フレンズ紹介~レッサーパンダ~
パンダちゃんはネコ目レッサーパンダ科レッサーパンダ属の哺乳類、レッサーパンダのフレンズだよ!
元々はパンダって名前だったんだけど、後で見つかったジャイアントパンダの方が有名になっちゃって、「小さい」って意味の、「レッサー」が頭につくようになったんだって!
なんだか・・・、ちょっとかわいそうだよね・・・?
ジャイアントパンダと同じで、レッサーパンダも竹とか筍をよく食べるみたい! でも、そればっかりじゃなくて、虫とか果物とかも食べるんだって!
夜行性で、昼間は木の上で寝てることが多いけど、夏になるとお昼もよく動いてるみたいだよ!
レッサーパンダも目の周りに黒い模様があって、すっごいかわいらしいんだけど、あたしが一番かわいいなぁって思うのは、威嚇をしてるとき!
後ろ脚としっぽでバランスをとって、前足をばんざいして、体を大きく見せるんだけど、それがすっごいかわいいの!
でも、威嚇をするってことは、本人は驚いたり、興奮してるってことだから、レッサーパンダに会っても、わざと威嚇させようとしたりとかは、絶対にしちゃだめだよ!
【こえ】ともえちゃん(しゅくしちほー)
― ― ―
イエイヌちゃんとわたしは竹やぶの中を連れ立って歩いていた。
パンダちゃんはおるすばん。ひょっとしたらレッサーパンダちゃんが戻ってくるかもしれないから、誰かは残っていた方がいいだろうというイエイヌちゃんの判断だ。
うん。やっぱりイエイヌちゃんはかしこい。
とは言え、そうなると今度はパンダちゃんがひとりだ。危なくないかと聞いたのだけど、パンダちゃんの回答は、
「んー? だいじょうぶだよー。ぼく、こうみえてけっこうつよいんだよー?」
とのこと。
たしか・・・、ジャイアントパンダの別名は、大熊猫、というんだっけ。
その名が示す通り、ジャイアントパンダはその愛らしい見た目からは想像できないくらいに、とっても力持ちだ。
「パンダちゃーん! おーい! レッサーパンダちゃーん!」
そして、わたしは大声で呼びかけながら竹林を歩いていた。
抱き着いて驚かせちゃったわたしが呼びかけるのは逆効果かも知れないけど、もし反応で物音でもすれば、そばにいるイエイヌちゃんの耳に届くだろう。
「パンダちゃーん!」
大声を出すわたしとは対照的に、音と匂いに集中したイエイヌちゃんは、とても静かだ。
ひそひそと、その耳に近づけてささやく。
「どう? 反応はありそう?」
「音は・・・、ありませんね。においはまちがいなく、こちらであっているとおもいますが。」
「そっかぁ・・・、」
うーん、なにかヒントになりそうなもの、ないかなぁ・・・。
何か目印になるものとか・・・、好みの場所とか・・・、
そもそもレッサーパンダって、どういういきものなんだっけ?
「あ、そうだ!」
ふと思いつき、肩掛けかばんから動物図鑑を取り出す。
「レッサーパンダの生態が、これにのってるかも!」
「わふ、たしかにそうですね。ちょうさを、おねがいします。」
「りょうかい!」
小声だけど元気よく答えながら、わたしは図鑑をぱらぱらとめくっていく。
「えーっと、れ、れ、れ・・・、あった! レッサーパンダは・・・、」
目当てのページに辿り着き、レッサーパンダの説明を食い入るように見つめる。黙読で内容を頭に入れながら、ヒントになりそうなところを探した。
・・・あ、これなんて、ヒントになるかも。
「木登りがとくいで、外敵に襲われないよう、木の上で寝る、だって!」
「なるほど、うえはもうてんでした。それをふまえて、もういちどさがしてみますね。」
そう言って、イエイヌちゃんはすっかり静かになった。耳をぴくぴく、鼻をくんくんしながら、目をサーチライトみたいにゆっくり動かす。
・・・と、
「・・・、みつけました。」
そう時間もかからずに、イエイヌちゃんはうれしい報告をしてくれた。
「ともえちゃんは、ここでまっててください。すぐ、つれてきますから。」
「うん、わかったよ。おねがいします。」
こくり、お互いに頷きあう。
そして、イエイヌちゃんは目で追うのも大変なくらいの速さで駆け出して行った。
ほっ、と息が漏れる。少なくとも、暗くならないうちにレッサーパンダちゃんを見つけることはできたみたいだ。
こわいけもの、の正体はわからないけど、ひとりでいるより、みんなでいたほうが安全に決まってる。
これでひと安心・・・、
ひと、安心・・・?
