フレンズ紹介~カリフォルニアアシカ~
フォルカちゃんはネコ目アシカ科アシカ属のすいせー哺乳類、カリフォルニアアシカのフレンズだよ!
名前の通りカリフォルニア州の南の方で繁殖してるんだけど、住んでるところはもっとひろくて、海岸線に沿ってもっと南の方とか、北の方の国にも住んでるみたい!
国をまたいで暮らしてるなんて、ぐろーばるだよね!
カリフォルニアアシカはアシカの中でも一番多くて、水族館にいるアシカはほとんどカリフォルニアアシカなんだって!
アシカは陸上では、はいはいして進むイメージだけど、足の力が強いから、体を起こして歩けるみたい! 意外と速くてびっくりするよ!
もちろん泳ぎは得意で、前足を器用に動かして、すっごい複雑な泳ぎができるんだって!
あと、すっごい深く潜れるみたい! 潜るときは鼻の穴を閉じて空気が漏れないようにするの! 長い時は15分くらい潜ってられるし、300メートルくらいまで潜れるらしいよ!
アシカはとっても頭がいいから、色んな芸をすぐに覚えたりできるんだけど、それだけじゃなくて、一度覚えた芸はぜったいに忘れないんだって!
フォルカちゃん、記憶力がいいんだね!
うらやましいな!
【こえ】ともえちゃん(しゅくしちほー)
― ― ―
あらためて、じょうきょうをせいりしよう。
わたしの目の前にいるさんにんのフレンズさんたち。
ひとりは、きれっきれの暴言をはいているロードランナーちゃん。
ひとりは、困った顔でそれをなだめる、わたしの知らないフレンズさん。
そしてもうひとりは、何か言いたそうに涙目で睨み返してる、あの不思議なフレンズさん。
うーん・・・、
ごめん、さっぱりわかんない。
なんていうか、あの不思議なフレンズさんって、物語によくいる、とうとつに現れて助言をして去っていく謎キャラみたいな印象でいたから・・・、
その印象とこの状況が、まったく結びつきません。
「きゅう? フォルカちゃん、どしたの?」
「あら、ドルカちゃん。」
フォルカちゃん、と呼ばれたフレンズさんは、声をかけてきたドルカちゃんに向き直って、ことの次第を説明しようとしてくれた。
「こちらのフレンズさんたち、ふたりとも船に乗りたいみたいなんだけど、見ての通りケンカしちゃってて。」
「きゅう! ケンカはだめだよ! ケンカしてたらふねにのせてあげられないよ!」
「私もそう言ってるんだけど、聞いてもらえなくて・・・、」
苦笑しながら答えるフォルカちゃんは、ドルカちゃんの後ろに立っていたわたしたちに気づくと、
「そちらの方たちは・・・、あら? あなたはたしか・・・、」
「は、はじめまして! あたしはヒトのともえです! こっちはイエイヌちゃんです!」
「わふ! い、イエイヌです!」
「このこたちも、うみをわたりたいんだって! だからつれてきたの!」
「あら、今日はお客さんいっぱいね。」
そう言って、フォルカちゃんは口元に手を当てて、くすくすと笑った。
「私はカリフォルニアアシカのフォルカ。ドルカちゃんたちといっしょに、ここで海を渡るフレンズさんのお手伝いをしてるわ。」
青みががった白の前髪に、黒い後ろ髪。サイドのところで髪がはねているのが、アシカの前足みたいでとってもチャーミングだ。
長い髪はおしりの辺りでまとめられてて、その先が二つに分かれてるのも、ふりふりしたしっぽみたいでかわいい。
けれどそんなかわいい印象を、理知的な顔つきと身に着けた白ぶちのメガネ、そしてその服装が、一気に180度変えてくる。
後ろ髪と同じ黒のワンピース水着に、同じ色をしたタイツみたいなニーソックスと、アームガード。その上からうす緑色のパレオと水色のパーカーを羽織っただけ、というその恰好。
それだけでもとってもどきどきする格好なのに、パレオはうっすら透けてて・・・、
あれは、たしか、はいれぐ、というやつではなかろうか。
それに・・・、なんか、すっごいおっきいし。
「どうしたの? 私の胸、何かついてる?」
「いえ! なんでもありません!」
思わず敬語になってしまうくらいに大きい。
何がとは言わないけど。
「うふふ、そう? 宜しくね? ともえさん。」
「はい! きょうしゅくです! よろしくおねがいします!」
フォルカちゃんはなんだか、これまで会ったどのフレンズよりも大人っぽい印象だった。
わたしたちの自己紹介の間も、ロードランナーちゃんと不思議なフレンズさんのふたりは、いがみ合ったままだった。
「それで、ふたりはなんでケンカしてるの?」
まずは、いちおう顔見知りのロードランナーちゃんに発言を促してみる。
「ケンカじゃねーし! こいつがさー、ぶつかったのにぜんぜんあやまんねーじゃん? だからよー、ちぃーっと、きょーいくしてやってんだよ!」
「この子はこう言ってるけど、そうなの?」
もう一人の、不思議なフレンズさんの方にも聞いてみると、ふるふると小さな首を振って、これまた小さな口を開けて、ぽそぽそと、
「・・・ふね、まってるあいだ、うみ、ながめてた。」
「・・・そしたら、そのこ、ぶつかってきた。」
「・・・すっごく、いたかった。」
そんな、たどたどしい、とぎれとぎれの説明を聞いて、
「・・・、ええと、ちょっと待ってね?」
と、仕切り直しの発言をさせてもらったのは、なにも双方の言い分が食い違っていることに混乱したからじゃない。
あのときは状況が状況だったから、気づかなかったというか、恐怖で何もわからなくなっちゃってたけど、
・・・この子、ものすっごいかわいくない!?
