アラホロ亭繁盛記~アーランドの酒場と錬金術士達~ 作:よるのこ
はたしてどんなイベントが増えるのか、新たな情報はどんなものか……楽しみではありますがやっぱりジーノ君のお話しが聞けるかが気になるところです。
酒場とは賑やかな場所である。
美味しいお酒や食事をお供に、一緒に連れ立った友人仲間に家族に恋人、あるいはたまたま近くに居たお客とお客で酔いの混じった会話を楽しむ。
過剰の喧騒ならゴメンだが、楽しいくらいの騒がしさがあっての酒場である。それはこのアラホロ亭も例外ではない。
一方で、一人でお酒を楽しむ人もいる。自分のペースでお酒を楽しみ、お店の雰囲気を眺めながらゆったりとした時間を過ごす。それもまた一つの酒場の楽しみ方であり、そういった人達にも愛されているのがアラホロ亭だ。今カウンター席に座る女性もまた、普段はあまり行わない、一人でのお酒を楽しんでいた。
--カラン。
綺麗な琥珀色をした
そのグラスを優雅な動作で傾けるのは、その優雅な所作がよく似合っている、端正な顔立ちに意志の強そうな眼。そして濡羽色をした艶やかな長髪が目を引く、美しい女性……。
アーランドでも有数の実力者。ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングである。
日頃一人ではお酒を嗜まない彼女であるが、今日は彼女の
こういう時にたまの一人酒をしてみるのも一興かと、馴染みのアラホロ亭に顔を出し、ゆっくりと過ごすことにしてみたのだ。
座る席はカウンターの端の席。普段は
妙齢の女性が一人で酒場で飲んでいれば不躾に声を掛けてくるような輩もいるだろうと、ミミが周りが空いてて、
手に持つグラスにはゆっくりと時間を過ごすお供にはちょうど良い、大きな氷の入ったウィスキー。
カウンターのお皿には三色ベリーを材料に使った、控えめな甘さと甘酸っぱさを両立したチョコレート。
そして時折挟まれる、
貴族的な優雅さとは少し違うかもしれないが、上品にゆったりに過ごす大人の時間に満足し、ミミは上機嫌ではあった、のだが……。
(……でも、一人で酒場というのも思ったより良いものだけど、やっぱり少し寂しいわね)
一人酒も悪くはないが、やはり連れは欲しくなる。こういう時にそばにいて欲しいのは、長年一緒に過ごし、一緒に冒険に行ったり、協力して強敵にも挑んだりした気心の知れた……
「お?ミミじゃねーか。随分と久しぶりだな」
(……間違ってはいない。間違ってはいないのだけど……)
「ジーノさん、いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
「おぅ、リオネラさんも久しぶり。にしても相変わらずココは流行ってんなぁ。俺の村の酒場とはえらい違いだぜ」
リオネラに気さくに挨拶を返しながら、先ほど気安く声を掛けてきた男……ジーノ・クナープは成長しても昔からちっとも変わらない子供っぽい笑顔でミミに話しかける。
「よぅミミ。今日はトトリと一緒じゃねーのか?」
「どうも、ジーノ。久しぶりね。トトリなら今はアールズに行ってて不在よ。……まるで私が常にトトリと一緒に居るみたいな言い草ね」
この遠慮など一切無い態度にはもう慣れきったので腹も立たない。ミミはグラスを置いて、多少の呆れも込めながら挨拶を返す。なんだかんだで
「隣の席に座ってもいいとは言っていないけど」
「ん?何かダメだったのか?誰かと待ち合わせでもしていたか?」
「……まぁいいわ」
今更
顔を合わせれば喧嘩のような応酬になることもしばしばであるが、ミミは別段ジーノのことが嫌いというわけではない。
出会ったころからちっとも変らない子供っぽさと礼儀知らずにさえ目を瞑れば、そこらのナンパ男が隣に来るよりは千倍マシだ。
「俺はビアに、えーと……ソーセージの盛り合わせにすっか。それにしてもお前とサシで飲むなんて珍しいよな、こいつで二回目ぐらいじゃねーか?」
「ああ、そういえばそうね。……飲み比べなんてもう二度とやらないからね?」
ミミとジーノがお酒を飲む場合はほぼ確実にトトリが居た為に、2人きりで飲んだことはほとんどない。だが一度だけ、二人で組んでいた時に一度だけある。
……売り言葉に買い言葉で飲み比べとなって、勝敗どころか何をやらかしたかすら覚えておらず、痛む頭で普段はミミに対して貴族に対する態度を心掛けているステルクに説教を受けたことだけはよく覚えている。
「おいおいあん時は俺も師匠にしこたま怒られたんだし、そういうのはナシだって。俺だって飲み過ぎるわけにはいかないんだしよ」
そう苦笑しているジーノにリオネラがジョッキを持ってくる。それを受け取り、ぐいっと飲むその姿を見つつ、ミミもジーノには見えないように苦笑する。
まぁ、たまにはこういう時間も悪くないだろう。トトリとのお酒の時間も良いものだった。一人でのお酒の時間も悪くなかった。
