アラホロ亭繁盛記~アーランドの酒場と錬金術士達~   作:よるのこ

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ロロナさんの話す「ステルクさんはルルアちゃんのことが好きなんじゃないか」疑惑
予想もつかなかった思わぬ悩み相談に、ピアニャとリオネラはどう立ち向かうのか……


ロロナとピアニャの「ルルアちゃんとステルクさん」のお話し 後編

「ご、ごめんね⁉ ビックリさせちゃったよね!?」

 

「いやまぁ、ある意味ビックリはしましたけど」

 

 ピアニャもリオネラも聞き耳を立てていた常連客も、予想の斜め上の答えに驚きを隠せないでいる。ピアニャは固まり、リオネラは思わずたたらを踏み、常連客は机にカクンと突っ伏していた。

 

「ロ、ロロナちゃん。さすがにそんなことは……」

 

「だってりおちゃん!ルルアちゃんってすっっっっごく可愛いんだよ!」

 

 リオネラの苦笑混じりのやんわりとした否定に親バカ丸出しの反論をしている、飲むペースが早いからか既に頬が赤くなっているロロナ。

 

「まぁルルアちゃんが可愛いのは確かですけどねぇ」

 

 師匠バカと思われるかもしれないがそこはピアニャも同意件だ。容姿もさることながら、元気で素直で人懐っこくて、その上家族や友達のためならば苦労を苦労とも思わないという無窮の湧水樹の湧き水のように清々しい性格で、誰からも愛されるような自慢の弟子だと自負している。

(もっともあまりに素直で可愛いから、悪い人に騙されたり本人無自覚に勘違いさせそうだと、エーファと一緒に心配もしているが)

 

 

「でもステルクさんだってもう良い年なんですし、ルルアちゃんを、その、娘とか孫を見るような感じで可愛がっているのかもしれませんよ?」

 

「ほら、ステルクさん、ロロナちゃんのこと昔から護衛とかしていたんだから、ルルアちゃんのこともきっと、昔のロロナちゃんを見ているみたいで可愛く思っているんだよ」

 

 ピアニャとリオネラがそれぞれの言葉でやんわりとその説を否定するが、ロロナはどうも納得のいってない様子である。

 

「うぅ~、だって昔、エスティさんが受付やっていた時のころ、ステルクさんについて話していたのわたし思い出しちゃって……」

 

「エスティさんが? どんなこと言っていたのロロナちゃん?」

 

 そこはかとなく嫌な予感がしつつもリオネラが続きを促せば、ロロナはもう一口飲んでから意を決したかのような真剣な表情(赤ら顔)で話し始めた。

 

 

「エスティさんが、ステルクくんは幼げな女の子とか若い子しか愛せないんじゃないかって……!」

 

(それもしかしなくても当時のロロナさんのことだよね……?)

(それもしかしなくても当時のロロナちゃんのことだから……!)

 

「じゃ、じゃあほら逆に考えてみてはいかがです? ほら、ルルアちゃんにとってステルクさんてお母さん(ロロナさん)以上に年が離れている男の人ですし、頼れる大人って感じであって恋愛に発展するってことは……」

 

 これ以上はステルクの名誉によろしくない気がしてきたので切り口を変えて、今度はルルア方面からどうにか説明することにした。のだが……

 

「でもでも! くーちゃんが30歳差ならアリだって! くーちゃんだってアリだったんだから、ルルアちゃんももしかしたら……!」

 

「しまった!違う方向に飛び火!?」

 

 アラホロ亭でまさかのアーランド共和国首相の好みが暴露されるという事態であるが、起こした張本人は自分で言ってて変に腹が立ってきたようである。くいっと残り少なくなっていたグラスの中身を呷り、お代わりを頼んで再び捲し立てる。

 

 

「そりゃルルアちゃんとっても可愛いしお友達を大切にする子だし錬金術の腕もめきめきと上達しているし、わたしの自慢の娘で、わたしにはもったいないくらいの最高の子なんだから。ステルクさんが好きになっちゃうのも仕方ないのかな~って思っちゃうけど……」

 

(お? 親バカかな?)

