新説・恋姫†無双~一刀と愉快な?仲間達~   作:越後屋大輔

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多機能フォームで「脚注」を付けられるのを知りました。「ボンクレーが~」の本編でも使えば良かった……


第三十五席一刀、初めてのジェラシーのこと

 この日は諸事情により、洞窟で夜を過ごしていた一行。愛紗はまたも死んだ兄の夢に(うな)されていた。

愛紗あ

「……っ!夢……か。鈴々、お前のせいでまた変な夢を……アレ?」前にも鈴々が寝ぼけて覆い被さってきた時に、似たような夢を見た愛紗は文句を言おうとしたが、

「鈴々ちゃんならそこよ」愛紗より早く目を覚ましていた忍が指す方を見ると、鈴々と朱里に寄り添って静かに眠っていた。

愛紗

「顔、洗ってくるか」

「あちしも行くわ」愛紗は小さくあくびをして、忍が目を擦りながら洞窟を出ると……

 

 

 ガキーン‼

 ザシュッ‼

義勇軍兵士

「ウォォォーッ‼」

「デェェリャー‼」目の前で激戦が繰り広げられていた。その中に百姓らしき、恐らく義勇軍の1人であろう若者が山賊と思われる男に追い詰められていた。

愛紗

「止めろ!」堪らず声を上げる愛紗。振り向いた賊は愛紗へ向き直る。

「何……?女!手前ぇも義勇軍とかの仲間か!?」

愛紗

「あ、いや……」

「覚悟しやがれ‼」賊は愛紗に剣を降り下ろす。咄嗟に白羽取りで剣を受ける愛紗。しばらく押し合いが続いたが

「愛紗ちゃん下がって!」忍は愛紗を制すると、犀に化けて賊を払い除ける。

朱里

「関羽さんどうかしたんですか?騒がしいようですけど……」眠そうな顔で朱里が洞窟から出てきた。

「孔明ちゃん、戻りなさい!」

愛紗

「鈴々と一刀、理人を起こしてくれ!それから私の青龍偃月刀を!」 

朱里

「は、はい!」目の前の光景に一瞬で眠気が吹っ飛んだ朱里は洞窟へ戻る。

 

 その後状況に応じて、様々な猛獣に化けた忍が無双する中、得物なしの闘いには不慣れな愛紗は賊相手に素手で何とか立ち回っていたが、段々と追い詰められていた。賊が再び愛紗へ斬りかかるも、今度は避けきれそうにない。

鈴々

「ンヌゥッ‼」そこに鈴々が助勢に入る。一刀も日本刀を構えて瞬時に賊を切り捨てる。朱里も駆け出してきたが勢い余って転び、青龍偃月刀を放り出してしまう。飛んできた得物を手にした愛紗。

「あとは任せたわ。孔明ちゃんはこっちよ!」馬に化けていた忍は朱里を背に乗せて、安全な場所へ避難させる。

愛紗

「何だかよく分からんが、こうなったら一暴れするぞ!」

一刀

「ああ!」

理人

「オウ!」

鈴々

「分かったのだ!」それからはとにかく、無双する4人。愛紗、鈴々、一刀は襲いかかってくる賊達をバッタバッタと斬り倒し、理人は炎で応戦する。

賊1

「な、何なんだこいつら……?」

賊2

「こんなのとやり合ったんじゃ、命が幾つあっても足りないぜ」賊達は尻尾を巻いて逃げ出していった。

 1人の馬に乗った男がこの様子を見ていた。どうやらこの男が大将らしい。

??

「おい、何をしている?」馬上から兵士達に指示する。

??

「敵は崩れたぞ!押し返せぇー!」男の激に答えるように賊へ立ち向かっていく義勇軍の兵士達。

 

 闘いに勝った義勇軍。兵士達が互いに治療し合っている中、先ほどの大将が馬を降りて愛紗達に近寄ってきた。

??

「いやぁ。どこのどなたが存じませぬが、ご加勢いただいてかたじけない。私はこの義勇軍を率いる劉備、字を玄徳と申します。以後、お見知りおきを」

一刀

(これで『三國志』桃園の3義兄弟が揃った訳か)

