沙弥と一戒の訪問を受けていた女性の元に、宿屋の店員がやってきて来客を告げる。
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「私に客?」
宿屋店員
「はい。何でも昨日の礼をしたいとかで……」
一戒
「誰でっしゃろ?」
沙弥
「油断しちゃダメよ、
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「ええ。分かってます」店員が部屋を後にすると、入れ替わりに愛紗が入ってきた。
沙弥
「あれ、関羽じゃない?」
一戒
「こりゃまた意外なトコで会ったでまんねん」
愛紗
「ナゼお主らがここに?」愛紗は沙弥と一戒に昨日の出来事を話し、改めて女性にお礼を述べる。
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「そうでしたか。貴女が昨日の……」
愛紗
「関羽と申します。先日は連れの者が世話になりました」
黄忠
「そんな。礼を言われるような事は何も。根がお節介なモノですから、つい余計な事を……あ、申し遅れました
愛紗
「それには及びません」スッと立ち上がった愛紗は窓を開けて、明日の行列が渡る予定の通りを見下ろして呟く。
愛紗
「良い天気だ……大通りの方までよく見える」
黄忠
「!」
沙弥・一戒
「「!!」」愛紗の言葉に黄忠の顔から血の気が引き、沙弥と一戒は身構える。
愛紗
「とはいえ、ここからだと大通りを通る人の大きさはせいぜい豆粒ほど。それも動いているとあっては、生半可な弓の腕ではまず当たらない。警護の連中がその可能性を考えなかったとしても、責めは出来ますまい」
一戒
「関羽。お
愛紗
「いや。もし弓の神、曲張に匹敵する程の名手がいたら、不可能を可能にする事が出来るのではないかと……」言うなり黄忠は愛紗が壁に立て掛けていた偃月刀を、沙弥は先端が鎌になった槍、一戒は熊手を手に愛紗に襲いかかる。しかし黄忠の手元が狂い、偃月刀の刃が壁に引っ掛かる。それを予想していた愛紗はちょうど手元にあった弓矢を取り、黄忠に素早く突き付ける。
一戒
「おんどりゃ~!」
沙弥
「何してくれちゃってんのよ!」
愛紗
「動くな!」激昂する2人を牽制した愛紗は黄忠に言い放つ。
愛紗
「どうやら長物の扱いは弓ほど得意ではないようだな……みんな、もう入ってきて良いぞ」愛紗が入り口の戸に声をかけると、まず鈴々、理人、幸太、朱里、尚香の5人が部屋に入ってきた。少し遅れて、一刀と忍も履真を連れてやってきた。
黄忠
「あなたっ!」
沙弥・一戒
「「兄貴ぃ~!」」3人揃って履真に抱きつく。
愛紗
「履真殿だな。その二人から事情は聞いていると思うが……」
履真
「ああ。仕事中だったが、璃々について話したいと言われて抜け出してきた」
履真達の話を聞く事となり、履真、黄忠夫婦と愛紗、一刀、忍がテーブルにつく。残りの面々は壁にもたれたり、寝台に座っている。
履真
「数年前にここの警備隊長になった俺はこの妻の黄忠と娘の璃々の三人で静かに暮らしていたんだが、ある日仕事から帰ってくると璃々がいなくなっていて、代わりに一通の置き手紙が……」その手紙には『娘は預かっている。こちらの指示に従えば無傷で返す。そうでなければ命の保証はしない』と書かれていたそうだ。夫婦が待ち合わせの場所を訪れると、仮面をつけた男が下卑た表情でほくそ笑んでいた。
履真
「娘は無事なんだろうな?」
男
「全てはお前達次第だ」
黄忠
「私達に何をしろと……」
男
「ふっ……」
愛紗
「何と卑劣な!」
鈴々
「許せないのだ!」
理人
「……下郎がっ!」
一刀
「なるほど。それでやむを得ず黄忠さんは暗殺を請け負い、履真さんはそれを見過ごせと……」
黄忠
「あの日は私も用足しに行っていて、璃々一人に留守番をさせていたんです。どうしてあの時、一緒に連れてこうとしなかったのか……」涙ながらに話を続ける黄忠。
黄忠
「どんな理由であれ、人の命を影に隠れて狙うなど許される事ではありません」泣き崩れる黄忠の肩をそっと抱く履真。そのまま一刀達に向き直り、話を引き継ぐ。
履真
「それでも、璃々は俺達夫婦の何より大切な一人娘だ。あの娘を救い出すには他にどうしようもなくて……」履真は既に領主宛に詫び状をしたためたという。それには『今度の失態の責めは我が命を以て償いと致す。どうか妻子に咎が及びませぬよう、お頼み申す』と記したそうだ。
履真
「それで
黄忠
「けれど暗殺を請け負ったのは私です。あなたは口止めされているだけ。ならば私が頚を差し出すのが筋というモノです」
