところに、立体的な映像を映し出す技術だ。
しょうじき、わたしもどういう原理でできることなのか、まったくわからないけれど、少なくとも普通のヒトにも、フレンズさんにもできることじゃない。
どうして、くびわちゃんはそんなことができるの・・・?
何もわからないままただただ驚いていると、そばにいたゴリラちゃんの口から、ぽつり、
「シーラねえ・・・?」
名前を呼ぶ声が聞こえた。
ゴリラちゃんの視線の向かう先は、くびわちゃん。じゃなくて、くびわちゃんの目の前に浮かぶ、立体映像だ。
たしかに、ちゃんとした目で見ると、その立体映像はフレンズさんの形をしていた。
黒いショートヘアの横には大きなお耳がついていて、かけた眼鏡は右目だけを覆っている。たしか、こういうのをモノクルというのだったか。
ワイシャツの上から黒いニット地のベストを着こみ、その上から白衣を羽織っている。襟元のネクタイとミニスカートは紺に近いような紫色だ。
スカートの下には黒いタイツを履いていて、足元には黒い飾り紐のついたベージュのブーツと、とても真面目な理系の学生、というような印象。
そして、白衣と眼鏡はゴリラちゃんが今抱えているものと同じものだ。
このフレンズさんが、シーラさん。
シーラさんは、今まで会ったどのフレンズさんより、理知的な顔をしていた。
『あー、あー、てすてす。聞こえるか? てか、ちゃんと撮れてる?』
と、立体映像から声が聞こえる。いや、音の響く感じからすると、くびわちゃんの方から、だろうか。
ううん。今はそんなことはどうでもいい。
「やっぱりシーラねえだ! みて! ともえさん! シーラねえ、いきてたよ!?」
顔をぱあっと明るくするゴリラちゃんに、わたしはできる限りの説明をはじめる。
「ええと。違うの。ゴリラちゃん。あれは立体映像っていって、あそこにシーラさんがいるわけじゃないの。」
「え・・・、そう、なの?」
「うん。ヒトとかフレンズさんとかの動きや声を録画・・・、とっておいて、後で見たり聞いたりできるようにするものなの。だから・・・、」
説明を続けるにつれて、明るくなったゴリラちゃんの顔が、また少しずつ曇っていく。
けれど、さっきほどじゃない。
こうして、映像越しとはいえ、シーラさんの顔を見られたのが、よかったのかもしれない。
「そっか。シーラねえはもう、いないんだね。」
ゴリラちゃんは、はっきりと、明確にその言葉を口にする。
とても健気なその様子に、たまらず抱きしめたくなるけど、がまんする。
だって、あの立体映像には、まだ続きがありそうだったから。
「ゴリラちゃん。あれはたぶん、シーラさんの最後の言葉、なんだと思う。だから、一緒に聞こう?」
わたしが提案すると、ゴリラちゃんはこくりと頷いた。
立体映像はこの洞窟の中で撮られたもののようだった。
はっきりした像を結ぶシーラさんの周りには、ぼんやり洞窟の壁が映し出されている。
『こちら、チンパンジーのシーラだ。例の遺跡を探索していたら、とんでもないものを当ててしまった。見えるか?』
被写体を変えたのだろう、奥の空洞の様子が映し出された。そこにはもちろん、ひしめき合うセルリアンの姿がある。
『大量のセルリアンが発生している。・・・いや、こないだの噴火で土砂が崩れ、セルリアンの群生地に繋がってしまった、というのが正しいかも知れないな。』
映像がまた、シーラさんのワンショットに戻る。歩きながら撮っているのか、片手を白衣のポケットに突っ込みながら、足を交互に動かしている。もっとも今は映像だから、足踏みしているようにしか見えないけど。
『私はここを封鎖することにした。この映像を見ているキミ、悪いことは言わない。1号くんが立っている先には行かないことだ。・・・ああ、1号くんってのは、あの子のことな。』
映像がまた切り替わり、今度は1号くんの背中が映る。とうぜんだけれど、奥にいる1号くんとまったく同じ姿だ。
『封鎖にかかる期間は、ざっと10日というところだろう。セルリアンは音によく反応する。それに多少の土砂はすり抜けることもある。なるべく慎重に埋めてやらないとだから、動きのおおざっぱな1号くんじゃ、通せんぼくらいしか役に立たんのが苦しいところだな。』
そう言って、シーラさんは、くつくつと笑った。
映像のはじめからこれまで、シーラさんの様子はとても普通に思えた。とても大量のセルリアンの横で撮影しているとは思えないような、緊迫感のなさだ。
それは、ひょっとしたらこれを見るかもしれない『かぞく』に、余計な心配をかけさせたくないから、という演技なのかもしれない。
そう思うのは、本当にわずかになんだけど、ぎゅっとこぶしを握った腕が、小さく震えているのが見えたから、だった。
『万が一、封鎖の途中で気づかれた場合、洞窟の入り口を爆破、完全に封鎖する。その場合、ひょっとしたら私は逃げられないかもしれないが・・・、仕方がない。』
シーラさんは声のトーンを落としてそう言うと、しばらく目を閉じて黙っていた。そしてゆっくり目と口を開き、続ける。