小柄な体とか、パーツの小さい顔立ちとか、そのくせ大きくて丸い目とか、目を潤ませてぷるぷる震えてる感じとか、たどたどしい話し方とか、
・・・ああ、やっばい。
すっごい守りたくなっちゃう。
こっくり、心が出した結論に、深々と頷く。
そして、不思議なフレンズちゃんをかばうようにその前に出て、
「この子は、わるくないよ。」
「なんでだよ!」
キリッ、とした顔で言うわたしに地団太を踏むロードランナーちゃん。
「あたしがふねにのろうとしてたのを、こいつがじゃましたんだって!」
「って、言ってるけど、そうなの?」
ふるふる、と首を振る不思議なフレンズちゃん。
「私も見てたけど、こちらの小さい子の、言う通りよ?」
と、フォルカちゃんからも援護射撃。
「ほら、やっぱりこの子、わるくないじゃない!」
「ぐぬぬぅ・・・!」
ロードランナーちゃんは悔しそうに声を上げる。
あきらめなさい。もくげき証言が出た以上、ほんほーてーの判決はくつがえりません。
なんて思いながら見ているのだけど、どうにもロードランナーちゃんはあきらめがわるいみたい。
「そ、そんなことありませんー! そんなとこにつったってるほうがわるいんですぅー!」
そんな子供のような反応を返してくる。
あーもう、どうしたものやら。
たぶん、あたしの言葉じゃ聞き分けてくれないだろうし・・・、
こうなったらまたイエイヌママに・・・、と思ってイエイヌちゃんを見ると、すごく警戒した表情で不思議なフレンズちゃんを見ていた。
あ、そっか。
昨日話した不思議なフレンズちゃんの特徴、まんまだもんね。っていうか本人だし。
ドルカちゃんはチョーカー以外に合う特徴がなかったから、あの程度の疑問ですんだけど、さすがに本人を前にしたら・・・、
・・・あれ?
さっきは自分もおはなししてみたいって、言ってたような?
不思議に思って黙っていたのを勘違いしたのか、ロードランナーちゃんはそれ見たことかという顔で、言葉を続けてくる。
「だいたい、さっきまでなんもしゃべんなかったくせに、みかたしてくれそーなやつがきたらしゃべるって、どーなんだよ! あ? このひきょーもん!」
「ロードランナーちゃん、そんな言い方・・・、」
さすがにそれは言い過ぎだと思って口を挟もうとする。
けど、
「・・・くそばーど。」
ぼそり、と後ろから聞こえてきた声に絶句した。
「なんだとてめーっ! もっぺんいってみろぉっ!」
「・・・、っ!」
ぎゅっ、とわたしのシャツの裾が握られる感覚。何かが背中にひっしとしがみついているような感じ。
何か、というかもちろん、あの不思議なフレンズちゃんなんだけど。
・・・あれ?
「ケンカしないの。たしかに黙ったまま何も言わなかったのは、あなたも悪いのよ?」
「そうだそうだー!」
と、フォルカちゃんの仲裁に乗っかってくるロードランナーちゃん。
「ぶつかって謝らないあなたは、もっと悪いの!」
「うぐ・・・っ、いや、だからそれは、」
「・・・くそばーど。あやまれ。」
「あー! またいったな! てめぇーっ!」
「・・・、っ!」
また背中に感じる、ぎゅっとつかまれる感覚。
・・・あれ?
ひょっとしてこの子、けっこういい性格してる?