 

 お代わりを受け取って、それを時々飲みながら自分の娘の可愛さについてとうとうと語り始めたロロナに、一緒になって語ろうかと思う気持ちもわいたが、ピアニャはひとまず聞き手に回ることにする。

 

「だけどルルアちゃんはちょっと優しすぎるというか純粋すぎて、いやそこがルルアちゃんの良いところなんだけど、あまりに純粋すぎる、というか人を疑う事とかぜんっぜん知らないからもしかしたら悪い男の人とかに引っかかったりしないか時々心配にも……」

 

「それは確かに心配ですよねぇ。……騙した相手も」

 

 ルルアが泣かされるような事態になった時、どれだけの人間が動くことになるのやら。かくいうピアニャも冷静でいられる自信はない。というか血の雨が降るどころか塵一つこの世に残らない可能性すらある。我が弟子ながらその人脈は恐ろしいものがあると改めて再認識しつつ……どうやら予想通りに娘自慢が長くなりそうなので、本来2人でつまむはずだったカルパッチョを食べながら、適宜相槌を打ちながら聞くことにした。

 

 元々は新鮮な獣肉を用いる料理だというこのカルパッチョだが、海の魚を新鮮なまま運べるようになったことにより、アーランドでも生魚が食べられるようになったことでサンライズ食堂の店主が思いついたという「トゲマグロのカルパッチョ」

 高品質のトゲマグロの濃厚な旨みにそれを引きたてる果汁由来のソースの合わせ技。アランヤ村でもお目にかかれないその上品な味わいに、ピアニャはしばらくの間、ロロナの悩みのことも忘れて堪能するのであった。

 

(新鮮なトゲマグロの刺身に醤油をさっとつけていただく……のがアランヤ村に住む漁師さんたちの言う、トゲマグロの一番美味しい食べ方だそうけど、このカルパッチョも、生魚を美味しく食べる調理法として負けてないわよねぇ……あ、そういえばルルアちゃんやエーファちゃんって、アーキュリス育ちであまり生魚って食べたことないのかしら?今度食べさせて……)

 

「む~、ぴ~あ~ちゃ~ん? 聞いているの~?」

 

「あっはいロロナさん! ……どんなお話しでしょうか?」

少し料理に夢中になりすぎたのかロロナの話しを途中からスルーしていたようだ。見るとロロナは頬をぷっくり膨らませ、怒ってます!というかのようにしている。途中から半分以上聞き流していたピアニャに対して怒っているのかと思えばどうやらそうでもないようで……

 

「だからねぇ~。ステルクさんってば、ほんっっとっーにしょうがない人だぁ~って話~!」

 

 盛大に酔いながらこの場にいないステルクさんに対して怒っているようである。ついでにいえば膨らませたほっぺたは赤くなってまるでりんごのようである。

 

「ロロナさん、そんなに飲んでない気がするんだけどなぁ……」

 

「お酒を飲んでいる時って気分によっても酔い方が変わるんですよ。ロロナちゃん、普段はこんなすぐに酔わないのだけど、悩みを話しながらで早く飲んじゃったみたい……」

 

 ピアニャの呟きにちょうどテーブル席の接客を終えたリオネラが、ロロナにお代わりを用意しながらカウンターの前に来る。

 

「ロロナちゃん、それで話しの続きを聞かせてくれる?」

 

「あ、りおちゃんも戻ってきた~。お代わり~♪ だからねぇ、ステルクさんってばねぇ……」

 

 こういう時は話したいことを全部吐き出してもらってすっきりしてもらうのがいいと、とりあえず悩みとも言えなくなってきたロロナの話しの続きをリオネラは促す。ピアニャもカルパッチョをあらかた食べ終えて、次は何を頼もうかなとも考えつつ、ロロナの話を待っている。

 

「そりゃ、ステルクさんって顔は昔っからそこらへんのモンスターたちよりずっとずっと怖いけど、なんだかんだで良く見たらちゃんと表情の変化とかはあるし、大人っぽいけど実はけっこう子供っぽい部分もあったりして面白いし、実はファンの女の子や男の人もいっぱいいて……」

 

「リオネラさんリオネラさん。今度はなんだか惚気始めたんだけどロロナさん」

 

「あ、あはははは……たまにこうなるの、ロロナちゃん」

 

何やら口の中が甘ったるくなってきたピアニャである。こういう時自分が飲めればまだ良いのかもしれないが、お酒は飲まないと決めている。

 

「だから昔っからステルクさんばっかりトトリちゃんとばっかり仲良くしたりメルルちゃんにデレデレしたりしてて……それなのにわたしのことはいつもいつも子ども扱いばっかりで……」

 

「……あ、リオネラさん魚カンあります?魚カン。急に味の濃いものが欲しくなって」

 

「えぇと、アランヤ村産の魚カンがちょうどあったはずだけど、どうかしら?」

 

 とりあえず、次は味の濃いものを食べよう。口の中の甘さを和らげるためにリオネラに注文しつつも、ピアニャは改めてロロナのことを観察する。

 元々血色の良い顔はますます赤みがさしており、完全に酔いが回っていることがわかる。

 

「ロロナさん、ステルクさんがルルアちゃんの相手じゃ、嫌なんです?」

 