『・・・、もしキミが、この映像を、土砂に埋もれた洞窟の中で見ているなら、そういうことだ。』
「シーラねえ・・・、」
思わず漏れ出てしまったのだろうか。今にも消えそうなゴリラちゃんの声に、わたしはその手に両手をかぶせ、ぎゅっと握る。
『そして、もしそうなら、近くにいる私の家族に、すぐに逃げるように、間違ってもやつらと闘ったりしないようにと伝えてくれ。あと、私の我儘で迷惑をかけたことを、謝っていたと伝えてほしい。』
シーラさんはこの映像を撮ったときにはもう、覚悟を決めていたんだ。
もしも失敗しても、この映像を見た誰かによって家族に危機を報せられるよう、保険をかけて。
いったいどれだけの強い気持ちがあれば、そんな覚悟が決められるんだろう。
その答えは、映像の続く先にあった。
シーラさんは優しげな笑みを見せながら、その先を続ける。
『お調子者に短気者、呑気者に泣き虫、そして、心の優しい臆病者。』
誰のことと言わなくても、それぞれをいとおしく思っているのがわかる。
それがたぶん、『かぞく』というものなんだろう。
『私は、みんなを、たいせつな家族が住むここを、どうしても守りたかったんだ。』
そしてそれが、シーラさんの強い気持ちの答えなんだ。
みんなで逃げることだってできたかもしれない、そうゴリラちゃんは言ったけど、シーラさんは、みんなと、このみつりんで一緒に暮らしたかった。
だから、みんなには内緒で、ひとりでがんばって、
そして・・・、
『・・・なんてな。ダメだな、こういうのは。どうしても考えが悲観的になる。』
シーラさんはまた、くつくつと自嘲するような笑い声を漏らしながら、前かがみになって手を伸ばす。
録画のはんいを越えているのか、腕は途中で途切れてしまって何をしているのかわからないけど、さっきより映像がアップになっているから、たぶん、カメラを操作しているんだろう。
『今から作業を始める。大丈夫。きっと、うまくいく。』
カメラの近くで呟くように発したその言葉を最後に、映像は途切れた。
立体映像の光が消え、声もなくなると、洞窟はうす暗闇に戻る。
かすかな明かりが辺りを照らす中で、わたしはぎゅっと目を閉じて、シーラさんの最後の言葉を思い返す。
大丈夫。きっと、うまくいく。
まるで自分に言い聞かせるみたいに発せられた、その言葉。
終わってしまった今となっては、その言葉の響きが、たまらなく胸を締め付ける。
そう。終わってしまった。
けれど、全てが終わってしまったわけじゃない。
かんしょう的になる気持ちをぐっとこらえながら目を開けると、ずっと握ったままだったゴリラちゃんの手が、もぞりと動いた。
その感触に、わたしはゴリラちゃんの顔を見る。
「ありがとう。ともえさん。もう、だいじょうぶだよ。」
うっすら涙を浮かべたその目には、けれど、はっきりと強い意志の光が宿っていた。
― ― ―
わたしは、セルリアンたちとたたかっていました。
さきにたたかいはじめていた、ヒョウさんやクロさん、リエさんやメイさんたちといっしょに、がんばってみなさんのフォローができるように、あちこちかけまわっています。
なんとか、みなさんがにげられるようにしたいのですけど、いかんせんセルリアンのかずがおおくて、なかなかたいきゃくのタイミングをつかめません。
と、いってるそばから、
「ヒョウさん! いっぴき、そっちにいきました! はさまれないようにちゅういを!」
「わかった! おおきに!」
ヒョウさんはわたしのこえにはんのうして、クロさんといっしょに、きょうげきされないようなところまで、うまくこうたいしています。
それをよこめでかくにんしながら、わたしはセルリアンたちのあいだを、ぬうようにはしりまわります。
ときどき、つめでこうげきしたりしながら、セルリアンのちゅういが、みなさんからそれるようにしているのですけど、なかなかうまくいきません。
わたしがこうしてあぶないことをするのを、あんまりともえちゃんはよろこびません。ちいさなセルリアンがでたときだって、たたかおうとするわたしをとめたりします。
わたしも、たとえば、そうげんとか、こうやのときみたいなあぶないことをされると、おなじきもちになりますから、おあいこなのですけれど。
けれど、さっき、ともえちゃんとめをあわせたとき、
なんとなくなのですが、ともえちゃんのかんがえがつたわってきました。
みんなでにげるよ、てつだって。
そう、いっているきがしました。
こんなじょうきょうなのに、ふきんしんかもしれませんが、なんだかこころがつうじあったみたいで、むねがぽかぽかします。
・・・わふぅ。
おっと。いけませんね。
いまは、たたかいにしゅうちゅうしないと。
「あーん、もう。たおしてもたおしても、きりがないのよ。」
「リエちゃん・・・、わたし、もうかなりげんかいですぅ。」
「メイねーちゃん、きばらんとそのしっぽ、ウチがかみつくで?」
「ひぃっ! わたし! もうちょっとがんばれます!」
