ただただ、少年がドSお嬢様に振り回されるお話   作:雨が嫌い

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その日、恐ろしい少女に出会った

あの日もこんな土砂降りの雨だった。

 

 

 

 

 

土砂降りの雨のロンドンを走って進む。後ろからは、命を狙ってくる魔術師の怒号が聞こえてくる。息は切れ、鼓動はうるさいほど高鳴り視界は揺れている。

 

電気魔術や炎や氷に変化させたチャクラムやナイフが俺を襲ってくる。紙一重でかわしながら、目くらましの魔弾を打ち返す。攻撃が直撃して、全身に痛みが走っても足だけは止めない。否、止めてはならない・・・。

 

耳鳴りが始まり、視界がかすんでくる。

 

「・・・いい加減あきらめてくれないかな?お前たちほど暇してないんだ」

 

壁際まで追い詰められ、絶望感に浸りながらも焦燥感を悟られてはならないと必死で、強気な姿勢をとる。

 

「悪いが、こちらとて暇じゃない。必要なのはお前の魔眼と魔術刻印だ。邪魔をするなら黙って死ね」

 

男5人に壁際まで追い詰めっれ、意識を保つのがやっとの子供が何とかして逃げい切り、安全な場所を確保する・・・これほどまでに完璧なクソゲーをどうにかしろってほうが間違っている。

 

「正直・・・痛いのは嫌なんだが・・・物理的な死ってのは怖くはない。だけど、納得のできない死を受け入れられるほど俺は大人じゃない」

 

「それが最後の言葉でいいか?」

 

「それに・・・俺を殺した奴が笑って生きてるのは我慢ならないな・・・俺がたとえ死んでもお前らには・・・苦しんでもらわないとな」

 

いっせいに、男たちは俺に飛び掛かる。身体強化をしているとはいえ、仮にも魔術師相手に不用心すぎる。おとなしく、遠距離から攻撃すればよかったものを。

 

乾いた音が、ロンドンに響いた。鮮血が咲き、雨音が一瞬消える。飛び掛かっていた男たちは一瞬、ひるみ距離をとった。ここまで追い詰められておいてなんだが、想定より簡単に俺を殺そうとした男の命を刈り取れたことに、一種の安堵を抱いた。普段から、俺のことを決して裏切らないとのたまっていたこの男は何の躊躇もなく俺を裏切った。これまでも、似たような裏切りはあったがまさかこの男にも裏切られるとは思わなかった。憤りはあった、悲しみはあった。信じていたものをこの手で殺したらもっとショックなんじゃないかと思った。が、それよりも相手に対する落胆が上回ってしまった。まったく、所詮人間なんてこんなものかっと。

 

「魔術師が拳銃に頼るなど恥を知れ!!!」

 

くだらない怒号は聞くに堪えない。驚くほど、頭が冷えていた。

 

「もういいや、お前ら」

 

銃弾を放つ。人数分の弾丸は誰一人にも届かなかった。腐っても魔術師。ただでさえ、体に限界がきて狙いが定まらない子供の銃撃をかわせないほど落ちぶれてはいなかった。だが、それでいい。

 

「そんなに見たいんなら見せてやるよ。『魔眼』ってやつを」

 

「まさかッ」

 

「虚構の魔眼か!?」

 

「もう遅いけどな」

 

何人かは俺がなにをしようとしたのか気づいたらしいがもう遅い。

 

次の瞬間には、物言わぬ死体が四つ出来上がっていた。

 

「う・・・痛ッ・・・。くっそ」

 

目が痛む。頭が痛い。体が、悲鳴を上げている。まったくもって厄日だ。権力闘争に明け暮れる魔術師など・・・俺を裏切る奴なんてみな死ねばいい・・・。

 

 

「ここから離れないとな・・・どうせすぐに追手が来る」

 

限界に近い体に活を入れながら、壁伝いに歩く。しばらくして、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとそこには少女がいた。器人形のような白い肌に純金の糸を思わせる細く真っ直ぐな髪、儚げな印象を吹き飛ばすような強い焔色の瞳を持った少女だ。

座るだけで優雅を纏っているが、何故だかすごく性格が歪んでいそうに見える。

 

「やあ、ごきげんよう。少年。気分はいかがかな?」

 

少女は、楽し気に俺の顔を覗き込む。一体瀕死の人間の何がそんなに面白いのだろうか。

 

「あなたは?」

 

「私かい?名前を聞くのならまず自分が名乗るべきじゃないのかな?淑女に先に名乗らせるなんて英国紳士としてどうなんだい?」

 

「・・・俺は「いやすまない。少しからかいたかっただけさ。君のことは知っている。アークライト・ファムルソーデ」

 

「知っている?」

 

「改めて名乗ろうか。私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。なに、膨大な財産と人材、霊地と魔術礼装を他家や分家に奪われ、もはや『エルメロイ』という家名と天文学的な負債しか残っていない哀れな魔術師の一門・エルメロイ本家の次期当主さ」

 

「・・・日々命を狙われそうな肩書だな」

 

心の底からそう思う・・・だけど、これで俺のことを知っているのにも合点がいった。時計塔に存在する十二のロードの家系の一つ、エルメロイの次期当主。であるならば、ほとんど表に出てこなかった俺のことも資料か何かで把握していてもおかしくはない。

 

「初手から皮肉で返されるとは思ってなかったよ。それで?たまたま、私の家の前で倒れていた君を拾ってあげたわけだが?また、外に放り出してあげようか?」

 

体が動かない状態で外に出されたら、今度は逃げきれない。間違いなく死ぬ。実質、俺に選択肢はない。それに、現在進行形で死ぬほど体が痛いのだ。

 

「・・・何がお望みで?」

 

「僕が君を拾ったのは気まぐれだけど、治療したのには理由がある。なんだと思う?ワトソン君」

 

「俺の苦しむ姿が見たいとか?」

 

ライネスは面食らったように目を見開いた。

 

「・・・なんでそう思ったんだい?」

 

「だって、お前性格悪そうだもん」

 

かなり追い詰められたからだろうか・・・普段なら自分の本音をぶちまけるなんて真似はしなかったのだが、今回に限り、俺は取り繕うのをやめて、本音をぶちまけた。

 

「フフフ、傑作だ。こんな状況でそんなことが言えるなんてね。気に入ったよ。自殺願望でもあるのかい?」

 

「・・・」

 

「そんな君に残念なお知らせだ。君の予想は大当たりだ」

 

「痛ッッッ・・・」

 

突如として、ライネスの手が俺の傷口に触れた。あまりの痛みに、声が漏れる。ついでに涙があふれそうになる。

 

「思った通り、ついつい踏みつけたくなるほどいじらしい反応をする。ちょうど、私を裏切れない従者(玩具)が欲しくてね。そんな時に、君を見つけたんだ」

 

悪魔だと思った。なんて恐ろしい女だとも。だけど、自分を裏切らない存在を欲しがる気持ちは痛いほど理解できた。心の底から信用できる人間に身をゆだねてみたいと思う。・・・この少女に共感することは確かにできるが・・・それでもやっぱりこの少女は

 

「この悪魔め・・・」

 

「これからはお嬢様と呼びたまえ」

 

ライネスは嗜虐的に、心底楽しそうに嗤った。

 

 

 

 

 

これが、俺『アークライト・ファムルソーデ』とエルメロイの姫『ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ』の出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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