Dotted bridal veil   作:天葵

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第13話/繰り返される痛み

 

 

 

 

 

 リオネスへ戻り真っ先に目に入ったのは、強大な氷の魔力に覆われた王城の一室だった。

 何事か、と驚いたが、氷の中に人間が入った卵のようなものがそこかしこにあるのを見て、状況を一瞬で察する。

 

「貴様……生きていたか……!」

「ええ、おかげさまで。それで──」

 

 苦虫を噛み潰したような表情のフラウドリンにそう返し、フロランスは視線を上げ問いかける。

 

「私の助力は必要で?」

「不要だ……と言いたいところだが、これ以上被害が広がるのは本意ではないのでな。頼んだ」

「了解しました」

 

 手短に返答し、神器を抜く。

 それとほぼ同時に、灰色の魔神の突然変異種である〈不殺〉のグレイロードが動いた。

 

"五分の魂群(ブレイカブルバグ)"

 

 いくつもある顔の一つから放出された蟲が、なだれ込むようにフロランスめがけ迫る。

 無数の蟲たちを前に、フロランスは手を翳した。

 

"墜ちる炎塊(メテオフレア)"

 

 ぐっ、と翳した手を内側に倒すと──巨大な隕石の如き炎が、王城の天井を突き抜けて蟲を押し潰した。

 衝突した余波で後方の聖騎士たちが吹き飛びそうになっているのを横目に、今度は五指をグレイロードとフラウドリンに突きつける。

 指先に魔力が収束するのを感じ、グレイロードは自らの体を分離させることで逃れようとし、フラウドリンはその場から射程外までの逃走を試みた。

 

「マーリン」

「大事な実験台(モルモット)に逃げられては困る──"終わりなき渦(エンドレス・ワール)"

 

 短い呼びかけ。しかしそこに込められた意図を理解したマーリンは魔術を発動させる。

 マーリンを中心に大規模の嵐が発生し、分離していたグレイロードは抵抗も虚しく引き寄せられ──どこからか取り出した試験管へ閉じ込められてしまった。

 

「今更逃げるのはあまりにも虫が良いと思いませんか? フラウドリン」

 

 グレイロードが捕獲される様子を見届け、フロランスは無様にも走り去るフラウドリンの背に五指を向け、圧縮した魔力を解き放った。

 

"貫く獄炎弾(ヘルブレイズ・バレット)"

 

 超高速で放たれた獄炎の弾丸は正確にフラウドリンの足を打ち抜き、フラウドリンは派手に転倒する。

 すぐさま闇を展開し傷を癒そうとするが、その前にヘンドリクセンが立ち塞がる。

 

「自然ならざる魂よ……消えろ」

 

 『浄化(パージ)

 ドルイドの民が扱う、邪を祓う光。

 しかし、ヘンドリクセンのそれはフラウドリンをドレファスから引き剥がすどころか、なんら痛手を与えることはなかった。

 癒えた足で立ち上がり、フラウドリンは魔力を込めて剣を振るう。

 

「"流撃"!」

 

 咄嗟に剣を挟み込んで防ぐヘンドリクセンだが、防ぎきれずにダメージを負う。

 

「フ……どうした、それで終わりかヘンディ? お前程度の魔力で私を浄化しようなどと、百年早いぞ」

「それはこっちの台詞だ……! 貴様の方こそ、ドレファスの剣技には遠く及ばないぞ!」

「……言ってくれるわ」

 

 再びヘンドリクセンへ肉薄し、剣を薙いだ。

 反応が遅れ半端な防御しかできず、ヘンドリクセンが膝をつく。

 間を置かずフラウドリンが剣を振り上げ──その剣先を、フロランスが掴み取る。気配すら感じなかったことに驚愕しながらも剣を取り戻そうとするが、いくら力をいれてもぴくりとも動くことはなかった。

 

 諦めて剣から手を放し、フロランスと正面から対峙する。

 

「く……っ」

 

 改めて、フロランスという少女の強大さを、フラウドリンは認識した。

 真っ向から戦ったとしても、勝ち目など万に一つも無いだろう。戦略、武力、魔力──あらゆる面で自身の上を行く相手を前にして、フラウドリンの額から汗が流れる。

 加えて、フロランスの背後には稀代の魔術士マーリンも控えているのだ。もはやフラウドリン一人ではどうしようもない状況に陥っていた。

 

