Dotted bridal veil   作:天葵
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不穏の兆し

「──到着、っと」

 

 移動を始めて1時間ほど。ようやくたどり着いたそこは、人間大や手のひらサイズ、果ては民家程度の大きさの石が点在する場所だった。そしてそのいずれもが人為的な形を成しており──一言で言うならば『不思議だが神聖さを感じさせる』地だ。

 

「ここが森の賢者、ドルイドの聖地なんですね……」

「ああ、ここへ来んのも十数年ぶりか」

「メリオダス様はドルイドの方と面識が?」

「七つの大罪の任務でちょっとな」

 

 エリザベスの疑問にそう返し、歩を進める。

 

 見渡す限り石ばかりの光景で、それ以外は何もない。本当にこんな場所にメリオダスの『力』があるのかと、フレデリカは眉をひそめる。

 

 その直後、エリザベスが一際大きな石柱を見て感嘆の声をあげる。

 

「わぁ……立派な石柱……! これもドルイドのみんなが──え?」

「どうしました、エリザベス?」

 

 呆気に取られたエリザベスの声に何事かと駆け寄るフレデリカ。そこで見たものに、フレデリカもわずかに目を見張る。

 

 何故なら石柱の先には、石でできた一本道の先に、そびえ立つ石の塔といびつに裂けたような形の岩山があったからだ。周囲は勾配に包まれており、それ以外のものは見えない。

 

「メリオダス様! これは──」

「なんだ、もう入口が開いてたのか」

「ドルイドの存在は知っていましたが、聞くのと実際に見るのとではやはり違いますね……」

 

 塔を見上げながら進んでいると、前方に人影が見えることに気づく。小さな人影が二つ、大きな人影を挟むように佇んでいる。

 

「──来たること、先刻承知していたぞ」

 

 発せられた声は存外幼く、賢者というにはあまりにも似つかわしくなかった。

 そしてその人物が発する気配。他の者は気づいていないが、フレデリカにははっきりと分かった。

 

 ──女神族だ。

 3000年前の大戦において、女神族は実体を失っている。そういった事情から剣や角笛といった物に宿っているはずの女神族彼女らが何故肉体をもっているのか。

 

 あちら側もフレデリカを視認して、その内から感じる邪悪な魔力に動揺を隠せない様子だ。

 フレデリカ魔神族が現世にいるから、ということに対してではなく、何故最上位の魔神──本来ならば十戒の一員であるはずの彼女が七つの大罪に加勢しているのか、ということに対してである。

 

 ──しかしこの場において僥倖なのは、互いに敵愾心(てきがいしん)が無いことだった。

 そもそもフレデリカは他の魔神族のように女神族を毛嫌いしているわけではない。エリザベスの存在もあり、個で全体を評価していないのだ。

 そしてメリオダスと友好な関係を築いているのは一目で分かる。でなければ魔神族相手にゲートの通過を許可するはずがないからだ。

 

 奇跡ともいえるその関係をわざわざ崩すほどフレデリカは愚かではない。

 

 穏やかな笑みを携えて二人を見据え。

 

「初めまして、私はフレデリカです」

「な、何故メリオダス以外の魔神族が……」

「その話はまた後で。それよりも、あなたたちの名前を聞かせてくれませんか?」

「う、うむ、見た所害意は無さそうじゃしな……。私はジェンナ、隣のザネリとともにこの里の長を務めておる」

「……」

 

 活発そうな外見の少女がジェンナ。

 寡黙な少女がザネリ。

 フレデリカは二人の名前を忘れないように何度か反芻する。

 

 女神族という種族は概して他種族を下に見るのだが、この二人にそういった傾向は見られない。それだけで3000年前はさぞ生きづらかったであろうことが分かる。

 

「……んじゃま、自己紹介も済んだことだし、改めて要件を伝えるぞ。今日ここに来たのは──」

「お前たちが聖地へやってきた目的は分かっておる!」

「話が早い。流石はドルイドの長だ、助かる」

「それじゃあメリオダスは私と右の塔に入るぞ。……それからお前もな」

「わ、私もですか!?」

 

 ザネリが指名したのは、メリオダスとエリザベス。二人は言われた通りにザネリの後を追い、塔の中へと姿を消した。

 

「話のテンポが早すぎてついていけないわ……」

「ドルイドは不可思議な術を使う連中だからね……加えて世間ズレしているというか……」

「ああ……」

 

 キングの呆れを含んだ視線の先には、木の棒でホークを弄んでいるジェンナの姿。それを見て、スレイダーは納得したように頷いた。

 

 

 

 

「──ここが、ドルイドの戦士が己を鍛える場、修練窟じゃ!」

 