「・・・、えっと、ひとりでいるのって、危ないんだよね?」
頭をよぎった考えに、ぶるり、と身が震える。
パンダちゃんは強いから、ひとりでも大丈夫かもしれないけど・・・、
あたしは・・・。
「うぅ・・・、イエイヌちゃん、はやくかえってきてぇ・・・。」
われながらすっごい情けないことだけれど、ちょっと泣きそうだった。
・・・くいっ、と。
「ひぅっ!」
とつぜん、後ろからシャツの裾を引っ張られて、とんでもなくびっくりする。
ひめいと一緒に、心臓が口から飛び出したのかと思ったくらいだ。
「なぁ・・・、なぁに・・・ぃ?」
うるんだ視界で後ろを振り返る。
ひょっとして、パンダちゃんの言ってたこわいけもの・・・、
と思ったけど、そこにいたのは小さな女の子だった。
髪も服も、全身がうす緑色っぽい色をしていて、大きな耳がまっすぐ上に伸びている。ふか緑色のつぶらな瞳は、幼い顔立ちと相まって、まるでお人形さんのようだ。
今まであったフレンズさんは、みんなわたしと同じくらいの背格好だったけど、その子はわたしより頭ひとつぶんくらい小さい。
しましまの模様があるしっぽは、体のはんぶんくらいの大きさがあった。キツネかタヌキみたいなふんわりとした毛並みで、ずんぐりしてて、とってもかわいらしい。
本当に、かわいらしいんだけど。
どうしてだろう、どきどきが収まらない。
どうしてか、わたしはその子に今まであったフレンズさんとは違う何かを感じていた。
「・・・、・・・、」
無言のまま、こっちを見つめる姿に、少し不安を感じたからかもしれない。
さっきまでひとりきりだったから、ただ考えすぎているだけかもしれない。
それとも、その、か細い首に巻かれた、他のフレンズさんにはない、
くびわ、が、
とても異質に思えたから、かもしれない。
「あの・・・、あなた、お名前は?」
わたしは不安をそのまま口にするかのように、その子に名前を聞いていた。
女の子は首をふるふる、と振り、小さな口を開けて、ぽつり、
「・・・すぐに、ここをはなれて。」
「ど、どういう、こと・・・、かな?」
思わず聞き返してしまうけれど、女の子は答えない。
ただ、無言のまま、じぃっと、わたしの目を見つめてくる。
ふか緑色の、まるで宝石みたいな瞳。
見つめ返しているだけで、吸い込まれて行ってしまいそうな、深い輝き。
昨日、セルリアンを見たときに感じた、生命の危険を感じるようなものとはまた違う、漠然とした不安感が、わたしの体にまとわりついて――、
「ともえちゃん! レッサーパンダさん、つれてきましたよ!」
「わっ! わわっ! あんまりひっぱんないでほしいっす! ちゃんとひとりでいけるっす!」
と、背後から聞こえる声。
とたんに、すぅっと、体が軽くなるのを感じた。
「イエイヌちゃん! ・・・っ、」
振り返り、大きな声で答える。と同時に、その場にへたり込んでしまった。
「ともえちゃん? ・・・っ、どうしました!? おかおがまっさおです!」
「あっ、あんたはさっきの・・・! って、ほんとにまっさおっす! だいじょうぶっすか!? ぽんぽん、いたいんすか!?」
わたしは、よっぽどひどい顔をしてたんだろう。イエイヌちゃんに、レッサーパンダちゃんまで、とても心配そうな顔で駆け寄ってきてくれた。
「あ、あはは・・・、だいじょうぶ・・・、ちょっと、びっくりしちゃって・・・。」
「ともえちゃん、たてますか? それとも、すこし、やすみますか?」
「ありがと、イエイヌちゃん。・・・うん、立てる。」
差し伸べられたイエイヌちゃんの手を取って、起こしてもらう。
ふぅ、とひと息。
・・・うん、大丈夫。だいぶ落ち着いてきた。
「ともえちゃん。なにがあったんですか? おけがは・・・、ないようですけど。」
「ああ、ええっと、ホントになんでもないの。ただ、あの子が・・・、」
言いながら、後ろを振り返る。
そこには、
「あのこ・・・、ですか? どなたも、おられないようですけど。」
だれのすがたも、なかった。
ひぅ、と、漏れ出そうになるひめいをひっしにこらえる。
視界はうるみまくってひどいことになってるけど、がんばる。
「い、イエイヌちゃん・・・、」
でも、やっぱり、こういうのは、ちょっと・・・、
・・・ううん、かなり、きっついので、
「ともえちゃん・・・? あ・・・っ、あの、ほんとうに、だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶ・・・、だいじょうぶだから、ちょっと、このままで。・・・おねがい。」
イエイヌちゃんにだきつくことで、いやしてもらうことにした。
― ― ―
それから数分もしない内に、わたしはさっきの状況を説明できるくらいには回復していた。
イエイヌちゃんのもふもふ癒し効果は、いだいである。
「くびわをつけたフレンズ・・・、ですか。」
「うん。お名前を聞いたんだけど、答えてくれなくて。なんの動物か、わかんないけど。」
続けて、くびわ以外の特徴も話してみるけど、ふたりの反応は薄かった。
「そういったフレンズは、これまでみたことがありませんね。」
「じぶんも、みたことないっすね。」
「だよねぇ・・・。あたしも、なんだか、夢でも見てたような気分だし。」
はくちゅうむ、というには、夕方に差し掛かっている今は、時間が遅い気がするけど。
さっき感じた感覚は、夢から覚めた後、何ともなしに感じる不安感に、とても似ていた気がする。
「そのこがパンダさんのいっていた、こわいけもの、なのでしょうか。」
イエイヌちゃんの言葉に、うーん、と首をひねる。
「たぶん、ちがうと思う。」
