私は『レイワ』! 博麗霊和! 霊夢おねーちゃんの妹!! 作:トマトルテ
「しゅっちょう! 博麗神社ー!」
「里の人が神社に来るのが大変なら、こっちから出向けばいい。……なんで今までこんな簡単なことに気づかなかったのかしら」
太陽が燦々と降り注ぐ里の道を、お揃いの巫女服を着た姉妹が練り歩いている。
何事かと里人が見守る中、姉妹は背負っていた賽銭箱を下ろし、辺り一帯に声を張り上げるのだった。
「みんなー! 博麗神社に行きたいけど遠くて辛い。そんなことはない?」
「里の外は危険。でも、里の中なら安全。だから今日は―――出張、博麗神社を開きます!」
「かいさーい!」
2人でやけに高いテンションで声を張り上げるが、当然里人は呆気に取られているだけである。
誰もがどう反応するべきかと目配せをし合っているそんな中。
1人の少女が代表して進み出てくるのだった。
「霊夢さん…何やってるんですか……」
「あら、早苗じゃない。見てわからない? 出張博麗神社よ」
「いや、ダメに決まってるでしょ」
2人にツッコミを入れてきたのは
霊夢とは反対の青白の巫女服を着た守矢神社の巫女である。
「早苗お姉ちゃん、こんにちはー!」
「はい、こんにちは。いいですか? 霊和ちゃんは知らないかもしれないですが、お賽銭というのは神様にお願いした際のお礼です」
「当たり前のことを説明してどうしたのよ、早苗?」
「いや、だから神様にお願いするんですよ?」
やれやれといった少しイラつくような表情で説明をしていく早苗。
新緑の髪につけている白蛇のアクセサリーも、どこか呆れたような表情をしている。
「お賽銭箱だけ持ってきても神様が居ないじゃないですか?」
早苗の指摘に村人達もうんうんと頷く。
神道は基本的に神社に神を招くのではなく、神が居る場所に神社を建てる。
場合によっては分霊によって移動することが出来るが、それでも御神体は必要だ。
しかしながら、2人は御神体を持ってきている様子ではない。
そもそもの話、霊夢自身が自分の神社の御神体を知らない。
そう考えれば、2人のやっている行為は詐欺も良いところである。
「あら? 神様が居ないっていつ言ったかしら?」
「……御神体を持ってきてるんですか?」
「チッチッチ、頭が固いわね」
「うわー、何ですかそのイラってくるドヤ顔は」
しかし、早苗の指摘にも霊夢は全く慌てない。
それどころか、仕返しとばかりに慈悲のあるドヤ顔をお見舞いする。
「ここには神を降ろせる巫女が居るのよ? 神の一柱、二柱ぐらいすぐ用意できるわ」
「いやいやいや! 神様をそんなデリバリー感覚で呼んだらダメですって!?」
「そう言われても、もう準備は終わってるみたいだし……霊和」
「はーい、おねーちゃん」
巫女のくせに神をこき使う気満々の霊夢に、根が真面目な早苗は抗議の声を上げる。
だが、時すでに遅し。
神はここに居るというパフォーマンスのために、霊和が何やら準備を始める。
「じゃーん! ここにおみくじ箱があります」
「そして今からこの中に10枚のくじを入れます」
「大吉は10本中3本だよー」
霊夢が最初に早苗に一本ずつ不正がないかを確認させる。
不正がないと確認されたくじは、『おみくじ』と可愛らしい字で書かれたお手製の箱の中に入れられていく。
「さあ、今からこのおみくじを3人の人に引いてもらいまーす」
「3人連続で大吉を出したら、ここに神様が居るって信じてもらうわよ」
「おみくじ引きたい人きょしゅー!」
ガシャガシャと箱の中身を揺らしながら、霊和が村人達に近づいていく。
突如の行動に初めは戸惑っていた村人達だが、威勢の良い若者達が名乗り出てくる。
「それじゃあ、どーぞ」
精一杯に背伸びをして箱を上に差し出す霊和に、慌てて自分達が腰を屈めながら村人達がくじを引いていく。そして、その結果は。
「おめでとうございまーす! みんな大吉だよ!」
当然の如く3連続で大吉である。
「じゅ、10分の3を連続で引くから確率は……0.8%。ぐ、偶然という可能性もありますね」
「そーう? じゃあ、もう1回やろっか」
早苗の苦し紛れの発言に対し、霊和はニコニコと笑ったままくじを回収し再び箱の中で混ぜる。
そして、今度は別の村人達に引かせていくが。
「はい、みんな大吉ー」
