崖の上にある山小屋には、自分の身長より長さのある蛇矛を手にした鈴々がいた。
関羽
「お前が鈴々か?!」関羽から口火を切ると、
鈴々
「鈴々は『真名』なのだ!真名は親しい同士で呼び合う名前だから、お前に呼ばれる筋合いはないのだ!」
関羽
「そうか。では改めて名を聞こう」
鈴々
「鈴々は
一刀
(まさかとは思っていたけど、こいつが張飛かよ!どうなってんだこの世界?)混乱する一刀を無視して、飛び下りてきた張飛こと鈴々。一刀は深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから告げる。
一刀
「君の手下には村に帰ってもらったよ」
鈴々
「!?鈴々の友達に何をしたのだ?」
関羽
「なぁに。ちょっとしたお仕置きを、な」
鈴々
「お~の~れ~!仲間の仇、十倍返しなのだ!」
一刀
「あっ、聞く耳持たねえな。こりゃ」
関羽
「一刀殿……」
一刀
「うん?」
関羽
「ここは私に任せてもらおう」
一刀
「分かった。任せるよ」関羽と張飛。2人が互いの得物で打ち合いを始めた。
関羽
「うっ、重い!力押しでは不利か……」
鈴々
「うりゃあ!」
関羽
「ふんぬっ!」
鈴々
「にゃー!」
一刀
(スゲェな。流石関羽と張飛……)一刀はひたすら感心していた。
勝負は日が暮れても決着が付かず、夜になっても打ち合いは終わらなかった。
関羽
「中々しぶといな!」
鈴々
「そっちこそなのだ!でも鈴々の本気はここからなのだぁ!」ガキィーン!これまでで、最大音量の金属音が山に響いた。張飛が振り下ろされた蛇矛を、関羽が偃月刀で受け止めた。
関羽
「惜しいな」
鈴々
「はぁ?何がなのだ!」
関羽
「これほどの力を持ちながら、やっている事といえば山賊ごっことはな……」
鈴々
「余計なお世話なのだ!」
関羽
「……張飛よ。お主、幼い頃両親を賊に殺されたそうだな」
鈴々
「それがどうしたのだ!」
関羽
「私も……幼い頃、賊に家族を殺された。父も母も……そして兄者も。以来私は誓った。もうこんな思いはしたくない、二度と悲しみを繰り返したりしないと。こんな事の起きない世を目指そうと」
一刀
(……そうだったのか)
鈴々
「それが鈴々と何の関係があるのだっ!」未だ互いに得物を打ち合いながら会話を続ける。
関羽
「お主は変えたいと思わないか?賊に殺され、戦に巻き込まれ、罪なき人々が傷ついていくこんな世の中を!」
鈴々
「うっ!うぅ……」
一刀
「関羽。もういいだろう」一刀は関羽を制すると鈴々の頭にポン、と手を置く。
一刀
「辛かったね、淋しかったね。それでも1人でずっと耐えてきたんだろ?もう我慢しなくて良い。泣きたい時は泣けば良い」
鈴々
「そうなのだ……鈴々は、ずっと淋しくて、それで……でもどうして良いか分からなくて……う、う、うわぁぁーん!」堰を切ったように涙が溢れだし、その場で大泣きする張飛。
関羽
「何だか妙な事になったな」
一刀
「まぁ良いんじゃない?一晩ぐらい」
関羽
「それもそうだな」あれから一刀と関羽は張飛に薦められて、今夜は山小屋に泊まる事になった。
~回想シーン~
関羽
「好きにしろって……それはどういう……?」
張飛
「さっき途中で泣いちゃったから勝負は鈴々の負けなのだ。勝った方は負けた方を好きにして良いのだ」
関羽
「イヤ。私達は別にお前をどうこうするつもりはない」
一刀
「張飛が庄屋さんや村の人達に謝ってくれれば、それで良い。明日は俺達もついていってやるから、さ」
関羽
