ただただ、少年がドSお嬢様に振り回されるお話   作:雨が嫌い

6 / 7
ご無沙汰しています。いろいろ忙しく、こちらを書いている暇がなかったのですが、(まあ、今も忙しいのですが)再開します。


冠位の魔術師

ロンドンからウエストコースト本線に乗っておおよそ3時間半。

途中のオクセンホルム駅で乗り換えてしばらくすると ウィンダミアへ到着する。

イングランド有数のリゾート地として知られる土地だった。ピーターラビットの故郷といえば分かるものもいるだろうか。作者であるビアトリクスポターが愛し山と湖に囲まれた景色とその牧草地に住まうさぎたちを切り取った絵本は今でも世界中で読み継がれている。 駅から降りてすぐのところに1台の馬車が待っており私たちの姿を認めると、御者と思しき人物が帽子を取って一礼した。

 

「お待ちしておりました。ライネス・エルメロイ・アーチゾルデ様ですね 」

 

と御者は頭を下げる。

 

「バイロンより申し付かっておりますどうぞお乗り下さい」

 

「では遠慮なく」

 

キョロキョロとグレイがこちらを見つめていたが、鷹揚に私は頷いた。ここで遠慮しても何の意味もない。アークは少し慣れているようで、スーツケース片手にさっさと乗り込んで、後ろのグレイにも続くように促した。鞭の一当てで鳴き声とともに馬が歩き出した。平地はもちろんかなり険しい山道も馬車は優美に進んでいった。

動物に聞かせているのにほとんど上下動を感じないのは、何らかの魔術によるものだろう。

私がスーツケースにかけているような重量操作の魔術かはたまた車体にちょっとした浮遊魔術をかけているのかもしれない。

 

「どうやら見えてきたね」

 

と窓の方を私は顎でしゃくった。二つの塔が湖畔に佇んでいた。現代の基準で言えばさほど巨大な建物ではない。せいぜい、4階建てビル程度のものだろう。ただ陽に傾いてそそり立った形がどちらの頭も酷似していた。

 

「二つの塔を指して双貌塔と呼んでいるらしい。あるいはこの土地を管理している家の名を出して、双貌塔イゼルマとも」

 

「双貌塔イゼルマ・・・・・・ 」

 

鸚鵡返しにグレイが呟いた。

「東側の陽の塔西側の月の塔と申します」

 

聞いていたのかどうか御者の声が馬車の内部に響いた。陽の塔、月の搭。つまりは太陽と月ということだろう 。最も私個人としては獲物を待ち構えている蟻地獄のようなイメージの方が強かったのだが、工房は当然のこととして魔術師の領地はまずその家に最適化されている。

詰まるところは要塞のようなもので、一握りの砂ひと呼吸の空気すらもが自分たちの敵にいつもあるかもしれないのだ。ただならぬ緊張感に私の唇はついほころんでしまっていた。

 

今回は月の塔のすぐそばで馬車が停まった。

 

「こちらでございます。ではお楽しみくださいませ」

 

っと御者は首を垂れる。

 

私達が降りて少しするとその御者と馬車がとろりと溶けた。まるでおとぎ話みたいに後に残っているのは小さなおもちゃの兵隊と馬車が一つずつであった。

 

「流石は創造科の正当な分家、この手の最高はお手のものか・・・」

 

思わず私が唸りをあげると

 

「お褒めに預かって光栄です」

 

低いバリトンがかかった。

 

「いらっしゃいませエルメロイの姫」

 

身をかがめたのは口ひげを蓄えた40歳の親子であった。ブラウンの髪で朱色のスーツを纏い足が不自由なのか片手に杖をついている。

 

「バイロン・バリュエレータ・イゼルマと申します。遠路はるばるお越し頂き感謝いたします。」「イゼルマの当主であられたか、これは挨拶が遅れました」

 

出来る限り丁寧に一礼する。こちらも12の君主に名を連ねた当主とは言え今は我が兄にその席を譲っている。元々アーチゾルテが末端の末端なのを考えれば 家の格だけで言えば六分四分で向こうが上といったところだろう。微笑と共に頷きバイロン卿は片手で塔の入り口を指し示した。

 

「お入りください。すでに宴は始まっておりますゆえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四面楚歌だな」

 

「ああ、まったくだ」

 

