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さて、今回は我らが一行の事はしばらく放っておいて、話は江東から始まる。
玉座の間へと慌てて駆け出す1人の女がいた。年齢の頃は15,6才の美少女で名を孫権、真名を
彼女が慌てている理由。それは先日戦にでた江東の王、姉の孫策が怪我をして帰ってきたと報せを受けたからだ。
孫権
「姉様!」玉座の間の扉を開けると、そこには孫策が何食わぬ顔で鎮座している。その脇には呉の筆頭軍師にして孫策の親友、周瑜。反対側には先代王の弟で孫策達の叔父
姉が無事なのを確認した孫権は自分の慌てぶりが恥ずかしくなりながらも、帰還した姉に一礼する。
孫権
「ご無事の帰還、何よりにございます」
孫策
「蓮華、今更そう畏まる事はないわ」
孫権
「申しわけありません。姉様が戦場で怪我をされたと聞いて、慌ててしまって……」
孫策
「怪我といっても掠り傷よ」軽く包帯を巻いた手首を孫権に見せる。
孫権
「それなら良いのですが……」
孫策
「どうした蓮華、何か言いたそうだな?」
孫権
「っ……姉様。姉様はどうしてそうまでして、闘いを好まれるのですか!?」ここに叔母の孫静が口を挟んできた。
孫静
「孫権、何を言い出すのです?孫策は此度も孫家の名を高めようとして……!」
孫羌
「まあ落ち着け孫静。お主が興奮してどうする?」兄の孫羌に諌められると、孫静も大人しく引き下がる。話を続ける孫権。
孫権
「確かに闘いを重ねる事で領地は増え、孫家の名も近隣に響くまでなりました。ですがその為に国の礎たる民達は疲弊し、このままでは遠からず……」
孫策
「滅びるか?」見透かしていたかのような孫策に口ごもる孫権。
孫権
「いえ。決してそのような……」玉座の間は厳粛な雰囲気に包まれる。そこへ場違いな、ノホホンとした声と共に、周瑜の部下にして一番弟子の陸遜がやってきた。
陸遜
「皆さーん、お待たせしました!宴会の準備ができたんですけど……?」
ほどなくして宴会が始まった。酒と料理と余興で場が盛り上がる中、周瑜は1人喧騒を離れるとベランダに出て月を眺めていた。そこに孫策が来て、隣に立つ。
孫策
「なんだ。こんなところにいたのね」
周瑜
「孫策様……」
孫策
「冥琳、二人きりの時は真名で呼び合う約束でしょ?」
周瑜
「そうでしたね。
孫策
「で?何を浮かない顔をしていたの。孫呉を支える大軍師、周瑜ともあろう者が何に頭を悩ませていたのかしら?」
周瑜
「孫権様の事を少し、考えてまして……」
孫策
「蓮華の事?」
周瑜
「孫権様は余りに目の前の事しか見ておられない。確かにここ数年、戦続きで民達は疲弊しています。だからといってここで立ち止まっていれば、江東に覇を唱える事は出来てもそれで終わってしまう……到底、天下へ手は届かない。どれだけ苦しくても今は明日の為に闘わなければならない。それを孫権様は……」
孫策
「確かにそうね。けど、それがあの娘の良いところでもあるわ」
周瑜
「っ?」月を眺めながら孫策は意外な言葉を口にした。ハッとして月から孫策に視線を移す周瑜だが、構わず話を続ける孫策。
孫策
「江東の虎と言われた亡き母様、先代の孫堅の遺志を継いで、私が血塗れになって奪い取ったモノをあの娘なら受け継いで、守り育ててくれる。そんな気がするの……」ここまで聞いた周瑜は孫策に向き直ると、眉を潜め声を荒げる。だがその目は悲しさを携えていた。
周瑜
「何を不吉なっ!?」対してそんな周瑜をキョトンと見つめる孫策。
孫策
「え?不吉?」
周瑜
「そうです!それではまるで、雪蓮様が志し半ばで倒れてしまうようではないですか!」
孫策
「フフッ、大丈夫よ冥琳。いくら何でも考え過ぎよ」
周瑜
「ですが雪蓮様……」
孫策
「全く……頭が良すぎるのも考えものね」
周瑜
「雪蓮様……」若干照れる周瑜。孫策は真顔になると月に手を伸ばし、拳をギュッと握って周瑜に宣言する。
孫策
「心配しなくても良いわ。私は必ず天下をこの手に掴んでみせる、蓮華に渡すのはその後よ。冥琳、志しを遂げるその時まで私と歩んでくれるわよね?」
周瑜
「……はい!」
翌日の晩、呉の重臣達が孫羌を囲むように会議室に集まっていた。
重臣A
「えーい、戦、戦、戦!これで今年何度目だ!?」
重臣B
「全くだ!これでは民が田を耕す暇もないぞ!」
重臣C
「孫羌様!貴方は先代王、孫堅様
孫羌
「何度も言っておる。しかし孫策も今では周瑜の事ばかり重く用いており、儂の諫言など耳にも入らぬ様子でな……」
重臣A
「周瑜か……!あの嘴の黄色い女鷹め!」