パンダちゃんが言ってたのって、昨日のセルリアンみたいな怖さ、だと思うんだけど、あの子はそういうのとは違う感じだったから。
「こわいけもの? って、なんっすか?」
「ああ、そうそう。それはね・・・。」
と、自然に会話をはじめてしまいそうになる自分に、ブレーキをかけた。まだ、言わなきゃいけないことを言ってなかったのを、思い出したからだ。
「その前に・・・、さっきは、本当にごめんなさい。いきなり抱き着いたりして、びっくりしちゃったよね?」
「え? ・・・、ああ! ・・・、んー、まあ、いいっすいいっす! びっくりしたっすけど、そんなにいやじゃ、なかったっすから!」
そう言って、レッサーパンダちゃんは照れくさそうに笑った。
この子も、とってもいい子だなぁ・・・。
「それで、こわいけもの、のことなんだけど・・・、えっとね、」
切り出した言葉に続けて、パンダちゃんから聞いた話をそのまま伝えた。
レッサーパンダちゃんは、ああ、と答えて、
「それなら、じぶんもこころあたりあるっす。よるになると、ぐるる、ぐるる、って、きこえてくることがあるっすよ。」
「パンダちゃんも? 大丈夫だったの?」
「じぶん、ねるときは、うえにのぼってねるっすから。へいきっす。」
レッサーパンダちゃんは胸に手を当てながら、自信たっぷりに言う。
「そうなんだ。なら、余計なことしちゃったのかな?」
「どういうことっすか?」
はてな?という顔のレッサーパンダちゃん。
ますますお節介かもと思いはじめるけど、せめて提案だけはしておきたい、かな。
「ねえ、よかったら、あたしたちと一緒に、パンダちゃんのところに行かない? みんなで一緒にいた方が、危なくないと思うんだ。」
どうかな? と聞いてみるけど、レッサーパンダちゃんの顔は、さらに、はてな?に埋め尽くされたようになった。
「じぶんが、じぶんのところに、っすか? どういうことっすか?」
「えっと・・・、ああ! ごめんなさい!」
わたしはあわてて言いなおす。
「ジャイアントパンダちゃん、のところだね。さっき一緒にいた、ぽわぽわした感じの――、」
「あのこっすか!? あのこも、パンダってなまえなんっすか!?」
と、レッサーパンダちゃんはとてもびっくりしたような反応を見せた。
「ひょっとして、あなたも知らなかったの?」
「しらなかったっす! ・・・、はー、そっすかー。あのこも、じぶんとおなじなまえ、なんっすねー。・・・えへへ、」
なんだかとってもうれしそう。
ひょっとして、さっきブランコの方を見つめてたのって、パンダちゃんとおともだちになりたいから、とかだったりするのかな?
おともだちになりたいけど、恥ずかしくて声をかけられない、とか。
なんて、微笑ましいことを考えていると、レッサーパンダちゃんは、でも・・・、と呟いて、急に暗い顔になる。
「じぶんなんかが、おなじなまえだっていったら、いやじゃないっすかね?」
そして、そんなネガティブなことを口にした。
「・・・えっと、なんで、そう思うの?」
「だって、じぶん、パンダさんみたいにつよくないっす。からだも、ちっちゃいっす。きっと、めいわくかけるっす。」
「そんなこと――、」
ないよ、と、口をはさむ間もなく、レッサーパンダちゃんは暗い顔のまま、おはなしを続ける。
「じぶん、こっちにきたばかりのころ、おおぜいのセルリアンにおそわれたことがあるっす。じぶん、こわくて、なにもできなかったっす。」
そのときのことを思い出したのか、今にも泣きだしそうな顔だ。
「そんなとき、パンダさんがたすけてくれたっす。あっというまにみんなやっつけちゃって。パンダさん、すごくかっこよかったっす。」
そのときのこともまた、思い出したのだろう、今度はうれしそうな顔をする。
ころころと表情を変えながら、けれど最後にはやっぱり、沈んだ顔でぽつりと。
「でも、じぶん、おれいもいえなくて、にげちゃって・・・。」
レッサーパンダちゃんの気持ち、わたしにはわかる気がする。
怖かったこととか、何もできなくて恥ずかしかったこととか、色んな事が頭をめぐって、パニックになっちゃったんだと思う。
それはたぶん、さっきまでの怯えてたわたしや、昨日、知らない場所で目が覚めて、心細かったわたしと、同じだった。
「・・・、パンダちゃんは、あの子と、おともだちになりたい?」
「お、おともだちっすか? そんな、じぶんなんかが・・・、でも・・・、」
そこで言葉を区切って、えへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「そうなったら、うれしいっす。すっごくすっごく、うれしいっす。」
本当にいい子だなぁ。この子。
なんとかしてあげたいなぁ・・・。
「あー、いたいたー。」
タイミングがいいのかわるいのか、広場に近い方の竹やぶから、がさがさと音を立ててジャイアントパンダちゃんが現れた。
「パンダさん? どうしてここに?」
「あんまりおそいからー、むかえにきたんだよー。そろそろ、くらくなっちゃうよー?」
イエイヌちゃんにたずねられて、パンダちゃんは相変わらずのんびりとした声で答える。
と、ぽやぽやっと動く視線が、レッサーパンダちゃんに合わさった。
「あー、きみはー。」
声をかけられ、びくっと身を震わせるレッサーパンダちゃん。
それは、はじめて会ったばかりのときは、ただ恥ずかしがり屋なだけかな、と思った反応なんだけど。レッサーパンダちゃんの気持ちを知った今、その姿はとてもいじらしく思えた。
「よかったー。ちゃんとみつけられたんだねー?」
「あの・・・、あの! じぶんは、じぶんは・・・!」
パンダちゃんにおはなしをしようとするレッサーパンダちゃん。
がんばって・・・!