 そろそろ頃合いかと、今まで基本的に聞くばかりであったピアニャも、ロロナに質問することにする。

 半分は悩みにしっかり答えて気持ちを落ち着かせるために。もう半分は、お姉ちゃんやルルアちゃんに、良いお土産話を持って帰れそうだと期待して。

 

「…………だってわたし、ステルクさんにお義母さんって呼ばれたくないもん」

 

「あっはい」

 

 こればっかりはロロナに全面賛成のピアニャである。

 

「それにオーレル君がもしかしたら、なんてのもあるけど……。それ以外だったら……ステルクさんがすごい年上ってこと以外は、うん、安心できる……はずなんだけどなぁ……」

 

「ほぅほぅ。それはどしてです?」

 

「だってステルクさん、守るって決めた人は、どんなことがあっても、絶対に守る人だから」

 

 その顔は相変わらずお酒で赤くなっているが、言葉は今までの取り留めのなかった喋りとは違い、確信に満ちたものだった。

 

「だからもし、ステルクさんがルルアちゃんを守るって決めてくれたのなら、ステルクさんはどんなことがあろうとルルアちゃんを守ってくれるし大切にしてくれる。わたしはそれをよく知っているし、ステルクさんはわたしにとって、一番信頼できる男の人だから。だからもし、ステルクさんがルルアちゃんのこと好きだ~って言ってきたら安心して任せられちゃうはずなんだけど……でも、なんだろう、何だかすごいもやもや~ってするなぁ……」

 

「……」

 

 ピアニャは穏やかな顔をしたかと思えば真剣になったり、突然悩みだしだりとコロコロと表情を変えているロロナに、何て声をかければいいのか分からなかった。いつもならばからかったり茶化したりして、今の発言をどうにかして深く掘り下げようとしただろう。だけど、ピアニャにはできなかった。

 

「ふふ、それでロロナちゃんはどうしたいの?」

 

 ピアニャが悩みロロナが考え込んで、無言になっていたその場に、微笑みながら声をかけたのはリオネラである。手には魚カンの中身を盛った小皿。

 

「わたしが……したいこと?」

 

「ステルクさんに、たまには自分もかまってほしいんじゃないのかな?」

 

(おお、リオネラさん随分と直球で……)

 

 小皿を受け取りながらも、ピアニャは堂々と聞きにいったリオネラに感心していた。

 

「でもでも、わたしルルアちゃんのお母さんなんだよ? お母さんらしくしっかりしないと……」

 

「わたしも、それにきっとルルアちゃんも、ロロナちゃんはいつも通りので良いと思ってるはずだよ?ロロナちゃんらしく、ね」

 

 ためらいがちに喋るロロナに、リオネラは笑いながらはっきりとそう告げる。

 

「それにルルアちゃんも前に、お母さんとステルクさんと一緒にお話しとかしてみたいな~って言ってたし、たまにはロロナちゃんとルルアちゃんで、ステルクさんをお出かけとかに誘ってみたら?」

 

「一緒におでかけ……」

 

「そうですねぇ。ロロナさんもステルクさんもまだしばらくはお時間あるんですし、たまには三人でお出かけとか、親子二人でステルクさんに甘えてみるとか、いいんじゃないですか?」

 

 リオネラの言葉にピアニャも乗っかり、ロロナをちょっとからかい気味に煽ってみる。

 そうすればロロナは持ったグラスの中身を全て一気に呷り、高らかに宣言した。

 

「そうだね! よぅし、わたしもルルアちゃんと一緒になって、ステルクさんすっごく困らせてやる~!……ふっふっふ~~覚悟しててくださいね、ステルクさん…………」

 

 高らかに、良い顔で宣言したロロナは、そのまま机に突っ伏して……やがて可愛い寝息を立て始めた。

 

 

「ふぅ……ロロナさんって意外とめんどくさい人だったんですね」

 

「ふふ、昔からロロナちゃん。ステルクさんのことになるとちょっとめんどくさくなるの」

 

 くぅくぅと寝息を立てるロロナの頭をなんとなく撫でながら二人で話す。

 

「あ、でもめんどくさくなるのはステルクさんも一緒だって前にクーデリアさんが言ってたかな?」

 

「そういえばお姉ちゃんも似たようなこと言ってましたね。ロロナ先生は人に対して全然怒らないのに、ステルクさんとはやたらと痴話喧嘩しているって……」

 

「そうそう、ステルクさんが大ケガした後とか大変だったの!どっちが前にでるかでわたしたちほったらかしにしてずっともめていたりとかしててね」

 