「あいかわらずこっちのクロちゃんは、メイにあたりキツいなぁ。」
みなさん、いつものちょうしで、おはなしをしながらたたかっているのですけど、だんだんと、くちかずがすくなくなってきたようにおもいます。
なにか、だかいさくをかんがえないと、とおもうのですが、なにもうかびません。
ともえちゃんみたいに、いろいろなことをおもいつけるかしこさが、わたしにもあればいいのですが。
そう。ともえちゃんは、ほんとうにすごいんです。
そうげんのときだって、ちくりんのときだって、そしてさっきも、
わたしがかんがえもしないようなことを、つぎつぎにおもいついてしまうのですから。
いまもひょっとしたら、このきゅうちを、なんとかするてだてをかんがえて、すでにこうどうしているかもしれませんね。
そんなことをかんがえていたら、くうどうのいりぐちのほうから、なんだかおとがきこえてきました。
ポコポコポコ、ポコポコポコ、と。
りずみかるに、なにかをたたくようなおと。
そのおとをきいて、わたしは、やっぱり、とおもいました。
なんのこんきょも、りゆうもないのですけれど、
ともえちゃんがまた、なにかをしてくれたんだということを、
そして、それはきっと、みなさんをたすけてくれるということを、
わたしは、かくしんしていました。
― ― ―
先を行くゴリラちゃんの足はとても速い。ときおり両手で胸をポコポコポコ、と叩くのは、ドラミングというゴリラの習性だろうか。
わたしもひっしで追いかける。何もできないかもだけれど、一緒に戦いたいと思う。
ゴリラちゃんの向かう先は、セルリアンがひしめく空洞だった。
「ん? ・・・っ! ちょい! なんできたん!? はよにげやゆうたやろ!」
空洞に飛び出したゴリラちゃんを見つけて、ヒョウちゃんが大声を上げる。けれどそのせいで注意がそれてしまったからか、セルリアンの触手の一撃をまともに食らってしまった。
「にゃあ! ・・・っ、いったぁ。」
「おねーちゃん!」
あわててクロちゃんがヒョウちゃんを抱え、後ろにさがる。
ピンチを察したイエイヌちゃんがカバーに入るけれど、あれだけ大きいセルリアン相手では、ひとりでは抑えるのも大変そうだ。
どうしよう。
わたしが考えなしに戻ってきてしまったせいで、ヒョウちゃんが・・・!
今からでも遅くない。何か、何か考えないと。
たとえば、そう、昨日のセルリアンみたいに、大人しくさせるとか。
あたしがセルリアンとそうぐうしたのは、そうげんのときと、昨日のこうやの2回。
どちらもはじめは襲われたけど、そうげんでは最後まで暴れていたのに対して、こうやでは結局なにもせずに去っていった。
その違いは、なに?
・・・ううん、ダメだ。
場所、時間、その場にいた子。
どれもが違い過ぎて、これだという答えが見つからない。
どうしよう、このままだと・・・、本当に・・・。
ポコポコポコ、と。
ぐるぐると考えを巡らしているわたしの耳に、そんな音が飛び込んでくる。
ポコポコポコ、ポコポコポコ、と。
何度も繰り返し聞こえてくる。
「ゴリラちゃん・・・?」
その音は、ゴリラちゃんのドラミングの音だ。
たしかそれは、いかく行動だったと思うけど、今この場においては、たぶん、他に意味がある。
たとえばヒトの場合、自分の胸を叩く行動は「任せろ」というジェスチャーだったりする。それは周りに頼もしさをアピールする、というだけじゃなくて、鼓舞しているのだ。
自らの心臓を、ハートを、心を。
その証拠に、ゴリラちゃんの背中は、ぶるぶると震えている。
けれどそれは、恐怖からくるものではなくて、きっと。
「よくもきずつけたな・・・! わたしのたいせつな、かぞくを!!」
背中越しに聞こえてきたゴリラちゃんの声に、びりびりと肌が震える。
ゴリラちゃんは、とっても怒っていた。
「ァァァアアアアアアア――ッ!! ガアァァァァァァァアアアア――ッ!!!」
れっぱくのきあい、とでもいうのだろう。肌どころか、地面さえ揺れるようなものすごい雄叫びを上げながら、ゴリラちゃんは飛び出していく。
両拳を地面に突き立てながらのその移動は、ナックルウォークというゴリラの移動方法だ。それはゴリラの長くて大きい腕があってのもので、フレンズさんの体形では、むしろ二足歩行の方が速いようにも思うのだけど、さっき一緒に走っていたときよりもだんぜん速い。
見ると、通った地面はぼこぼことへこんでいて、そこには洗面器くらいの巨大な拳の跡がある。
不思議に思ってゴリラちゃんの方を見ると、その腕はぼうっと光をまとっていて、まるで巨大化したみたいになっていた。
なるほど。あの光る腕が、ゴリラちゃんの本気のちから、ということか。
光る腕をぶんぶん振って、さっきヒョウちゃんを攻撃したセルリアンのところに辿り着くと、そのままの勢いで拳を繰り出す。
「ウガアァァァァァァァア――ッ!!!」
再びの気合と共に放たれた拳は、セルリアンを粉々に打ち砕いた。
・・・、
・・・、・・・、え、
えっと、今のセルリアン、たしか、石は頭の上にあったよね・・・?
