ドルイドの民は、不可思議な術を扱う。
例えば、聖なる力を以って邪を打ち払う"
例えば、女神族のように他者の傷を癒す力。
例えば──意識だけを任意の過去に飛ばす、刻還りの術。
リオネス王国元・聖騎士長ザラトラスの出身はドルイドであり、当然彼も"
なにも話さぬまま死を迎えたメリオダスの思惑、真意、そして見据える未来。それらを知るため、ザラトラスたちはメリオダスの眠る部屋へと来ていた。
「メリオダス殿は本当に不思議な男です。彼の発言や考えの真意がどこにあるのか、当時の私には理解ができなかった」
メリオダスとザラトラスの付き合いはマーリンを除く〈七つの大罪〉の団員よりも古い。
そんなザラトラスから見ても、メリオダスはあまりにも不透明な存在だった。
「まるで遥か遠い過去を生き、遥か先の未来を憂うかのような、雲を掴むような言動の数々──。驚くべきことに、それが今になってなるほどと思い当たる出来事が次々と出てくるのです」
過去のメリオダスの言動、そして今の世界の状況。
恐らくこの時を見据えて発言していたのだろう。
「一度……珍しく酒に酔った彼が、自分の死について語ったことがありました」
「ッ!?」
「メリオダス様が自分の死について……!?」
「なんて言ってたんだ!?」
思いがけない言葉に、エリザベスたちは食らいつくように問う。
しかし返ってきたのは。
「スッカリ忘れてしまいました」
気の抜けた、そんな一言だった。
「なので、もう一度確かめてみましょう。彼の記憶の中から」
「……!」
そう言いながら、刻還りの術を発動させるための準備を終えたのか、エリザベスに手を伸ばした。
同時に、フロランスはリオネスから放たれる
「エリザベス様、私の手を」
「は、はい」
「子豚殿も。フロランス殿は、エリザベス様と子豚殿の手を」
「……すみません、急用ができました。私は今からリオネスへ向かいます」
「急用……?」
「あなたたちも
フロランスはそう捲し立てて、あっという間にその場から姿を消した。
それを、エリザベス達は呆然と見ていることしかできなかった。
■
リオネスに向かって翼を広げ飛翔しているフロランスは、〈十戒〉側とリオネス側の戦力差を分析する。
(〈十戒〉側はグレイロード、フラウドリン、デリエリ、モンスピート、そしてエスタロッサにゼルドリス……。対してリオネス側はエスカノールとバン、後は聖騎士が数十人程……あまり良い戦況とは言えませんね)
エスカノールがいれば大丈夫──などと楽観視はできない。なにせ相手が相手だ。正午キッカリならばともかく、
それも時間の問題だが、その前にゼルドリスがエスカノールの危険性に気付けば正午に達する前に殺される可能性がある。
「見えてきた……」
〈豚の帽子〉亭からリオネスまでの道中、押し寄せる魔神族たちを斬り払っていたためか、少し遅かったようだ。
遠目から見たリオネスは所々が崩壊しており、今なお戦いが繰り広げられていることが肌で感じられる。
念のため魔法により姿を消し、神器に"
そうしてリオネスに降り立ったフロランスは、聖騎士らしき魔力が密集している城へ向かう。
しかし最悪なことに、聖騎士たちは戒禁にかかっているようだ。むしろ、今のリオネスには戒禁にかかっていない者の方が少なかった。
更には──
「くそっ……一足遅かった……。まさか自らを犠牲にして女神族を復活させる人がいるなんて……!」
悪態をついた所で、状況は変わらず。
城へ辿り着いたときには、リオネス国王バルトラの弟デンゼルに宿った女神族とデリエリが殺気を撒き散らしながら相対し、その側で、フロランスの魔力を感じ取り城にやってきたであろうゼルドリスが殺意と共に鋭い視線でフロランスを睨みつけていた。
「ゼルドリス……」
「フン、生きていたか……敗北者が懲りずにのこのこと、何の用だ?」
「決まっているでしょう。──あなたたちを倒して彼らを救うためですよ」
フロランスの言葉に、ゼルドリスは鼻を鳴らして不快感を顕にする。
「あれだけ完膚なきまでに負けておいて、まだオレたちに勝つつもりか?」
「ええ、たしかに私はあなた
「何……?」
「神器解放──『魔神王』」
神器に通していた"
闇さえも飲み込む漆黒の刀身を天へと掲げ、魔力を収束させる。
バイゼルで〈十戒〉から逃れるために放った技かと身構えるゼルドリス。