今度もまた3連続で大吉が出るのであった。
流石にここまで来ると、村人達も騒めき始めてくる。
「どう? これでもここに神様が居ないって言うつもり?」
「う……さ、最後に箱の中を確認してもいいですか?」
「神に仕える巫女が信じることを放棄するなんて、実に嘆かわしいわね」
「科学的と言ってください!」
それでも早苗は言い出した手前、引くことが出来ずに最後の確認を申し出る。
「早苗お姉ちゃん。開けて見るのはいいけど、引くのはやめてね」
「! もしや、そこに仕掛けが…!?」
「ううん。だって、今引いたら早苗お姉ちゃんが大吉が引けなくて可哀そうだから」
ズキリと早苗の良心が痛む。
自分はこんな良い子を疑っているのかと、自己嫌悪に陥るが後には引けない。
箱をひっくり返して、残っている7本のくじを確認する。
「………大吉は一本も無い。後は吉と凶だけ」
「みんな凶を引かなくてよかったねー」
ニコニコと自分に笑いかけてくる霊和に、早苗は完全敗北を認める。
それと同時に村人達から、大きな歓声が上がる。
そして、このタイミングを逃す霊夢ではない。
「さあさあ! お賽銭を入れて祈れば今日一日の運勢は大吉間違いなしよ!!」
今日一番の声を張り上げて集まった観客達を煽る。
それを機に、堰を切ったようにお賽銭が投げ込まれていく。
「みんな、ありがとー。それと今なら幸運のお守りも売ってるよー」
ついでに霊和がいそいそと手作りのお守りを取り出して、販売を始める。
そんな光景をどこか呆れたような表情で眺めながら、早苗は小声で霊夢に囁きかける。
「……霊和ちゃんってどこかの誰かに似て商魂逞しいですね」
「家はお小遣い以上にお金が欲しいなら、自分で稼ぐのが教育方針なのよ」
「初耳ですね。それと皮肉で似てるって言ったのに嬉しそうにしないでください」
「な! べ、別に嬉しそうになんてしてないわよ!!」
「はいはい、ツンデレ乙」
「乙…?」
乙の意味が分からずにキョトンとする霊夢に、早苗はそこはかとないジェネレーションギャップを感じて何とも言えぬ気持ちになるが、霊夢の怒りが収まったので良しとする。
「それで、どの神様を降ろしたんですか? 幸運とか言ってますし、七福神の誰かですか?」
七福神とは運を司る7柱の神様の総称であり、仏教や道教と神道が混ざり合った姿でもある。
例を挙げるとすれば、大黒天は仏教の『大自在天』と神道の『大国主』が同一神として信仰された結果であるとされる。
何はともあれ、早苗は福の神を降ろしたので幸運が上がったのだろうと思ったのだった。
が、しかし。
「さあ? 私は何もしてないわよ」
霊夢はあっさりと何もしてないと言うのだった。
「……え? でも、神を降ろすとか言ってませんでした?」
「まあ、言ったけど、縁も所縁もない神様は練習しないと降ろせないわよ。おみくじだって最初からパフォーマンス目的として持って来たんだし」
「さっき言ってた準備って……やらせの準備ですか…?」
一杯食わされたのかとジト目で霊夢を睨む早苗。
そうすれば霊夢は目を逸らして、下手な口笛を吹く。
と、思っていたが現実は違った。
「だから、私は何もしてないわよ。あのおみくじは霊和の手作りだもの。早苗、あんたは霊和がそんな汚いことをする子に見えるの?」
「見えません。だからそのナイフみたいに構えたお祓い棒を退けてください」
相手を責めていたと思ったら、何故か逆に脅されているという状況に早苗は目を白黒させる。
というか、こんなのが育ての親だから疑ってしまうのだろうと思ってしまう。
「でも、何もしてないって言うなら、どうやってあんな芸当を…?」
「さあ? 私はあの子が『私が居れば大丈夫』って言うから何もしなかったけど、あの子が自分で適当な神様でも呼んでたんじゃないの?」
「さっき縁も所縁もない神様は、練習しないと無理って言ったばかりじゃないですか」
「あら、あくまでもさっきの話の主語は私よ」
ほら、何も矛盾していないと、何故かニヒルな笑みを浮かべて見せる霊夢。
そんな顔に思わず弾幕をぶつけてやりたいと早苗が思ってしまうのも、無理らしからぬことだろう。
「七つまでは神の子。小さな子供の方が神様と近いんだから、簡単に呼べるんじゃないの?」