それはつまり、じゃくてんをついてない、ってこと、だよね?
・・・、え、
えええええええええええええっっ!?
いや、いやいや、ちょっとまって。
たしかに洗面器サイズの拳なんて、すごい威力だろうなーって思ったけど。
さすがにそれは、強すぎでしょ。
・・・えっと、
しょうじき、ゴリラちゃんのこと、なめてた気がします。
はい。
めそめそしてるとこみて、ちょっとかわいいなとかおもっちゃったり。
いままでいろいろ、すいませんでした。
なんて、困惑する頭であれこれ考えている内にも、ゴリラちゃんのかいしんげきは続いている。
拳をひとつ振るうたびに、セルリアンが一体、ぱっかーんと粉々にはじけ飛ぶ。あとに残るのは、サンドスターのかけらだけだ。
ゴリラちゃんの顔は怒りに満ちていて、見ているだけでも背筋が震えるようなものなんだけど。
きらきらとサンドスターのかけらを舞わせながら空洞を駆けまわる姿は、なんだかとっても美しいもののように思えた。
そこからはあっというまだった。
次々にセルリアンたちを倒すゴリラちゃんと、それを援護するみんな。
あれだけいた筈のセルリアンは、もう全て倒し終わっていた。
辺りにはセルリアンの残したサンドスターのかけらがちりばめられていて、きらきらしていてとても綺麗だ。
思わずスケッチブックを取り出してお絵かきしたくなるけれど、ぐっとこらえる。
今、それをしてしまうのは、さすがにふきんしん、だと思うから。
「アアアアアアア――ッ!! アァァァァァァァアアア――ッ!!!」
全てのセルリアンを倒した後も、ゴリラちゃんは雄叫びをやめなかった。
ポコポコポコ、と胸を叩きながら、天を仰いで叫んでいる。
かちどきのこえ、というわけではないだろう。
だって、ゴリラちゃんのあの姿は・・・、
「ローラちゃん・・・、」
「ローラねえさま・・・、」
「ローラ・・・、」
みんなが、誰かの名前を口にしながら、ゴリラちゃんに近づいていく。
ポコポコポコ、と胸を叩く音が、
空洞に響き渡る叫び声が、
少しずつ、少しずつ、小さくなっていく。
「ァァァアっ・・・、ああっ、あああああ――っ、」
ふるふると震える背中は、たぶんもう、怒りによって震えているのではなかった。
となりに立ったヒョウちゃんが、ゴリラちゃん――ううん、ローラちゃんの肩を、ぽん、と叩く。
「ええんやで、ローラ。もう、がまんせんで、ええ。」
涙ぐみながら言うヒョウちゃんに、ローラちゃんは肩越しに振り返って顔を見せる。
その目からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれていた。
「あぁーーーんっ! あぁぁぁーーーーんっ!」
「よしよし。つらかったなぁ。しんどかったなぁ。」
ローラちゃんを優しく抱きしめて、頭をぽんぽんと撫でるヒョウちゃんの目から、涙が一筋こぼれ落ちた。
― ― ―
洞窟から出ると、外はもう夕暮れ時くらいになっていた。シーラさんを探して穴を掘ったりしてたから、思った以上に時間が過ぎていたみたいだ。
あの後、遅れてやってきたくびわちゃんが持ってきた機械で、みんなもシーラさんの立体映像を見ることができた。
みんなは立体映像に驚いたり、シーラさんの姿にうれしそうな顔をしていたけれど、シーラさんの言葉を最後まで聞くと、みんな揃って泣いてしまった。
けれど、それでいいと思う。
遺したものの遺志を知ることは、遺されたものにとって、救いだと思うから。
それと、その、くびわちゃんが持ってきた機械なのだけれど、シーラさんの白衣や眼鏡と一緒に残されていた機械だった。