なんだかもう、どっちもどっちな気がしてきてしまい、ケンカの仲裁はさて置き、わたしはさっきから気になってたことを聞いてみることにした。
「それより、ロードランナーちゃん。なんで戻ってきたの? さっき、あっちの方向に走ってったのに。」
言いながら、さっきの浜辺の先を指さす。ロードランナーちゃんはうぐ、と呻くような声を出したかと思うと、よく聞き取れないくらいの声で、
「・・・んだよ!」
「え、何? なんて?」
「だからぁ!」
聞き返すと、顔を真っ赤にしてその理由を言った。
「あっち! でっかいセルリアンがいたんだよ!」
なるほど。それならしょうがないか。
「そーなんだ! セルリアン、こわいもんね?」
「こ、こわい? はぁ? そ、そんなわけねーだろ! あたしがほんきだしたら、あんなセルリアンなんてよゆーだしー。」
ドルカちゃんの問いかけに、明らかにウソとわかる声色で答えるロードランナーちゃんは、言い終わってから含みのあるような笑みを浮かべる。
「でも、あんまよわいもんいじめんのもかわいそーだろぉ? そこの、ちびっこみたいにー。」
そして、いー、と口の横をひっぱってわたしの背後を挑発した。
「・・・よわいとりほど、よくほえる。」
「っ、てめ! やんのか? お? やんだな? やったんぞらー!」
「・・・、っ!」
「もう。やめなさいっての。」
ああ、これダメだ。相性最悪。
いつまでも仲直りできないパターンだ。
わたしがそう思ったのと同じタイミングで向こうもそう思ったのか・・・、
・・・うーん、違うか。
だいぶ、せつな的に生きてる感じのこの子が、そこまで考えたとは思えない。
「へんっ、もんどうもいいかげんあきたぜ! こんなとこであしどめくってられるかっての! あばよぉ!」
おそらくは言葉通りのことを思ったんだろう、ロードランナーちゃんは捨て台詞のようにそう言うと、頭の羽をはためかせて飛び上がり、海の方へと飛んでいった。
さっきといい、今といい、ほんと、忙しない子である。
「あの子、飛べたのね。なんで船に乗ろうとしてたのかしら?」
「えーと、オオミチバシリはたしか・・・、」
フォルカちゃんのもっともな疑問に、昨日読んだどうぶつ図鑑の内容を思い返していると、わたしのセリフに続くように、後ろから声がした。
「・・・りくじょうをはしるとり。とぶこともできるけど、あんまりとくいじゃない。」
「そうそう! そう書いてあった! ・・・って、」
びっくりして後ろを振り向くと、きょとんとした顔の不思議なフレンズちゃんと目が合う。
「あなた詳しいのね? 他のフレンズのことって、皆あまり知らないものよ?」
「・・・、」
びっくりした顔で言うフォルカちゃんに、不思議なフレンズちゃんはまた黙ってしまった。
ほんと、不思議な子だな。
あたしだって図鑑で読むまで、オオミチバシリこと、ロードランナーちゃんの特徴なんて知らなかったのに。
あれだけ仲がわるい相手のことをそんなに知ってるなんて・・・、
・・・まあ、もっとも、
あれは完全にロードランナーちゃんが火をつけまくった結果だとは思うけど。
それに、ヒトにも物知りな子も、あたしみたいにかしこくない子も、色々いるし、ものしりなフレンズさんがいてもおかしくないよね。
「そっか。ロードランナーちゃん、飛ぶの苦手だったんだ。だから、走ったり、船に乗ろうとしてたんだねぇ。」
・・・、
・・・あれ?
とぶの、にがて?
その言葉を反芻すると、わたしは慌てて、飛んで行ったロードランナーちゃんを探した。
その姿を見つけるとともに、遠くから声が聞こえて、
・・・なんというか、脱力感を覚える。
「なんだよ! むこうぎし! おもったより! とおいじゃんか! うわ! おちるおちる! なみ! こっちくんな! やめてやめて! うみこわい! やだぁっ! うわぁんっ!」
羽ばたくたびにだんだん高度を落としているロードランナーちゃんは、とっても情けないひめいを上げていた。
「きゅう? あのこ、だいじょうぶかな?」
「あはは・・・、大丈夫じゃない?」
心配そうにロードランナーちゃんを眺めるドルカちゃんに、わたしは苦笑交じりに返す。
大丈夫でしょ、たぶん。
あの子、なんか生命力強そうだし。
ああもう・・・、
なんか、どっと疲れた・・・。
「きゅう。いちおう、おともだちにたすけてあげてって、いっておくね?」
後で聞いた話だと、海に落ちちゃった泳げない子は、ドルカちゃんのおともだちが助けるんだそうな。
「・・・くそばーど、じごうじとく。いいきみ。」
うんうん、その通り。・・・じゃなくて。
後ろから聞こえた声に思わず同意しかけるけど、なんとかこらえる。
振り返って、目線を同じ高さに落として、さとすように声を発した。
「こーら、そんなこと言っちゃだーめ。フォルカちゃんもさっき言ってたけど、何も言わないあなたも良くなかったんだから。」
「・・・ごめんなさい。」
「うんうん。今度会えたら、あの子にもごめんなさいして、仲直りしようね?」
大きなお耳ごと頭を撫でながら言うと、こくこく、と頷いた。
・・・お返事は素直でかわいいけど、
たぶん、ムリだろうなぁ・・・。
― ― ―
数分後、わたしたちは海を渡るモーターボートに乗っていた。
モーターボートと言っても、その動力はじんりきというか、イルカりき、だ。ボートの後ろにはりついたドルカちゃんが、後ろから押す形で進んでいる。
ボートは海に浮くけど、かなり重い。ほとんど金属でできているのだから当然なんだけど。
でも、
「わーっ! すっごいはやい!」
「わふ! すごいです! うみをはしってます!」
ボートはわたしとイエイヌちゃんが驚くくらいのスピードで、海の上を走っていた。
「うふふ。ドルカは泳ぐのが速いから。あの子に泳ぎの速さで勝てるのは、シャチちゃんくらいじゃないかしら?」
船のへりに腰かけ、きれいな横座りをしているフォルカちゃん。短いパレオからすらっと伸びた足がとってもなまめかしい。
うーん、やっぱりフォルカちゃん、すっごいせくしーだよ・・・。
「あとで私と交代するけど、私はあんまり早く泳げないの。ゆっくりになっちゃうけど、ごめんなさいね?」
「そんな! 乗せてもらってるだけでじゅうぶんだよ! ・・・です。」
思わず普通に返してしまって、あわてて敬語に直した。
「うふふ、無理して敬語、つかわなくていいのよ?」
「あはは、うん。ありがと。」
今まで会ったフレンズさんはみんな、わたしと同じか、わたしよりちょっと年下、くらいのイメージだったんだけど、こんなに大人な感じのフレンズさんははじめてだから、どうしても緊張してしまう。
大人だし、すっごい知的な感じだし。
やっぱりメガネかけてるから頭いいのかな?
