ただただ、少年がドSお嬢様に振り回されるお話   作:雨が嫌い

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ロードに封じられた哀れな男

必要な処理をして、帰路に就く。家に帰ると、使用人が出迎える。使用人を軽くいなし、自分の部屋に向かう。この家において、使用人はほとんど役目を果たせていない。ライネスは必要以上に使用人を自分に近づけないし、食事も俺が毒見をするか、俺が作ったものしか口にしない。次期当主として、警戒心があるのは良いことだが、その分のしわ寄せが俺に来ているのは勘弁してほしい。

 

「ただいま」

 

「やあ、アークお帰り。随分と遅かったじゃないか、何かあったのかい?」

 

自分の部屋に帰ると相変わらずライネスが居座っていた。木製の机には、紅茶のポットがそしてミルクに砂糖が並べられている。皿の上には鮮やかな色の菓子が並べられている。マカロンを置いてある当たり、こういう趣味はライネスと合うなと思う。

 

「いや、特に何も。アビーロードのビターチョコレート・・・これで問題ないか?」

 

「うん、気になっていたんだ。最近の新作でね。欲しいとは思っていたんだけど、タイミングがなくてね。助かったよ」

 

ライネスは、いつもの邪悪な笑みではない、純粋なえみを浮かべ上機嫌に足をプラプラさせている。ティータイムの時のみ、ライネスの壊滅的な性格の悪さは一端、鳴りを潜める。

 

俺もライネスも甘いものが大好きだ・・・っというかお茶の時間が好きなのだ。ライネスは、決まってティータイムは俺の部屋に来て紅茶を飲む。何故だかは分からないが、おそらく、安全な場所だからだろう。俺の部屋もライネスの部屋も魔術的防御はしてあるが、結局のところ俺といたほうが確かに安全なのだ。もしくは、俺を自分の部屋に入れたくないのか・・・。

 

「今日は何を飲む?」

 

「そうだね~、今日はアールグレイにしよう」

 

「了解」

 

茶葉の入ったポットにお湯を注ぐ。一、二分たつと、ゆっくりと葉が開いて香りが立ちはじめる。

 

「ミルクは必要ないよな」

 

「そうだね、もし君がミルクを入れようものならバツとして一週間は女装して時計塔に行ってもらうつもりだったよ」

 

凄まじく恐ろしいことを言い出したライネスを、無視しコップに紅茶を入れる。

 

「・・・さて、じゃあ、戴こうか」

 

俺とライネスは、コップに口をつける。

 

「今回のアールグレイは、ダージリンのファーストフラッシュをベースにベルガモットの香りづけをしているのか」

 

「ご名答~、アークの舌もだいぶ肥えてきたようだね」

 

「まあな」

 

続いて、お皿の上のお菓子にも手を伸ばす。見た目の鮮やかなマーブル模様のチョコは、ミルクチョコとホワイトチョコのまろやかなハーモニーが幸福感を呼び起こす。

 

しばらく、幸福感に浸っているとライネスがある人物の名前を出した。

 

「ウェイバー・ベルベットを知っているかい?」

 

「最近、ライネスが気に入っている第四次聖杯戦争から生還した男。かつてのケイネス・エルメロイの教え子だっけ?」

 

参加者の中で最も未熟と言われていた彼が生き残ったのだから、当時は話題になったものだ。

 

「ああ、我が義兄の死後に零落し見捨てられていたエルメロイ教室を受け継ぎ、三級講師になったのさ。一般的な時計塔の講師がせいぜい見込みのある生徒を助手に引きこもうとする程度で真面目に授業を行わない中で、彼の異様に分かりやすく実践的な授業は時計塔で居場所のなかった新世代たちの間でたちまち話題となり、あげく権力争いに敗れた講師たちを何人も説得して登壇させ、これまでになかった多角的な教育体制を実現させて見せた」

 

「随分調べているんだな。まあ、確かに一種の天才だとは思うが」

 

「天才・・・天才か。確かに驚くことにその後、他の講師たちに失点や弱みを一つも見せず奇跡的に教室を三年間存続させているのだから、一種の才能だと言えるだろうね。実に面白いと思わないか?」

 

「で?その彼がどうかしたのか?」

 

「私の持つなけなしの権力を総動員して、拉致してこようと思ってね」

 

「ブッ・・・」

 

紅茶を噴出さなかった俺を誰か褒めてほしい。一体どんな起承転結があって、そんな結論に至ったのかゆっくり聞きたいところだが、きっとそれに意味はないのだろう。この女が、結論を変えるなんて、滅多にない。

 

「そろそろ、運ばれてくるころだ。私は、私室に戻るとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はライネスの私室で這いつくばった彼・・・ウェイバー・ベルベットに同情の視線を向ける。

 

ライネスは、足の長い椅子に座り彼を見下ろしている。その後ろで俺は控えて立っている。彼をここに連れてきた、男たちは下がらせた。つまりこの空間には、俺とライネスと彼だけだ。

 

「帰国してからの君の活躍は知っている日夜胸躍らせながら拝見させてもらっていた。実は私は君の隠れファンというやつでね」

 

「・・・」

 

「私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。私の後ろにいるのは、従者のアークライト・ファムルソーデだ。よろしく、ウェイバー・ベルベット君」

 