溢れ出た余剰分の魔力がスパークを起こし、その存在感は肥大化を続ける。そして遂に放たれたそれは、壁と錯覚するほどの巨大な闇の奔流──ではなく、極限まで研ぎ澄まされた闇の刃だった。
ともすれば、リオネスやその周辺を跡形もなく消しとばしかねない威力を秘めた一撃だ。
「ッ!」
ゼルドリスの本能が警鐘を鳴らす。
あれは、自身の身を容易く斬り裂く必殺の刃だと。
「おぉ──ッ!」
体は、思考するよりも早く動いていた。
その身に宿す闇の魔力を解放。
闇とはそれ自体が質量を持っており、攻撃に転用すれば絶大な破壊力を発揮すると同時に凄まじい防御性能を誇る。
ゼルドリスの内から溢れる闇が、全身を覆う。
そして、認識すら難しい刹那。
ゼルドリスは神速の居合いを以て、飛来する斬撃を迎撃し──これを、切り裂いた。
真っ二つに分かれた刃は遥か遠方へ遠ざかり、やがて大爆発を起こした。
後手に回ってしまったことに歯噛みしながら、ゼルドリスは続け様にフロランスへ刃を向ける。
だがそこにフロランスの姿はなかった。どこへ行ったのかは、背に当てられた小さな手のひらが教えてくれた。
「貴様……!」
「場所を移しましょう。ここはあまりにも狭すぎる」
"
一瞬でゼルドリスの視界が切り替わる。
見えたのは、燦々と輝く太陽と、空を泳ぐ白い雲だけで──
完全に不意をついた一撃に、ゼルドリスの視界が歪む。脳を揺らされたためだ。
同時に魔力の制御が乱れたことで翼が崩壊し、ゼルドリスは地上へ落下を始める。しかし激突を待たず、極光がゼルドリスを飲み込み、大地へと叩きつけた。
「……ふむ、"
魔神王の魔力によりダメージは無い。それはフロランスも理解しているはず。
なんのためか、それは定まらない思考でも理解できた。
実のところ、フロランスは魔神王の魔力がどれほどのものかを測りつつ、降参を促そうとしているだけなのだが。
「舐め……るな!」
余裕たっぷりな態度のフロランスに、ゼルドリスは激発とともに剣を投げつけた。
無論当たるはずもなく軽く体を傾けるだけで避けるが、あのゼルドリスが意味もない行動を取るはずがないと警戒する。
その予想は的中した。
横たわっていたゼルドリスの姿が掻き消え、フロランスの背後に現れた。魔法を使ったわけでも、幻覚でもない、純粋な身体能力による接近。
ゼルドリスの手中で、投擲したはずの剣が鈍く光った。
「なに──」
防ぐ暇もなく、刃はフロランスを捉え──
「……やはり魔神王の魔力が機能するのは攻撃的魔力のみで、精神的なものなら問題なく通用するようですね」
「な、んだと……!?」
「"
そう言って見せつけるように差し出された神器の刀身は、いつのまにか光すら飲み込むような黒から鮮やかな萩色へと変化していた。
"
「くッ……!!」
屈辱に震える手の中で、剣がカチカチと鳴る。
何故だ、という疑問と、誇りを捨てた裏切り者に弄ばれている、という現実に対する怒りが湧き上がる。
「ゼルドリス、今からでも遅くはありません。戒禁を捨ててください。私たちは魔神王を討ち、すべての呪縛を解かねばなりません」
ゼルドリスという薪に、フロランスの忠言という火種が注がれる。
「もう戦わなくていい。だから──」
「黙れ!!」
薪が、激しく燃え盛る。
それはまるで火山の噴火のように苛烈で、強烈で──凄烈だった。
小さな火種は、しかし爆発的に薪を燃やした。
身を焼き尽くさんばかりの怒りは、そのまま殺意となってフロランスに降りかかる。
空間が軋んでいるように思えるほど濃密な殺気の中、フロランスは表情を変えずゼルドリスを見つめる。
「いい加減、貴様にはうんざりだ。その自分勝手で甘いところは、3000年経っても変わらないか」
ああそうだとも、私は自分勝手で、甘い。
そのせいで死にかけたこともあった。
「父上に臆し、一人ではなにもしようとしなかった貴様が、父上を討つ? 呪縛を解く? 笑わせるな! 今更貴様になにができる! 怯えて動けなかった貴様がなにをしようと無駄だというのが理解できないのか!!」
確かにそうだ。私は魔神王が──父様が怖くて、なにもできなかった。しようともしなかった。
けれど、今は仲間がいる。兄様がいる。
だから──
「だからこそ、私は今度こそ自分に、魔神王に、打ち克ってみせる。そうして初めて、私の呪縛は解かれる」
「御託はもういい。貴様たちには二度と惑わされんぞ」
「ゼルドリスっ……!」
悲痛な表情を浮かべるフロランスへ、ゼルドリスは容赦なく剣を振るう。