なんて、おばかなことを考えていると、
「そう言えば・・・、あなた、自分のこと、ヒトって言ってたわよね?」
フォルカちゃんは長い髪をかき上げながら、急にそんなことを聞いてきた。
「あ、うん。そうだけど・・・、」
「もしかして、このボート、直せたりする?」
直す?
このボートを?
あたしが?
「むりむり! あたし、そんなかしこくないし!」
「あら、そんな風には見えないけど。」
「ほんとだって! よくおばかなことしてイエイヌちゃんに叱られるもん!」
「そうなの? うふふ。変なこと聞いてごめんなさい?」
あわててしまってすっごい情けないことを口に出してしまうけど、フォルカちゃんは優し気な笑みを返してくる。
自分の名前が出たのを聞いたのか、水面の泡をしっぽを振りながら眺めていたイエイヌちゃんが、くぅん?とこっちに視線を向けた。
「な、なんでもないよ! 気にしないで!」
「くぅん? そうですかぁ?」
よかった・・・。さっきのセリフ、ちゃんと聞き取れなかったみたい。
あんな情けないの聞かれちゃってたら、恥ずかしくてイエイヌちゃんの顔見れないよ・・・。
「仲いいのね? ふたりとも。昔からのおともだち?」
わたしたちを微笑ましげに見ていたフォルカちゃんは、そんなことを聞いてくる。
「ううん。違うよ? つい・・・、おととい? うん。おとといに、会ったばっかりかな。」
「あら? そうなの? 私はてっきり・・・、」
と、フォルカちゃんは言葉を詰まらせるようにして、
「ううん。ごめんなさい。ふたりがあんまり仲良くみえたから、そう思っちゃったの。」
「えへへ。だって! イエイヌちゃん!」
「わふ! うれしいです!」
ぱたぱたとしっぽを振るイエイヌちゃんと、顔を見合わせて笑う。
昔からのともだちみたいかぁ・・・。
なんだかちょっと照れちゃうね!
「私はそろそろ泳ぐ準備をするから、お暇するわね? 三人とも、ゆっくりしてて?」
フォルカちゃんはそう言って、水色のパーカーとパレオと、ビーチサンダルを脱いで、デッキの後ろの方で体操をはじめた。
フレンズさんも、準備運動するんだ・・・。
っていうか、そんなきわどい水着で・・・、
そんな、やだ、足が・・・!
はわぁ・・・!
「ともえちゃん?」
「みてません! みてませんから!」
顔を隠した両手の、指の隙間からちらちらフォルカちゃんを見ていたわたしは、突然話しかけられてびっくりする。
「くぅん? なにをみてないんですか?」
不思議そうな顔で覗き込むイエイヌちゃんの澄み切ったオッドアイに、顔が真っ赤になるのを感じた。
やめて・・・!
そんな純粋な目で、今のあたしを見ないで・・・!
「あはは、なんでもないよ。それで、どうしたの? イエイヌちゃん。」
なんとか取りつくろうように答えると、イエイヌちゃんは少しだけ困ったような顔で、
「ええと、あのこの、ことなんですけど・・・。」
そう言って、わたしたちから少し離れた場所にちんまりと座っている、あの不思議なフレンズちゃんを示した。
ああ、と思う。
そういえば、そうだよね。
港を出てからというもの、速いボートときれいな景色にはしゃいでしまったわたしたちは、すっかりあの子のことを忘れてたような形だ。
ちょっと、ひどいことしちゃったかも。
「うん。おはなし、してみよっか。」
「はい。わたしも、おともします。」
わたしたちが近づくと、不思議なフレンズちゃんは遠くの海を眺めていた視線をこちらに向けてくれた。
「あの、となり、座ってもいいかな?」
「・・・うん、いい。」
「ありがと。」
ボートはあんまり広くないから、向き合って座るのは難しい。だから、どうしても三人横並びになる。
ちんまりと座るその子の横にはわたしが座り、そのとなりにイエイヌちゃんが座った。
「えっと、今日がはじめましてじゃ、ないよね? 昨日、竹林で会ったよね?」
何を話していいかも分からなくて、いきなりそんなド直球を投げてしまう。
正直なところ、無視されちゃうかはぐらかされちゃうかな、なんて思ったけど、その子は思いのほか素直に、こくり、頷いてくれた。
「・・・うん、あった。」
「そうだよね。あのときはごめんね? あたし、気が動転してたみたいで、すごく失礼な態度をとっちゃったと思うの。ほんと、ごめんなさい。」
「・・・いい、きにしてない。」
ぺこり、頭を下げると、その子はぽそぽそと感情の読めない声で答えてくる。
本当に気にしてないのか、社交辞令なのか、判断がつかない感じだった。
・・・えーと、こんなにもつかみどころのない子、だったっけ?
