アラホロ亭繁盛記~アーランドの酒場と錬金術士達~   作:よるのこ

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ミミとジーノの「守るもの」 後編

「それで、あっち(東の大陸)はとにかく俺たちが最初に行った辺りとおんなじで、本当に雪ばっかだったよ。調査や冒険がすごい大変だったってピアニャが言ってた通りだったぜ」

 

「シュテル高地以外じゃ滅多に雪を見ない、こっち(アーランド)とは気候からそもそも違うものね……魔物の方はどうだった?」

 

「やっぱりこっちとは種類が違い奴が多いし、歯応えのある奴も多かったぜ。ああそれと、火に弱い敵が多かったぜ。ピアニャから事前に聞いて、トトリと鍛冶屋のおっちゃんに頼んでそんな効果のある剣を作ってもらってたんだけど、すごい役にたったぜ」

 

「あら、あなたにしては用意周到ね」

 

 2杯目のウィスキーをゆっくりと傾けながら、そういうのを考えるのはトトリの役目であったはずだったが、さすがにコイツも熟練の冒険者らしいところもみせるようになったんだと、ミミは素直に感心していた。

 

「おう、なんせその剣、提げてるだけでほんのり温かいし、それにうまく使えば剣の腹で肉が焼けるんだぜ?」

 

「……トトリにもらった剣で何してんのよあなた……」

 

 さっきまでの感心を返せと呆れんばかりのジト目で見るミミであったが、ジーノは意に介さずに妙に真剣な様子で話す。

 

「いやいやコレが意外とバカにできないんだよ。とにかく雪、雪、雪で、たき火をするにも一苦労なんだよ、薪になるような木が見つからねーし、見つかっても雪の中から掘り出したやつだから湿気ってて、しばらくは使えないし。剣で焼くこと思いついた時はみんなから絶賛されたんだぜ?」

 

「す、凄まじいわね……東の大陸の調査って本当に大変なのね」

 

「おう、すげー大変だぜ。木が全然なくて火は起こせないし、果物とか食えそうな草とかも全然ないからよ。兎系の魔物とか美味そうな魔物見つけると、調査隊のみんなも目の色変えて……」

 

 開拓の調査に来て野生を取り戻している調査部隊に若干引きつつも、ミミはその調査部隊の過酷さには驚かされるばかりである。彼女も多くの冒険を経験したが、そこまでの過酷な環境はそうはない。

 

「まぁ新鮮な肉を炙って喰うのも冒険者なら喰い慣れたもんだし、悪かないけどな。やっぱこうして町とかに来れたんなら、干し肉とか塩漬け肉とかの保存用とは違った、こんなもんが喰いたくなるぜ」

 

 

 ジーノは皿に乗ったソーセージを、フォークに刺しながらミミに見せる。

 少し焦げ目がつくように焼かれたソーセージは食欲をそそられる香ばしい匂いをしており、それをカリッと、子気味いい音を立てて齧る。柔らかい肉とパリっとした皮の食感と味、それに飲み込んだ後も残る肉の余韻を洗い流すかのように口に運ばれる、冷えたビアののど越しとキレ。

 東の大陸の調査で久しく味わってなかった味に満足しているジーノを、相変わらず美味しそうに食べるなと眺めていたら、ジーノはお前も食うか?と皿を突き出しながら笑う。

 

「遠慮しておくわ。私にはコレがあるもの」

 

 ミミにはウィスキーとチョコレートがあると見せれば、ジーノもあっさりと引き下がる。

 

「ん、そうか。……なんかこんなやり取りも懐かしいな。お前やトトリと冒険してたころもこんなことがあったよな。お前俺が肉分けてやっても食わなかったっけ」

 

「倒してすぐのグリフォン肉とか、普通その場で焼いて食べたりしないわよ」

 

「美味いんだけどなアレ。それにお前、トトリから肉渡された時はなんだかんだ言いながらも食ってたよな?」

 

「そ、そりゃトトリは仮にも錬金術士なんだから、その辺の魔物の素材とかの知識とかも、まぁなんとか信用できるから、別にトトリに渡されたから食べるってわけじゃ……」

 

 ジーノの素朴な疑問に妙に慌てて反論するミミに、カウンター越しのリオネラと近くに座る常連客は温かい視線で見ているのだがミミとジーノは気づかず。

 特にジーノはいつものことだからか特に気にすることもなく、ビアを飲みながら東大陸の話しを思い出していた。

 

「あーでも、東の大陸の調査でも錬金術士は欲しいって意見は出てんだよな。貴重な素材とかが見つかっても俺たちだけじゃ扱いわかんねーのもあるし、その場で色々と作れる錬金術士がいれば、補給とか色んな面で頼りになるだろうって」