「ふっ、ふはは!」

「……なにがおかしいのですか? 言っておきますが、妙な真似をすれば即殺しますよ」

 

 しかし。フラウドリンは理解していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。否、正確には殺さない、というのが正しいか。

 フラウドリンはドレファスに取り憑いているだけで、あくまでもその肉体は聖騎士ドレファスのものなのだ。

 

「ふ……()()()()()?」

「……」

「できんよなあ。私を殺すということは、即ちドレファスを殺すということなのだから」

 

 黙り込むフロランスに、フラウドリンは得意げに言い放つ。

 

「ヘンディの『浄化(パージ)』は効かず、私を殺すこともできない。さて……では撤退させてもらうとするか」

「一つ、勘違いしているようですね」

 

 闇の翼を展開しリオネスから飛び立とうとしていたフラウドリンの体が、地に沈む。

 

「な、に……!?」

「別に」

 

 フラウドリンに奪い取った剣を突きつけ、ぞっとするほど冷たい声色で口を開く。

 

「私は、()()()()()()()()()()()()。その器から出て行きたくなるほどの苦痛を与えてもいい。今更その程度のことに躊躇いはありません」

 

 淡々と、表情一つ変えずに言ってのけるフロランスに、フラウドリンは恐怖した。

 

「ですが、殺さなくてもいい手段がある。それだけです」

「殺さなくてもいい手段、だと……?」

「ええ、ちょうど来たようです」

 

 雷鳴が響き渡る。

 直後、雷が落ちたかのような衝撃が走った。

 

「ギルサンダー!? いや……違う! この魔力は……!」

「そんな……そんな……ザラトラス、なのか?」

 

 その正体は、蘇った元・聖騎士長ザラトラスだった。

 その姿を見て、ヘンドリクセンは信じられないとばかりに目を見開く。

 無理もないだろう。自分たちの手で殺したはずの人物が、今こうして目の前に立っているのだから。

 

「まさか……これは、夢だ……」

「夢じゃありませんよ」

「イダダダダ!」

 

 未だに現実を疑っているヘンドリクセンの頬を、ザラトラスが抓りあげる。そうしてようやく、目の前のザラトラスが本物であると認識した。

 

「しっかりしなさい」

「……はい!」

 

 ザラトラスの叱咤に、ヘンドリクセンは涙を拭って立ち上がった。

 

「なるほどな……だが奴らの『浄化(パージ)』ではどう足掻いても私を討つことはできんぞ?」

()()()()()()

「ならばどうする?」

 

 笑みを浮かべるフラウドリンに、ザラトラスが組み付く。予想だにしない行動に、フラウドリンの顔色が変わる。

 必死に引き剥がそうともがくが、ザラトラスの方が早かった。

 

「私の全生命と引き換えに、お前を引き剥がす」

「なに!? ザラトラス、やめ──」

 

「『浄化(パージ)』!!」

 

 ザラトラスから凄まじい魔力と閃光が放たれ──目論見通り、ドレファスの肉体からフラウドリンが引き剥がされた。

 

「お、おのれえぇぇ!!」

 

 あまりにも禍々しい姿に、ヘンドリクセンは息を呑む。

 フラウドリンの側には、意識を失っているドレファスと力を使い切り衰弱したザラトラスが横たわっていた。

 

「他者のためにせっかく得た命を捨てるとは……! つくづく愚かな! 命を引き換えに俺を追い出したところで、もう一度ドレファスの中に戻れば済む話だ!」

「私がそれをさせるとでも?」

「ぐぁっ!」

 

 ドレファスへ近づこうとしたフラウドリンが、見えない何かに吹き飛ばされる。

 大してダメージは無いようだが、避難先であるドレファスの肉体はフロランスの向こう側にある。そしてフロランスは油断なくフラウドリンを見据えていて、隙など微塵も存在しない。

 

「終わりですね」

 

 相も変わらず冷たい声色のまま、手のひらに魔力を収束させる。

 蒼い雷光がバチバチと音を立てて、徐々に輪郭を帯びる。ギルサンダーやザラトラスのそれとは比較にならない膨大な雷の魔力は、やがて一本の槍として顕現した。

 

"爆ぜる雷槍(バーストライトニング)"

