私は『レイワ』! 博麗霊和! 霊夢おねーちゃんの妹!! 作:トマトルテ
「霊和、もう朝だから起きなさい」
「……ねむいー」
「ワガママ言わないの。ほら、早く布団から出て顔を洗ってきなさい」
「はーい……」
モゾモゾとミノムシのように動く布団を力づくで剥ぎ取ることで、霊夢は妹を起こす。
冬場であれば、意地でも布団を離さずに数分は粘る霊和であるが、今の時期は別。
温かな日光のおかげか、寝ぼけの眼のままであるが、顔を洗いに寝室から出て行く。
「さて、あの子が顔を洗ってる間に、朝御飯の用意でもしましょうか」
その後、霊夢も続くように部屋から出て行き、台所へと向かう。
朝食の内容は、ご飯に沢庵と焼き魚、そして味噌汁である。
豪勢と言うわけではないが、霊夢1人の時よりも一品程増えているのは、他に食べる人間が居るからか。
「クンクン、いい匂いー」
「コラ。はしたないから、犬みたいに匂いを嗅ぐんじゃない!」
「えー」
「えー、じゃないわよ。ほら、運ぶのを手伝いなさい」
「はーい!」
途中で顔を洗い終えた霊和も合流し、2人で朝食の準備を行う。
そして、数分後には質素ではあるが温かな食卓が完成する。
「いただきまーす!」
「頂きます」
満面の笑顔で手を合わせる霊和を、どこか穏やかな表情で見つめる霊夢。
姉妹というよりは、母子のように見える関係であるが、あくまでも霊夢は姉と呼ばせている。
理由は、嫁入り前に母と呼ばれるのが何となく嫌だったからだ。
何だかんだ言って、霊夢も年若い女の子なのである。
「そう言えば、昨日は魔理沙の所で何してたの?」
「最初は実験に使うキノコを探してたんだけど、途中からサニーちゃん達と会ってキノコ狩り対決してた」
「対決? 妖精達と拾った数でも競ってたの?」
「サニーちゃんは数。ルナちゃんは大きさ。スターちゃんは珍しさ。私は速さで競争してた」
「……それ、勝負になるのかしら?」
味噌汁を飲みながら、果たして勝敗がついたのかと悩む霊夢だったが考えるのをやめる。
基本子供な思考能力しかない妖精と、子供の霊和。
きっと、対決するという言葉だけ聞いて、そのまま飛び出していったのだろう。
「で、楽しかった?」
「うん! 楽しかったよ!」
「そう……」
何より、ニコニコと笑う妹の顔を見れば楽しかったことは分かる。
遊びなのだから、楽しければそれでいいだろう。
「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末様でした」
「それじゃあ、
姉妹の緩やかな食事も終わり、完全に目が覚めた霊和はせわしなく動き始めようとする。
が、霊夢がそこに待ったをかける。
「ちょっと待ちなさい。あんた髪の毛が寝起きのままじゃない」
「あ、忘れてた」
「ほら、結んであげるからこっちに来なさい」
ポンポンと膝元を叩いて霊夢が呼ぶと、霊和は素直にその場所に腰を下ろす。
「まったく……面倒くさいなら髪を短めに切ってあげるわよ?」
「うーん……」
妹の髪を弄りつつ、霊夢は毎朝同じようなやり取りをしているなと苦笑する。
一方の妹は霊夢からの提案に百面相しながら考えているらしく、首がフラフラと動いている。
「こら、ジッとしてなさい。変な髪形になるわよ」
「うん……やっぱり、今のままが良いや!」
「そう? 短いのも似合うと思うわよ」
最後にお揃いの赤いリボンを巻いてあげ、妹の頭を軽く撫でる霊夢。
そんな姉に対して、霊和は振り返って満面の笑みで答えを返す。
「ううん。やっぱり、おねーちゃんとお揃いが一番だもん!」
「そう……まあ、好きにしなさい」
妹の満面の笑みに対し、霊夢は素気のない態度で返事を返し、ポンと彼女の背中を押す。
「ほら、もう行っていいわよ」
「ありがとうね、おねーちゃん! 行ってきます!」
素気のない姉の反応にも、特に気にすることなく霊和は外へと駆けだしていく。
その後ろ姿が見えなくなるまで見つめた後、霊夢は顔を抑えてポツリと呟くのだった。