 残った者たちが連れてこられたのは、塔とは反対にある山──ジェンナ曰く修練窟──の麓だった。

 

「ねえジェンナ、オイラたちをこんな場所に連れてきてなにをさせるつもりなの?」

「鍛錬に決まっておるじゃろ! 相変わらず察しが悪いなお前は」

「鍛錬……ですか」

「そうじゃ。フレデリカは例外として、お前たちは〈十戒〉と戦うのにはあまりにも脆弱すぎる。少しでもこの修練窟で鍛え、世界を守ってもらわねば困るぞ」

 

 ちなみに、と。言葉を続けるジェンナ。

 

「お主たちよりも一足先に入っている連中がいてな。どうやら顔見知りらしいが……」

「バンか?」

「『連中』って言ってるんだし、ギーラやジェリコ?」

 

 そうしている間に、修練窟から一人の男が出てくる。灰色の髪に鍛え上げられた肉体。一目で強者だと分かる男だった。

 しかし、あくまでも人間の中では強者に分類されるだけで、フレデリカから見ればそこらの一般人とさして変わらない程度だが。

 

 男を一瞥し、ジェンナに声をかけようとした寸前に、キングが激昂し男へ飛び出したのを見て、話が長くなりそうだとため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 

「話は後にせんか! さあみんな、鍛錬じゃ!」

 

 手を叩いて話を強制的に打ち切るジェンナの声に、ようやく終わったか、と意識を向ける。

 キングと男の間になにがあったのか、そんなことには爪の先ほども興味はない。そんなことよりも今は失った魔力を補填しなければならない、と静かに気合いを入れる。

 

「正直、今はそんな気分になれない」

「……ま、よかろう。もっともこっちの気分や都合は十戒どもには関係ないじゃろうが」

 

 不服そうにそっぽを向くキングだが、ジェンナの言う通り、十戒にはこちらの都合なんて関係ない。この場に十戒が転移してくるなんて可能性も十二分にある今、悠長に構えている暇なんてないのが現状だった。

 

「では、鍛錬を望む者は入り口に! それから、装備品は全て外すように」

 

 修練窟の入り口に集まったのは、キングを除く全員だった。

 

「武器も持って入っちゃダメなの?」

「己の潜在する力を自覚し引き出すのには裸が一番なんじゃ。……とはいえ、最低限のものは必要じゃからな──ゴウセル、下まで脱がんでいい!」

 

 後ろで全裸になるゴウセルに突っ込みを入れながらジェンナが取り出したのは、なんの変哲も無い木の棒だった。

 しかし意識して見てみると、うっすらと魔力が張っているのが分かる。

 

「トネリコの枝を魔力で保護しただけのものじゃが、頑丈さは折り紙つきじゃよ」

 

 一人づつトネリコの枝を手渡され、突入の準備をする。

 

「フレデリカ、お主も入るのか?」

「ええ、十戒と戦う前に少しでも感覚と魔力を取り戻しておかなければならないので」

「……くれぐれも中の奴らを殺してくれるなよ?」

「分かっていますよ、殺しはしません」

「よし、では中に進むがよい。そうすれば自動的に始まる」

 

 言われた通りに真っ暗な修練窟を進んでいく。

 

「……なるほど」

 

 辿り着いた先は、開けた場所だった。ゴツゴツとした岩肌は今までの鍛錬により付いたであろう傷跡があり、わずかに湿った空気が漂っていた。

 そして何より目を引くのが、無数に浮かぶ宝石のようなもの。

 

「これは……」

「女神の琥珀。周囲数フィートに存在する魔の者を取り込む、私が作った魔道具マジックアイテムの一つだ」

「こんなものまで作れるのですね……それよりも何故あなたが?」

「修練窟での鍛錬は二人一組で行うしきたりだ。今回は偶然私とお前がペアになっただけだ」

 

 そう言う仕組みか、と納得するが、それとは別に疑問が発生する。

 

「女神の琥珀──でしたか。これに封じられているのは魔神族、もしくはそれに類する種族なのですか?」

「本来ならば、な。安心しろ、封じられているのは凶暴な怪物モンスターのみだ。王国聖騎士でも苦戦するほどには手強いぞ?」

 

 得意げにそう語るマーリン。

 魔法だけでなく、魔道具作成の技術も超一流。無論本人の才能の高さもあるだろうが、神々の祝福により余すことなく才能を発揮した彼女の本領はどれほどのものなのか。

 

『あー、あー、聞こえておるか?』

「この声は……ジェンナですか?」

『うむ、私だ。これより鍛錬を開始する。そこらに浮いている琥珀の中から好きなものを選ぶがよい』

「では──これで」

 

 選んだのは、側に浮いていた琥珀。

 

『あいわかった』

 