 

 そうして放たれた、フロランスの倍はあろうかというほどの長大な雷の槍はフラウドリンを貫き──直後に大爆発を起こした。

 響き渡る轟音と吹き荒れる暴風。砂煙が舞い上がり、フラウドリンの姿を覆い尽くす。確実に仕留めたと、その光景を見ていた者たちは確信し歓喜した。しかしフロランスは険しい表情で、再び雷撃の槍を作り出す。

 それを訝しむ聖騎士たちの頭上から、一つの声が響いた。

 

「ぐ、くぅ……! やってくれたな……!」

「なっ!? この声は……フラウドリン!?」

「バカな! 奴は確実に消し飛んだのでは──」

 

 砂煙が晴れ、聖騎士たちは思わずその()()を見上げた。

 

「『巨大化(フルサイズ)』……でしたか」

 

 苦痛に顔を歪めるフラウドリンを見上げながら、ぽつりと呟く。

 

()()()? そこからどうします?」

 

 光を宿さぬ漆黒の瞳で、フロランスが問いかける。

 

 逃げる? 到底不可能だろう。

 戦う? 一方的な虐殺になるだろう。

 仲間を呼ぶ? 既に周囲に仲間の気配は無い。

 

 詰み、という他なかった。

 

「オ──オオオォォォ!!」

 

 かつてのメリオダスを彷彿とさせる圧。感情を感じさせない瞳に感じた恐怖を誤魔化すように異形の右腕をフロランスへ叩きつけようとした瞬間──高速で飛来したなにかが、フラウドリンの顔面を強く打った。

 

「むごっ!?」

 

 続けて一撃、更にもう一撃。

 計三発の打撃を受け、ようやくフラウドリンはそれの姿を視認し、驚愕した。

 

「なっ……なんだと!?」

 

 なぜなら、そこにいたのは──

 

「メリオダス!? なぜ貴様が生きている!?」

「うそ……」

「夢……じゃないよな?」

「メリオダス殿……生きていたのか!」

「やはり戻ってきたな……」

「団ちょ……♪」

「おかえりなさい、兄様……」

 

 飄々とした顔で佇むメリオダスに、フラウドリンは腕を振るう。その場から飛び上がり無防備になったメリオダスを串刺しにせんと、今度は二方向から腕を振るうが、メリオダスはそれすらも軽々と飛び越え、神器を薙いだ。

 咄嗟に身を引いたため傷は浅く、反撃にメリオダスを力の限り殴り付け、地面に叩きつけた。そして息をつく暇もなく何度もメリオダスを巨大な足で踏みつける。

 

「砕けろ! 砕けろ! 砕けろ! 砕けろ! 砕けろ! 砕けろ!」

 

 しかしそれを潜り抜け、メリオダスが再び一撃を加える。

 

「やるなぁ……! だが今の俺なら貴様の力にもひけはとらん! 16年前の続きをとことんやろうじゃないか!」

「すげー……ほぼ互角の勝負だぜ……」

「妙だ……」

 

 一連の光景を見て違和感を覚えたマーリンはバロールの魔眼を取り寄せ、メリオダスを見つめる。

 

(団長殿の闘級3万……以前よりも数値が──ああ……そういうことか)

 

「オレの分身相手には上出来だったぜ」

 

 舞い上がる砂煙の中、()()()()()()()()()()が、悠々と姿を現した。

 

「へ?」

「ぶ、分身……?」

「神器ロストヴェインの特性、『実像分身』だ。よって、団長の現在の闘級は──6万」

 

 マーリンの口から告げられた信じ難い事実に、フラウドリンを含めた面々は目を見開いた。

 

「……どうした? なんか言えよ、フラウドリン。希望から絶望に叩き落とされるその表情……最高にいい気分だ」

「メリオダス……殿?」

「いや……あれは本当にメリオダス殿……なのか?」

「兄様……」

 

 その身から発せられる禍々しい魔力。

 その顔に浮かべる残忍な笑み。

 どちらも、ドレファスたちの記憶には無かった。

 いつも明るく、飄々とした態度のメリオダスとは──どうしても思えなかった。

 

 そんなドレファスたちをよそに、メリオダスは口を開く。

 