「では、明朝村の入り口で待ち合わせとしよう。私達はこれで帰るぞ」鈴々は踵を返す2人を引き留める。
鈴々
「待つのだ!」
関羽
「どうした?」
鈴々
「よ、夜道は危ないのだ。だから今夜は泊まっていくと良いのだ」
関羽
「私は旅暮らしが長いからこれぐらい慣れている。どうって事は……」
一刀
「じゃあ、お言葉に甘えよっか」
関羽
「一刀殿?しかし……」だが張飛の悲しそうな目を見た関羽は、後ろ髪を引かれる思いにかられた。
関羽
「そうだな。一晩厄介になろう」
鈴々
「にゃはっ♪」
~回想シーン終わり~
関羽は張飛に薦められて、風呂に入っていた。
関羽
「ふぅ~。久し振りの風呂は気持ちいい(しかし一刀殿は不思議な人だ。それとも異世界ではアレが普通なんだろうか?)」関羽の知る限り、男とは欲望に身を任すだけのケダモノ同然な存在だった。しかし一刀は貴族を思わせる気品の良さに、庶民的な親しみやすさを併せ持つ、何とも形容し難い……。
鈴々
「湯加減はどうなのだぁ?」風呂を沸かす張飛の声が扉越しに聞こえてきた。
関羽
「ああ。丁度良いぞ」同じ場所から一刀の声が重なった。
一刀
「張飛。火は俺が見ているから、お前も入ってくると良い」間を置かず、勢いよく扉を開けて浴室に突入した張飛は、湯槽に思いっきりダイブする。
関羽
「コラーッ!飛び込むんじゃない!」
鈴々
「にゃっ」一瞬縮こまる張飛だったが、
関羽
「全く!風呂の入り方も知ら……うん?」仁王立ちしている関羽を見て、目をパチクリさせている。
関羽
「何だ、どうした?」
鈴々
「胸、おっきいのだぁ」
関羽
「な……!」頬を染めながら思わず両手で胸を隠す。
鈴々
「どうしたらそんなバインバインになるのだ?」興味津々といった様子で尋ねる張飛に困惑する関羽。
関羽
「どうしたらって……そうだ、志だ。胸に大志を抱けば、その分だけ大きくなる!……,ハズ」因みにこの会話を聞きながら火の番をしていた一刀も、頬が真っ赤になっていた。決して風呂釜の炎のせいだけではないだろう。
鈴々
「ホントに?ホントにそれで大きくなるのだな?」
関羽
「まぁそういう説もあったりなかったり……」
鈴々
「ヨーシ!だったら鈴々も、大志を胸にいだくのだ!」
一刀
(意味分かってんのかねぇ……)
関羽
「……そうだな。そうすると良い、大志を抱くのは悪いことじゃないからな……」
その後一刀も風呂に入っている間に張飛は布団の準備をしていた。
関羽
「スマンな。寝床まで貸して貰って」
鈴々
「良いのだ。負けたんだから一晩一緒に寝るくらいどうって事ないのだ!」第3者が聞いたら、何とも誤解を招きそうな表現である。
一刀
「じゃあ俺は奥の部屋を使わせてもらうから……」
鈴々
「お兄ちゃんも一緒に寝るのだ!」張飛は一刀の腕を引っ張り、関羽と3人で川の字に寝る。
一刀
「狭くないか?」一刀が聞くと張飛はにこやかに答えた。
鈴々
「別に良いのだ。それに誰かとこうして寝るのは久し振りで……その……父様や母様と一緒みたいで……」
関羽
「バ、バカな事を言うな!私は……お前みたいな子供がいる年齢じゃない。精々、姉といったところだ」
鈴々
「姉……お姉ちゃんなら良いのか?」
関羽
「まぁ、そうだな……」
鈴々
「じゃあ今日から関羽は鈴々のお姉ちゃんなのだ!」
関羽
「ま、待て。姉なら良いとはそういう意味ではなくてだな」
鈴々
「ダメ……なのか?」潤んだ目で張飛に見つめられた関羽は折れた。
関羽
「分かった分かった。お前の姉になってやる」
鈴々
「やったぁ!鈴々にお兄ちゃんとお姉ちゃんが出来たのだぁー♪」