「………顔、ニヤけてないわよね?」
この少女、結構な姉バカである。
しかし、根の性格があまり素直でないために、好意を表に出しづらい。
そのため、嬉しいことを言われても、いつもそっけない態度を取ってしまうのだ。
そう、霊夢はツンデレなのである。
「あんまり甘やかすのはダメだけど、髪とか服を揃えるぐらいは別に問題ないわよね? 別にお金がかかってるわけじゃないんだし。それに服だって偶々私のお下がりの巫女服を着させてるだけなんだから、別に私もお揃いが良いなとか思ってるわけじゃないし……うん、そうよね」
1人でブツブツと理論武装を組み立てる霊夢。
ハッキリ言って、その姿はとてつもなく怪しい。
誰かに見られれば間違いなく黒歴史コースだ。
「別に隠さなくてもいいじゃない。お揃いの服なんて今の内にやっておかないと、そのうち反抗期が来て着てくれなくなるわよ? うちの妹みたいに」
「わ、私は霊和がやりたいって言うから、仕方なくやってるだけよ……て、あんたは!」
そして、そんな姿を誰かに見られるのがこの世のお約束である。
霊夢は錆びたブリキ人形のように、ギギギと首を動かして声の主を睨む。
「レミリア!? なんでこんな所にいるのよ!」
「何でとは失礼ね。神の家は万人に開かれてるんじゃないのかしら?」
「人は受け入れても、妖怪はお断りよ」
「それは残念ね。妖怪が消えたらこの神社からあなた以外の人間が消えるわ」
まるで今まで飲んできた血を示すかのような真紅の瞳に、トルコ石色の髪。
それを際立たせる死体のように白い肌と、幼いながらも妖艶な美貌。
吸血鬼レミリア・スカーレットはクスクスとあどけない表情を浮かべて笑う。
「そんなことより、どういう用件で人の家に上がり込んでるのかしら? 霊和の件と言い、あんたには
「怖い怖い。まあ、別に何かしに来たわけじゃないわよ。私が灰になったとき霊和が泣きそうだったから、早く元気な姿を見せた方が良いと思っただけよ」
小さく肩をすくめて静かな声で語るレミリア。
霊夢は訝し気に相手の心を見通すかの如くそれを睨んでいたが、やがて溜息をこぼす。
「……そう、信じてあげるわ」
「あら? 意外と簡単に信じてくれるのね」
「別に。このまま話していても埒が明かないと思っただけよ」
レミリアの言葉に嘘がないと思ったとは言わない。
それは霊夢がただ単に素直でないという理由だけでなく、妖怪と精神的に近くなってしまうのを防ぐためでもある。
「でも、あの子の血を吸おうとしたのは別よ。妖怪が人間を襲うのなら、私はそれを退治する巫女。あの子が許しても、幻想郷の守護者がそれを見逃すわけにはいかない」
「とかなんとか言って、本当は妹が大切なだけでしょ? 分かるわ、その気持ち」
「うるさい!」
格好をつけて、レミリアを脅す霊夢だったが、図星を突かれて赤面する。
当然、仕置きとばかりにお祓い棒をレミリアに振り下ろすが、冷静を欠いたそれが当たるわけもない。
うんうんと、無駄に芝居がかった表情で頷くレミリアに簡単に躱されてしまう。
「そんなに怒らないでいいじゃない。私も霊和のことは気に入ってるんだから、傷つけたりはしないわよ。血だって、ほんのちょっと貰えればそれで良かったんだし」
「どうせなら体全体が灰になればよかったのに……」
「そこまで行くと復活に時間がかかりそうね」
仮にも腕が灰になったにも関わらずに、堪えた様子を見せないレミリアに霊夢は肩を落とす。
人間ならば、自分に危害を加える者は嫌うはずだが、妖怪は逆。
生まれながらに強者が故に、自分達へ歯向かう人間に逆に好意を抱く。
その性質故に霊夢や魔理沙は妖怪から気に入られてしまっているのだ。
「はぁ……灰になると分かって血を吸いに行くあんたも相当ね。何がしたかったのよ?」
「フフフ……それは勿論、太陽を克服するためよ」
「はあ? 太陽の克服?」
太陽に弱い吸血鬼の口から出た言葉に、霊夢は怪訝な声を出す。