「まあ、穢れを知らない子供を神に仕えさせるのは普通のことですけど……」
チラリと、忙しそうにお守りを売ったり、里の年寄りに頭を撫でられている霊和を盗み見る早苗。一応、現人神である彼女から見ても、霊夢と霊和なら妹の方に力を貸したくなるのは間違いない。子持ちの神様なら何もしなくても力を貸してしまいそうだ。
しかし、やはり気になることがあるとすれば。
「その神様はどこに居るんでしょう…?」
霊和に力を貸している神の姿を感じ取れないことだ。
巫女であり、現人神である彼女ならば、余程隔絶した力の差でもない限り神の存在に気付ける。
だというのに、いくら探しても霊和の周りには神の姿はない。
力だけ貸してさっさと帰っていったのか、果てはとんでもなくマイナーな神で早苗でも気づかないのか。
色々と考えてみるがやはり分からない。
「神様が居ないとなると、まさかの偶然?」
「いつまで考えているのよ。分からないことを考えたって意味ないでしょ」
「私、理系なんで解の無い謎が嫌いなんです。小説でも読者の想像にお任せラストとか凄くモヤモヤします」
「唐突に話題が飛ぶあんたも、私からするとモヤモヤするけどね」
許せないとばかりに腕を組む早苗に、呆れた息を一つ吐き霊夢は霊和の下に向かう。
「どう? ちゃんと頑張ってるかしら」
「あ、おねーちゃん! 見て見て! おにぎり!」
霊夢が向かった先では、何故か霊和が嬉しそうに食べかけのおにぎりを掲げていた。
その様子に霊夢は、お弁当なんて持たせていただろうかと首をひねる。
「おにぎり…? 誰かから貰ったの?」
「変な黒い服を着た人ー」
「変な黒い服……誰かしら」
「あと、タクワンももらったー」
はて、変な黒い服を着た人とは何者だろうかと考えるが思いつかない。
家計的には助かるが、知らない人からの贈り物というのは怖いものだ。
なので、霊夢は姉らしく霊和に忠告することにする。
「いい、霊和? 知らない人から貰ったものは食べちゃだめよ」
「でも、おねーちゃんも知らない間に奉納されてるお酒を飲んでるよね?」
「あ、あれは神様に捧げるものだから、安全なはずだし……」
そして、予想だにしていなかったカウンターパンチを食らってしまい、震え声になる。
博麗神社は外の世界との境界に建つ影響から、誰が置いたかも分からぬ奉納品が結構な割合で現れるのだ。それこそ、瞬間移動でもしてきたかのように。
ありていに言って怪しいし、その様子を見た三妖精が思わず悲鳴を上げたほどにホラーだ。
しかし、霊夢は大して気にせずに臨時収入とばかりに普通に利用する。
勝手に供えられていた御神酒で、酒盛りをした数は両手足の指では数え切れぬほど。
とてもではないが、霊和を叱ることなど出来ない。
「それにこれも神様への捧げものだから大丈夫だよ」
「おにぎりが?」
「お賽銭は元々はお米だったってことですよ、霊夢さん」
霊和の物言いに疑問符を浮かべる霊夢の下に、早苗がドヤ顔で語りかけてくる。
どうやら、先程霊夢にドヤ顔をされた仕返しのつもりらしい。
「賽銭の“賽”は神様から福を受けたのに対して、感謝して祭るという意味を持つんです。そしてこの福は、多くの場合で稲の収穫のこと意味します。だから、神様のおかげで収穫できたことを感謝するために、お米をお供えしたことがお賽銭の起源と言われています」
「ああ……そう言えばそんなことも聞いたことがあるわね」
ペラペラと覚えたての知識を披露する子供のように語る早苗に、面倒くさそうに頷きつつ、霊夢はそんな話もあったなと思う。
「他にも説があって、こちらは
段々と天狗鼻になっていく早苗の
しかしながら。
「あら、霊和。ほっぺに米粒がついてるわよ」
「おねーちゃん、とってー」
「もう……しょうがないわね」
「――て、私の話聞いてます!?」
博麗姉妹にとっては全く興味の無いものだったらしい。
妹は夢中でおにぎりにかぶりつき、姉はそんな妹の世話に夢中になっている。
「人が一生懸命説明しているのに、なに心温まるホームドラマみたいなことしてるんですか!?」
「うるさいわね。下らない
「酷い!? 私にも霖之助さんにも全方位に対して酷い!!」
当然、早苗が抗議の声を上げるがシスコン(自覚無し)の霊夢が取り合うはずもない。