さっきはもっと・・・、なんというか、子どもみたいな感じだったと思うんだけど。
えっと、さっきは・・・、
あ、
と声が出そうになる。
そっか。さっきはロードランナーちゃんがいたんだっけ。
ああやってかき回すような子の前だから、つい素が出ちゃってた、ってことなのかな?
そうなると・・・、ここで正解となるのは、ひとつ。
「そっか! 気にしてないならよかった! じゃあ、改めまして、自己紹介するね!」
何も考えないおばかになる。これでいこう。
・・・えっと、ロードランナーちゃんがそうだってことじゃないよ? 念のため。
「あたしはともえ! ヒトだよ! こっちはイエイヌのフレンズで、イエイヌちゃん!」
「わふ! イエイヌです!」
「よろしくね!」
「・・・よろしく。」
「・・・、えっと、」
「・・・、?」
「・・・、くぅん、」
・・・うーん!
会話、つづかない!
「えっとね! あなたのお名前は?」
と、待ちきれなくて聞いてしまう。
名前を聞いたのはもちろん会話の流れもあるけど、単純にこの子の名前が知りたかったのもある。
やっぱり、いつまでもこの子とかその子とか、不思議なフレンズさんとかって、呼びたくないよね。
けれど、この子の反応は、ちょっと想定外だった。
「・・・ぼく、なまえ、ない。」
「あ、そ、そうなんだ・・・。」
・・・ああもう、ほんと、あたしって。
わりと軽めに踏み込んで、おもいっきりじらい、踏んだじゃん!
なんて頭を抱えていると、横から助け船が差し出される。
「わふ。おとといのともえちゃんと、おんなじですね?」
「・・・そうなの?」
「あ、うん。そうなんだ。そうげんの変な建物で目覚めたんだけど、なんだか、色々忘れちゃってるみたいで。名前も思い出せなかったんだけどね? イエイヌちゃんが、」
そこで言葉を区切って、かばんの中身をごそごそする。目当てのものを手繰り寄せて、取り出した。
「これ、見つけてくれたの!」
もちろん、スケッチブックだ。裏表紙の下の方を指し示しながら、
「ほら、ここにあるでしょ? ともえって。このスケッチブック、目を覚ました時にもってたんだけど、だからこれ、あたしの名前だと思うんだ!」
ふふん、とつい得意げになってしまう。
「ともえちゃん・・・。なまえのないこのこに、なまえをじまんするのは・・・、ちょっと、」
「・・・、あっ! えっと! そうじゃなくて!」
なんでそんなひどいことを・・・、と言わんばかりのイエイヌちゃんの声に、あわてて言葉を返す。
わたしとしては、どうだイエイヌちゃんはすごいだろう、というつもりだったんだけど、たしかに、そう受け取られてもしょうがなかったかも。
「えっとね? あたしが言いたいのは、名前がみつかったのはイエイヌちゃんのおかげで、だからイエイヌちゃんは、すっごいんだよってはなしで、」
「わふ? わたしはべつになにもしてませんでしたよ? もじだって、よめませんし。」
「そうじゃなくて! 読めなくても、見つけてくれたじゃない! だからえらいの! かんしゃしてるのー!」
「ともえちゃん。なんだかおこってますぅ・・・、くぅん、」
「だからちがうのー!」
「・・・あはは、」
・・・あれ?
ひょっとして、今、この子、笑った?
はじめて見るその笑顔にびっくりして、その顔をまじまじと見てしまう。
ちょっと無遠慮すぎるぐらいに見てしまったから、はにかんだ笑顔を隠すように、くびわに口元をうずめてしまった。
「・・・ぼくのこと、すきによんで。ともえ、なまえつけて。」
そう言って、また黙ってしまう。
ちょっと顔が赤い気がするのは、気のせいじゃないと思う。
うーん。また名付けですか。
なんでか今日は名付けに縁があるようで。
今朝はだいぶ悩んでしまったけれど、今回はほとんど直感で、すぐに浮かんだ。
「じゃあ、くびわちゃん、で。どう?」
あんまりなネーミングかとも思ったけど、今こうして大きめのくびわに口元を隠しているその姿が、すっごいかわいく見えたから、それ以外の名前が浮かびそうになかった。
「・・・くびわ、かわいい。」
不思議なフレンズちゃん、改め、くびわちゃんは、お名前を気に入ってくれたみたい。
ちょっぴり恥ずかしそうにしながら、けれど、かわいらしい笑顔を見せてくれた。
「・・・ありがと、ともえ。」
「えへへ、どういたしまして!」
― ― ―
それから、フォルカちゃんに押し手が変わって船のスピードはゆっくりになったけど、船の旅は順調に進んだ。
「・・・ともえ、なにしてるの?」
「んー? これはね、お絵かきしてるんだよ?」
スケッチブックの4ページ目には、海を走るボートの上で楽しそうに笑ってるわたしたち、海面を飛び跳ねるドルカちゃんと、海にぷかぷか浮かびながらそれを見守るフォルカちゃん、そして、ちょっと半泣きで空を飛んでるロードランナーちゃんを描いていた。
まだ途中だけど、けっこううまく描けてる気がする。
「ともえちゃんは、えがとってもおじょうずなんですよ?」
「えへへ・・・、あとで見せてあげるね!」
「・・・わかった。たのしみ。」
くびわちゃんはぽそぽそした声で、感情がわかりにくいのはそのままだったけど、少しずつ打ち解けてきた気がする。
はじめは警戒していたイエイヌちゃんも、すっかり笑顔で話しかけるようになっていた。
そういえば、なんであんなに警戒してたんだろ?