重臣B
「我ら譜代の重臣を差し置いて
重臣C
「孫羌様、かくなるうえは一刻も早くあの計画を……」
孫羌
「うむ。既に手筈は整っておる」
重臣A
「おお、それでは遂に!」
重臣B
「戦狂いの孫策を倒し、孫羌様。貴方が舵取りをなされば、必ずや我らが再び表舞台に立つ時がくる!」
重臣C
「事が成った後の周瑜の泣きっ面が見ものですな」早くも虎の首を取ったとばかりに笑い声を上げる重臣達の中心で、孫羌も静かに口角を緩めた。
我らが一行は小高い丘の上から長江を見下ろしていた。ここまでくれば、尚香の故郷である江東は目と鼻の先である。
鈴々
「うわーっ、これが長江か。でっかいのだぁ!」
尚香
「どう驚いた?スゴいでしょ」
鈴々
「別にお前が威張る事じゃないのだ」自慢気な尚香にジト目を向ける鈴々。
一刀
「まあ地元民が外部の人間に自慢したくなるって気持ちは分かるよ」
理人
「確かに絶景だな……」
忍
「……こういうのを目の当たりにするとため息が出ちゃうわね」
幸太
「景色なんて見ても腹は膨れない……」男4人がそれぞれの思いを口にする傍らで尚香は背筋を伸ばし、体を解す。
尚香
「うーん、この景色を見ると帰ってきたなーって気になるわね」
愛紗
「帰ってきたなー、はいいが、大丈夫なのか尚香?」
尚香
「何が?」
愛紗
「お主、家出してきたのであろう?旅に飽きて戻る気になったのは結構だが、家族から大目玉を食らうんじゃないか?」
尚香
「何言ってるの。このシャオ様はね、孫家で一番愛されている姫なのよー。帰ってきたのを泣いて喜ばれる事はあっても、怒られる事なんて絶対にないわ」
幸太
「イヤ、愛されているなら、寧ろ怒られんじゃね?」父の隼人は日頃虐待にも等しい訓練を強いていながら、人間らしい感情は息子に一切見せなかった。それを知っている一刀達も、普段のバカトークも交わさず、茶化たりもしない。
一刀
「……確かにな」
忍
「真の愛情ってそういうモノよね」
尚香
「何よ。知った風な言い方して」突っかかる尚香。だが幸太は知った
孫静
「全く!貴女は何を考えているのですか!孫家の姫ともあろう者が供も連れずにいなくなるとは!皆がどれだけ心配したと……」玉座の間にて、尚香は叔母の孫静から大目玉を食らっていた。
尚香
「あの、孫静叔母様……それについてはシャオにも言い分が……」
孫静
「そんなモノはありません!大体貴女は、いつもいつも勝手な行動ばかり……」尚香の言葉にも耳を貸さず、捲し立てる孫静。我らが一行は端に集まり、ヒソヒソ話を始めた。
鈴々
「みんなお臍出しているのだ」
一刀
「みんなじゃない。けど臍出し率は高い」
愛紗
「うむ。おそらくはこの家の家風か何かなんだろう」
朱里
「別に尚香さんが、残念な娘って訳じゃなかったんですね」尚香を迎えた玉座の孫策、その左隣には周瑜、右隣には孫権。左端には孫静が、右端には孫羌と先代から孫家に仕える黄蓋がいる。その内孫権と孫静、周瑜は腹部に切れ目の入った臍丸だしの装いだった。
孫羌
「まあまあ孫静よ。そのぐらいにしてやりなさい」
孫静
「ですが兄上……!」
孫策
「それ以上叱りつけると、また家出しかねませんぞ」孫羌と孫策に説得されて、孫静もようやく矛を納める。孫策は愛紗と一刀の方を向くと礼の言葉を述べる。
孫策
「関羽と北郷とやら。妹が随分迷惑をかけたようね」
鈴々
「大迷惑なのだ!」
愛紗
「こ、こら鈴々!」
孫策
「でしょうね。同情するわ」
尚香
「雪蓮姉様、ひっどーい!」無遠慮な鈴々と、嗜める愛紗に孫策は苦笑いで返す。尚香はそれに抗議して、玉座の間に一頻り笑いが起こる。そんな中、黄蓋が何やら感慨深げに幸太を見つめていた。その理由は後ほど明らかになる。
孫策
「それと……藤崎と言ったわね、尚香が使わせた分のお金は勿論弁償するわ」
忍
「ええ。そうして頂ければ幸いよ」
孫策
「関羽、張飛、孔明、北郷、藤崎、伍代、野原。江東の孫家はあなた達を歓迎するわ。ゆっくりしていってちょうだい」という訳で、しばらく孫策の城に逗留する事になった我らが一行。さてこの間に何が起こるか?それは次回の講釈で。
史実での兄弟順は孫羌→孫堅→孫静ですが本作では孫堅を長子にしています。
オリキャラ⑫
・孫羌
江東の先代王、孫堅の弟(史実では兄)で孫策の摂政的な存在。三兄弟でただ1人の男性。
アニメとの違い
・重臣達の会議の中心になるのは最古株の張昭→孫羌
・宴会のシーンはカット
・孫策の玉座を囲むのは周瑜、孫静、孫権の3名→孫羌と、アニメでは3期から登場する黄蓋も一緒。
次回は何か事件が起こる?