サッカーボールみたいな見た目のその機械は、くびわちゃんいわく、
「・・・りったいえいぞうの、とうえいき。かめらもかねてる。」
とのこと。
てっきりわたしはくびわちゃんが、何か不思議なちからで立体映像を出したのかと思ってたのだけど、この機械で映し出してたみたい。
くびわちゃんの体がぼんやり光ってたように見えたのも、投影機の近くにいたから、ということかな。
不思議に思っていたことが解消されて、セルリアンも倒せて、なんとなく、ひとごこちついたような気分になる。
それはたぶん、みんなも同じだったようで、洞窟から出る頃にはすっかりいつもの調子に戻っていた。
「にしても・・・、ホンマ、シーラはひとさわがせなやっちゃで。」
ヒョウちゃんがにゃはは、と笑いながら言う。
ケガももうへいきみたい。あの空洞に充満したサンドスターのかけらのおかげで、完治まではしなくても、大きな痛みがないくらいにはなったそうだ。
「ヒョウねえさま、それをいうならフレンズさわがせ、なのでは?」
「わたしたちも、ヒトかしたどうぶつなんだから、べつにいいんじゃない?」
細かいところにツッコミを入れるクロちゃんに口をはさんだのはゴリラちゃん、じゃなくて、ローラちゃんだ。
ローラちゃんはあの後、なんだかつきものが落ちたみたいにすっきりした顔になって、こうしてみんなと普通におはなしするようになった。
いや。なった、というか、戻った、というのが正しいんだろう。
わたしと話していたときも、ときどき柔らかい口調になってたし、たぶん、こっちが素のローラちゃん、なんだと思う。
「そうです。クロちゃんはこまかいことをきにしすぎです。」
「おやメイねえさま。いつになくつよきですわね?」
「ひぃっ! リエちゃんたすけて!」
ぎろり、とクロちゃんに睨まれたメイちゃんがリエちゃんに抱き着く。リエちゃんは呆れたような顔で笑うと、ぽんぽんとメイちゃんの肩を撫でた。
「はいはい。もー、クロとメイは、いつもこうなんだから。」
「せやねぇ。」
「あ、でもさ。むかしクロがメイになかされたこと、あったよね?」
と、ローラちゃんが思い出したように言う。つられて思い出したのか、ヒョウちゃんがとても楽しそうな顔で笑った。
「あったあった! あれやろ? メイのメガネ、クロちゃんがとって、」
「ああ、あれね。あたしのなかじゃ、クロヒョウのくつじょく、ってよんでるヤツよね。」
「にゃはははは! なんやそれ! はじめてきいたわ!」
「おねえさまがた! そういうはなしは、ほんにんがいないところでしてくださいまし!」
みんな、とても楽しそうに騒いでいる。お昼に見たときより、もっとずっと騒がしいような気がする。
ううん。気がする、じゃなくて、きっとそう。
それって、ローラちゃんが元気になってくれて、みんなうれしいから、だと思うから。
こうして、『かぞく』みんなの楽しそうな姿を見ていると、じんわり胸があたたかくなるのと同時に、なんだか切ないような気持ちにもなる。
あたしにも、こんな風に分かり合える家族が、いたんだろうか。
記憶を失ってからこれまで、それらしいことを思い出せたためしはないけど、
でも。
こういう素敵な家族が、あたしにもいたんだとしたら、
はやく、思い出したいな。
わたしが物思いにふけっている間も、おはなしは続いていたようだ。
「たしかにあれは傑作だったな。あんなにびーびー泣いてるクロを見るのは初めてだったよ。」
「もう! そのはなし、なんどめですの!? あとわたくし、ないてませんからね!」
・・・あれ?
なんだかひとり、増えてるような?
