屋敷の外へ出る一刀、愛紗、鈴々、忍、趙雲。門の前に出ると、偽の商隊が運ぶ荷物の中に櫃のような箱が置かれていた。
愛紗
「うむ。これに隠れるのか……って何で一つしかないんだ!」箱の大きさは人が1人入るのならともかく2人も入ると、かなり窮屈になるのは容易に想像できる。
一刀
「これは……3人も入るのはムリだな」
忍
「あちしは必要ないわよ。虻にでも変身して、後ろからついていけばいいんだし」
一刀
「じゃあ俺と鈴々は麓で待機。忍には伝令役を引き受けてもらって、公孫賛と合流次第、山賊退治に乗り出すってのは?」
愛紗
「良い案だ」
趙雲
「では私と関羽殿でこの中に入るか。少々狭くなるが、致し方あるまい」
愛紗
「しかし、これでは……相当体を密着させないと……その……」
趙雲
「気にするな。私はその
愛紗
「そうか。それなら……ってオイ!」
鈴々
「……その気って何なのだ?」
一刀
「鈴々にはまだ早い!知らなくて良い!」
忍
「ね、変な女でしょ?流石のあちしも呆れるわ」首をかしげる鈴々、趙雲にジト目を向ける忍、顔を赤くして俯く一刀と愛紗、悪戯っぽくニヤケる趙雲。
2人の入った箱を偽の商隊が荷車に乗せて、山賊の出るという赤銅山の中まで運んでいく。その後ろから虻に変身した忍が追いかける。箱の中では愛紗と趙雲が息を殺しつつも、互いに膝が当たったとか、変なトコ触ったなどと囁き合っている。荷車を引いていた公孫賛の部下は、その声が聞こえる度に恥ずかしそうに頬を染める。そうこうしている内に山賊達が現れ、荷物を置いていけと偽商隊を脅かす。彼らは事前の打ち合わせ通り、荷物を投げ捨てて麓へ下りていく。
さて屋敷では公孫賛が書類仕事中、途中経過の報告を受けていた。
公孫賛
「で、首尾はどうだ?」
部下
「ええ。偽商隊に怪我もなく、荷は山賊共の手に落ちました。趙雲殿達は無事に潜り込めたようです」
公孫賛
「そうか。藤崎殿はまだか?」
部下
「はっ。おっつけ報せが来るかと思います……今しばらくお待ちを」
奪った荷物を運ぶ山賊達の一行。貯蔵庫へ持っていく途中、バランスを崩して3人が入る箱を落としそうになり、ガタッと音を立てながらやや乱暴に床へ置く。
愛紗
「ひゃんっ」
山賊A
「ん、今女の声がしなかったか?」
山賊B
「はぁ?何言ってるんですかアニキ。幻聴が聞こえるなんて、よっぽど飢えてるんですかねぇ」
山賊A
「ふぃ~、そうかもな。よし、また拐ってきた村娘に酌でもさせるか!」
山賊B
「今夜も祝杯っすね」山賊達が下卑た笑いを浮かべながらその場を去ると、趙雲が中から箱の蓋を少し開けて様子を窺う。
趙雲
「大丈夫、のようだな……」
愛紗
「はぁ~ふぅ~」箱から火照った顔で出てきた愛紗は疲れきっていて、服も乱れていた。
趙雲
「どうやらここは地下のようだ」
愛紗
「地下?」愛紗と趙雲は貯蔵庫から出て辺りを調べ始める。
趙雲
「ここは以前、鉱山だったらしい」
愛紗
「その坑道を隠れ家にしているのか。道理で見つからないハズだ」
忍
「(……幸太がいればこのぐらい、すぐに見抜いたでしょうね)あちしは公孫賛ちゃんにこの事を伝えに行くわ。2人は様子を見てて頂戴」虻に変身したままの忍がその場を去り、2人は探索を続ける。
愛紗
「しかし、得物がこれとは、いささか心許ないな」愛紗の手にはいつもの青龍偃月刀ではなく、小さな短剣が握られている。
趙雲
「仕方あるまい。お主のデカい胸が邪魔でそれ以上は箱に入らなかったのだから」
愛紗
「何を言う?私の胸だけが原因ではあるまい!」
趙雲
「確かに。どちらかというとお主のデカい尻の方が邪魔であった」
愛紗
「なっ……!」
趙雲
「シッ!」愛紗をからかっていた趙雲が急に真剣な顔になり、愛紗を黙らせる。山賊達の笑い声が聞こえた。2人がそこへ駆けつけると広い空間があり、連中は酒を呑み交わしていた。その数約50人。真ん中には首領らしき男がいて、恐らく村から拐ってきたのだろう、若い娘に酌をさせながら厭らしくその体を撫でている。
村娘
「止めて下さいっ!」
山賊A
「良いだろぅ~、減るもんじゃねえし」
村娘
「い……イヤッ!」これを見ていた愛紗がキレた。
愛紗
「おのれ、無体なっ。成敗してくれる!」
趙雲
「何をする気だ、関羽?」
愛紗
「決まっている。助けるんだ!」
趙雲
「しかし、相手はあの人数。それに我らの目的は根城の捜索……ってオイ!」趙雲の話を無視して、村娘を助けようと山賊達の前に躍り出る愛紗。
愛紗
「下郎っ!そこまでだぁーっ!」首領の頭に蹴りを入れて気絶させる。