一刀
「良かったな張飛……ん、お兄ちゃん?誰が?」
関羽
「一刀殿しかいないだろう。何を今更……」
一刀
「そ、そっか。勿論張飛さえ良ければ」
鈴々
「もうこれで夜も淋しくないのだぁ」本当に嬉しそうな張飛に、関羽はこんな話を切り出す。
関羽
「ならば張飛よ。私達と共に、世の中を変える為の旅に出てくれるか?」
鈴々
「世の中を変える為……?」
関羽
「尤も実際は、どうすれば世の中を変えられるかを探す旅。と、いったところなんだが……どうする?一緒に来るか?」
鈴々
「……当然なのだ!」
一刀
「よし、決まりだな。じゃあ明日に備えて、今夜はもう寝よう」
関羽
「ああ、お休み。一刀殿、張飛」
鈴々
「お休みなのだ」
そして翌朝。関羽と一刀は張飛を連れて庄屋の屋敷を訪ねた。報せを聞いた庄屋は昨日の役人達と一緒に門の前に出てきた……顔中、青痣や瘤だらけで。
関羽
「しょ、庄屋殿?どうしたんですか、その顔は?」
庄屋
「関羽さんや……」
庄屋・役人達
「「「「失礼な事言って、すいませんでした!」」」」全員一斉に関羽へ土下座した。思い当たる節がある関羽は庄屋達を宥める。
関羽
「昨日の事でしたら、私はもう気にしてませんので……頭をお上げ下さい」
鈴々
「どうなってるのだ?」訳が分からない様子の関羽と張飛に対して、一刀だけがほくそ笑む。実は昨日、庄屋達の無礼にずっと腹が立てていた一刀が今朝早く1人で庄屋を訪ねて、幼少時からやっている剣道に例の『加速』を併用してボッコボコに懲らしめていたのだった。
村のみんなに詫びを入れ、張飛は一刀、関羽と旅に出る。しかしその表情はどこか曇っていた。
関羽
「どうした張飛。もう村が恋しくなったのか?」
鈴々
「そうじゃないのだ。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったのだ。きっと鈴々が立派なおやびんじゃなかったから……」
一刀
「そうでもないみたいだよ」一刀が視線を向けた先を鈴々が見ると、山賊団の子供達が鈴々の旗を振りながら見送っていた。
子供B
「お~やび~ん!」
子供A
「武者修行して強くなってね~」
子供C
「みんな、おやびんが帰って来るの待ってるから~」
子供D・E
「「おやび~ん。ヒクッ、エッグ(泣)」」
鈴々
「みんな……」目に涙を貯める張飛だったが、
関羽
「泣くな。旅立ちに涙は不吉だぞ」
鈴々
「泣いてなんかいないのだ」左腕で涙を拭った張飛は強がって見せる。
関羽
「人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているモノだ。立派な親分なら、そんな情けない顔を覚えていてもらいたくはないだろう?」
一刀
「だな。じゃ、笑顔で別れよう。手を振ってあげなよ」
鈴々
「うん!」一刀と関羽の言葉に頷くと、山賊団の方に体を向ける張飛。
鈴々
「みんなぁーっ!行ってくるのだぁー!」
乱れに乱れたこの世の中。そんな中、密かに野心を研ぎ覚ます者。己の力を試さんと、文武に励む者。守るべき者の為に闘おうとする者。様々な思いを胸に抱く者達が綾なす運命の糸が絡み、結ばれる。
関羽
「そろそろ外套はいらんなぁ」
鈴々
「もう春なのだ!」この世界に舞う、無双の姫達と異界より集いし野郎共の行く末をとくとご覧あれ。
次回、あのキャラが(ある一点を除いて)能力やこれまでの半生等新たな設定で登場します。
アニメとの違い
・庄屋と役人が一刀にボッコボコにされるのは作者のオリエピ。