理人

(しかし関羽と張飛が女の子なのに、劉備だけ男ってのは解せねえな……)一刀と忍は劉備にそんな印象を持った。

 その劉備は死んだ愛紗の兄によく似ていた。丁寧に挨拶をする劉備に兄の面影を重ねる愛紗。

愛紗

「私は関羽。字を雲長と申します。これなるは妹分の張飛、そしてこちらは……」

朱里

「孔明と申します」

一刀

「北郷です。こいつは藤崎と伍代」

劉備

「関羽殿に張飛殿、孔明殿と北郷殿、藤崎殿、伍代殿か……あっ!」一方で劉備は愛紗の頭から足下までを眺めると何かに気づいた。

劉備

「先ほどのお手並み、そしてその髪。はもしや、貴女はあの、黒髪の山賊狩りでは……?」

愛紗

「あ、いや。まあ一応……絶世の美女ではありませんが……」またしても勝手に失望されるのかと、愛紗はイジける。しかし劉備からは意外な言葉が返ってきた。

劉備

「おお!やはりそうでしたか!うーん、噂に違わず美しさ……」

愛紗

「え?あ、あの今何と!?」予想だにしなかった言葉に劉備へ詰め寄る愛紗。

劉備

「?噂に違わずお美しい、と申したのですが……」爽やかな笑顔を向ける劉備。

愛紗

「ええ?それはどうも♪その……❤」褒められ慣れてない為か、照れまくる愛紗。一刀はモヤモヤした気持ちを抱えながら、その様子に苛立っていた。そんな一刀に忍はそっと耳打ちする。

(どうもあの男、胡散臭いのよね。あちしはしばらく別行動とらせてもらうわ。愛紗ちゃん達は適当に誤魔化しといて)一刀達に伝言を残し、百舌鳥に化けてその場を後にした。

 

 一行は劉備に連れられて、義勇軍が拠点とする桃花村(とうかそん)へ入る。その途中、1人の百姓が仕事の手を休めて劉備に声をかけた。

百姓

「どうしたね?義勇軍の大将さん、まるで勝って帰ってきたみたいな様子じゃが」からかい半分な口調の百姓に、劉備は若干顔を赤らめて言う。

劉備

「勝って帰ってきたんだ!」

百姓

「そうかそうか、勝って帰ってきたんか……えっ!?」

 

 一行は村の庄屋の屋敷に着いた。

庄屋

「いやはや~、劉備殿が勝って戻られるとは、長生きはするモノですなぁ」

劉備

「オホン、庄屋殿……」

愛紗

「あのー……劉備殿の義勇軍、それほど負け続きだったのですか?」愛紗が庄屋に尋ねると

「えーえー、それはもう。ハァ~……劉備殿が僅かな手勢を連れてこの村、桃花村に来られたのは三月ばかり前の事。最初はあまりに胡乱な身なりをしていたので、食い詰めた賊か何かと思いましたが話を聞いてみると中山靖王の末裔という、高貴な血を引くお方とか……」

 

 ~回想シーン~

 

庄屋

「ほぉ、義勇軍ですとな?」

劉備

「はい!今この辺りでは凶悪な賊共が跋扈し( ばっこ )ております。そうした不逞の輩を成敗し、民の安寧を図ろうと我ら旗揚げした次第。こちらの庄屋殿は義に厚く、徳の高い方をお聞きしました。我ら志しはあっても武器はおろか、その日の糧食にも事欠く始末。ここは一つ、天下万民の為、お力添えいただきたいと思いまして……」

 

 ~回想シーン終わり~

 

庄屋

「と、まあそういう訳で我が家の倉を開いて武器兵糧を整え、いざ出陣!となったのですが……」庄屋は劉備にジト目を向けながら話を続ける。

庄屋

「七(たび)出陣して、七度負けるという有り様で。流石に今度負けてきたら、村を出ていってもらおうかと思っていたのですが……」

劉備

「ま、まあ良いではないか、これまでの事は。とにかく、今回は勝ったのだから」焦りながら庄屋の話を打ち切ると、愛紗を真剣な眼差しを向ける。

劉備

「関羽殿。実に( まこと )恥ずかしい限りだが暴虐非道な賊を討ち、この地に平和を取り戻す為、私に力を貸してもらえないだろうか?」劉備の頼みに顔を見合わせる愛紗達。

 

愛紗

「劉備殿、か。あの人、どこか兄者に似ていたな……」風呂に浸かりながら、愛紗は心に熱い想いが沸き上がっていた。

 

 翌日、再び義勇軍と賊の戦の前に愛紗、一刀、理人、鈴々、朱里はテーブルに地図を広げ、劉備を交えて作戦会議を始める。

朱里

「良いですか?先ずは北郷さんが率いる、少人数の部隊を出して砦の賊達を挑発します。挑発に乗った賊達が砦を出てきたら少しだけ闘って、囮の部隊はすぐに後退させて下さい。そして、賊達をこちらの谷へ誘い込みます」朱里が地図に示された谷を指す。