と、声には出さず、応援するんだけど、
「・・・、また、こんどっすー!」
既視感を感じる姿を見せて、レッサーパンダちゃんはわたわたと逃げ出してしまった。
「また、にげられてしまいましたね・・・。」
「そうだね・・・。」
顔を見合わせるイエイヌちゃんとわたしは、そろって浮かない表情だ。
それは、せっかく探したのに、ということではもちろんなくて。
レッサーパンダちゃんの気持ちが、痛いほどにわかるからで。
「どうしましょう? まだ、おいかけられますけど。」
「・・・ううん、やめよう。上にいれば安全だと思うし。」
「あの、でも・・・、」
イエイヌちゃんの言いたいこと、すっごいわかる。
わたしも、何とかしてあげたいと思うし。
・・・でも、たぶん。
こういうのは、誰かに捕まえられてするものじゃ、ないから。
「あれー? あのこ、こないのー?」
変わらずぽわぽわとした感じのパンダちゃんに、せつなさを感じる。
レッサーパンダちゃんの気持ちを、代わりに伝えてあげたいとも思うのだけど、なんとなくそれもダメなような気がして、「うん。ちょっと、都合が悪いみたい。」とだけ返した。
すると、
「そっかー。ざんねんだなー。ぼく、あのことあそびたかったかもー。」
と、パンダちゃん。
「そうなの?」
「そうだよー?」
パンダちゃんはのんびりとした表情で、えへへー、と笑った。
「ぼく、じつはさー、いままでほかのことあそんだりー、したことなくってー。ぼくって、いつも、ひとりであそんじゃうからー。」
パンダちゃんは近くの笹をむしって、ふりふりと振り回しながら、言葉を続ける。
「でもー、きょう、きみたちといっしょにあそんでー、ひとりのときよりー、たのしかったんだー。だからー、あのこもいっしょにあそんだらー、もっとたのしいかもってー。」
それって・・・、つまり。
「それって、あの子とおともだちになりたい、ってこと?」
「うん、そうだねー。ぼく、あのことおともだちになりたいなー?」
その返事に、思わず顔がほころぶ。
となりを見ると、イエイヌちゃんもわたしと同じような顔でこちらを見ていた。
「ねえ、イエイヌちゃん。」
「はい、なんですか? ともえちゃん。」
「なんだか、うれしいね。」
「はい、とっても。」
― ― ―
わたしたちが広場に戻るころには、すっかり日も落ちてしまっていた。
「これは・・・、ほんとにまっくらだね。」
パンダちゃんが言っていた通り、背の高い竹がお月様も、星の光もさえぎってしまって、本当に真っ暗だった。広場の上はまるく空いているから、そこから差し込む光で、なんとか影かたちがわかるくらいだ。
「そうですね・・・、きょうは、ここでやすむことにしましょう。」
「だね。」
てさぐりでベンチに腰掛けながら話していると、うすぼんやりした光がこちらに近づいてくる。イエイヌちゃんがくんくん、とはなを鳴らした。
「ボスも、もどってきていたのですね。」
「ああ、あれ、ボスなんだ。」
イエイヌちゃんの言葉に、その光がボスのお腹のまるいのから出てる光だと気づく。ぴこぴこ、と歩く音がはっきり聞こえるくらいになってようやく、わたしの頼りない目も、ボスの影かたちをとらえることができた。
「トモエ。オカエリ。セツビノシュウリガ、カンリョウシタヨ。」
「わあ! ありがと! お疲れ様、ボス!」
「せつびの、しゅうり?」
「えへへー、えっとねー。」
「なになにー? なんのはなしー?」
二人が寝ている間にボスにお願いしていたこと。
それは・・・、
「スイッチ、おーん!」
うかれた声を出しながら、わたしはボスに案内された、せつび、についてるレバーをはね上げた。
ばちん、という音がして、広場を囲むように設置されているライトが、辺りに強い光を浴びせはじめる。
「わふ! なんですか!? まぶしいです!」
「わー。よるなのに、おひるになったー。」
ありゃ。まっくらなところにいきなり、眩しすぎたかも。
「ボス、光の調整ってどうするの?」
「トナリノボリュームデ、キョウジャクヲツケラレルヨ。」
「ぼりゅーむ・・・、これのことかな?」
レバーの隣にはコタツの温度調整みたいなやつが並んでいた。見ると、全部が一番上までいっている。それをひとつずつ、まんなかよりちょっと下くらいまで下げる。
「わふぅ、さっきより、みやすくなりましたぁ。」
「おおー。おひるが、あさになったー。」
ちょうどいい明るさになったおかげで、イエイヌちゃんとパンダちゃんの、おどろいたような、ちょっと楽しそうな顔がはっきり見えた。
「えっと、夜になると真っ暗になるって言ってたでしょ? だから、ボスにお願いして、広場の照明を修理してもらったの。」
「そっかー。このよくわかんないやつ、しょうめいって、いうんだー。」
パンダちゃんは足元にあったライトを、しゃがみ込んでぱしぱし叩く。サッカーボールくらいの大きさの、スポットライトの投光器だ。わたしがお昼に見つけたのと、ちょうど同じもの。
「なおしてくれて、ありがとねー? きみも、ありがとー。」
「えへへー。どういたしまして。」
ボスとわたしにお礼を言うパンダちゃんは、いつもどおりのほほんとした感じだけど、なんだかうれしそう。
よかった。これで、夜に起きても転ばなくてすむよね?
「・・・? どうしたの? イエイヌちゃん。」
と、イエイヌちゃんが考え事をしているような顔でボスを見ているのに気付いた。わたしが声をかけると、イエイヌちゃんはこちらに視線を向けて、
「ともえちゃん。ボスは、ずっとしゅうりを、していたのですか?」
「たぶん、そうだと思うけど。・・・それが、どうかしたの?」
「・・・いえ、あの、ええと。」
しどろもどろにお返事をして、不思議そうな顔で黙っちゃった。
うーん。なんだろ。けっこう気になるかも。
「ボスのことが気になるの? 何かあったの?」
「ええと、ですね・・・。たぶん、わたしのかんちがいだとおもうのですが・・・、」
イエイヌちゃんはそう前置きをして説明をはじめようとする。
けれど、
「・・・ともえちゃん。おはなしは、またあとにしましょう。」
くんくん、とはなを鳴らしながら、真剣な顔で言うイエイヌちゃん。
「あやー。きちゃったねー。」
そして、のんびりとした声のパンダちゃん。
その声に似合わず、パンダちゃんもまじめな顔をしている。
「アワ、アワワワワ・・・」
足元にいるボスは、何があったのか、がくがくと震えている。
「こうふんした、けもののにおい・・・。パンダさん、あれが?」
「そうだねー。」
「アワ、アワワワワ・・・」
みんなの視線の先には、フレンズさん、がいた。
・・・えっと、
フレンズさん・・・、で、いいんだよね・・・?