気になったわたしは、ふねのなかをみてくる、とくびわちゃんが席を外したタイミングで聞いてみることにした。
「ねえ、イエイヌちゃん。はじめ、すごく警戒してたよね、くびわちゃんのこと。なんで?」
「ええと、ともえちゃんがしんぱいだったのもあるのですが・・・、」
イエイヌちゃんは歯切れのわるい感じに言う。そして口元に手を当てて、しばらく考えるようにしてから、言葉を続けた。
「においが、はじめてかぐようなにおい、だったので。」
「はじめてかぐにおい? はじめてのフレンズさんなら、そういうものなんじゃない?」
「それは、そうなんですけど。なんというか、しっているふたつのにおいが、まじってるようなかんじ、なのです。そんなこと、はじめてで。」
「それで警戒しちゃったんだ。」
「くぅん・・・。しつれいなたいど、だったとおもいます。」
「そんなことないよ。あたしなんか、はじめて会ったとき、もっとひどかったもん。あはは、」
「・・・、たしかに、そうでしたね。くすくす、」
わたしが笑いながら言うと、ちょっとしょんぼりしちゃってたイエイヌちゃんも、つられて笑ってくれた。
知っている、ふたつのにおい、かぁ。
あるフレンズさんと、別のフレンズさんと、それぞれがまじった感じ、ってこと?
いわゆるハーフ、みたいな感じなのかな?
っていうか、くびわちゃん、なんのフレンズさんなんだろ?
あとで聞いてみようかな。
― ― ―
「あれ、セルリアン!? あの子たち、大丈夫なの!?」
向こう岸に辿り着いたとき、少し離れた海の上に大きなセルリアンが見えた。そのセルリアンは何人かのフレンズさんに囲まれていて、ちょうど戦っているところのようだ。
「大丈夫よ。あの子たち、ハンターだから。」
「はんたー?」
フォルカちゃんのセリフに、思わずオウム返しをしてしまう。となりにいたイエイヌちゃんが補足の説明をくれた。
「ハンターというのは、セルリアンをたいじすることをおしごとにしている、フレンズさんのことですよ。つよいフレンズさんがおおいので、たいていのセルリアンはやっつけられます。」
さすがイエイヌちゃん。とってもわかりやすい。
「海の中なら、誰にも負けないわ。もっと大きいセルリアンだって倒したことあるのよ?」
「へー、すっごいんだねー。」
言いながら、セルリアンと戦っているハンターさんたちを見る。
「ホオジロ! そっちいったぞ!」
「まかせてくださいシャチさん! でぇぇぇりゃあああっ!」
シャチさんと呼ばれたフレンズさんがセルリアンの動きをうまく抑えて、ホオジロと呼ばれたもうひとりのフレンズさんが、的確に攻撃を加えている。
戦いのことなんてぜんぜんわからないけど、そんなわたしの目から見ても、とっても息の合った連携に見えた。
「きゅう! シャチちゃんとホオジロちゃん、やっぱりすっごいはやい!」
「うふふ。スピードだけならドルカちゃんも負けてないわよ?」
「フォルカちゃん、みてみて! カツオドリちゃんもてつだってる!」
「あら、本当! カツオドリちゃんも凄いわね。」
ふたりの視線につられて上を見ると、空を飛びまわるフレンズさんがいて、ときおりものすごいスピードで急降下してセルリアンの体を削っていた。
「うえは、わたしたちにまかせて。」
「なんでー!? なんであたしまでーっ!?」
・・・ええと、
ちょっとまってね?
何だか見覚えのある子がいるような・・・?
