からかい上手の高木さん~short Extra stories~ 作:山いもごはん
ネタがないのでもう書かないつもりだったのですが、コメントから楽しみにしてくださってる方がいると知ってもう一頑張りした次第です(笑)
そんなこんなで、楽しんでいただければ幸いです。
「あれ、珍しいね。」
オレ一人しかいない教室に、高木さんの声が響く。
確かに、クラスの誰よりも早く登校するというのは、オレにとってはとても珍しいことだ。
例外があるとすれば、高木さんと一緒に登校するときぐらいだ。
「まあ、たまにはね。朝の空気が気持ちよくてさ。」
嘘をつきました。本当は、高木さんに勝負を挑むためにわざわざ早起きしてきたのだ。
「どうせ何か勝負でもしようって言うんでしょ?」
一瞬でバレた。
出鼻をくじかれた感じはするが、ともかく勝負だ。勝負に勝てばいいのだ。
「それで?今日はなんの勝負なの?」
「これさ。」
そう言って、オレは一丁の拳銃を取り出し、高木さんに渡す。六連装の回転式拳銃。いわゆるリボルバーだ。
もちろん本物ではなく、ただのおもちゃだ。しかし、実際におもちゃの弾を装填して、大きな音を鳴らすことができる。
「もしかして、ロシアンルーレット?」
「その通り。」
その通り。今日の勝負はロシアンルーレットだ。
ロシアンルーレットは、リボルバーの引き金を交互に引いて、弾が出た(この銃の場合、大きな音が出た)ほうが負けになるという、極めてシンプルなルールのゲームだ。引き金を引くときは、なぜか額かこめかみに銃口を当てるのが通例となっている。緊迫感を出すためだろうか。
「ふーん。もしかして、実力じゃ勝てないから勝負を運に任せようとしてる?」
「う……うるさいな!そういうんじゃないから……!」
オレは一瞬熱くなるものの、すぐに冷静さを取り戻す。これは高木さんの挑発だ。そう簡単に乗ってたまるか。
「なるほど、運任せ、ね。まぁそう言われればそうかもしれないね。」
「あれ、思ったよりも冷静だね。」
オレがロシアンルーレットを勝負に選んだのには理由がある。というのも、オレは昨日気づいてしまったのだ。確かにロシアンルーレットは運任せのゲームと言っても過言ではない。しかし、一発目で当たり(はずれ?)を引いてしまったら、その時点で負けだということに。つまり、後攻が圧倒的に有利なのだ……!
オレのそんな思惑にも気づかず、高木さんはおもちゃの銃を右手でもてあそんでいる。
「それで、ルールはどうするの?」
「弾は一発。最初にシリンダーを回したら、あとは弾が出るまで交互に引くっていうのは?」
「いいよ。順番はどうするの?じゃんけん?」
きたっ!ここで後攻をとらなくては作戦が破綻する。
オレはあくまでも平静を装いながら言った。
「れ……でぃ…レディーファーストで、いいんじゃないかな?」
平静を装いながらも、ちょっと噛んでしまった。
「ふぅーん。」
ちょっと噛んだオレの顔を見ながら、高木さんは意味ありげに鼻を鳴らす。
「な……なに?」
「いやぁ、私のこと、レディーとして扱ってくれるんだ、と思ってさ。」
「ちがっ!」
違う、と否定したいのに、焦りから言葉が途切れる。あわせて顔が熱くなってくる。
「あははっ!顔、真っ赤だよ?」
「言うと思ったよ……。」
もうお決まりのやり取りだ。
「あはははっ。あー、おかしい。」
「いつまで笑ってるんだよ……。もういいじゃないか……。」
いい加減に解放してほしい。
「あははっ。ごめんごめん。ロシアンルーレットの順番決めるところだっけ?」
「そうだよ。高木さんが先攻でいいんじゃないかって話だよ。」
「レディーファーストでね。」
「それはもういいから!」
「はいはい。なんだか裏がありそうだけど、私が先攻でいいよ。」
オレは心の中でガッツポーズをとった。紆余曲折はあったものの、無事に後攻を取ることができた。
高木さんに一発の弾を渡す。すると高木さんは妙に慣れた手つきで弾を込め、シリンダーを回した。
「じゃあ、いくね。」
そう言うと、高木さんはこめかみに銃口を当てた。
「あ、そうだ西片。知ってる?ロシアンルーレットって、順番に有利不利はないんだよ。」
「えっ?」
カチカチッ!