速度、威力ともに先ほどの比ではない。それほどまでにゼルドリスの抱えるモノが大きく、強かったのだ。
結果的にフロランスの行動は、求めていたものと正反対の事態を招いてしまった。しかしそれを悔やむ暇もなく、嵐のような剣撃が襲いかかる。
「魔神王さえ討つことができれば、もう悲劇が起こることは無くなる! ゼルドリス、あなたも、あなたの恋人も──」
そう発した瞬間、フロランスの体に深い裂傷が刻まれた。下手をすれば、内蔵にすら届きかねないほど深い傷。
(不味い……どんどん状況が悪い方へ転んでしまっている……やむを得ませんね……)
これ以上の交渉は危険だと判断し、フロランスは魔神の力を解放した。
左額にゼルドリスのものと同じ紋様が浮かび上がり、刻まれた傷が瞬く間に癒え、爆発的に魔力が上昇する。それに伴い抑えていた威圧を全開にし、ゼルドリスにプレッシャーを与える。
3000年前から少しも衰えていない圧倒的な魔力に、しかしゼルドリスは臆せず吶喊する。
激情に顔を歪め、持てる全てを乗せた全力の一振りを袈裟懸けに放つ。
たとえエスタロッサであろうとも不可避の凄絶な斬撃。それを、フロランスは
ゼルドリスが異変を感じたのは、その直後。
(う、動かん……!? 俺の力を上回っているというのか!?)
剣が、掴まれた状態のままびくともしない。
根を張る大樹を、あるいは大地そのものを引っこ抜こうとしているような錯覚さえ覚えた。
(ふざけるな……!)
剣を捨て、ハイキックを放つ。
並みの者なら首から上が消し飛ぶほどの威力を秘めたそれを、またもや片手で受け止め、万力の如き握力で握りしめる。
しまった、と思った時には既に遅く。
抗うことすら許さぬ剛力でゼルドリスを振り上げ、地面に叩きつけ──轟音とともに、中心に人型が刻まれたクレーターができあがる。直接攻撃を入れたわけではないためダメージは少ないが、当然これで終わりでは無く。
ゼルドリスの顔面に、無造作な蹴りが叩き込まれる。
血を噴き出しながらボールのように跳ねるゼルドリス。頭の中は疑問と怒りで埋め尽くされていた。
ようやく勢いが止まったとき、立ち上がろうと足に力を入れても、無様に崩れ落ちるだけだった。
たった一撃。
それだけで瀕死に追い込まれた。その事実がゼルドリスに多大な屈辱を与える。
しかし、どれだけ怒ろうと、体は動いてくれなかった。
もう一撃でも加えれば、ゼルドリスの意識は闇に沈むだろう。
こうして実の弟を甚振るのはフロランスの本意ではない。故に確実に、痛みを与えずに意識を刈り取ろうと腕を上げた瞬間──太陽が、エスタロッサを焼きながら飛来した。
あまりに非常識な光景に、フロランスは飛んでいく太陽を目で追うことしかできなかった。
「あ、にじゃ──ッ!」
慌ててゼルドリスが加勢するも、勢いは留まるところを知らず、あっという間に彼方へと姿を消した。
後を追いかけようとしたが、あの太陽を正面から喰らったとなれば良くて重傷、悪くて死亡だろう。どちらにせよすぐに行動を起こすことはできないだろうと判断する。
(それに、遠方から感じるこの魔力……間違いない、
ザラトラス、エリザベス──そしてメリオダス。この三人の魔力がリオネスへ向かっているのを確認し、フロランスもまたリオネスへと転移した。
フロランス(魔神化時)
闘級11万9000 (武力7万 魔力4万3000 気力6000)
ということで魔神化時のフロランスの闘級公開。復活後のメリオダスと正面から殴り合えるぐらいには強いです。一対一ならゼルドリス以外の十戒は瞬殺できます。っょい。
ちなみにゼルドリスが負けたのは魔力使ってないせい。使ってたら勝てたかもしれない。
そして、本日を以て七つの大罪が完結しました。
七つの大罪を知ったのは2年ほど前ですが、自分でも驚くほどにどハマりして、2年間毎週水曜日を楽しみに生きていました。
喜ばしいことですが、やはり一番は寂しいですね。涙出そう。というかちょっと泣いた。
後半の展開について色々言われていますが、やっぱり私七つの大罪大好きだなぁと。出会えてよかったなぁと。七つの大罪がなければ今の私はなかったでしょうね。生きてるけど死んでるみたいな感じになってたかもしれない。
七つの大罪あってこその私みたいな。ホントに心の支えでした。
次回作楽しみにしてます。
鈴木央先生、及び関係者一同に多大なる感謝を。お疲れ様でした。