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愛紗・星
「お帰りなさいませ、ご主人さ……え?」いつものようにお客を出迎えようとした愛紗と星は、奇妙な光景を見る。一刀が暴れる鈴々を小脇に抱え、その後ろに2人の男女がついてきている。
女の方は初めて会う顔だ。ショートカットで前髪の右側だけが目を覆うように伸ばされていて、どことなくクールな印象を受ける。
男の方は以前見覚えがある。先日、曹操の馬に並んで歩いていた一刀達の仲間の1人だ。
夏候淵
「私は夏候淵。ここに関羽という御仁がいると聞いたが……」
鈴々
「こいつら酷いのだ!馬超が斬りかかったら、怒って馬超を捕まえちゃったのだ!」状況が呑み込めない愛紗達に鈴々が意味の分からない説明をする。
星
「お主の話では、相手はあまり悪くないようだが?」
一刀
「あ~鈴々、俺が話をするから。夏候淵殿も良いですか?後、一も」許可を求めると夏候淵と一が了承したので、一刀は先ほど何が起きたか愛紗達に聞かせた。
愛紗
「そういう事でしたか。馬超は私の妹分の友……見過ごす訳には参りません。鈴々、私はとりあえず馬超の所へ行って話をしてくる」
一
「僕も協力しましょう。何か助ける手立てがあるかもしれません」
鈴々
「鈴々も行くのだ!」
一刀
「ダメだ、短気なお前が一緒ではまとまるモノもまとまらない。ここは愛紗と一に任せておけ」
鈴々
「でも……!」
愛紗
「鈴々、私達を信じろ。馬超は必ず連れて帰る。良いな?」
曹操軍の天幕へやって来た愛紗と一。夏候淵に馬超が囚われている場所へ案内してもらう。そこには人が1人、どうにか納まるぐらい小さな木製の牢屋があり、馬超はその中に押し込められていた。
馬超
「……関羽!」
愛紗
「馬超、話は聞いた」
馬超
「あたしとした事がとんだドジ踏んじまった。おまけに張飛が邪魔しやがるから……」
一
「……まあ当然ですね」
馬超
「?誰だお前……」
一
「一刀達の友人で曹操氏の客将をしている燈馬といいます。何やら深い事情がおありのようですね」
愛紗
「お主、ナゼ曹操殿を殺そうと?」
馬超
「曹操はあたしの……親父を殺したんだ!それも卑怯極まりないやり方で!」あまりの衝撃発言に返す言葉がなかった愛紗達。そのあと、再び夏候淵の案内で曹操の天幕へ向かう。
夏候淵
「華琳様、関羽殿をお連れしました。燈馬も一緒です」
曹操
「通しなさい」曹操は玉座に座り待ち構えていた。
曹操
「意外だったわ。こんな形で貴女に再会するなんてね」
愛紗
「単刀直入に窺いますが、馬超をどうなさるおつもりで?」
曹操
「勿論、斬るわ」
愛紗
「そんな!」
一
(そりゃそうですよね)
曹操
「理由はどうあれ、この曹操の命を狙ったのよ。それなりの報いは受けてもらうわ」
愛紗
「いや……だが」
曹操
「官軍の命を狙ったのよ。無罪放免という訳にはいかないでしょう?」
愛紗
「それはそうだが……しかし!」
一
(何かこの状況を打破する策はありませんかねえ?)