「ええと、あの子は?」
「きゅう? あのこね、さっきうみにおちて、マルカちゃんがひろったみたいなの!」
「・・・、なんでたたかいに混ざってるの?」
「あのこ、セルリアンなんてよゆー、っていってたから。きょうりょくしてくれるかもって、おしえてあげたの!」
「そっか・・・、」
そういえばイルカは、すっごい遠くまでおはなしができるんだっけ。マルカちゃん、というのはドルカちゃんとは別の、イルカのフレンズさん、かな。
その子にも会ってみたい気持ちがわくけど、今のこの光景を見てると、なんだかどっと疲れてしまって、また今度でいいかなっていう気分になる。
「ひゃあ! まってまって! いまかすった! かすったから! ひゃい! たんまたんま! たんまだって! うわぁん! こわいよぉっ! もうやだぁっ!」
見覚えのある子、海上にいるもうひとりは、ロードランナーちゃん。
とっても情けないひめいを上げながら、ばたばたと羽ばたいて海上を右往左往していた。
「あのこ、あんまりつよくないね!」
「そうね・・・。大丈夫かしら?」
ああ・・・、
あの子はホントに・・・、ホントにもう。
「・・・つよくいきろよ、くそばーど。」
「だからやめなさいって。」
― ― ―
あのあと、セルリアンはあっさり退治されていた。ロードランナーちゃん含めてみんな無事みたいで、ほっとする。
・・・もっとも、ロードランナーちゃんはまた海に落ちちゃって、ハンターさんたちに助けられていたんだけど。
「送ってくれてありがとね! すっごい助かっちゃった!」
「ほんとうに、ありがとうございます!」
「・・・、」
船から降りて、わたしとイエイヌちゃんは船で送ってくれたドルカちゃんとフォルカちゃんにお礼を言う。くびわちゃんもとなりで、こくこく、と頷いている。
「お礼なんていいのよ。いつもしてることだから。」
「きゅう! またわたりたくなったら、いつでもいってね!」
ふたりはとってもすてきな笑顔で答えてくれる。
ふたりとも、すっごい良い子だなぁ・・・。
このままだとお世話になりっぱなしだし、何かお返しできたらいいんだけど・・・。
「うーん・・・、」
「ともえちゃん、どうしました?」
「えっとね? できればお返しをしたいなって思うんだけど・・・、」
言いながら、今日ふたりとおはなししたことを思い出す。
色々考えてはみるけど、ふたりが喜びそうなこと、っていうと、やっぱりひとつしか思いつかなかった。
「やっぱり、船を直すのが一番かな。」
「ふねを? ともえちゃん、なおせるんですか?」
「そんな、あたしにはムリだよ。でも、ボスにお願いすればなんとかなるかなって。」
「ふむ。たしかにそうかもしれません。でも・・・、」
くんくん、とはなを鳴らして匂いを探るイエイヌちゃん。
「くぅん、ちかくに、ボスはいないみたいですぅ。」
「そっかぁ・・・。」
イエイヌちゃんのおはなはこれ以上なく信用できる。少なくとも、日が沈むまでに行ける距離にボスの姿はないだろう。
「・・・ともえ、」
どうしようかなと考えていると、くいくい、とシャツの裾を引っ張りながら、くびわちゃんが話しかけてきた。
「どうしたの? くびわちゃん。」
「・・・、」
無言のまま、手をこいこいと動かして、耳を近づけるように伝えてきた。
「なにかおはなし、あるの? ・・・、ふんふん、・・・、・・・、えっ?」
その通りにしたわたしの耳に、くびわちゃんの、びっくりする内容の言葉が入ってくる。
「くびわちゃん、なんでそんなこと知ってるの?」
くびわちゃんはふるふると首を振って、
「・・・ひみつ、」
とだけ答えた。
― ― ―
「わふ! すごい! ふねがうごいてます!」
「ほんと! すっごいスピードだね!」
もう一度動くようになったモーターボートは、ドルカちゃんが押してたときよりずっと速いスピードで、海の上を走っていた。
その横を並走するように、ドルカちゃんが泳いでいる。ボートを運転しているのはフォルカちゃん。フォルカちゃんは前に運転を覚えたんだそうで、それを忘れてなかったみたい。
「わーい! はやーい! たのしー! きゅふふ!」
「ドルカちゃーん! あんまりはしゃいじゃダメよー! うふふ!」
ドルカちゃんもフォルカちゃんも、ふたりとも、とっても楽しそう。
わたしとイエイヌちゃんは港から、その光景を眺めている。
そして、となりにはくびわちゃん。
「・・・、?」
わたしの視線に気づくと、どうしたの?とでも言いたげな顔で見返してきた。
くびわちゃんがさっき耳打ちで伝えてきた通り、港の建物の中にはボートを動かすための予備のバッテリーがあった。
燃料とか必要なんじゃとも思ったけど、ぜんぶ電気で動くタイプみたいで、満タンのバッテリーに交換するだけでボートは動くようになった。
ボートは別に壊れてたわけじゃなくて、単に電池切れなだけ、だったみたい。
くびわちゃんはどうして、そんなことを知ってたんだろう?