履真
「イヤ、警備隊長にありながら、妻に不祥事を起こさせるのは俺の失態だ。それに璃々には母親が必要だ」夫婦で責任の被り合いをしていると、パンパンと手を叩く音がする。忍だ。
忍
「ハイハイ、そういう話はまだ早いわよ。お子さんを救出するのが先決でしょ?幸太!」
幸太
「あ、はい。その子が監禁されている場所なら大方の見当はついてます。ただ人拐い共が魔獣を護衛につけているので、強行突破は厳しいっすね」実は昨日、幸太が聞いた呻き声こそ、璃々のモノだったのだ。
忍
「種類と数は?」
幸太
「
履真
「場所はどこなんだ!?教えてくれ!」
黄忠
「すぐにでも迎えに!」
幸太
「ぐ、ぐるじぃ~!耳がぁ~!」詰め寄る夫婦に襟を掴まれ、息が出来ない上にすぐ側で大声を出されて、鼓膜が限界の幸太。そんな夫婦を朱里が制する。
朱里
「待って下さい!場所はお教えしますけど、お二人は行かない方が良いと思います!」
黄忠
「どうして!?」
朱里
「顔を知られているお二人が監禁場所に近づいたりしたら娘さんの身に危険が及ぶかもしれません。娘さんの命を最優先に考えるなら黄忠さんは何も知らない振りをしてここにいて下さい!」
愛紗
「履真殿、黄忠殿。辛いだろうが、ここは孔明殿の言う通りにした方が良い」
理人
「ここからあの茶店まで時間は大してかからねえな……」
一刀
「……娘さんは俺達が必ず助け出します。この命に代えても!」一刀の発言に全員が頷く。
黄忠
「……皆さんっ!」
忍
「履真さんもお仕事に戻ってちょうだい。急に連れ出して悪かったわ」
履真
「……分かった。娘を……よろしく頼む」
一行は璃々が監禁されている場所と思われるあばら家の向かいにある、あの茶店へ向かう。実は愛紗達、黄忠を訪ねる前に妙なキナ臭さを感じた為、予め打ち合わせをしていたのだ。すると幸太が『昨日、茶店の向かいのあばら家から変な呻き声がした』と言ってきた。
一刀達が部屋を出ていくと、入れ違いに人拐い一味の下っ端がやってきた。今、部屋には黄忠1人しかいない。
黄忠
「何か用?」
下っ端1
「へへ、つれなくするなよ。親分から首尾を見届けるように言われてな」
黄忠
「そう。ご苦労な事ね(危なかったわ。もしあのまま飛び出していたら……)」同じ頃、もう1人の下っ端も警備兵に扮装し、仕事に戻った履真に近づいていた。
履真
「貴様っ!」下っ端は履真の怒りにも動じず、他の兵に気取られないよう、履真に耳打ちする。
下っ端2
「おっと、暴れたら娘がどうなるか。それより行く末をしっかり見させてもらうぜ」
履真
「随分と念入りな計画だな」
下っ端2
「土壇場で裏切られても困るからな」
戦闘準備を整える一行へ、沙弥と一戒が一緒に行きたいと申し出てきた。
沙弥
「兄貴には大恩があるのよ。それに報いたいの」
一戒
「それに兄貴の娘ぉやったら、ワイらの姪っ子や。助けん理由があらへん」
愛紗
「……うむ、良いだろう。みんなも異存はないな?」一刀、忍、理人、幸太、鈴々、朱里が頷く。
一刀
「じゃあ2人は愛紗、鈴々と人間の人拐いの方を頼む。魔獣はいつも通り、俺、忍、理人、幸太で始末する」
沙弥・一戒
「「アラホラサッサー!」」
忍
「ええ」
朱里
「はいっ!」
愛紗・理人・幸太・鈴々
「「応っ!(なのだっ!)」」
茶店にきた一行+2人は主人に事情をザックリ説明する。
茶店主人
「何だって?向かいのあばら家に拐われた子供が!?」
愛紗
「うむ。それでその娘を救い出す為に、お主の協力が必要なのだ」
茶店主人
「え、協力?」
そのあばら家の2階に人拐い一味の見張り役3人と4才くらいの小さな女の子がいた。この女の子が履真と黄忠の一人娘、璃々であった。璃々は恐怖と淋しさのあまり、部屋の隅で踞っている。
見張りA
「おい、異常はないか?」部屋に戻った見張りAが見張りBに尋ねる。
見張りB
尚香
「な~んにも。つーかなさすぎて退屈で退屈で……」見張りAの問いに答えた見張りBが茶店の見える窓の隙間を、再び覗き込む。すると……。
終わり方が中途半端になってしまった……
( ̄□ ̄;)次回はアニメの回を跨いでしまうかもです。
アニメとの違い
・璃々の監禁場所に気づいたのは、人拐いが生存の証拠として黄忠に差し出した璃々の絵に茶店主人の顔があった為→幸太の耳に璃々の呻き声が聞こえた為。
・その他オリキャラ関連。
オリキャラ⑩履真
本文中にもあるように『DB』孫悟空の生まれ変わり。黄忠の夫で璃々の父。作者が『タイムボカン』シリーズの悪人トリオを善人かつ、リーダーを男にしようと考えた設定。