「決着をつけようぜフラウドリン。今度こそ跡形もなく、てめえをこの世から消してやる」

「メリオダス……き、貴様のその魔力はまるで……まるでかつての──! ぬああああああ!!」

 

 裂帛の気迫とともにフラウドリンがしかけ──それを上回る速度で、メリオダスが身一つでフラウドリンの肉体を貫く。

 目にも止まらないほどの一瞬で、フラウドリンの肉体にはいくつもの風穴が開けられた。

 

「化け……物が……!」

 

 度重なるダメージにより、魔力を維持することもできなくなったのか、巨体がみるみるうちに縮み、膝をつく。

 圧倒的、という言葉すら生温いほど隔絶した実力差。フロランスでさえも、メリオダスの保有する闇の魔力には寒気を覚えるのだ。フラウドリンの心情は、推して知るべしだろう。

 

「三千年前も……16年前も、貴様が甘ったるい夢に浸っていた間……我らは女神族への……貴様への復讐だけを焦がれ、待ち続けた……」

「……オレも似たようなもんさ」

 

 瀕死のフラウドリンへ歩み寄り、メリオダスは穏やかな顔つきで──顔面を、容赦なく張り飛ばした。

 

「まだ死ぬんじゃねえぞー?」

 

 これには黙って事の成り行きを見守っていたフロランスたちも思わず顔を顰めた。

 以前のメリオダスとは違い、蹂躙を楽しんでいるかのような、弱者を痛ぶることで悦楽に浸っているような──否、ような、ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「兄様……ダメです……!」

 

 絞り出すような悲痛な声。しかしメリオダスには聞こえていない、あるいはそもそも、聞こうとすらしていないのか、歪んだ笑みで吹き飛んだフラウドリンへ歩み寄る。

 

「我は……魔神王の精鋭……〈十戒〉……『無欲』のフラウドリン……」

「てめえは魔神王に戒禁を与えられちゃいねえ。所詮は奴の代理だろ……」

「黙れ裏切り者! 俺には魔神族の誇りがある! 貴様が失った誇りがなぁっ!」

 

 そう吼えて、フラウドリンは最後の一手を打つ。

 

「がっ……ああああ……」

「なんだ……? 様子がおかしいぞ……」

「ザラトラスがいいヒントをくれた……俺もタダで死ぬつもりはない!」

「フン」

 

 尋常ならざる様子に、マーリンは真っ先に回答を出した。

 

「全生命と引き換えの自爆、か」

「じ、自爆!?」

「安心するがいい。"完璧なる立方体(パーフェクト・キューブ)"を破壊することはできん」

「い、いや……そういう問題じゃ……」

「くっ……!」

 

 自爆と聞いて、フロランスは即座にフラウドリンを殺すために動いた。

 神器に闇の魔力を流し込み、袈裟懸けに振るう。

 闇の刀身から打ち出された魔力は散弾となり、フラウドリンの肉体の一部を消し飛ばす。しかし狙いが甘かったのか命を絶つには少しばかり浅く、返す刀でもう一度神器を振るおうとした瞬間、メリオダスが手で制した。

 

「手を出すなフロランス」

「ですが……!」

「下がってろ」

「……はい」

 

 一撃で仕留められなかったことを悔やみながら、フロランスは渋々引き下がる。

 確かに、"完璧なる立方体(パーフェクト・キューブ)"に守られているマーリンたちやメリオダス、フロランスは無事だろう。しかし──

 

「いつまでその薄ら笑いを浮かべてられるかな……? くっくっく……たとえ貴様を討てずとも、王国(リオネス)を地図から消すことぐらいはできよう。貴様のせいで、わずかに隠れ生き延びている人間共は全員死ぬことになるんだ! ……共に数えようか、ラストショーまでのカウントダウンを! 10……」

「死ぬなら早くしろ。眠くなってきたぜ……」

「兄様! そんなことを言ってる場合じゃありません! このままじゃ本当に王国が!」

 

 下手に刺激すれば、却って自爆を早めることになるかもしれない。

 そうなれば王国も、民も、何もかもが消し飛んでしまう。正直なところ、人間の国がいくら滅ぼうが、人間が何人死のうが、フロランスにとってはあまり()()()()()。けれど、だからといって見捨てる理由にはならない。

 無辜の民を、必死に生きる人々を見殺しにする。そんなのは──

 