本当に、不思議な子だ。
― ― ―
「ともえちゃん、ありがとう! あのこ、またうごくようになったよ!」
「他の子たちも、きっと喜ぶと思うわ。本当に、ありがとうね?」
試運転を終えて港に戻ってきたふたりは、口々にお礼の言葉をかけてくれた。
「いや、これはあたしじゃなくて・・・、」
言葉を区切ってくびわちゃんを見るんだけど、ふるふると首を振って意思を示してくる。
さっきも内緒話で伝えてきたくらいだし、目立ちたくないみたい。
「・・・ううん。気にしないで! せめてものお礼だから!」
なんだか手柄を横取りしたみたいで気が引けるけど、あまり気にしてもしょうがないかな。
「おかげ様でソーラー充電の仕方も覚えたし・・・、よかったわね、ドルカちゃん。これでいつでもこの子と遊べるわよ?」
「きゅう! たのしみ!」
こうしてふたりが喜んでくれることが、一番なんだから。
「それじゃ、あたしたちはそろそろ行くね!」
「はい。そうしましょうか。」
わたしとイエイヌちゃんのセリフに、ドルカちゃんはちょっとがっかりした顔をした。
「もういっちゃうの? ふね、うごくようになったよ? のらなくていいの?」
「うん、あんまり遅くならないうちに次のちほーにいきたいから。でも、」
わたしは言葉を区切って、満面の笑みと共に本心からの言葉を口にした。
「またうみべに来たら、そのときは乗せてね! ぜったいね!」
ドルカちゃんとフォルカちゃんはわたしのお願いを聞いて、ふたりともわたしと同じような顔で、お返事をくれた。
「わかった! まってるよ! げんきでね!」
「本当に、色々とありがとう。旅の無事を祈ってるわ。」
― ― ―
うみべから伸びる道を、わたしたちは歩いている。
わたしたち、というのは、わたしと、イエイヌちゃんと、そしてくびわちゃんのさんにん。
海辺から歩き出したわたしとイエイヌちゃんに、くびわちゃんは、ついてく、とだけ言って一緒に歩きはじめたのだった。
もちろん、断る理由なんてないんだけど、
「くびわちゃん、ほんとにあたしたちと一緒に来てよかったの? 船に乗りたかったのって、どこか行きたかったとこ、あったんじゃない?」
ちょっと気になったので、歩きながら聞いてみる。くびわちゃんはふっとこっちに視線を向けて、あいかわらずぽそぽそとした小声で答えてくれる。
「・・・だいじょうぶ。」
そうして、言葉を続けた。
「・・・ともえのこと、すこし、わかったから。」
「あたしのこと? どういうこと?」
聞き返すけれど、返事はない。少しの間黙ったままだったくびわちゃんは、ちょっとうるんだような目になると、
「・・・ぼく、じゃま?」
「そんなことないよ! むしろ一緒に来てくれてうれしい!」
「わふ! そうですよ! いっしょにいきましょう!」
わたしとイエイヌちゃんがあわてて声を上げると、くびわちゃんはほっとしたような顔で、またその大きなくびわに口元をうずめた。
「・・・ありがと、ともえ。いえいぬ。」
・・・ああ、この子。
やっぱりすっごいかわいい・・・!
色々と不思議なところがある子だし、まだ何のフレンズかもわからない。
どういう子かも、ちゃんとはわかってないけど。
たぶん、
・・・ううん、
ぜったいに、すてきな子だ。
「えへへ。これからよろしくね、くびわちゃん!」
「よろしくおねがいします! わふ!」
「・・・よろしく。」
そうして、わたしたちはおともだちになった。
― ― ―
― ―
―
ここは、ジャパリパーク。
今日もたくさんのフレンズさんたちが、のんびり幸せに暮らしています。
あたたかな木漏れ日が差す竹林の、ふれあい広場。
たくさんの遊具が並んでいるその場所で、
フレンズさんたちが楽しく遊んでいました。
「アルマーさん! アルマーさん! みてください! きれいなおだんごができました!」
「おー。これはとってもまんまるだねー。センちゃん、がんばったねー。」
「えっへん! どろあそびなら、おてのものです!」
ふたりはお砂場で遊んでるみたい。
どろんこ遊びが好きなのかしら?
うふふ。
センちゃん、おはなに泥がついちゃってるわよ?
「センちゃん、ちょーっとうごかないでねー?」
「な、なんですか? おだんご、とるきですか? ・・・わっぷ!」
「はいはーい。じーっとしててねー?」
「く、くすぐったいです! じぶんでふけますから!」
「どろだらけのてでふいたらー、もーっとどろだらけになるよー?」
「うにゅにゅ・・・!」
あらあら、やっぱりふたりは仲良しさんね?
アルマーちゃんもセンちゃんのこと、大好きみたい。
「・・・って、こんなことをしてるばあいじゃないのです!」
・・・あら?
センちゃん、どうしたの?
「ついどろんこのゆうわくにまけてしまいそうになりましたが! さっきのおはなし! くわしくきかせるのです!」
「かんぜんにまけてたけどねー。」
「おだまりなさいアルマーさん! あれはめをあざむくための、かもふらーじゅです!」
「そーなんだー。すっかりだまされたよー。」
センちゃんはなんだか気になることがあるみたい。
ひょっとして、ふたりが探してるものに、関係あるのかしら?
「さっきのはなしって、ここをとおったこ、のことっすか?」
「あのこたち、とってもいいこだったよねー。ボスとおはなししてー、しょうめいなおしてくれたりー。」
「おはなし!?」
「らっきーびーすととー?」
トンちゃんとフーちゃんのお話に、ふたりはびっくり。
「・・・っ! こうしてはいられないのです! はやくおいかけないと!」
「センちゃーん、はしったらあぶないよー? それにおてて、あらわないとー。」
「・・・ぐぺっ!」
センちゃん、あわててかけ出して、転んじゃった。
アルマーちゃんの言う通り、竹林で走ったら、危ないのよ?
「だからいったのにー・・・。」
「このくらいへいきです・・・。でも、あぶないからあるいていきましょう・・・。」
「もー、しょーがないなー・・・。じゃー、あたしたちはこれでー。じょうほうありがとー。」
「どういたしましてっす! きをつけてっす!」
「セルリアンがでたらー、ちゃんとにげるんだよー?」
ちょっと転んじゃったけど、平気みたい。
これからは、あんまり慌てて走ったりしちゃ、ダメよ?
ふたりのフレンズさんたちの、楽しい旅は続きます。