「そうよ。お日様の下を歩けないなんてつまらないじゃない」
「それ、吸血鬼が言う?」
「吸血鬼だからこそ言うのよ」
太陽の克服。
まさに吸血鬼としての在り方に、真っ向から喧嘩を売る行為に霊夢は呆れるしかない。
妖怪とは弱点とセットだからこそアイデンティティを保てる存在だ。
それが弱点を克服してしまえば、既にそれは吸血鬼ではないだろう。
「出来るわけないでしょ、そんなこと。大体、克服したいだけならそこら辺で日焼けでもしてきなさい」
「あら、どこぞの狂信者曰く、神は乗り越えられない試練を与えないらしいわよ? それと日焼けはお肌に悪いから遠慮するわ」
暗にさっさと諦めて霊和にまとわりつくのはやめろという霊夢だが、レミリアには無意味だ。
むしろ、ニヤニヤと煽るように霊夢を見つめてくる。
「それに外から浴びるのがダメなら、内側から克服するのが道理ってものでしょう? 神の子も『わたしの血を飲んだ者に宿る』って言ってるぐらいだし」
他者の血肉を取り込むことで、その者の力を引き継ぐ。
実に妖怪らしいやり方で太陽を克服しようとしているレミリア。
それに対し、霊夢は1つ小さく息を吐き、目を鋭く細めてレミリアを睨みつける。
「レミリア、これだけは言っておくわ。
私の妹を傷つける奴は、神だろうが妖怪だろうが容赦なく……叩き潰す」
まさに視線だけで人を殺せるような眼光を見せる霊夢。
さしものレミリアもこれには、笑みを引っ込めて真面目な顔で彼女を見つめ返すしかない。
「……まるで子を守る母獅子ね」
「姉よ。まだ、母親って年齢じゃないわ」
「はいはい、そういうことにしとくわ」
降参降参と、大げさに肩をすくめてみせるレミリア。
そんな彼女を霊夢はしばらく睨むように見つめていたが、やがてフイと目を逸らす。
「肝に銘じておきなさい。私は博麗の巫女であんたは妖怪だっていうことを」
「フフフ、神ですら叩き潰すって言う巫女の言葉とは思えないわね」
「ただ神に仕えるだけが巫女じゃないのよ。悪さをしたら叱るのも巫女の役目」
「そうね、そう言うことにしておくわ」
話は終わりだとばかりにスッと立ち上がり、使い終わった食器を片手にに台所に行く霊夢。
レミリアの方もこれ以上粘る気はなかったのか、優雅なお辞儀を残して部屋から出て行く。
「さて、霊和の方に行かせた咲夜は上手くやっているかしら」
何やら不穏なことを呟きながら。
「可愛がって来なさいなんて、お嬢様も随分と
吸血鬼に仕える
主であるレミリアが突拍子もないことを言いだすのはいつものことだが、曖昧な指令は輪にかけて面倒なものだ。
「言葉通りに可愛がればいいのか、深読みして苛めたらいいのか……どっちがいいのかしら」
子供相手に非常に物騒な言葉を吐きながら、銀髪青眼のメイドは神社へ続く階段を上る。
彼女に下されたオーダーを遂行するために、1人淡々と。
「さてと、いつもこの時間は掃除をしてるらしいのだけど」
階段を登り切り、キョロキョロと境内を見渡す咲夜。
すると、すぐにターゲットを見つけることに成功した。
何故か、しゃがみ込んで何かを熱心に見つめている状態だったが。
「箒を持っているということは掃除中よね……サボるのはダメね」
恐らくは掃除中に別の何かに興味が移ったらしい霊和に、咲夜は軽く溜息を吐く。
メイド長という仕事柄、彼女はそういったことが見逃せないタイプなのだ。
「霊和、何をしてるのかしら?」
「アリ」
「蟻?」
子供らしい、要領を得ない単語に咲夜が地面に目を落とすと、そこにはせっせと虫の死骸を運ぶ蟻の行列が居た。
「……蟻の行列を見てたの?」
「うん。巣がどこにあるか知りたいから」
「ああ……家の妖精メイドも同じことをしないように気をつけないと」
普段の活発さはどこに行ったのか、こちらを見ようともせずに真剣な眼差しで蟻を見つめる霊和に咲夜は思わずため息を吐いてしまう。同時に、子供と思考が近しい妖精メイドへの対処に頭を悩ませるのだった。