愛紗
「曹操殿。何とか馬超の命、救っていただく訳には参らぬか?」
曹操
「そこまで馬超を助けたいなら関羽、私と取引しない?」
愛紗
「取引?」
曹操
「そう……今夜一晩、私と閨を共にするの。そしたら馬超の命、助けてあげても良いわ」
愛紗
「な、何をバカな事を……!」曹操のトンデモ発言に顔を赤くする愛紗。
一
(そうだ、曹操氏はこういう人だった……)一は無表情ではあったが、心中では曹操に呆れ返っていた。
曹操
「始めて見た時から貴女のその艶やかな黒髪、手に入れたいと思っていたの。そして私は欲しいモノはどんな手を使ってでも手に入れる」
愛紗
「ひ、人の命が懸かっているのに!そんな戯けた事を……!」
曹
「そう。貴女の気持ち次第で人の命が救えるのよ」愛紗はしばらく黙って俯いたまま考えていたが、決心がついたのか頭を上げる。
愛紗
「本当に一晩閨を共にしたら、馬超を助けてくれるのだな?」
曹操
「ええ。約束するわ」
愛紗は服を全て脱いで、天蓋付きの寝台に横になっている。そこに曹操が現れ、自らも一糸纏わぬ姿になると寝台に潜り込んできた。
曹操
「アラ、そんなに怖がらなくて良いのよ……」羞恥に耐えるも顔を赤くする愛紗の体をまさぐろうと曹操が手を伸ばした。その時、天蓋を突き破って何者かが短剣を手に曹操へ襲いかかった。
その直後、今度は別の人影が細身の剣で刺客の短剣を弾く。得物を拾う間もなく、その場から立ち去る刺客。それを追う、姿も判別出来ないほど異常に素早い人影。あまりの展開に茫然とする愛紗と曹操。
さてこちらは一旦は愛紗達に馬超を任せたが、やはり心配でコッソリ様子を見にきた一刀と忍。曹操専用の天幕に黒い人影を目撃した。
一刀
「……何だあいつ?怪しいな」
忍
「あちし達も充分怪しいけど……どう見ても刺客よね」
一刀
「曹操を狙っているのか。出る杭は打たれるっていうしな」
忍
「捕まえましょ?恩を売っておいて損はないわよ」
一刀
「ああ。『加速』!」刺客は曹操の寝台まで忍び込んでいた。瞬間速度なら音速を越えるスピードを出せる一刀はすぐに追い付いた。曹操の寝台の上で一悶着起こすと、天幕を飛び出す2つの人影。それを確認した忍はチーターに変身して足に噛みつく。曹操に突きだそうと、痛みにのたうち回る刺客を2人がかりで縛り上げる。
曹操
「興が冷めたわ……今日はこれでお終いよ。馬超の命は延ばすから安心なさい」ため息を吐いて服を着替える曹操。そこに荀彧が飛び込んできた。
荀彧
「申し上げます!」
曹操
「……何の騒ぎ?」荀彧に問う。
荀彧
「はっ。例の魔獣から剥ぎ取った素材を保管している天幕に火が放たれました!」
曹操
「何ですって!?」実は昨晩始末したメタルリザード。あれの鱗や皮は一の手に掛かれば上等な武具や鎧の素材となるので、曹操が一に管理するように言い渡してあったのだが。
曹操
「消火活動を急ぎなさい!それと燈馬にここへ来るようにと伝えるのよ!」
結局小火騒ぎで済み、メタルリザードの素材以外は大した被害もなかったが曹操はこの件を一に追求する事にした。数分後、相変わらず飄々とした態度で、一が曹操の前に姿を見せた。
曹操
「何で呼ばれたかは、わかっているわね。燈馬」玉座に掛けて厳しい目で一に問いかける曹操。
荀彧
「華琳様。被害の大小に関わらず、放火は重罪です!いっそ首を撥ねてしまいましょう」邪魔者を始末できると言わんばかりに嫌みな笑みを浮かべる荀彧。
一
「ええ。その件についてお見せしたいモノがございます」そう言って一が取り出したのは、いわゆる防犯カメラである。
一
「モニターも燃えてしまったのですが、映すのは可能です。そこの兵士さん、壁に白い布を張ってもらえますか?」居合わせた兵士が一に言われた通り、スクリーン代わりの白いシーツを広げると、一はそこに防犯カメラが撮影した光景を映す。
天幕に荀彧が近づいてきた。辺りを見回して誰もいないのを確認すると、天幕の端に藁を被せ、そこに油を注ぐと火打ち石を使って火を付けた。一を失脚させようとして、逆に己を追い込むハメになった荀彧。