おそらく死でも覚悟していたんではないだろうか。ライネスの立場からすれば彼もまたエルメロイの利権を奪った盗賊に過ぎない。名門の中の名門だったエルメロイ教室の名を貶め、新世代を中心に低俗な現代魔術を講義しているなど聞くものが聞けば、死んでも償いきれない大罪である。だが彼は最初こそ戸惑っていたものの、ライネスの名を聞いた瞬間稲妻に打たれたみたいに立ちすくみ、申し訳なさそうに頭を垂れた。確かに意外だったが一番面白かったのは、ライネスの表情だ。彼女のあっけにとられた顔など久しぶりに見た。彼には実に拍手をしてあげたい。

 

彼は覚悟を決めたような表情で言い放った。

 

「ロードエルメロイの件には僕にも責任がある」

 

ライネスが笑いをこらえるように唇をかみしめ

 

「へえ、どうして一体どんな責任かな」

 

と問いかけた。

 

彼は視線を落とし唇を噛んで肩を震わせていたが覚悟を決めたように視線を上げた。

 

「あなたの義兄であるロード・エルメロイ・・・僕の師でもあるケイネス・エルメロイ・アーチボルトを死に追いやったのは僕の愚かな暴走によるものだからだ」

 

「うんうん君が敵対しなければ我が義兄と婚約者ももう少し長生きできたかもね」

 

1年という短い付き合いだが、ライネスが嘘をついているのはよくわかった。都合が良いから相槌を打っているだけできっと彼女はちっとも賛同していない。

 

話を聞きかじっただけだが、俺から見ても、ケイネスエルメロイアーチボルトは、あの戦争で勝手に死んでいただろう。

 

彼は優秀な魔術師あっても戦闘のプロではないのだ。つまるところ参加してしまった段階で、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは詰んでいた。まあ言い方は悪いが死ぬべくして死んだのだ。魔術師ならしばしば起こり得る程度の悲劇だ。俺から見ても大した責任は彼にはない。しかし彼は呻くようにして口を開いた・

 

「僕の罪は認めるだから命だけは勘弁してほしい」

 

「おや、そこは気が済まないなら殺してくれとでも言うところじゃないのかい?確か君が儀式を行ってきた極東は腹切とか得意な土地柄なんだろう。ここで命乞いはちょっとばかり情けなくなくないかい?」

 

「やるべきことがあるからだ」

 

あまりにきっぱり言うものだから、流石の俺も少し驚いた。一体どのような教育を受ければこのように育つのだろう。資料を見た限り時計塔を出版する前の彼は、とにかく偏屈で自分の未熟さも顧みないろくでなしだったと書かれていた。しかし今の彼とはほとんど別人のようだ。自分と向き合うのは相応の覚悟と強さが必要だ。

 

ライネスは驚いた頭を切り替える為にこほんと咳払いをした。

 

「ではせっかくだし私からいくつか要求してみようか」

 

と肝心なところを口にしてみる。ライネスの私室に彼が唾を飲み込む音が響き、彼女がうっとりと微笑みながら言葉を続けた・・・

 

「今エルメロイ派の借金は大変なことになっていてね。私が次期当主に選ばれた段階でアーチゾルだけが負担することになったんだがこれが利息を払うのも難しい。責任を取るというのならまずはこの借金からどうにかしてほしい」

 

 

普通に考えればこの段階で不可能だ。個人の魔術師がどうにかするには失われた資産は大きすぎる。仮にも時計塔を支えてきた12の名家である。現代の額に換算すればそれこそハリウッドの映画ぐらいは作れるだろう。しかし俺らの予想を越えて、彼はお人好しだった。

 

「分かった可能な限り対処する」

 

そう言ってのけたのだ。お人好しという表現は彼に失礼かもしれない。これは覚悟を済ませていると言うべきだろう・・・

 

今にも泣き出しそうに唇をヘの字にしたままライネスを見つめる彼の顔は、実に同情したくなるがライネスからすれば、ついつい踏みつけてしまいたくなる顔なのだろう。

 

続いてライネスは、破壊されきった源流刻印をなんとか修復することを約束させた 。この段階でさすがに俺も、頭が湧いているんじゃないかと疑ってしまった。きっとライネスも同じことを考えていただろう。

 

「では一番大事なところに行こう・・・残ったエルメロイ派は何とかロードの地位だけは守り抜くと懸命でね。先ほど説明したように幅との意見が一致している候補は私なんだがなにぶん若すぎるだろうどうか私が適齢期になるまでエルメロイのロードの席を維持してもらえないかな?」

 

「それは構わないが具体的にどうすれば?」

 

「分かりやすく言うと私が成人するまで誰かにロードの仕事をしてもらうということだよ」

 

ここで初めて彼は目を見張った。他の要求は覚悟していたがここで初めて彼の想定を超えてしまったのだろう。

 

流石の俺もドン引きだった。

 

「お嬢様、いくら何でもそれはやりすぎでは?」

 

「黙っていたまえ、アーク」

 

思わず、口を挟んだが跳ね除けられた。

 

「待ってくれそれはつまり・・・」

 

「そういうことだよ。他のロードどもとのくだらない関係の維持は心底つまらないと思うが頼んだぞロードエルメロイ二世。それともこう呼ぼうが親愛なるお兄様、と」

 

ここまで無茶の要求をしておいて最後にこう締めくくった。

 

「そうだ四つ目の要求も加えておこう私の家庭教師になること。うん、血のつながらない兄に指導を受けるというのは倒錯していて実にいい」

 

あの悪魔は笑ってとどめを刺した。このなんとも出来的な瞬間を見ていた俺の感想が一つ。

 

ライネスの無茶ぶりが分散されて良かったということだけである。後は、ライネスにいじめられる彼を見て少し、親近感を抱いてしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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