 短い了承の言葉。直後に琥珀が不気味に発光し砕け散った。破片が宙に舞う中、ドスンと重々しい音を立てて、琥珀の中にいたモンスターが顕現する。

 後方に向かって伸びる複数の強靭な角、凶悪な面相、異常なまでに発達している筋肉は、その肉体の強靭さを雄弁に物語っている。

 

 鈍い光を発する双眸が二人を捉え、敵意が宿る。

 

「マーリン、これは?」

「ふむ、あまりの気性の荒さ故に群れを作らず、単独で街を滅ぼせるとされる暴龍(タイラントドラゴン)だな」

「────ッッッ!!!」

 

 暴龍が吠える。

 自らを前にして逃げも隠れもしない矮小な存在が気に障ったのか。それとも二人の力を感じ取り、気圧されまいと自らを奮い立たせるためか。

 どちらにせよ、暴龍は吠えた──吠えてしまった。もはや暴龍には周りが見えていない。明確に殺意を抱き、凶悪なアギトが開かれた。

 

 ──刹那、顎下からの強烈な衝撃によりその巨体が浮き上がり、冗談のように吹き飛んだ。

 

「なかなかに頑丈ですね……」

 

 次いで降り注ぐ闇の散弾。ジェンナの言入通り手加減はしているものの、それでも一発一発の威力は並みの生物なら即死は免れない。それらを無数に途切れることなく受けてなお、暴龍の瞳はフレデリカを射抜いていた。

 

「──ッ!」

 

 咆哮と共に長大な尻尾を振るう。空気を裂き、地面を削りながら迫る尻尾を涼しい顔で掴み取ると、体を反転させて腕に力を込め、暴龍を投げ飛ばした。

 地上では他に類を見ないほどの巨体が空を舞う光景は圧巻の一言であり、普通に生きていくのならば一生見ることのないであろう光景だ。

 

 岩壁に強く叩きつけられた衝撃により、気力で保っていた意識がとうとう限界を迎える。呻き声をあげながら暴龍の意識は薄れていき──暗転する。

 

「やれやれ……ようやく気絶しましたか」

「どうするつもりだ?」

「龍族は概して豊富な魔力を宿しています。ですので……"魔力吸収(マジックドレイン)"」

 

 フレデリカが暴龍に手をかざすと、暴龍の体内で循環していた魔力が体外へ流れ出し、導かれるようにフレデリカへと向かう。

 龍族ということもあり、その量と質は中々だ。この調子ならばもう十頭ほどから蒐集すれば、後は自然回復でどうにかなるだろう。

 

「一頭ずつやるのも面倒です。ジェンナ、聞こえていますね? 追加で十頭ほどお願いします」

『う、うむ』

 

 再び女神の琥珀が光を発する。

 そして、フレデリカを囲むようにして十頭の暴龍が顕現した。

 

『──ッッ!!』

 

 幾重にも重なった咆哮により空気が震える。

 暴力の化身のような存在に包囲されているにも関わらず無表情で佇むフレデリカを見て、ジェンナは密かに頬を引きつらせた。

 

「効率よくいくとしましょう……」

 

 パリ、とフレデリカの全身から黒雷が発生すると同時、放出された闇の魔力が暴龍たちを抑えつけた。

 そのあまりの暴圧は身じろぎ一つ許さず、無理に動こうとすればするほど圧は高まる。ミシミシと体の軋む音が響き、悲鳴が轟く。

 

「"魔力吸収(マジックドレイン)"」

 

 先ほどとは段違いの速度で吸い上げられる魔力。

 一頭目で()()を掴んだのか、ものの数秒で暴龍たちの魔力は底をついた。

 

 反対にフレデリカの魔力は瞬く間に回復していった。また暴龍たちだけでなく、周囲に浮かんでいる女神の琥珀もまた、豊潤な魔力を宿す魔道具だ。

 怪物(モンスター)を封じ込めておけるギリギリまで吸い取り、さらに砕け散った女神の琥珀から霧散した魔力すらも逃さない。

 

 それら全てを逃さず回収した結果、フレデリカの魔力は封印前となんら遜色のない状態にまで回復した。

 これならば十戒を相手にしても戦えるだろうと確信する。

 

 残る問題は──

 

(歪んでは戻って、また歪む……相当苦戦しているようですね……)

 

 激しく変動を繰り返す魔力は、当人の心をなによりも如実に表していた。




魔力吸収(マジックドレイン)
フレデリカの魔力を応用した技。これを防ぐにはフレデリカの干渉力を上回る抵抗力が必要。つまり一部を除いて防ぐのは無理。

この技からフレデリカの魔力の正体にたどり着ける人なんていないよね……?(不安)

闘級は次回に回します、申し訳ない。


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