っていうかあのフレンズさん、すっごく見覚えがあるんだけど・・・。
「そうやってかえされるんも、なんどめやろねぇ? なあシーラ?」
「そうだな。毎度のことながら、クロの強がりは見ていて可愛らしい。」
「もう! シーラねえさままで!」
と、クロちゃんが大声を出したところで、あれだけ騒がしかった声がぴたりとやむ。
そして、
「「「「「シーラ!?」」ちゃん!?」ねえさま!?」ねえ!?」
みんなぴったり同じタイミングで、目と口をまんまるに開けて叫んだ。
どうりで、見覚えがあると思ったら。
とうぜんだよね。ついさっき洞窟で見た立体映像、そのままなんだから。
「その様子だと、みんな健勝そうだな。良き哉良き哉。」
シーラさんはそう言って、映像で見たのと同じように、くつくつと笑う。あまりにも自然にそこにいて、みんな、びっくりして声も出ない様子だった。
そんな中、ローラちゃんが唇を震わせて、小さく声を漏らす。
「え・・・? なんで・・・? うそ・・・!」
「おお、私の眼鏡と白衣じゃないか! ということは、あの洞窟に入ったな? ダメだぞローラ、あそこは・・・、」
ローラちゃんが抱えている眼鏡と白衣を見て、シーラさんは真剣な顔になって注意をしようとするんだけど、
「セルリアンがいるのよね。しってるわよ。はぁ・・・、んで、あたしたちでみんなたおしました!」
「リエ、それは本当か!?」
珍しく、ごきを強めたリエちゃんがそれを遮る。その顔に浮かんでいるのは、まぎれもなくあきれ顔だ。
リエちゃんの話に驚いているシーラさんに、クロちゃんとメイちゃんがかけよった。ふたりとも、目に涙を浮かべている。
「あれだけの数のセルリアンをどうやって? にわかには信じられんが・・・、」
「それは、ねえさまたちとみんなで・・・、」
「ローラちゃん、すっごくがんばったんですよ! ・・・ぐすっ、」
「あーもう、なんか、えっらいくたびれぞんやわ・・・」
ヒョウちゃんだけは少し離れた場所で、なんだか疲れた顔をして、乾いた笑いをこぼしていた。
そして、ローラちゃんは、
「シーラねえぇぇぇぇ・・・! いぎででよがっだぁぁぁ・・・!」
また大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、シーラさんに抱き着く。
けれどその涙の意味は、さっきとはまるで違っている。
さっきのは、別れを乗り越えるための涙。
そして今のは、再会を喜ぶ涙だ。
「心配かけたな、ローラ。もう、大丈夫だ。」
さっき洞窟でヒョウちゃんがしたのと同じように、シーラさんはローラちゃんの頭を、ぽんぽんと撫でた。
― ― ―
シーラさんがローラちゃんから白衣と眼鏡を受け取り、それを身に着けたところで、
「そんで、どないなっとん。なんでいきとんねんワレ。」
かいこういちばん、そんなあんまりな言いぐさをしたのはヒョウちゃんである。
ヒョウちゃんももちろん、シーラさんと再会できてうれしいんだろうけど、色々思うところがあるみたいで、なんだか複雑そうな表情だ。
まあ、言いぐさはアレなんだけど、実はわたしも気になっていた。
立体映像に残されたシーラさんの言葉は、わたしのすいりを裏付けるものだったし、だとしたら、どうしてここにシーラさんがいるのか。
だから、あえて口を挟まずに、シーラさんの口から正解が出るのを待つことにした。
「久々に会ってだいぶご挨拶だが・・・、仕方ない。非は私にある。」
シーラさんは苦笑交じりにヒョウちゃんに答え、シーラさんは自分の身に何が起こったかの説明をはじめた。
「大体の事情は察してると思うから、かいつまんで説明する。洞窟の奥に大量のセルリアンを見つけた私は、封じ込めるために入り口で爆薬を使ったんだが・・・、」
と、そこでシーラさんは何故かわくわくした表情になると、急に早口になって続ける。
「てか、あれ、凄いぞ。とんでもなく威力があるんだ。それこそ大型セルリアンを吹っ飛ばすくらいに。流石は山を砕くための道具というところだな。原理は分からんがやはりヒトの作る道具は素晴らしい。ってか、ハナからあれを使えばあいつら倒せてたん、」
「あー、もう! はなしがぜんぜん、すすみませんわ!」
とつぜん爆薬についての話をはじめたシーラさんを、クロちゃんが大声で遮る。
「あいかわらずシーラねえさまの、だっせんぐせはひどいですわね!」
「どこが、かいつまんだせつめいやねん! おまえのあたま、つまんだろかい!」
ぷんぷん、といった感じに怒るクロちゃんとヒョウちゃんに、思わず笑ってしまいそうになる。
なんというか、これまで見てきたヒョウちゃんは、ずっとみんなに気を遣っていたように思う。
クロちゃんに嫌味を言われても上手に受け流してたり、とかさ。
たぶんそれは、姉の立場があるから、なんだろうけど。
イエイヌちゃんがはじめてヒョウちゃんに会ったとき、緊張しているだけ、と言っていたのは、ひょっとしたら、そういうことなのかもしれない。
だから、そのヒョウちゃんがクロちゃんと一緒になって怒っている姿は、なんだかとっても新鮮で、少しうれしかった。
まあ、もちろん、怒られるシーラさんはたまったもんじゃないかもだけどね。
そう思ってシーラさんを見るのだけど、シーラさんはいたって平然としていて、ふたりのおこも気にしてないみたいだった。
「ああ、すまない。ともかく爆薬を使ったんだが、」
シーラさんはそんな、いたって自然体のまま、とんでもないことを口にした。
「威力がありすぎて私も吹っ飛んだわけだな。」
頭に浮かぶのは、爆発の衝撃で、あーれー、と飛んでいくシーラさんの姿。
・・・あのさ、
さすがにそんなの、すいりのしようがないでしょ。
いや、別にすいりが当たらなかったことが不服なわけじゃないし、むしろシーラさんが生きててくれたのはうれしいし。
でも・・・、なんだかなぁ。
とりあえず、今度同じようなことがあったら、フレンズさんの体の頑丈さをこうりょした上で、考えをまとめるようにしよう。
「それで、縄張りの外まで飛ばされた所を、運よく親切なヒトに拾ってもらってな。つい先日までそのヒトの所で治療を受けていた、というわけだ。」
みんな、怒っていたふたりも含めて、唖然とした顔でシーラさんを見ている。
それはそうだよね。
勝手にいなくなったと思ったら爆発で吹っ飛んでて、それからずっとヒトのところで治療を受けてただなんて・・・。
・・・うん?