「いっちに…いっちに…」
しかし、霊和にとってはそんな咲夜の悩みなど知ったことではない。
しゃがみ込んだまま、蟻の行列の動きに合わせてジリジリと移動していく。
その様子を見て、咲夜はまた1つ溜息を吐いてから決めるのだった。
今から存分に可愛がってやろうと。
「はぁ…霊和。掃除をサボるのは感心しないわね」
「むー、これを見終わったらやるもん」
「蟻の歩く時間に合わせてたらお昼になるわ。そうなったら、霊夢が怒るわよ?」
「……おねーちゃんが?」
霊夢の名前が出たことで、初めて蟻から目を離し咲夜を見上げる霊和。
「『いつまでやってるつもりよ!』って風に怒るんじゃないかしら?」
「お、おねーちゃんはそんなことで怒らないもん!」
「本当にそう思う? 声が震えてるわよ」
「……やっぱり怒るかも」
「でしょ?」
何だかんだ言って喜怒哀楽を表に出しやすい霊夢を思い出し、霊和は目を伏せる。
そんな彼女の様子に咲夜は悪いと思いながらも、これなら説得が成功しそうだと内心で笑う。
「ほら、怒られたくなかったら先に掃除を済ませなさい」
「でも、掃除って時間がかかるし……」
「効率的にやればすぐに終わるわ」
大好きな姉に叱られたくないという思いから、掃除をしなければと思う霊和。
しかし、まだ蟻の行列への未練を捨てきれずにチラチラと足元に目をやっている。
そんな様子に、一体、蟻の何が子供を引き付けるのかと疑問に思う咲夜だったが、自分の進めたい方向に話が進んでいるので気にしないことにする。
「こーりつてき?」
「そうよ。パッと見た感じだと、あなた目についた所からやってるわね?」
「うん」
「それじゃあ、ダメね。掃除は何度も同じ所を行ったり来たりするものじゃなくて、一筆書きでやっていくものなのよ。そうすればこんな風に…」
パチンとこれ見よがしに指を鳴らして見せる咲夜。
すると次の瞬間には、箒を片手に落ち葉の山の隣に立つ咲夜の姿があった。
因みに綺麗なドヤ顔である。
「あっという間に掃除は終わるわ」
「すごーい! まるで時間が止まってたみたい!」
「どうかしら? これが効率を極めた結果よ」
すっかり蟻のことなど忘れたかのように、目を輝かせて咲夜を見つめる霊和。
そんな姿に咲夜は得意げに胸を張るが、内心は冷や汗ものである。
何故なら、彼女の能力で本当に時を止めて掃除をしていたのだから。
「私も咲夜お姉ちゃんみたいに出来るようになる?」
「ええ、あなたもたくさん掃除をすればこれぐらいは出来るようになるわよ」
真っ赤な嘘である。何だか心がチクリと痛む気がするが気にしない。
「する! お掃除する!」
「それじゃあ、みっちりと教えてあげますわ。でも、1つだけ条件があるわ」
「条件? なになに?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて尋ねてくる姿に、ホッコリとした気分になりながら咲夜は答える。
今までの過程は全てこのための伏線であり、主の願いを叶えるための策。
そう、全てはこの作戦のためにあった。
「私のことをメイド長と呼ぶこと。いい? メイド長よ」
「…? 良く分かんないけど分かりました! メイド長!」
『霊和メイド化作戦』である。
「私をメイド長と呼ぶのはお嬢様に仕えるメイドだけ。逆説的に言えば、私をメイド長と呼ぶのはお嬢様のメイド。つまり、霊和はお嬢様のメイドになります。そうすれば、血を吸うのも気が向いた時に遊び相手をさせるのもお嬢様の自由……といった作戦です」
「咲夜、あなた天才じゃないの!?」
当然、そんな馬鹿げた作戦は、レミリアが霊夢にボコられることで失敗となるのであった。
因みにレミリアへの止めは、霊和の善意100%の太陽の抱擁だったとは咲夜の談である。
次回は三妖精と魔理沙との交流を書きます。
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