ならば、この久しく会わなかった腐れ縁の、
ミミはそう考えてから、グラスの酒を軽く口に含んだ。
「俺が居ない間にこっちで何か変わったことはあったか?」
「そうね……ロロナさんの娘がアーランドに顔を出すようになったわね。ルルアっていうんだけど」
ビアを飲みながらこちらの近況を聞くジーノに、ミミはここ最近で一番印象深い出来事について話す。
「へぇ、トトリの先生の娘かぁ。……ん? 親父は師匠じゃないのか?」
「トトリの話しだと養子らしいわ。……私も最初聞いた時はステルクさんいつのまにって思ったけど」
「俺もついに師匠が腹括ったんじゃないかと思ったぜ……。まさかだけど師匠は養子だって知っているよな?」
「そりゃステルクさんとロロナさんの仲だし、ルルアともけっこう前から面識あったらしいんだから、まさか知らないはずないわよ」
「ま、そりゃそうだよなー」
そのまさかであるし、
「トトリの先生の娘ってことは……やっぱのほほんとしているような錬金術士か?」
「その辺りも似ていたけど、あの子はそれにメルルを足したみたいな感じかしらね。錬金術はピアニャが師匠になって教えてるのだけど、まだまだ成長中とはいえ錬金術士としての腕も中々のものみたいでね。トトリも喜んでいたわ」
グラスを軽く揺らしつつ、ルルアのことを思い出して少し微笑みながらミミが答える。その微笑みは男であれば思わず見惚れずにはいられないほどの美しさであるが、ジーノはそれなりに見慣れているからか、はたまたジーノだからか全く動じない。
「お前が言うなら相当なもんだろうな。それにあのピアニャもついに師匠をやるようになったかー、そりゃトトリも大喜び……あ、そういえば聞きそびれていたけど、トトリは元気か?」
「トトリなら相変わらず忙しそうだけど元気よ。元気すぎて、たまには休めと言いたくなるくらいには」
「そっか、ならいいや」
ビアをぐいっと飲みながら笑顔で言うジーノに、これが長年の信頼というものかと、少し負けたような気持ちにかられるが、表には見せずにミミは提案する。
「明日の昼前にはトトリも帰ってくるって聞いているけど、何なら明日会ったらどうかしら?」
「あー……俺、今日はさっき終わらせてきた首相のねーちゃんへの報告のために来てて、明日の朝にはアランヤ村に帰って船乗らないといけねーからな。明日の朝にアランヤ村にいるちみゅ…ちみゅ…ちみゅみみゅだったか? そいつが迎えに来ることになってんだ」
「……相変わらず忙しいのね。ジーノ」
「俺はトトリにあの船任せられているからな。補給とかでアーランドに戻る時にはついていかねーと」
現在ジーノは東の大陸調査の先遣部隊として活躍するとともに、初めて東の大陸への渡航に成功したトトリのあの船の責任者としての側面もある。現在東の大陸に居る人物でトトリが最も信頼している人物であり、なおかつ東の大陸へ初めて渡航した冒険者の一人でもあるために妥当ではあるが、本人は非常に忙しいはずである。
「ま、忙しいのは大変だけど、俺は東の大陸の未知の魔物や海の魔物とも戦えるから、別にいいけどな。フラウシュトラウトとかオーツェンカイザーやらは倒したけど、まだまだ海の魔物はいっぱいいるからなー」
「……単純っていいわねぇ」
ミミの思うジーノの凄いところは、底抜けに単純で、天井知らずに体力バカなところである。それにイライラさせられたことは数知れず……助けられたと思う時も、ごくまれにはあるのではあるが。
あまりのジーノのらしさに苦笑しながらも、ミミは手元の残り少なくなったウィスキーをくいっと飲み干した。氷がだいぶ溶けて飲みやすくなった液体は喉をするりと通り、今までとは違った柔らかな味わいをみせる。当初の目的では一人でゆっくり、一杯のお酒を楽しむつもりであったのだが……。
「ま、あなたに苦労話とか似合わないにもほどがあったわね。それじゃあ次は東の大陸での冒険について、聞かせてもらおうかしら? リオネラさん、ウィスキーをロックでもう一杯、お願いします」
「お、東の大陸か、いいぜ。俺も話したいこといっぱいあるしな。リオネラさん俺もお代わりー!」
今日はウィスキーを一杯だけゆっくり楽しんで帰ろうと思ったが変更。
ミミとて最初こそ家名を上げる手段として冒険者という職を選んだが、冒険そのものは好きだし東の大陸の貴重な話にも興味がある。
強めのお酒の氷が解けて、飲みやすくマイルドになるまでの時間、ジーノの冒険譚は中々の肴になりそうだと思いながら、ミミはどこから話そうか楽しそうに悩むジーノを眺めつつ、自分では気づいていないが柔和な笑みを浮かべながらジーノの語りを待つのであった。
やっぱりジーノ君は東の大陸に行っているとは思うのですが、どうなんだろうと気になっています。 それなら色々と納得はできるのですがはたしてトトリの追加イベントでその辺のお話しはでてくるのやら……