オレの間抜けな声と、銃の乾いた音。それらはほぼ同時だった。
「えっ?」
そして再度、オレの間抜けな声。
「高木さん……今……二回……?」
「だって、一回しか引いちゃいけないってルールはなかったでしょ?」
「いやまあ、そうだけど……。」
間抜けにつぶやくオレ。さっきから間抜け尽くしだ。
「そういえば、順番で有利不利はないって本当?」
もうこうなったら間抜けついでに聞いてやる。
「本当だよ。確率の問題。数学で習ったでしょ?」
「確率の問題……?」
確率の問題。確かに授業で習った。しかし、袋の中から玉を取り出すとかいうのは習った覚えはあるけど、ロシアンルーレットは習った覚えがない。
オレがうなっていると、高木さんは言葉を続けた。
「では西片、問題です。今この状況では、私と西片、どっちが有利になったでしょう?」
成績学年10位の高木さんじゃあるまいし、いきなりそんなことを言われてもわかるわけがない。そもそもオレは確率の授業でロシアンルーレットを習ってないのだから。
いや、ここで気持ちが負けてはダメだ。運任せとはいえ、流れというものはある。そこで、オレはあえて強気に出てみた。
「もちろん、オレのほうが有利に決まってるよ。」
「今から西片の番なのに?」
そうだ……オレがここで当たり(はずれ?)を引いてしまっては、そこで終わりだ。
ということはオレが不利……?いやいや。そもそも、最初に高木さんが不利だと思っていたところ、有利不利はないと言われたわけだ。ということは……?
「ふっふっふ……わかったよ高木さん。今この状況、オレと高木さんは、どちらも同じ確率だということがね!」
「おー。よくわかったねー。」
「ふっ。冷静かつ論理的に考えればわかることさ。」
「すごいすごい。じゃあ、はい。西片の番だよ。」
「えっ?」
オレはまたしても間抜けな声を出した。そうだ……今は数学の授業中ではなく、ロシアンルーレットの勝負の真っ最中だった……。
勝負以外のことによそ見をしていた自分を恥じながら、高木さんから渡された銃を見つめる。
大丈夫だ……オレと高木さんは同じ確率なんだ……。
自分を鼓舞しながら、こめかみに銃口を当てる。
オレと高木さんは同じ確率なんだ……。だからこそ、気持ちで負けるわけにはいかない。
となると、オレのとる行動は決まっていた。
カチカチッ!
オレは、高木さんと同じように二度引き金を引いた。
「はーっ、はーっ。」
なんとか死地を脱したものの、もはや満身創痍なオレ。
「おー、すごいね西片。まさか二回引いてくるとは思わなかったよ。」
「ま……まあね。これぐらいのことはしないと高木さんには勝てないからね。」
空元気を振り絞って言う。空元気も元気、虚勢も勢いだ。
「ふーん。その割には限界そうだったけど。」
「う……うるさいな!それよりほら、高木さんの番だよ!」
高木さんに銃を渡しながら言う。そして、今になって気づく。そして、そんなオレの気づきを高木さんが言葉にする。
「お互い二回ずつ、合わせて四回引いたから、残る弾倉は二つ。つまり……次で勝負が決まるってことだね。」
そう言うと高木さんはこめかみに銃を当て、一つ息を吐く。
二分の一の確率だ。これぐらいの確率の問題ならオレにでもわかる。
そして……。
カチンッ。
銃は乾いた音を立てた。
なーーーーーーーーーーーーーっ!
「私の、勝ち。」
余裕のセリフを吐く高木さんの横で、オレは教室の床に崩れ落ちていた。
くそぉお!なにが気持ちだよ!気持ちで勝てれば苦労はないよ!
「じゃあ、罰ゲームなにしてもらおうかな。あ、その前に……。」
高木さんは銃をオレに渡しながら、満面の笑みをたたえて言う。
「次、西片の番だよ。」
「えっ?」
「だから、西片の番。まだ引いてないでしょ?もしかしたら弾出ないかもしれないし。」
「そんなわけないだろ!」
「あれ?逃げるのかな?」
挑発なのはわかっていたけれど、ここまで言われてやらなければ男がすたる。
「わかったよ……やるよ……。」
「そうこなくっちゃ。」
オレは高木さんから銃を受け取り、銃口をこめかみに当てる。そして……。
「ぱん!」
「わぁっ!」
高木さんの大声に、オレも思わず大声を出してしまう。
「もう!そういうのやめてよ!」
「あはははっ!あははははっ!」
オレの抗議にも関わらず、高木さんは笑い続けている。その目には涙まで浮かべている。
「あんなことされたら誰だってびっくりするに決まってるだろ!」
「だって……西片ってば……あははははっ!」
朝の空気は、どこまでも澄んでいて。
オレたち二人しかいない教室に、いつまでも高木さんの笑い声が響いていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次はまた3年後とかに更新するかもしれません(笑)