「6割方はトランベリオで 1割がバルトメロイ、残りがメルトアステアっといったところだな」

 

「派閥の名前ですか?」

 

「ああ、民主主義の代表トランベリオに、貴族主義の代表バルトメロイ、どうでもいいから研究させろ的な考えを持っているメルトアステア」

 

グレイの質問になるべく簡単に俺は答えた。

 

ちなみに我らエルメロイが所属しているのもバルトメロイを筆頭とした貴族主義派閥である。敵対しているのはトランベリオを中心にバリューへデータを含む民主主義派閥 。

 

ざっくりと片付けると、時計塔を運営するのはより優れた貴族の血統に任せるべきか、血統はイマイチでももっと多くの才能ある若者から募るべきかということだ。

 

 

最も結局は魔術師のことだから、貴族だの民主主義だの言っても大きな違いがあるわけではない。魔術師であるというふるいにかけられたものの中からさらにふるいにかけるのを良しとするかどうかという話だけだ。

 

「なんとなくわかりましたエルメロイは貴族主義派なんですね?」

 

「一応ね。・・・だけどまあここ近年ややこしくなってきているのさ」

 

俺が答える前にライネスが口を挟んだ。エルメロイが貴族主義なのは先代のロードエルメロイが亡くなる前は指折りの大貴族だったことに起因しているのだ。だが、現在大変残念なことにそれほどの権威の財力も今のエルメロイには欠片も残ってはいない。

 

むしろ新世代を率いてエルメロイ教室を開いている現在、実質的には 民主主義に近かったりする。加えてエルメロイ派閥はともかく、先生自体の振る舞いは保身にも思っておらず、貴族主義社会であるバルトメロイからすれば、「お前うちの派閥で飯食ってるんじゃないの?何考えてんの?」な状況というわけだ。もちもちろんうっかりミスをするとマストダイな展開だ。先生なら、クソゲーだ―っと叫んで、コントローラーをぶん投げていることだろう。三大貴族でも最大とされるバルトメロイの権力は化け物じみており、まさに闇そのものだ。

 

面倒な貴族の解説は、ライネスに任せて周りを見回してみる。

 

「ほう、君は薄い血統で魔術の誇り高い歴史に何かが残せるなると妄想を抱いているのか!?」

 

「あなた方こそ、ここまで魔術が衰退した今も自分達だけで魔術を維持できると思っているのか?いつになったらそれが取り返せぬ夢だと自覚できるのか!?」

 

思った通り面白い展開になっている。老獪の魔術師ならばもう少し表沙汰にしない形でやるようのだろうが、若輩者はこらえていられないらしい。まあ酒が入っているのだから尚更だろう。

 

今日の社交界の集まり方の年齢層は結構若い方だ。

 

「今の時計塔が新世代なしに成り立つとでも?」

 

「あはははは、元々時計塔は貴族のために作られたものだ!!!そのおこぼれを与えられたからといって何事かを成したつもりだったのかね?」

 

争っている二人を中心にそれぞれの派閥がゆるりと緊張をみなぎらせた。エルメロイ教室のバカどもみたいに、すぐさま魔術戦になることはないが険悪な空気はすぐさま会場に伝播していく。

 

思わず口角が上がる。このまま、魔術戦が始まり互いに潰しあってくれたら、最高に愉悦な展開だ。自分の都合を、正義だとか高尚な思想だとかで武装させ、あたかも自分は正しいんだと・・・だから、他人を押しのけても自分は悪くないんだと、そんな考え丸出しのバカが、いがみ合うのはいつ見ても滑稽だ。

 

まあ、そんなことは絶対にないのだがこのまま、二人の会話がヒートアップしていくのなら、何かしら起こるのは想像に難くない・・・というか自明だろう。

 

 

だが、そうはならなかった。酔っぱらったふりをした男が、二人の間に乱入して、大の字に倒れて、騒ぎ出したのだ。これには、毒気を抜かれたのか互いにため息をつき、魔術師たちは離れていった。まるで、世界の汚物から離れていくような感じだ。

 

汚れ役を買ってでるとは、変わり者だな。

 

 

ライネスが面白がって、彼に近づいた。

 

話を聞いてみると、彼は伝承科のマイオと言うらしい。一瞬で、酔っぱらえる薬で酔っぱらい、いさかいを止めたらしい。

 