曹操
「桂花!?何て事を……!」
一
「さて、荀彧さん。先ほど放火は重罪、首を撥ねるべきと仰いましたね?」今度は一が意地の悪い笑顔を見せる番となった。
荀彧
「こ、こんなの紛い物です!この男がでっち上げたに決まってます!」
一
「仮にそうだとしても、火を付けるのに使用した油を貴女が購入した事は、出入りの商人に聞けばすぐバレますよ。いい加減諦めたらどうです?」それまでの軽い態度を一変させ、厳しい顔つきと声で死罪を要求してきた一。さっきとは一転、荀彧の表情が凍る。そこに夏候惇がやってきて告げる。
夏候惇
「華琳様。燈馬の友人と名乗る者達が先ほどの刺客を捕らえたのでお目通りしたいと望んでおりますが、如何致しましょう?」
曹操
「……ほう。良いわ、連れてきて頂戴」
夏候惇
「はっ!」夏候惇の案内で入ってきたのは一刀と忍だった。縛られて足から血を流した状態で曹操の前に引きずり出された刺客は白目をむき出しにしたまま、気を失っている。
曹操
「……確かに私を襲った刺客に間違いないわね。それで貴方達、何が望みなのかしら?」
一刀
「こいつと引き換えに馬超を返して貰いたい」
忍
「悪い話じゃないでしょ?」
曹操
「……そうね」本音を言えば曹操は困り果てた。曲がりなりにも可愛い配下の荀彧をどうにか助けてやりたいが、それでは一が納得しないだろう。下手をすれば自分の下を離れて他の誰かに仕えるか、自ら大陸制圧に乗り出しかねない。この男がそれに乗りだしたら、自らの地位も危うくなるだろう。それならば馬超が一の友人の連れであるのを建前に、荀彧を見逃す交換条件として、馬超を放免しても良いと切り出すつもりだったのだ。しかしその友人達から刺客を突き出された今、それも不可能となってしまった。
曹操
(参ったわね。これままだと本当に桂花の頸を撥ねるしかないじゃない……)
一
「あの~、曹操さん。損害賠償を請求しても構いませんか?」一の提案に待ってましたとばかりに耳を貸す曹操。
一刀達一行が冀州を旅立った後、荀彧はある田舎街にいた。街外れには良質な金属が採れる鉱脈がある。そこに数多く生息するメタルリザードに手榴弾を投げつけ、爆破しては死体から鱗や皮をひっぺがすのを繰り返していた。
荀彧
「何で軍師の私がこんな事……」こんな肉体労働はしたくないのだが、夏候惇が監視役としてしっかり見張っているので逃げる事も出来ない。
夏候惇
「何を愚痴っている?ダメにした分の素材を全部自分で手に入れる代わりに、華琳様はお前の死罪を帳消しにして下さったのだぞ。燈馬だってわざわざ奴らの生息場所を調べ直してくれたんだ、寧ろありがたく思え」それから一ヶ月の間、荀彧は砂埃にまみれながら作業を続けた。その後、曹操の領地へ戻ってからもしばらくはメタルリザードの血と硝石の匂いが体に染み付いたせいで、(比喩ではなく)文字通りの意味で鼻つまみ者になったらしい。
~話は本筋に戻る~
曹操は夏候惇に馬超を引き渡すように命じた。彼女に連れられて、再び馬超が囚われている場所へ向かう愛紗。一刀、忍も後に続いていく。
愛紗
「夏候惇殿、一つお尋ねしたいのだが」
夏候惇
「私に答えられる事なら何なりと」
愛紗
「はい。その……曹操殿が馬超の父上を殺したというのは本当なのでしょうか?」
一刀
「俺も俄には信じられないな」
忍
「そうね。馬超が言うような卑怯な人間とは思えないわ」
夏候惇
「関羽殿、北郷殿、藤崎殿。私は今から独り言を言います」
愛紗、一刀、忍
「?」夏候惇の言葉に引っかかるモノを感じた3人だが、黙って聞く事にした。
夏候惇
「あれは数年前、天下の可進大将軍に都へ招待された時の事……」
アニメとの違い
・曹操を襲った刺客を愛紗が追っ払う→一刀と忍に捕まる
・荀彧(桂花)が曹操の寝室にやってくるところから、1人でメタルリザードを退治する降りまではオリエピ
次回は馬超パパの死の真相が明らかに?