ただただ、少年がドSお嬢様に振り回されるお話 作:雨が嫌い
「それで?私のコネクションを使いたいという話だが」
「ああ、今使っている目薬では抑えきれなくてな。腕のいい薬師を紹介してほしい」
俺がそういうと、先生は合点がいったように顔を上げた。
「・・・なるほど、確かに君の眼はいろいろな意味で特殊だ。ランクが『宝石』である時点で、実在を疑われるほどの代物だ。一歩間違えば、封印指定になりかねない」
「一応、『宝石』じゃなくて『黄金』ってことにしてるんだけどな。この眼には世話になっているが、厄介な代物でもある。最近じゃ、使用した後はしばらく動けないんだ」
「なるほど、確かにこのまま放置するのは危険だな。だが、生憎それほどの腕を持つものに心当たりがない。手は尽くしてみるが、期待しないでくれ」
「・・・ああそれで構わない。助かるよ」
お礼を言って、部屋から出ていこうと扉を開けると灰色のフードを被った少女がそこに佇んでいた。灰色のフードを目深にかぶって顔を隠しているだけでも特徴的だが、銀色の髪は、時計塔でも珍しい色だ。少女が、すぐに先生の内弟子であるグレイだと察した。
「久しぶりだな、グレイ」
「久しぶりです、アークライトさん」
小柄な体をますます縮めるようにして、恐る恐る挨拶を返すグレイについ苦笑してしまった。
「相変わらず他人行儀だな。アークでいいと言っているのに」
「す、すみません。拙は・・・」
「別にいいさ、無理する必要性はない。心からでなく表面上だけでも他人を受け入れることは、何よりも難しいことだからね」
「グレイ、帰ってきたのなら掃除を頼みたい」
「は、はい」
グレイはトテトテと、先生の方にかけていく。
「じゃあね、先生」
今度こそ、俺は部屋を出た。
ライネスが 久方ぶりにため息をついた。
「珍しいな」
「いやなに、なかなかに面倒ごとでね。アーク、今度の週末は空けておきたまえ」
「強制かよ・・・一応空いてるけどさ」
下僕に人権はないということか。
「じゃあ週末までにきちんとした洋服を用意することだ」
「どういう意味だ」
「社交界への招待状が来ていてね」
「同伴しろってことか?・・・まあいいけど」
「まー、君だけじゃ不安だからトリムも連れて行くが、それでもまだ不安要素が残るね 」
「一体どんな怪物がいる社交界なんだよ・・・」
魔術師の社交界は確かに一筋縄ではいかないものばかりだ。しかし、俺とトリムマウがいて、不安要素が残る社交界ってなんだよ。誰からの誘いなんだろうか?
「なに、トランベリオ派からのお誘いさ。普通なら遠慮するところだが家に融資してくれるノーリッチ卿を介しているとあってはさすがに無視できないだろう?」
「トランベリオ派からか。確かに無視できないな」
納得がいった。そして、察した。
「黄金姫、白銀姫のお披露目か?」
「正解だ」
「なるほどな・・・」
「というわけで、今から我が兄の所に行ってグレイを借りてこようと思ってね。ついでに兄で遊んでこようかと思ってるんだ。君も来るかい?」
「遠慮しておくよ」
最近深くなっている皺をもっと深くしている先生の顔が思い浮かんだ。哀れ・・・先生・・・せめて気を付けて、あなたの胃を破壊する
翌朝俺たちはロンドンから電車に乗っていた。無事、先生の説得はできたようで、グレイの了承取れた。
待ち合わせはホームでと話していたのだけれども、まだ電車に慣れていなかったらしく 改札あたりでマゴついているグレイを発見した。流石に切符はわかるが、最近採用されたばかりの非接触型 IC カードの改札機を見つけてしまってフリーズしていたらしい。
グレイの荷物はいつもと変わらなかった。まあこちらも、小さめのリュックサックと スーツケース一つを転がしているきりだ。トリムマウも街中で見せびらかせる代物ではないので、こちらに収納してある。というか、当たり前のようにライネスの荷物も持たされているこの状況に俺的には異議申し立てをしたい・・・。
「付き合わせてしまってすまないね」
ライネスが少し申し訳なさげにグレイに話しかけると
「い、いえ」
と遠慮深げにグレイは一礼した。四人がけのコンパートメント席で、奥の席にライネス その正面にグレイ、ライネスの隣に俺という順番で座った。ライネスもグレイも話したがってはいるが、壊滅的に一般のコミュニケーション能力がないので、視線を右へ左へ動かして話題の切り出し方に迷っている。