ふわふわっとふたつにまとめられた、茶、白、黒のしましまの髪。明るい茶色のまるいみみに、白と黒のしましまの長いしっぽ。
ブレザーみたいなかわいい服に、髪と同じ色のしましまニーソックスを履いている。ふともものところにはちらっとガーターベルトも見えていて、せくしー、なような、かっこいいような、そんな印象。
そんな、かっこかわいいフレンズさんの姿をしているのだけど、どうしてか、わたしはその子を、すぐにフレンズさんだと判断できなかった。
その子は、今まで会ったどのフレンズさんとも違っていた。
今日、竹やぶで会った不思議なフレンズさんとだって、ぜんぜん違う。
大きく見開かれた金色の瞳。
するどいキバをむき出しにした大きな口。
「ぐるるるるるぅ・・・、」
そして、おそろしいうなり声。
全身から、今にも襲いかかってきそうな気配を立ちのぼらせて、その子はわたしたちの前に立っていた。
「あれがー、こわそうなけもの、だよー?」
パンダちゃんが言うが早いか、その子は、わたしに目掛けて飛び掛かってきた。
― ― ―
「ともえちゃん!」
身構えたイエイヌちゃんがわたしをかばうように前に出る。けれどそれより先に前に出る姿があった。
「さんにんともー。ちょっとそこでじっとしててねー?」
さっきまでの、のんびりとした動きと打って変わって、パンダちゃんは機敏な動きでわたしたちの前に出ると、けものの突進を受け止めていた。
「ぐるるぅ・・・っ! ぐがぁぁあああっ!!」
叫び声と一緒にくりだされたするどい爪は、けれど手首のところをつかまれて、中空にとどまる。そのままお互いの体を押し合うような、ちから比べみたいな体勢のまま、
「がぁう・・・っ! ぐるるるぅ・・・っ!」
「おおー。きみー、すごいちからもちだねー。でもー、」
パンダちゃんのまんまるな目が、ぼうっとかがやく。
「あんまりおおくまねこをー、おこらせちゃだめだよー?」
パンダちゃんに押されるがまま、けものはじりじりと後退しはじめた。
すっごい・・・!
パンダちゃん。つよいって言ってたけど、本当につよい!
あれだけ狂暴そうなけものを、簡単に押さえつけてる!
「パンダさん、すごいです・・・!」
「だね! これなら! ・・・、」
これなら・・・?
・・・あれ?
これなら・・・、どうなるの?
「ぐ・・・ぐるるぅ・・・、っ、がぁぁぁうっ!!」
「おおっ、とー。」
けものは両手をつかまれた状態のまま首を伸ばし、大きく開けた口でかみつこうとした。するどいキバが勢いよくかみ合わさるけれど、既にパンダちゃんの体はそこにはない。がちん、という音を置き去りにして、大きく飛びのいていた。
「パンダちゃん! あの!」
さっきより近づいたパンダちゃんの背中に、わたしは思わず声をかける。
「なーにー? とりこみちゅうだからー、てみじかにねー?」
パンダちゃんは、けものへの注意はそのままに背中越しに答えてくれる。その頼もしい背中に、わたしは自分がこれから聞こうとしてることを考えて、少し迷う。
・・・でも、聞かないと。
「あのこ・・・、たおしちゃうの・・・?」
それは、だめなきがする。
理由はうまく説明できないけど、それは、だめだ。
だって、あの子は・・・、
「ぶっそうなこというねー。そんなことしないよー?」
わたしの不安を吹き飛ばすように、パンダちゃんは、あははー、と笑った。
「ちょっと、こうふんしてるみたいだからー。おちつくまで、あいてしてあげるだけだよー。」
「パンダちゃん・・・、ありがとう。」
「きにしないきにしないー。それよりあぶないからー、もっとうしろにー、」
「がぁぁぁうっ!!」
「っとー。あぶないあぶない。」
わたしと話しているパンダちゃんを見て、隙と判断したのか、けものが再び飛び掛かってくる。けれどパンダちゃんは余裕そうな表情で、またその突進を受け止めた。
「ともえちゃん、パンダさんのいうとおり、さがりましょう。」
こくり、頷く。このままだと、足手まといにしかならない。
「あ、ボスも一緒に、」
「アワ、アワワワワ・・・」
足元のボスはさっきと同じようにがくがく震えていて、動けないみたい。
「ボス、ちょっと持ち上げるけど、がまんしてね?」
「アワ、アワワワワ・・・」
両手でかかえるようにボスを持ち上げる――、
「があああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
その瞬間、けものは今までで一番大きな叫び声を上げた。体を大きくねじり、ふるわせて、つかまえるパンダちゃんの手から逃れようとする。
「あれー? これ、まずいかもー。」
変わらずのんびりとした声のパンダちゃんだけど、なんだかあわてているようにも見えた。なんとかつかみ直してはいるけれど、今にも振り切られそうだ。
「パンダちゃん! 大丈夫!?」
「んー、だいじょぶだいじょぶー。・・・あ、でもちょっとねむくなってきたかなー・・・、」
「えぇーっ!? ここでぇーっ!?」
パンダちゃんの突然のカミングアウトに、思わず大声が出た。
どうしよう、どうしよう、
わたしとイエイヌちゃんだけであの子を押さえるのなんて、たぶんできない。
どうすれば・・・、
「そこまでっすーっ!!」
聞き覚えのある声と一緒に、何かが竹やぶから飛び出してきた。
「パンダさんに、それいじょうのろうぜきは、じぶんがゆるさないっす!」
「パンダちゃん!?」
わたしの耳の覚えの通り、飛び出してきたのはレッサーパンダちゃんだった。
レッサーパンダちゃんはつかみ合っているふたりの前に立つと、
「フーーーーーーーーッ!!」
と、いかくのポーズをしてみせる。
ああっ、やっぱりかわいいっ!?
