私は『レイワ』! 博麗霊和! 霊夢おねーちゃんの妹!! 作:トマトルテ
「なあ、霊夢。
「はぁ? 神様の側面の1つに決まってるでしょ」
「いや、そのぐらいは分かってるんだが、詳しくは知らなくてな」
「まあ、別に教えても良いけど……急にどうしたのよ?」
日照り続きによる暑さから少しでも逃れるために、団扇を仰いでいた手を止め霊夢は魔理沙に怪訝気な表情を返す。
「いや、こうも暑いとお天道様が荒ぶってるのかと思ってな」
「そんな夏にはしゃぎまわる子供じゃないんだから……」
苦笑しながら答える魔理沙に、霊夢は遂に暑さで頭がやられたかと白い目を向ける。
しかし、一度教えると言った手前か、単純に暇だったのか、溜息を吐きながらも素直に語りだす。
「はぁ…まず神様の魂は『
「ああ」
霊夢の説明にどこか神妙な表情を見せながら頷く魔理沙。
彼女もまた、照り付ける太陽の熱から逃れるための団扇を止めている。
「
「つまりどういうことだ?」
「ぶっちゃけて言えば、人間にとってのメリットとデメリットよ。あの新しく幻想郷に来た守矢の祟り神が良い例じゃない。自分を奉る間は人間を守るけど、それをやめたら祟るってやつ」
どこかの神社で神様がくしゃみをしているような気がするが、霊夢は気にせずに話を続けていく。
「なるほどな。でも、なんで一緒の神として考えてるんだ? 別々の神様として良いんじゃないのか。幸福の神と災いの神みたいにさ」
「もちろん、分けられてるのも居るわ。でも大体は……そうね。魔理沙、晴れの日の川を思い浮かべてみなさい」
魔理沙からの疑問に対して、霊夢は何を思ったのかそんなことを返す。
おかしな命令だと思う魔理沙だったが、逆らうことなく素直に目を閉じてイメージを浮かべる。
彼女の頭の中に穏やかな川の流れが再現される。
ついでにこの前の三妖精達と霊和が出てくるが、今は気にすることではない。
「したぞ」
「じゃあ、今度は雨の日の……大雨が降った後の川を思い浮かべなさい」
今度は轟々と音を立てて荒れ狂う川が姿を覗かせる。
慌てて頭の中で霊和達を避難させてから、納得したように頷く魔理沙。
何か、目的が変わってきているような気もするが気にしない。
「さて、ここで質問よ。その川は同じもの?」
「まあ、見た目はともかく同じ川なんだから、そりゃ同じ……なるほど、そういうことか」
ここに来て魔理沙は霊夢が言わんとしていることを理解する。
一見すれば同じ場所・ものとは到底思えない。
しかしながら、穏やかだろうが激しかろうが川は川でしかないのだ。
「そういうこと。普段は穏やかな川も、洪水を引き起こす川に変わることがある。これが『
「自然は時と場合で敵にも味方にもなるからな。だから2つの側面なのか」
「基本的に神は自然現象の具現化でしかないもの。そう考えたら同じ面しか持ってない方がおかしいでしょ?」
霊夢の説明にうんうんと頷く魔理沙。
神話などで同じ神なのに、大らかだったりキレやすかったりするのはこの影響だ。
彼は海を修める神としての側面を持つ。
それを証明するかのように、天照を引き篭もらせるレベルで暴れたかと思うと、八岐大蛇を退治する英雄性を見せる。
これは荒れ狂う水の恐怖を表すとともに、蛇という水を従える姿を現しているのだ。
「結局のところ、信仰なんてものは畏れがないと始まらないのよ。人は荒れ狂う川や海を見て、それを抑えるために祀る。そして神は祀られた見返りに川の幸などを与える。
「どっちかというとヤクザへのみかじめ料じゃないか? 被害を受けたくないなら貢物を持って来いってやつだ」
「言われてみると……」
そうかもしれないと、霊夢はサングラスをかけて人を威圧する守矢の祭神を思い浮かべながら思う。
「そう考えると、妖怪の山の
「そういや、そんな奴もいたな。しっかし、聞いた私が言うのもなんだがよく喋るな霊夢。普段なら適当に説明して終わりなのにさ。ああ、これが霊夢の和魂ってやつか」