 

「いつかは東大陸の調査に錬金術士を派遣するだろうなと思っていたけど、やっぱりそんな意見がでているのね」

 

 錬金術士が部隊にいることの有用性については、ミミもジーノもよく知っている。冒険から開拓事業まであらゆる事例において革新的な結果を残せるのが錬金術だ。東の大陸の調査にも、いずれは派遣されるとは思っていた。

 

「首相のねーちゃんの話しだとトトリの先生と師匠のコンビがいよいよ派遣されるかもしれないってさ。まぁトトリは忙しいだろうからなー」

 

「トトリはしばらくは錬金術教室やったりアーランドで錬金術を広めたりで、東の大陸に行くのはしばらくは無理ね」

 

「まぁそうだよな。久々にトトリと冒険できるかとも思ったんだけどなー」

 

 

「…………ねぇジーノ。聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

 どこか残念そうな表情でビアを傾けるジーノを見て、ミミはどうしても聞きたいことがあった。

 

 

「あなたはやっぱり……またトトリと一緒に冒険したい?」

 

 

 それは昔から聞きたかったこと。

 

 トトリがアールズに出向する前の、一緒に冒険しなくなった頃にも、ミミがジーノに聞きたかったこと。

 素面では到底聞けないことであるが、今はお互いほろ酔いの気分であり、今ならお互いに本音が聞けるかもしれないと、ミミは意を決して聞いてみた。

 

「お前も師匠と同じようなこと聞くんだな、ミミ。東の大陸の調査に行くと言った時に似たようなことを聞かれたよ」

 

「あなたの師匠も……。それで、どうなの?」

 

 ジーノは少し悩む素振りを見せた後、ビアのジョッキを置いて話し始めた。

 

「……まぁな。アールズの連中と開拓したり、警備団として働いたり、今みたいに東大陸の調査団として旅をしたりと、俺も色々冒険したけどな。やっぱ俺にとって一番記憶に残っているのはあの頃の、トトリやお前と。冒険者になってからの数年間だ。時々、あの頃の冒険が無性に懐かしくなるな」  

 

「……そうね。それは私も同じだわ」

 

 まだ冒険者としても人間としても未熟だった時。確執も涙も努力も、かけがいのない多くのものを経験した時。

 ミミにとっても、おそらく二人にとっても、忘れられない大切な時があの頃だ。

 

「でもなぁミミ。トトリにはトトリのやりたいことがあって、俺には俺のやりたいことがあった。寂しいっていえば寂しいのかもしれねーけど、それで自分を曲げるなんて、まずトトリに怒られるぜ?」

 

「……えぇ、そうね。トトリはそういう娘よね」

 

 はっきりと答えるジーノの表情は、トトリならばこうだろうと、トトリへの信頼に満ちており、二人の長年の絆を感じさせるものであった。

 

「それに俺は警備団として辺境を冒険したり、東の大陸の調査をして気づいたんだけどな……世の中、トトリよりももっと弱っちくて、守ってやらないといけない奴がいっぱいいるんだよ。

 俺はトトリみたいに難しいことは分かんねーし、師匠みたいに警備団を率いるってのも柄じゃねーけどな……冒険者として、俺に守れる奴はしっかり守ってやりたいんだよ」

 

 お酒が入っているからか、あるいはジーノの気質からか、はっきりと宣言をするジーノの姿は実に堂々としており、ミミは感嘆するほかなかった。

 

 昔は何故ジーノが強さを追い求めているかなんて、ミミは理解しようとも思わなかった。だがトトリの事情を知り、自分の中でトトリの存在が大きくなっていくとともに、何故ジーノが愚直に強さを求めていたのか、なんとなくではあるが、分かってきたつもりではいた。

 

 だからこそ今の、一人でいる彼が寂しくはないのか、それを聞いてみたかったのが本音である。

 

 だが、彼の答えはどこまでも真っ直ぐで、とてもとても彼らしい、ミミの予想を大きく超えたものであった。

 幼馴染を守れるようにと鍛え上げられた剣は、いつしか多くの人々を守る剣に。ジーノ本人にとっては不本意かもしれないが、紛れもない立派な騎士の剣へと変わっていたのだ。

 

 

「それに、今のトトリなら俺が一緒に居なくても大丈夫だからな」

 

「……そうね。トトリは本当に強くなったもの……きっと一人でも大丈夫なくらいに」

 

 そこら辺の魚よりも弱いなんて言われていた村の少女も、今ではアーランド屈指の実力者であり、錬金術士たちのまとめ役として、国の中枢からも一目置かれる重要人物にまで成った。