ええと、シーラさん、なんだか今、かなり重要なことをさらっと言ったような気が。
「うん。だいたいわかったけど、どうくつのなかのめがねとはくいは、なんだったのよ」
と、眉根を寄せながら聞いたのはリエちゃんだ。
うん。たしかに、眼鏡と白衣は洞窟の中にあった。でも、たぶんそれは、
「あれは囮だ。セルリアンは音に敏感だが、多少なり匂いにも反応する。爆破の準備が整うまでの時間稼ぎくらいにはなったと思うが・・・。」
やっぱり、シーラさんが自分で置いていったみたい。あらためてシーラさんの姿を見ると、白衣は土ぼこりはついていてもすすけてないし、眼鏡も割れたりしていない。
今になって気づいたけど、爆発に巻き込まれたんだとしたら、もっとぼろぼろになっている筈だったんだよね。
はぁ、やっぱり、あたしはかしこくないなぁ。
「ま、まぎらわしいよ! シーラねえ!」
そうだそうだ! ミスリードにもほどがある!
と、一緒になって騒ぎそうになるけど、ローラちゃんのその台詞は、もちろんそういう意味で言ったわけじゃない。
単に、心配させるな、ということだろう。
「そ、そうです! わたしてっきり、かわりはてたすがた、ってものかとおもっちゃったじゃないですか!」
「変わり果てた・・・と言うと、即身仏的なものか? それは興味深いな。私の知る限りフレンズが即身仏化した例は・・・、」
「まーただっせんしとる。ほんまビョーキやでこいつ。」
なるほど、と思う。
こういう、良くも悪くも色々なことを気にしない子だから、この個性的ななわばりのリーダーとして、みんなをまとめられるし、みんなから慕われるんだろう。
たしかに、この子の代わりをしようとしたら、へとへとになっちゃうよね。
おつかれさま。ローラちゃん。
それから、ヒョウちゃん。
心の中でふたりに呟いて、そして、わたしは口を開く。
さっきシーラさんが言っていたことを、わたしは確かめなくてはならなかった。
「あの!」
わたしが大きな声を出すと、みんなと、そしてシーラさんの目がこちらを向く。
「うん? キミはたしか・・・、あっ、」
「あの、はじめまして。あたしは、ともえって言います。こっちはイエイヌちゃんと、くびわちゃんです。」
「イエイヌです。はじめまして。」
「・・・くびわ、です。」
わたしたちが自己紹介をすると、シーラさんはまるで奇妙なものでも見るかのように、わたしとイエイヌちゃんを交互に見た。
なんだろう、何か、変なことを言っただろうか?
そんなことを思うのだけど、気のせいだったのかな。
「そうか。私はチンパンジーのシーラだ。よろしく。」
シーラさんは体の向きを変えて、こちらに正面を向けると、挨拶を返してくれた。
「それで、あの、いきなりこんなこと聞いて申し訳ないんですけど、」
わたしは前置きのようにそう言って、急かすように早鐘を打つ胸をぎゅうっと抑えながら、言葉を続けた。
「さっき、シーラさん、ヒトのところで治療を受けたって・・・、ヒトって、あたし以外にヒトって、パークにいるんですか!?」
自分でも、どうしてここまで焦ってしまうのか、わからない。
今まで、ぜんぜん気にしないでいたのに。
・・・ううん、
気にしないでいたからこそ、気にしないフリをしていたからこそ、なのかもしれない。
たぶん、わたしもヒョウちゃんたちと同じで、だいぶムリをしていたのかもしれなかった。
「なるほど、そういうことか・・・。」
シーラさんは小さく呟くと、あごを触りながらしばらく考えるようにして、
「事情は何となくだが理解した。ならば、私が説明するよりあの子と話した方が早いだろう。」
そう言って、すぅ、と息を大きく吸い込んだ。
「聞いての通りだ! こちらへ来てくれないか!」
その、大きな声に反応するかのように、近くの茂みから、がさがさと音が聞こえた。
音のした方を見ると、そこからフレンズさんが出てくるのが見えた。
飾り羽のついた帽子に、赤い半袖シャツ。黒いタイツの上から大きめのハーフパンツを履いている。
そして、その背中には、大きなかばん。
この子は何のフレンズなのだろう。
これといって、とくちょうがないように思うけど・・・。
・・・とくちょうが、ない?