・・・っ、じゃなくて!
「パンダちゃん! 危ないよ! さがって!」
「いやっす!」
「パンダさん! さがってください!」
「ぜったいに、いやっす!!」
わたしとイエイヌちゃんの言葉に、レッサーパンダちゃんは頑ななまでに首を振り、いかくのポーズをしたまま、けものを睨みつける。
「こんどは! じぶんがパンダさんをたすけるばんっす! じぶんはからだもちっちゃいけど! つよくないけど! ぜったいに、パンダさんをたすけるんす!」
「パンダちゃん・・・。」
その、レッサーパンダちゃんの真剣な声に、自分で自分が、はずかしく感じる。
そうだよね。
レッサーパンダちゃんも真剣、ひっしなんだ。
なら・・・、あたしも、ひっしに考えなくちゃ。
パンダちゃんを助ける方法を。
考えろ。考えろ、あたし。
あの子、あのけものは、すっごいおっかないけど、昨日のセルリアンみたいな感じじゃない。
セルリアンは、むきしつ、というか、感情がないようなこわさがあったけど、あの子はそうじゃない。
まるで、それこそ野生のけものみたいな感じで・・・、
野生の・・・、けもの?
・・・あれ、そういえば、お昼にパンダちゃんが何か言ってたような。
たしか・・・、このあたりにはむかし・・・、
「あっ・・・、」
思いついたアイデアに、声が漏れる。
ひょっとしたら、いけるかも。
「パンダちゃん! そのまま、威嚇し続けて!!」
わたしは抱えたままだったボスを地面に降ろして、レッサーパンダちゃんに声をかける。
「な、なんっすか? どうして――、」
「いいから! お願い!」
「わ、わかったっす! ・・・っ、フーーーーーーーーッ!!!」
レッサーパンダちゃんは再びいかくの声を出しはじめる。その背中を捉えるように、近くにあった投光器の角度を調整した。
もちろん、これだけじゃ、だめ。
「・・・っ、ともえちゃん! ひとりになるのはきけんです!」
「大丈夫! すぐすむから! イエイヌちゃんはパンダちゃんをお願い!」
かけ出したわたしを、イエイヌちゃんは呼び止める。その声に背中ごしに答えながら、走る足は止めない。
ちらっとパンダちゃんの方を見ると、まだ持ちこたえてくれているみたい。でも、今にも寝ちゃいそうだから、急がないと!
急ぐ足の向かう先は、もちろん、せつび、のところだ。
せつび、に辿り着くと同時に、一番左にあったボリュームを一気に下げる。
広場を囲む光が、ひとつ消えた。
「これがあそこのだから・・・、えっと・・・、ななばんめ!」
左から数えて7番目『以外』のボリュームを、次々に、ぜんぶ下げる。
残った光は、さっき角度を調整した投光器のものだけ。
そして、残した最後のボリュームを、一気に『上げ』た。
「ぐるるぅ・・・、っ、!?」
異変に真っ先に反応したのは、あの、けものだった。
組み合っていたパンダちゃんから離れ、大きく距離を取るように後退する。
まるで何かにおびえたような、何かを警戒するような、その動き。
きっとびっくりしているのだろう。
さっきまで何もなかったはずの場所にいきなり、異質なけもの、が現れたのだから。
「こ、これは・・・?」
続いて、イエイヌちゃんが気づく。
わたしの場所からは見えないけれど、きっとイエイヌちゃんの目にも映っているはずだ。
このあたりに、むかしいたという、おおきなけもの――、
スポットライトに照らされた、レッサーパンダちゃんの大きな影が。
「今だよ! パンダちゃん! 大きな声で、威嚇して!!」
レッサーパンダちゃんに向かって大声で指示を出す。
何が起きているのかわからない、という顔をしていたレッサーパンダちゃんは、けれど意を決したように、大きく息を吸い込んで、吐き出した。
「がおーーーーっ!! たべちゃうぞぉーーーーっ!!!」
・・・、
・・・えっと、うん。
やっぱりあの子、すっごいかわいい・・・!