「あ~……ホントに昔っからそんなことばっかりしていたんですね。なんというか二人とも……お互いどう想っているかなんて分かりきっているんだから、はやくくっつけばいいのに」

 

 呆れたような様子でピアニャが呟けば、それにリオネラが苦笑交じりに返事をする。

 

「みんなそう言うんだけどね……あの二人、お互い頑固なのが似た者通しというか何というか……ロロナちゃんは錬金術士として頑張ろうって、自分のことよりも依頼とかお仕事を優先しちゃうこだし。ステルクさんはとにかく警備団団長として、皆を守ることこそが使命だって自分のことを後回しにしちゃっているの。だからずっとあのままお互い仲は良いんだけど、ずっと同じ距離感のままなの」

 

「お互いに、自分の立場に頑固ってことですか……難儀なもんですねぇ二人とも」

 

 そう話しながらピアニャは、皿に移された魚カンの中身を頬張る。

 丁寧に下処理をされてから甘辛く煮つけた魚は、口の中で柔らかくほぐれて口の中で広がっていく。

 その味はピアニャにとって食べ慣れた味……アランヤ村で酒盛りがあった時はよく食べさせてもらったし、東の大陸へと一人出発する時には、村の皆が大量に持たせてくれたものだ(重いから全部秘密バッグに突っ込んで運ぶことにしたが)

 

「アランヤ村でも、あの二人ははやくくっつかないのかーって言われていたんですけどねぇ。トトリお姉ちゃんが時々愚痴っていたり、ギゼラお母さんがあの騎士のあんちゃん男前のくせにまだヘタレてんのかいと笑いとばしていたりで、村のみんなが割と知っていて……」

 

「ロ、ロロナちゃんたち、あっちでもそんな風に……」

 

 思いのほか噂が広がっていることに呆れるリオネラだが、彼女もアラホロ亭に来る警備団の団員が、ことあるごとに団長がいつになったら身を固めるのか、いつロロナさんとくっつくのか、等と賭けをしているのを知っている。

 

「なんというか……愛されているなぁロロナちゃんたち」

 

 机につっぷしているロロナの頭を撫でながら、リオネラがしみじみと話す。アトリエが取り潰されそうになって必死になっていた少女も、今では国中に名を知られた偉大な錬金術士になり、ついでにいえば周りの人から色恋の心配をされるようになったのである。昔のことを知るリオネラにとっては、とてもとても感慨深いことであった。

 

「ふふ、さすがロロナさん。……そういうところはルルアちゃんはそっくりね」

 

 リオネラと一緒にロロナの頭を撫でながら、ピアニャが嬉しそうに話す。

 

 思い出されるのは自分の愛弟子であるルルアの顔。彼女とロロナが良く似ているところはその人に好かれる性格、ついでにいえば同性異性問わず、本人無自覚にモテモテなところも言えばそっくりだとピアニャは考える。

 あの多くの人に愛され、引き付けるところは、ルルアが持つ大きな才能であり、これかも彼女を助けていくであろう大きな強みだ。

 

 きっと彼女(ルルア)なら母親(ロロナ)のように、みんなに愛される錬金術士になれるだろう。

 

「うへへ……ルルアちゃ~ん……ステルクさ~ん……」

 

 何やら二人の夢でも見ているのか、嬉しそうな声で寝言を言うロロナに、そういえばルルアもやたらと愉快な寝言を言う子だったなと思い出しながら、ピアニャは微笑む。

 

「ルルアちゃんも、ロロナさんみたいになれるといいですね。ね?ロロナさん」

 

「そうそう、ロロナちゃんみたいにそのうちステルクさんみたいな良い人を見つけて……」

 

「いやいやリオネラさん。ルルアちゃんああ見えて中々やり手というか、隅に置けないというかですね……ふふふ」

 

「あらあら、ちょっと気になるお話しですね。詳しく聞かせてもらっても……」

 

 

 熟睡しているロロナを撫でながら、まだまだ話したいことがいっぱいあるピアニャと、それを楽しそうに聞くリオネラ。

 アラホロ亭での楽しい時間は、警備団への依頼の確認にたまたま来たステルクが、ロロナを見つけるその時まで続くのであった。

 

 その後の酔い潰れたロロナを、ステルクと二人でアトリエまで運ぶ道中はピアニャにとって、それはそれは絶好の愉しい時間となるはずであったが、それはまた別のお話しである。




今回のお話しはここまで。
酒場のお話しである以上、お酒や食事描写も頑張って入れたいです(理想は小説・剣客商売とか等の内容を喰いすぎない程の描写)
それにしてもロロナさんってお酒飲めるんですかね?トトリのアトリエではクーデリアさんが飲みに行こうと誘ってたシーンはあったはずだけど……。
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