朱里

「敵が谷の中ほどまで来たら、谷の両側に隠れていた関羽さんと鈴々ちゃんの部隊で一斉に攻撃します」朱里の指示に頷く2人。

朱里

「そしてその間に、翻った北郷さんは、劉備さんと別の一隊を率いて……」

 

 いよいよ作戦を決行する事となった。朱里の指示通りに陽動作戦に出た一刀。

賊大将

「者共、腰抜けの義勇軍を蹴散らしてやれ!」

賊達

「ウォォォーッ」案の定、賊達はアッサリ罠に嵌まって砦の門が開いた。馬を走らせて谷の麓までやって来ると、銅鑼の音が響く。

賊大将

「ん、何だ……?ゲッ!罠か!」気づいても時は既に遅し、いつの間にか愛紗と鈴々の部隊に挟み撃ちにされていた。

愛紗

「乱世に乗じて善良な民草を苦しめる賊共め!その命運、ここで尽きたと知れい!」賊の方へ青龍偃月刀を突きつける愛紗。

鈴々

「ケチョンケチョンにしてやるのだぁ!」愛紗は馬に、鈴々はナゼか豚に跨がって谷を降りていく。賊達は討たれ、大将は敗走して砦へ戻っていく。

賊大将

「クソッ!義勇軍の奴らめ。小賢しい真似を……一旦、砦に帰って出直すか」だが、馬の足では一刀の足と理人の火力に敵うハズもなく……

賊大将

「オイ!門を開けろ!」子分に呼びかけると、門前は業火に包まれた。これでは近づく事すらできない。

 しかも砦の頂上に居たのは劉備と一刀だった。砦には『劉』の一字が書かれた旗と、十文字*1の旗が幾つも上がっている。

劉備

「一足遅かったな!この砦は、我ら義勇軍が頂いたぞ!」

一刀

「最早賊もお前1人だ!神妙にしろ!」

賊大将

「うっ……!」力なく得物を地面に落とす賊大将。

 

 その後も新たな賊達が次々に立ちはだかるものの、劉備と我らが一行は敵知らず。義勇軍の名声は村のみならず、近隣まで届くようになった。

 

 一方忍は劉備について、自らの見解を説明する為、(勿論、曹操と孫策には内緒である)許昌や江東を巡って一や幸太に会いに行った後、再び百舌鳥の姿となり、一行が拠点とする桃花村を目指して飛んでいた。目的地のすぐ近くで、体を休めようと山中で人間に戻ると大量の薬草が入った籠を背負った朱里に再会した。

「孔明ちゃん?どうしたのこんな時間に」

朱里

「忍さんこそ。今までどちらに行っていたんですか?」一刀も詳しくは話さなかったのだろう。その表情から身を案じていたのが伝わってくる。

「ちょっとしたヤボ用よ。ていうか、それ全部薬草?随分摘んだわね」

朱里

「このところ戦続きで怪我人が増えてますから、少しでも多く手持ちの薬草を増やしておきた……あっ♪」話の途中で何かを見つけて駆け寄る朱里。忍もその視線の先に目を向けると、一輪の花が咲いていた。カラフルだが全体的に暗く、綺麗とはいえない色合いをしている。

「どうしたの?」

朱里

「見て下さい!これは三日草といって、熱を下げるのにスゴく効果のある薬草なんですぅ」

「へぇ、珍しい形の花ね」三日草は色だけでなく、形状もまた奇妙だった。

朱里

「動物の死骸に寄生して、一日で芽を出し、二日で葉を茂らせ、三日で花を咲かせる事から三日草というんですけど……四日目になるとすぐ枯れてしまう為、滅多に見つからない貴重なモノなんです」解説しながら摘み取ろうとした朱里。だがその三日草が寄生していたのは……人間だった。

 

 三日草が頭に根付いていたその人間はまるで骸骨のようだった。今にも死にそうな呻き声を上げて、朱里を虚な目で見つめた。恐怖のあまり、咄嗟に三日草をその人間ごと引っこ抜いてしまう。普段は非力な朱里なのだが……正に、火事場のバカ力で( ぢから )ある。引っこ抜かれた勢いで舞い上がり、落下した人間はなんと馬超だった。

 

 

 

 

 

*1
実在の北郷氏(津島氏の分家)の家紋




アニメとの違い
義勇軍の快進撃と朱里の薬草摘みの間に別のシーンあり→この辺り前後しますが、次回書きます。
薬草を摘みに出た朱里を愛紗と鈴々が護衛する→1人で薬草摘みにきて忍に再会する。

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