そんな、まったく緊張感のかけらもない、かわいらしい、いかくの声だったけれど、
「ぐるぅ・・・っ、るぅ・・・、」
大きな影と、大きな声におどろいたのか。
けものはおびえたような、どこかくやしそうな表情で、竹やぶの中へ走り去っていった。
― ― ―
「よ、よかったぁ・・・、うまくいったぁ・・・。」
どうにかこうにか、思い付きのアイデアがうまくいったことを確認して、わたしはその場にへたり込んだ。
広場の真上をまるく切り取った夜空には、きらきらと星がかがやいていて、わたしは何となしにそれを眺めている。
「・・・ともえちゃん。」
イエイヌちゃんがいつの間にか近くに来ていた。スポットライトの当たらないこの場所では、明かりになるものは星だけで、その顔は、はっきりと見えない。
「えへへ、どうかな。うまくいったかな?」
「はい。みんな、パンダさんも、けがはありませんよ。ぜんぶ、ともえちゃんの、きてんのおかげです。」
「そんなことはないよ・・・。そっか。みんなぶじなんだね。よかったぁ。」
安堵とともに体中の力が抜けてしまって、ばたん、とそのまま後ろに倒れこんだ。
「ともえちゃん!? だいじょうぶですか!?」
「だいじょぶだよ。ちょっと、つかれちゃっただけだから。」
寝転がったわたしのそばに座り込んで、イエイヌちゃんは顔を覗き込んでくる。さっきの距離じゃ見えなかった表情が、はっきりと目に映った。
「・・・、心配かけて、ごめんね?」
「ほんとですよ。もう。」
きけんなことはもうしない、って、昨日約束したのにね。
ごめんね。ありがとう。イエイヌちゃん。
「あの! じぶんは!」
と、広場の中央の方から、声が聞こえてきた。どうも、レッサーパンダちゃんがジャイアントパンダちゃんに話しかけているみたいだった。
「じぶん、レッサーパンダのパンダっす! まえに、セルリアンからたすけてもらったことがあるっす! あのときは、すごくたすかったっす! すごくすごく、かんしゃしてるっす!」
ここからだとふたりの姿は見えない。それどころか声だって、レッサーパンダちゃんの大きな声しか聞こえない。
けれど、微笑ましいふたりのやりとりは、まるですぐ近くで見ているみたいに、わたしには感じられた。たぶん、きっと、イエイヌちゃんにも。
「それで・・・! その、あの、・・・じぶんは、じぶんは・・・!」
その言葉の続きを、わたしたちは今日、2回も聞いている。
けれどたぶん、今、それに続く言葉は、そこで聞いたものとは違うものになると思う。
だって、レッサーパンダちゃんはあんなにこわそうなけものに、立ち向かった。
自分に自信が、勇気がなくって逃げていたレッサーパンダちゃんは、もういない。
「じぶんは、パンダさんとおともだちになりたいっす! おともだちに、なってほしいっす!」
ほんの少しの静寂。
さらさらと、風に笹が流れる音だけが、かすかにあたりに響いている。
そして・・・、
「・・・、ほんとっすか!? ほんとにいいんすか!? わーい! うれしいっすー! すっごくすっごく、うれしいっすー!」
本当に、本当に、うれしそうな声が耳に届いて、
わたしは、どうしてだか、なきそうになった。
「ねえ、イエイヌちゃん。」
「はい、なんですか? ともえちゃん。」
「なんだか、うれしいね。」
「はい、とっても。」
そう言って笑うイエイヌちゃんも、少し涙ぐんでいた。
― ― ―
あの後、みんな疲れていたみたいで、パンダちゃんが本格的に眠りはじめると、誘われるようにすぐに寝てしまった。
翌朝、目を覚ました後でみんなで朝ごはんのジャパリまんを食べてから、わたしはスケッチブックをひろげて昨日の続きを書いていた。
「おお! トンちゃんもたけのこ、たべるんすね! じぶんもたまにたべるっす!」
「フーちゃんもなんだー。あれ、おいしいよねー?」
「っすね! ジャパリまんもすきっすけど、たけのこもたまらないおいしさっす!」
パンダちゃんたちは楽しそうにおはなしをしている。
「おなまえ、きにってもらえてよかったですね。」
「うん。へんじゃないか、ちょっと不安だったけどね。」
となりに座っているイエイヌちゃんに答えながら、ふたりがお互いを呼び合っている名前に、ちょっとむずがゆさを感じた。
起きてすぐのことだけど、パンダちゃんたち名前が同じだから、わたしたちの呼びかけにふたりともが反応しちゃったりで、色々困ったことになった。
だから新しい名前をつけよう、ということになったんだけど、何故かわたしにぜんぶお任せされてしまった。
「きみー、なまえつけるの、じょうずそうだしー。」
というのが、パンダちゃんの言い分だ。
そうして、うんうん唸って考えた、ふたりの新しいお名前。
ジャイアントパンダちゃんは、白と黒のモノトーンだから、トンちゃん。
レッサーパンダちゃんは、フーッ!って、いかくをするから、フーちゃん。
そんな、だじゃれみたいなネーミングだったんだけど、ふたりともすごく気に入ってくれたみたい。
「ぼく、のびたあとの、たけもすきかなー。もぐもぐするといいにおいがしてー。」
「わかるっすわかるっす! まいにちでも、かみかみしたいっす!」
にこにことうれしそうに笑うトンちゃんたちを見て、じんわり、胸の奥があったかくなるのを感じる。
すっかり、仲良しになったみたい。
ほんとうによかったね・・・、フーちゃん。
絵も描き終わり、まだ朝も早いけれど、わたしとイエイヌちゃんは出立することにした。昨日のボスの話だと、イエイヌちゃんのおうちはだいぶ遠いみたいだし、暗くならないうちに、ある程度進んでおきたかった。
「なまえ、ありがとねー。きをつけてー。」
「ほんとうに、ありがとうございましたっす! また、あそびにきてくださいっす!」
お礼を言うふたりに、こちらこそ、と昨日のお礼を返して、手を振りながらお別れをした。