「そんなの、最高神や魔神王と同じじゃないですか! 兄様は、兄様だけは、彼らと同じ道を歩んじゃダメなんです!」

「……」

「今更なにをしようがもう遅い……! ドレファス、せめて貴様にはあの世まで付き合ってもらうぞ……息子には気の毒だがな」

「……大丈夫だグリアモール。最期まで、父さんはお前と一緒だ……!」

「……やだ」

 

 するり、と。グリアモールはドレファスの腕から逃れ、一目散にフラウドリンの元へと向かい──『障壁(ウォール)』の魔力で、自分ごとフラウドリンを閉じ込めた。

 

「な……!?」

「お父さんを……みんなを、殺さないで」

「何をする気なんだ!?」

「グリアモール! やめて──!」

「ダメだ! ダメだ! 早く魔力を解けグリアモール!」

 

 魔力の障壁を殴りつけ、ドレファスは叫ぶ。

 しかし地上に降り注ぐ星屑ですら破壊はできないという『障壁(ウォール)』には罅一つ入ることはない。

 そして、グリアモールの捨て身の行動を止めようとした者が、もう一人。

 

「放せ! 魔力を解くんだグリアモール!」

 

 今まさにリオネスを滅ぼさんとしていた張本人、フラウドリンだ。

 二人の必死の訴えにもグリアモールは耳を貸さず、泣きじゃくりながらも魔力を解こうとはしない。

 

「頼む……いい子だから!」

「うおぉぉぉ!」

 

 すぐにでも己に訪れる死を想像したのだろうか。ぎゅっ、と目を強く閉じるグリアモールを見て、フラウドリンは──

 

「わかった! お前の父も……誰も殺さない」

「……約束、してくれる?」

「ああ……だから、この壁を消して、父さんのもとへ行ってやれ」

 

 優しい──まるで本当の父親のような優しい声音に、グリアモールは魔力を解いて涙を拭い、ドレファスに走り寄った。

 親子が抱き合う姿を見て、フラウドリンは小さく呟いた。

 

「甘っちょろい夢に浸っていたのは、この俺のようだ……」

 

 かつて聞かされた、メリオダスの行動理由。

 魔神族を裏切り、同胞を殺害したのは、『愛する存在のための戦いに、身を投じた』からだと。

 分からなかった。愛する存在も。それのために戦うということも。

 

 そう、()()()()()()()

 

 ──お前には、分かるか?

 

「……分かりたくなど、ありませんでしたよ」

 

 戦い、殺し、生きる。

 それこそが存在理由であり、それこそが全てだった。

 憎み、恨み、復讐を果たすべき相手の気持ちなぞ、分かりたくはなかった。

 

「……殺せ」

 

 命あるものなら当然持ち得る愛。

 当然だろう。感情があるのだから。

 当然だろう。寄り添ってきたのだから。

 

 だからこそ、フラウドリンは死を選ぶ。

 

 魔神族として、〈十戒〉として、もはやフラウドリンは役に立たない。

 魔神族に求められるものはただ一つ。圧倒的な力のみ。

 情を──ましてや怨敵に抱く愛など、到底許されるものではない。

 

 故に、殺せと。

 

 それを聞いて、メリオダスは一瞬驚いたような顔をするが、次の瞬間には残虐な笑みを浮かべていた。

 

「ダメ!」

 

 静止の声を無視して拳に闇を這わせ──なんの躊躇もなく、思い切り振るった。

 絶大な武力と闇の魔力を合わせた一撃は、容易くフラウドリンを屠り。

 

 16年にも及ぶ因縁は、断ち切られた。

 

「……っ」

 

 無力な少女に、痛みを植えつけて。

 

 




トリスタン可愛い(脳死)

フラウドリンとの決着はメリオダスが付けるべきでしょ、という考えのもと原作とほぼ変わらない感じに。申し訳ない。フロランスにトドメをささせようとも思いましたが、あの時点でのメリオダスならこうしそうだなぁって。
その分心情描写頑張りました。
キングとディアンヌの試練に関しては丸々カットします。やることないんで。いや無いわけじゃないんですけど9割方変わんないので。

それはそうとアニメ四期が10月から始まるらしいですね。作画頼むぞマジで。最期までやるらしいのでマジで頼むぞマジで。
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