仕方がないので少し助け舟を出すことにする。
「まずは軽い食事と行かないか」
そう言って用意した木箱をスーツケースから取り出す。シュルシュルと赤いリボンを解き蓋を開くとかぐわしいカカオの香りが鼻腔をくすぐる 。
そこに並んでいたのは様々な花の形を模したチョコレートだ。表面には丁寧に砂糖漬けされた本物の花びらも飾り付けられていて、まず見た目から非常に楽しい。
手元のチョコレートをつまみぱくりと口に入れる。舌の上で溶けていく甘みとかすかな苦味。思わず、顔が綻ぶ。先ほどの花びらの甘みが重複的に重なってついつい2個3個と手が伸びてしまう。
ロンドンでライネスが贔屓にしているショコラティエの作品で、普段はチョコレートドリンクを堪能させてもらっているのだが、こうした詰め合わせも侮れないっというのがライネスの弁。
素晴らしきスイーツの味に浸っているとくすくすとグレイが笑い出した。
「ご、ごめんなさい。ただ、あまりにも二人が同じ反応をするので」
どうやら、チョコレートを食べているとき同じ反応をしているように見えたらしい。実際、同じ反応だったかは定かではないが・・・。
「「そうか?気のせいだと思うぞ」」
一応否定しようと声を出すと、ライネスとハモッた。
「・・・それにしても今月はビターにまとまってるな」
話題をそらすためか、ライネスが切り出した。
「食べ過ぎて太らないようにしろよ。ライネス」
少し、焦っていたからか、普段絶対に言わないであろうことを口に出した。失言だったのと気付いた時には時すでに遅し。足を思い切り踏まれ、強化した拳で殴り飛ばされていた。意識が飛ぶ直前で踏みとどまり、ここに止まっていたら殺されそうだなと思いそそくさとコンパートメントから抜け出した。
私に凄まじい暴言を吐いたあのバカ下僕のことはさておき、ひとまず目の前のグレイに視線を移す。
「ひとつどうだい?」
「あ、ありがとうございます」
礼を言われたので、適当に一つ渡す。あまりお菓子の習慣はないものか、バラの形で砂糖漬けの花びらの添えられたチョコレートを、しばらく手のひらに置いたまま戸惑っていたが、思い切って口へ放り込むと目を丸くしたまま数秒程硬直した。
「美味しいです」
「フフフ、気に入ったなら他のもどうぞ」
小動物みたいな反応に嗜虐心も満足して、スーツケースへもう一度手を入れる。
「じゃん!」
と今度はボトルを取り出す。
「お酒・・・ですか?」
不思議そうに、小首をかしげるグレイ。
「フフフ、ここのチョコレートセットはシャンパンがセットなのが売りでね。もっとも今回はアルコール分を蒸留させたノンアルコールワインなんだが、ちょっとばかりいかがかな?」
なお、我が英国では父か母の許可があれば自宅に限り5歳から飲酒OKである。なのでノンアルコールとか言っても今更感があふれているのだがこれも TPO だった。現にアークは 私の目を盗んで、結構いい値のするワインを飲んでいる。少し、腹が立ったので中身を水に変えておいたが・・・。それはさておき携帯用のグラスも二つ取り出し、グレイと自分の文を注いで、渡したチョコを一口。舌の上に濃厚な甘さが残っているうちにワインも一口。とろりと広がったまみが清涼なブドウの風味と渾然一体となって喉元まで広がっていくのを堪能する。
「ん~、やはり素晴らしい味だ」
「甘いものお好きなんですね」
「ああ、私は茶会が好きでね」
「アークさんも好きだというのを聞いたことがあります」
「確かに、アークは私以上にこういったものが好きだな。時たま、彼が買ってくるスイーツはどれも外れたことがない」
何気に、アークとの茶会は私の中でもかなり楽しみなイベントだ。
「仲がいいんですね」
「そう見えるかい?」
「はい・・・どちらも、お互いのことを大切にしている感じがします」
「・・・まあね。せっかくの玩具が壊れてはことだしね!」
「玩具って・・・」
「さて、グレイ。もう一つチョコはどうかな?」
こうしてなおやからティータイムは過ぎていった
けっと・しーさん、マトリカリアさん、ハミカルさん、荒井さん、よもぎもちさん、評価ありがとうございます。