歩きながら、ちらちらと振り返ってはだんだん小さくなっていく二人の姿を見る。ふたりとも、いつまでも手を振ってくれていた。
「すてきなフレンズさんたちだったね。」
「そうですね。とても、いいこたちでした。」
「トンちゃん、すっごいつよかったよね。」
「ええ。おかげさまで、みんなぶじでした。」
「フーちゃんも、とってもかわいかったし。」
「トンちゃんさんと、なかよくなれて、ほんとうによかったです。」
「だね。」
なんて、おはなしをしながら歩いていると、あっという間に竹林の出口までたどり着く。
と、黙って道案内をしていたボスが立ち止まり、
「ソレジャア、ボクハ、ココデオワカレダネ。」
そう言って、ぴこりとしっぽを縦に振った。
・・・そっか。案内は竹林をぬけるまで、って言ってたっけ。
「トモエ。チクリンハ、タノシカッタカナ。」
なんとなく物悲しいような気分になっていると、ボスがそんなことを聞いてきた。
「うん。おかげさまで。ありがとね? ボス。」
「ソウ。ソレハ、ヨカッタヨ。」
せっかくだから、ボスも一緒に――、なんて言葉が出かかるけど、がまんする。
たぶん、ボスはこのあたりのフレンズさんや施設の世話をしている子、なんだろう。それをわたしの都合で連れ出したら、トンちゃんやフーちゃん、ロバちゃんにも迷惑がかかるかもしれない。
「コノママ、ミチナリニイケバ、ウミベチホーニデルカラ、ハシヲワタッテ、タイガンニイクトイイヨ。コウヤチホート、ミツリンチホーヲヌケレバ、キョジュウクニツクヨ。」
「わふ。なにからなにまで、ありがとうございます。」
「コマッタコトガアッタラ、チカクニイル、ラッキービーストヲ、サガシテネ。キット、タスケテクレルヨ。」
「うん。そうするね。ありがと、ボス。またね。」
しゃがみ込んで、目線を同じにして、ボスの大きな耳をなでながら、わたしはボスにお別れを言った。
「ソレジャ、ゲンキデ。」
ボスはそう言うと、またぴこぴこと音を立てて、来た道を戻っていった。
「いっちゃいましたね。」
「そうだねぇ。」
イエイヌちゃんの声色も、返すわたしの声色も、なんだかせつないような感じだ。
・・・でも、たぶん、また会えるから。
そのときまで、ボスがかけてくれた言葉の通り、元気でいよう。
「つぎは、うみべちほー、ですね。」
「だね。どんなフレンズさんがいるかな? たのしみ!」
「また、いきなりだきついたり、しないでくださいね?」
「・・・う、うん。ぜんしょ、します。」
道の続く方へ歩き出しながら、わたしたちはおはなしを続ける。
「そういえば、きょうはどんなえを、かいたのですか?」
「あ、まだ見せてなかったっけ。あとで休憩のときに見せるよ。」
「わふ! たのしみです!」
本当に楽しみにしてくれているのがまるわかりの笑顔に、わたしの顔も自然とほころぶ。
肩掛けかばんにしまったスケッチブックの3ページ目には、広場で一緒に眠っているみんなを描いた。トンちゃん、イエイヌちゃん、フーちゃん、ボスに、わたし、そして・・・、
「ねえ、イエイヌちゃん。」
「はい、なんですか? ともえちゃん。」
「あたし、みんなと、おともだちになりたいな。」
唐突にそんなことを言うわたしに、イエイヌちゃんはちょっと不思議そうな顔で、でも、すぐに優しい顔になると、
「はい。ともえちゃんなら、きっとみんなとおともだちになれますよ。」
わたしの一番ほしい言葉を、言ってくれた。
肩掛けかばんにしまったスケッチブックの3ページ目には、
広場で一緒に眠っているわたしたち、
そして、
あの、不思議なフレンズさんと、
あの、けものさんが、
より重なって眠っているところが、描かれていた。
― ― ―
― ―
―
ここは、ジャパリパーク。
今日もたくさんのフレンズさんたちが、のんびり幸せに暮らしています。
草原に伸びる石畳の道を、
ごとごとと小さな音を立てて、一台の馬車がゆっくり進んでいました。
ううん。
馬車、じゃなくて、ロバ車、かしら?
「ほうほう、それでセルリアンをやっつけたこたちは、あっちのほうこうにむかったと。」
「うん。こんなすてきなものまでもらっちゃって、とってもかんしゃしてるんだ。」
「あたしたちもかんしゃしないとねー。おかげでとってもらくちんだよー。」
ロバちゃんが引いている馬車にゆられて、
ふたりのフレンズさんたちは、とっても楽しそう。
「こまっているフレンズにてをさしのべる・・・、とてもすてきなフレンズさんですね。わたしたちたんていも、つねにそうありたいものです。」
「たんていはー、センちゃんだけ、だけどねー?」
「なにをいっているのですかアルマーさん! たんていとじょしゅは、ふたりそろってはじめてたんていなのです!」
「あははー。センちゃん、いみわかんないよー。」
あらあら。
ふたりでひとり、なんて。
センちゃんはアルマーちゃんのこと、大好きなのね?
「それより・・・、さっきのおはなしは、ほんとう? さいきん、セルリアンがおおいのは、りゆうがあるって。」
「よくぞきいてくれました! そうなのです! はやくみつけないと、たいへんなことになるのです!」
「このままでは・・・、このままでは・・・!」
「えっとー、あるひとからのじょうほうでー、いまー、このパークにはセルリアンのー、」
「パークのきき、なのです!」
あらあら、大変。
パークの危機、ですって。
危ないことにならないかな?
大丈夫?
「センちゃーん。それ、いいたいだけだよねー?」
「そ、そんなことはありません!」
「どうだかー。・・・あはは、」
「もう、アルマーさんのいじわる。・・・ぷっ、くすくす・・・、」
うふふ、よかった。
やっぱり、ふたりとも楽しそう。
ふたりのフレンズさんたちの、楽しい旅は続きます。