 ミミはそんな親友を誇りに思いつつも……本当はトトリは一人でも大丈夫なんじゃないか、自分が守る必要はあるのかと、心の奥底で悩んだ時だって何度もある。

 

 少しだけ沈みそうになった気持ちを誤魔化すようにウィスキーを口に含むミミに、ジーノは「なにいってんだこいつ」とでも言いそうな顔でさらりと話す。

 

 

お前がいるから、トトリは大丈夫(・・・・・・・・・・・・・・)だろ」

 

「んぐっ……!」

 

 口の中のウィスキーを吹き出しそうになったのを即座に喉に送ることでやり過ごし、一気に喉を通った酒精にむせかえるのを堪えているミミに、ジーノは特に気にすることもなく話し出す。

 

「違ったか?お前がトトリの傍にいるなら、トトリはまず大丈夫だろって俺は思ってんだけどな?」

 

「……随分と私を買ってくれているのね」

 

「そりゃ俺はお前と一緒にトトリの護衛やったり、お前とコンビ組んでたこともあったからな。お前の槍の頼もしさも分かっているし、トトリだってお前を頼りにしていることも知っているぜ?」

 

「……トトリもあんなに強くなったのに?」

 

 

 酒精が少し回り始めた頭で、ミミが思わず胸の内の疑問を言葉に出してしまえば、それもジーノは快活な笑顔で笑い飛ばす。

 

「そりゃミミ、アイツって俺には無茶しちゃだめーって文句言うくせに、自分のことだと平気で無茶やるからな。村ならトトリのねーちゃんが見てんだろうけど、今はアーランドだろ?誰かが見ててやらねーとな」

 

「まぁ、トトリって慎重に見えて意外と大胆だったり、頑張りすぎるきらいがあるものね……。見ていないと危なっかしいというのには同感よ」

 

 気弱そうに見えてその芯は強く、どこまでも先へ先へと歩み続けるのがトトリなのだと、長い付き合いの二人はよく知っている。

 

「だろう?だから俺は東の大陸に行く時に、トトリのことが少し心配だったんだけどよ……あの時お前らが二人で見送りに来たのを見て、俺は安心したんだぜ。お前(ミミ)がいるならトトリのことは心配いらないってな」

 

 お前ならトトリのことは絶対に守ってくれるんだろう?とその真っ直ぐな眼は言外に伝えていた。

 いつものミミなら真っ赤になって否定して後で自己嫌悪に陥るパターンだけど、生憎ここは酒場で、ミミもそれなりに飲んでいる。酔いが少しづづ周る頭は、はっきりと、自分らしく答えてやるのがジーノへの礼儀だろうと判断し、少し赤みの差した顔で不敵に笑い、いつものミミのように堂々と宣言を返す。

 

「分かっているじゃない。私がいるんだから、トトリのことは心配いらないわ」

 

「そうだな。んじゃ、これからも……」

 

 そう言ってジーノは手元のジョッキをこちらへと突きだしてくる。それを怪訝な目で見ていると、少し照れくさそうに説明をする。

 

「ギゼラおばさんに教わったんだけど、冒険者同士の約束事ってのはこうやって(さかずき)当ててやるもんだってさ。いっちょこれからも、俺の幼馴染をよろしく頼んだぜ、ミミ」

 

 

 酒の席での約束事ほど信用できないものはないという言葉も貴族にはあると、ミミの頭を過ぎったが、ミミもジーノも冒険者で、そして約束するのは二人にとっては今更口にするまでもないこと。

 ミミは手に持つグラスをジーノの前に突きだしながら、再び不敵な笑顔ではっきりと告げる。

 

「ええ、このミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングが誓います。あなたの幼馴染はこのわたしの槍が守ってみせるから、あなたはあなたが守れるものをしっかりと守りなさい。……トトリに無茶するなって言う以上は、あなたも無茶するんじゃないわよ?」

 

「おう、あまり無茶して怒らせるとトトリも怖いからな……俺は俺なりに頑張るよ。お前も、トトリの護衛は任せたぜ?」

 

「ええ、任されたわジーノ。安心してなさい」

 

 朗々と、高らかにミミはジーノへ宣言する。その宣言こそがジーノへの、かつての相棒への信頼の証であると信じて。

 

――――トトリはわたしがまもってあげる!――――

 




というわけでミミちゃんとジーノ君のお酒の会でした。
個人的にはこの二人の関係ってなんだかんだの腐れ縁的な感じで仲が良いんだろうなーって思っています。
お互いに認め合っているけどちょいちょいいがみ合うのをトトリが微笑ましそうに見ている感じで。
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