愛紗
「大丈夫か?」目だけを娘に向けて問う。
村娘
「えっ……あ、はい」しかし場所が悪く、他の山賊達に囲まれてしまった。
山賊B
「何だ手前ぇは!?」
愛紗
「我が名は関羽!地下に巣食う姑息な悪党共め、この青龍偃月刀の錆びに……」生憎、偃月刀は持ってきていなかった。
山賊B
「イヒヒ。何の錆びにしてくれるって?」山賊達が厭らしい笑いを漏らす。
愛紗
「くっ、貴様らなどこれで充分だ!」腰に差していた短剣を手にし、村娘を庇う。
その時だった。どこからか石が投げられて、広間を照らしていた燭台が次々と倒れていく。趙雲が愛紗達の身を案じて、機転を利かせたのだ。
趙雲
「関羽、こっちだ!」暗がりから趙雲の声が聞こえる。3人でそこまで走ると一先ずは撒いたようだ。
趙雲
「どうやら追っては来ないようだな……」安堵したのか、村娘はその場にへたり込んだ。趙雲は呆れたように愛紗にジト目を向ける。
趙雲
「全くっ……!猪武者なのは妹分だけだと思ったが、お主も相当なモノだな」
愛紗
「……スマン」
村娘
「あの……危ないところを、ありがとうございました」
愛紗
「ナニ、礼には及ばん。当然の事をしたまで故」
落ち着いた村娘は自分の身の上を愛紗と趙雲に話す。彼女は麓の村に住んでいて、ある日村の小さな子供達を連れて山菜摘みをしていたのを偶々山賊に見つかり、囚われたそうだ。子供達も人質に捕られ、今日まで逃げる事も出来なかったという。
村娘
「もし私が逃げ出したと知れたら、あいつらに何をされるか……」
趙雲
「どうする?」
愛紗
「無論、助けに行く」
趙雲
「……だろうな」2人は娘に案内されて子供達が囚われているという、地下牢へ向かった。
その頃、鈴々と一刀は忍からの伝令を待っていた。退屈しのぎに歌い出す鈴々。
鈴々
「♪やっまがあるから山なっのだ~。川があっても気っにしっない~♪」
一刀
「暢気だなぁ」とは言いながら、一刀は優しい眼差しを鈴々に送っている。
鈴々
「何を言ってるのだお兄ちゃん、山の中では熊避けの為に、歌を歌うモノなのだ!」
一刀
「へぇ。そうなんだ」登山の経験が殆どない一刀は感心している。そこに一匹の虻が飛んできた……と思ったら、その姿が人間に……忍が変身を解いた。
忍
「山賊の根城が判明したわ、地下にある廃坑よ。あちしは公孫賛ちゃんに知らせるから、2人は先行して関羽ちゃん達と合流して頂戴」
一刀
「分かった。行こうか鈴々!」
鈴々
「行くのだ!」廃坑に向かう一刀と鈴々。忍は再び虻に変身すると、その反対方向、公孫賛の屋敷へ飛んでいった。
子供達が囚われている地下牢の見張りの山賊は宴会に参加できずに1人、ボヤいていた。
山賊C
「……ったく、何で俺だけ。とんだ貧乏くじだぜ……」その男がふと気配を感じて振り向くと、物影から艶かしい女の脚が突き出してきた。堪らずその脚にすがり付こうと飛び付いたまでは良かったが、脚の持ち主である趙雲にボッコボコにされた。気を失った男から牢の鍵を奪い、子供達を救出すると、タイミング悪く追っ手の山賊に見つかってしまった。
出口を探しながら走る、趙雲、愛紗、村娘と子供達。しかし地の利は山賊にある。もう少しで捕まりそうになった、その時だった。
??
『加速!』何かが物凄い速さで追っ手の第一陣を切り捨てる。
愛紗
「一刀殿!」
一刀
「みんなこっちだ!」一刀の先導で避難すると、そこに忍と鈴々、公孫賛率いる兵士達が待ち構えていた。
公孫賛
「皆のもの。これより山賊を殲滅させる!全軍、配置につけ!」
兵士達
「「「「応ぉーっ!」」」」
山賊B
「ア~ニ~キ~。領主が来ましたよぉ、もうおしまいだぁ!」
山賊A
「へっ!ビビる事ぁねえや。こっちにゃ奥の手があるだろ!先生、お願いしやす」いつの間にか意識を取り戻していた、愛紗に蹴られた山賊の首領が何者かを呼び出す。先生と言うからには、用心棒だろうか。
??
「フフン。やっと私の出番か……」現れたのは見た目は愛紗達と年齢の変わらなそうな、綺麗な顔立ちの少女だった。ただし、頭には角が生えていて、背中には蝙蝠のような翼を背負っていた……。
アニメとの違い
・公孫賛の屋敷で待機していた鈴々は、愛紗達を探そうと不用意に飛び出す→一刀と2人、山の麓で待機。
・愛紗達が山賊達に谷底まで追い詰められたところで鈴々に会う→一刀の先導で公孫賛に保護される。
・公孫賛は最後まで出番なし→兵を率いて山賊を殲滅にかかる。
・愛紗と趙雲が2人だけで山賊を倒す→この後、オリキャラとバトル。一体どうなるのか?