「その魔術礼装、ひょっとしてエルメロイの?」

 

「おや。ご存じなので?」

 

 

 

「は、はい!」

 

マイオは何度も頷いた。

 

「その名も高きロードエルメロイが完成させた月齢髄液!!!!流体操作の機能美がまさかこんなところで出会えるなんて!!!すみません少しだけ触らせてもらっても構わないですか!?」

 

「いやそれは構わないが・・・」

 

言うが早いかマイオは早くも水銀メイドの体に指をすべらせ、おもちゃコーナーを前にした子供みたいな声を上げ始めた。

 

「ああああああああ、すごい!!!衰退した人体構造の概念じゃなくて、あくまで流体操作と人格やの結果最もふさわしい形態を取らせているだなんてッ!器が中身にそうのは、違和感だけど魔術として正しい。魔力自体の最低限で維持できるように全体の循環を促す仕組みになっている。これあなたの仕事ですか?」

 

「兄のアドバイスは受けたが・・・」

 

若干、勢いに押されてタジタジな、ライネスが面白く、声を上げない程度に抑えて笑うと、思いっきり足を踏まれた。・・・理不尽だ。

 

「兄?じゃあなたは・・・」

 

言いかけたところで別の声が降り落ちた。

 

「マイオ」

 

優しい声だった。

 

「研究熱心なのはいいけれど、他の家の魔術礼装に触るときはもう少し気をつけた方がいいわ。殺されても文句言えない」

 

「すみませんミス・アオザキ」

 

「初めまして、蒼崎橙子と言います」

 

「あ、蒼崎 橙子・・・・・・」

 

ライネスが俺の横で、かすれた声を上げる。

 

女をくすんだ赤色の髪をしていた。それこそ東洋人にも珍しい色だったか染めたのではないだろうと思った。ライネスとは違うが、この女の本質によっているような色だ。

 

ちらりとライネスを横目で見てみると唖然とし固まっていた。それもそうだろう、この女こそ今回の社交界で、最も警戒しなければいけない人物である『冠位』の魔術師なのだか。

 

本来なら緊張しなければいけない場面だが ライネスの弱々しく掠れた声を聞いて、少しゾクゾクしてしまった。ライネスは普段は絶対にしないだろう、表情をしており、なかなかレアだ。

 

「初めまして、ミス・アオザキ。自分は、アークライト・ファムルソーデといいます。お会いできて光栄です」

 

ライネスに冷静な思考が戻ってくるまで、俺が時間を稼ぐことにした。

 

「ッ・・・ご丁寧にどうも・・・噂には聞いていましたが、珍しいものを持ってるのですね」

 

一瞬、驚きに目を見開いたようだがその後、柔らかく微笑んで 彼女はささやいた。

 

少し驚いたようだが、驚きたいのはこっちだ・・・一瞬で、見破られなんて・・・。

 

ビリビリと伝わる圧倒的な存在感。柔和な雰囲気は外側だけ、その内側にあるものは・・・あまり触れないほうがいいだろう。

 

これが、冠位の魔術師か。

 

それに様々な魔術を自分に重ねがけしているのだろうか・・・彼女の周りには事象の波が、幾重にも重なって渦巻いている。

 

あと、背後にも蝶の羽根のようにも、とりどりの花のようにも見える何かが視える。

経験則から言うなら、魔術ではなく、刻印そのもののようだ。

 

「様々なもので、自分を守っていらっしゃるのですね。いえ、そもそもここにいらっしるあなたは、本当の意味であなたなのでしょうか?」

 

「・・・もはや、それは魔眼とは、呼べないのでは?実に興味深いですわ・・・どうでしょう?エルメロイではなく、私に仕えてはみませんか?何か魔術的な制約があるのだとししても、私なら如何にかできますよ」

 

「なぁッ!?」

 

俺よりも早く、ライネスが驚愕をあらわにしていた。

 

「お言葉ですが、ミス・アオザキ。このような場で、話す話題ではないかと」

 

「・・・・・・・」

 

ライネスがすごい目でにらんでくる。それはもう、射殺さんばかりに。

 

どうやってこの空気を変えようかと、考えていると広間から歓声が聞こえてきた。

 

「黄金姫のご登場だ」

 

 

 

 

 

 

 




蒼崎橙子から勧誘を受けた。
ライネスからの呼び出しフラグが立った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。