綺麗に米粒をとってあげた妹の頭を撫でるのに大忙しなのだ。
「早苗お姉ちゃん、叫んだら近所めーわくだよ」
「う…うわーん! 諏訪子様に言いつけてやるー!」
そして、止めは何をやっているだろうという幼女の呆れた瞳である。
グサリと心に何かが刺さったような感覚を覚えて早苗は、逃げるように駆け出していく。
「何をとち狂ったのかしら、早苗は……」
「分かんない。あ、そうそうおねーちゃん」
「なに?」
これだから青白の巫女は、と呆れた様子も隠さずに早苗の後姿を見つめる霊夢。
そんな彼女の裾をクイクイと引き、霊和は無邪気な顔で尋ねる。
「お賽銭箱がいっぱいになったらどうしたらいいの?」
「霊和。私は今夢を見てるみたいだから、力一杯にお姉ちゃんを殴りなさい」
「おねーちゃん!?」
こうして、幻想郷の巫女は皆とち狂ってしまったのだった。
「というわけで、慰めてください、諏訪子様」
「いや、なに子供に言い負けてんのさ?」
「だってー!」
ここは妖怪の山にある守矢神社。
早苗の家であり、信仰する二柱が住まう場所である。
「あんな純粋な目で、叫んだら近所迷惑なんて言われたら……何も言い返せるわけないじゃないですかぁ」
「ド正論過ぎるね。というか、早苗も大人なんだから素直に謝ればよかったでしょ」
「いや、その……なんかノリで逃げてきました」
「実は全く堪えてないでしょ、あなた」
よよよと泣いているようなポーズを見せる早苗に、呆れた視線を向けるのは
見た目こそ金髪ロリータな幼女だが、その実数千年を生きる神だ。
そして、色々あって2人の神が祭られているこの神社の、影の御祭神である。
「まあ、霊和ちゃんの呆れた視線には傷つきましたけど、そこまでへこんではいません。たかがメインカメラがやられた程度です」
「絶対、それが言いたかっただけでしょ。まあ、カッコいいのは認めるけど」
諏訪子は数千年の時を生きる神だ。
しかし、つい数年前まで外の世界に居たという経歴から現代知識にも秀でている。
もっとも、ロボットネタに関しては早苗の趣味の影響が大きいのだが。
「あ、ところで諏訪子様。唐突ですけど私達も出張守矢神社やりません?」
「本当に唐突だねぇ。まあ、却下だけど」
「凄いあっさり却下しましたね!?」
考える素振りすら見せない否定に、ガーンと一人で効果音をつけてへこむ早苗。
まあ、ものの数秒もせずに復活するのだが。
「やっぱり二番煎じはダメですか?」
「そういうのじゃなくて、神が人間の下に足を運ぶなんてのはおかしいだろう? あくまでも人の上に立つからこその神様だよ。親しみやすい神様ってのも嫌いじゃないけど、畏れを維持するためには身近過ぎるのは都合が悪い。里の中に分社でも建てられればいいけど、あそこは龍神やら妖怪やらで色々と勢力関係が複雑だからねぇ……」
世知辛い世の中になったものだと、どこか達観したような表情で語る諏訪子。
そんな彼女の話を聞きながら、早苗はふと思うのだった。
「そう考えると、今日降りて来ていたのは昔から信仰されている神様なんですかねー」
巫女らしくない馬鹿げた行動に付き合ってあげる程だ。
きっと、昔から里の人間を見守ってきた生粋の人間好きの神様だろうと。
「おみくじが全部大吉になったんだっけ?」
「はい。みんなが幸運になったので、七福神の誰かかなと思ったんですけど、良く分かんなかったんですよね」
「ふーん……そういや、運気を上げると言えばあそこの神もいるね」
早苗の話に、どこか古ぼけた記憶を探りながら諏訪子は口を開く。
「どこの神様ですか?」
「えーと……確か、そこに行ったら運気が最高になるとか、大吉以外ありえないから、おみくじは置いてないとかあった気が」
「それって、もしかして……」
見た目は若くとも、悠久の時を生きてきた脳みそはそうはいかない。
諏訪子は膨大な記憶の中から苦労しながら、お目当てのものを見つけ出し告げる。
日本最高の聖地と言っても過言ではない場所の名を。
「ああ、そうそう―――
東方茨歌仙が遂に終了しましたね……。
華扇ちゃんが恋しくて仕方ないので、腕華扇ちゃん・仙人華扇ちゃん・パーフェクト華扇ちゃんの3人に切り分けて『三等分の鬼嫁』というタイトルのラブコメ作品を書きたくなりました。
まあ、書けるかどうかわかりませんけど。