たしかリエちゃんが、そんなことを言っていたような。
あれって、たしか・・・、っ!
思いついた考えを上手く整理できないでいるわたしを尻目に、そのフレンズさんはシーラさんのところに辿り着き、話しかけていた。
「・・・、すみません。何か盗み聞きしてるみたいになっちゃって・・・、」
「何を言う。自分の用事をさて置いて、私と、家族との再会を邪魔せずにいてくれたのだろう? 感謝こそしても、怒る道理はないさ。」
「あはは・・・、そう言ってもらえると、助かります。」
そうして、こちらの方に向き直ると、にっこりと笑った。
「ボクは、かばんっていいます。ヒトのフレンズです。」
ヒトの・・・、フレンズ?
耳に入ってきた新しい単語に、ますますわけがわからなくなる。
この子は、ヒトじゃなくて、ヒトのフレンズで、でも、あたしはヒトで・・・、
・・・ほんとうに?
ほんとうにあたしは、ヒトなの?
そう思い込んでるだけ、なんじゃないの?
頭の中をいろんな考えがぐるぐる回る。
視界さえもぐるぐる回っている気がして、今にも吐きそうだ。
なんとか思考を落ち着けたかったけど、時間は待ってはくれないみたいだ。
かばんと名乗ったその子は、こちらを射抜くような目になると、静かに言った。
「ようやく見つけたよ。セルリアンクイーン。今度は、逃げないでね。」
その目は、まるでわたしの体を貫いて、後ろにまで届いているようだった。
― ― ―
フレンズ紹介~チンパンジー~
シーラさんは霊長目ヒト科チンパンジー属の哺乳類、チンパンジーのフレンズだよ!
チンパンジーって名前は、しっぽのないサル、って意味なんだって! そのまんまだよね!
チンパンジーはとっても頭のいい動物で、木の棒とか石とか、色んな道具を使ってエサや水をとったりするよ!
それだけじゃなくて、手話で会話をすることもできるんだって!
いくつものジェスチャーを組み合わせて、『ついて来い』だったり、『体を掻いて』だったり、いろんなことを伝えられるんだよ!
すっごいよね!
そんな頭のいいチンパンジーなんだけど、おとなのオスは実は獰猛なんだ。
慣れてないヒトだと興奮して襲いかかったりするから、気をつけないとだよね。
あと、チンパンジーはヒトにすごく近い動物だから、昔は色んな薬の動物実験に使われてたんだって・・・。
そのために、たくさんのチンパンジーが不自由な暮らしを強制されてたんだ・・・。
もちろん、そのおかげで助かった命もたくさんあるんだけど。
やっぱり、かわいそうだよね・・・。
【こえ】ともえちゃん(しゅくしちほー)
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ここは、ジャパリパーク。
今日もたくさんのフレンズさんたちが、のんびり幸せに暮らしています。
鬱蒼とした草木が生い茂る密林に、
ふたりのフレンズさんたちが隠れていました。
「なにやらただならぬけはい・・・、これは、ひょっとしてしゅらばというものでは・・・?」
「そうなのー?」
「はい。ヒトはつがいをとりあうしゅうせいがあったそうで、そのじょうきょうをしゅらばとよんだそうです。おそらく、これがしゅらば・・・。」
ふたりとも、木の陰からのぞき見をしてるみたい。
もう、ふたりとも、悪い子ね?
あんまりいけないことしちゃ、ダメよ?
「たしかに、しゅらばっぽいけどー、センちゃんがそうぞうしてるのとは、たぶんちがうとおもうよー?」
「なにをいってるのですかアルマーさん! いらいぬしさんは、きっとつがいを、あのもうひとりのヒトにとられたのです!」
「そうかなー。」
「ああ! これがしゅらば!」
「ていうかー、わたしたちのいらいってー、たしかー、」
・・・あら?
もうひとり、誰かいるみたい。
「ってぇなこのぉ! なんだこのもりぃ! きがおおすぎて、はしれねぇーだろがい!」
あらあら。
枝とか葉っぱをいっぱいつけちゃって。
こんな密林で走り回ったら、危ないわよ?
それに、木に話しかけても、お返事は返って来ないのよ?
「お? やんのか? やんのかおいこらぁ! ぼけっつったってっとぶったすぞらー!」
「・・・だれ? あのこ。」
「さー?」
ふたりのフレンズさんたちは、
もうひとりの子に気づいたみたい。
はてさて。
どうなるかしら?
ふたりのフレンズさんたちの、楽しい旅は続きます。