「普段の私が荒魂とでも言いたいの?」
「頭の冴えもいつも以上だ」
「魔理沙!」
カラカラと笑う失礼な魔理沙に、団扇を打ち付ける様に振るうが同じく団扇で防がれてしまう。
その後、しばらく一進一退の攻防を繰り広げていたが、やがてどちらからともなく手を止める。
「……暑いからやめましょ」
「そうだな……悪かったよ」
2人してちゃぶ台の上に突っ伏しながら和睦を行う。
そんなことをしながら、魔理沙はこの姿は子供には見せられないなと、なんとなしに思い。
「ん? そう言えば霊和はどうしたんだ」
「お昼ご飯前には帰って来るって言って遊びに……魔理沙、今何時?」
「大分、話してたからな。いつもなら昼を食べてる時間かもな」
問われた霊夢は、一気に覚醒して時計を睨みつける。
いつもなら霊和がお腹を空かして帰ってくるような時間だ。
だが、今日はまだ戻ってきていない。
「……ちょっと遅いわね、あの子」
何もなければいいのだがと、霊夢は燦々と日が差す外を見ながら呟くのだった。
厄神様のお通りだ。
逃げろや、逃げろや、不幸にならないうちに。
厄神様のお通りだ。
厄神様のお通りだ。
見るなや、見るなや、穢れてしまわないように。
厄神様の通る道に運という運は無し。
幸も不幸も、まとめてあつめて、力に変えましょう。
人の子に厄が帰らないように。
厄神様のお通りだ、厄神様のお通りだ、厄神様のお通りだ。
「……うーん、ちょっとリズムがおかしいかしら。もっと、こう…明るい感じで歌いたいわね」
ゴスロリ衣装をした1人の少女が、歌いながら川辺を歩いている。
エメラルドグリーンの長い髪に、エメラルド色の瞳。
エメラルドの宝石言葉は『幸福・幸運』。
されど、彼女はその真逆の存在。
「厄神様のお通りだ。
厄神様のお通りだ。
捨てろや、捨てろや、穢れも厄もため込まないように。
厄神様のお通りだ。
厄神様の通った道に
罪も穢れも、まとめてあつめて、幸せに変えましょう。
人の里に厄が溜まらないように。
厄神様のお通りだ、厄神様のお通りだ、厄神様のお通りだ……」
彼女は厄をため込み、自らの力へと変える厄神。
人も妖怪も彼女に会えば、否、その姿を目に入れただけで不幸に陥る存在。
幻想郷における不幸の象徴。
その名前を
「2番はちょっとマーケティングが激しいかな? 『流し雛』が流行って欲しいのは山々だけど、ちょっと直球過ぎるかしら」
箇条書きにすれば、まさに邪神とも呼べるようなスペックとなる雛。
しかしながら、本人の性格は至って明るい。
少し強気で、人への思いやりがあり、人懐っこい。
まさに正統派ヒロインだと言いたくなるような完璧さだ。
「まあ、幾ら考えても、私の歌を聞く人間なんていないけどね。というか、居たら私が困るわ」
そう言って、本当に花が咲いたように笑う雛。
異性が見れば見惚れ、同姓が見れば庇護欲を掻き立てるだろう。
しかしながら、彼女の周りには男はおろか、虫や獣すらいない。
理由は単純。
「というか、厄神の歌って普通に呪いの歌みたいよね、あははは!」
雛が厄神様だからだ。
幾ら楽し気に笑っていたとしても、その身から溢れるどす黒い厄が渦巻いている。
動物達は本能で彼女を避け、人間は彼女を見ても無いものとして扱う。
数いる神・妖の中でも話題に出しただけで『えんがちょ』しなければならないのは、彼女ぐらいなものだ。
言わば、リアル『名前を言ってはいけないあの人』なのだ。
「でも、『流し雛』自体は流行らせないと、厄を回収できないし。それに里に厄が溜まり続けたら……
そう言って、若干憂いのある表情を見せる雛。
彼女は人間から避けられているし、信仰を受けているわけでもない。
だというのに、彼女は人間を守りたいと願っている。
厄を回収するのも、それらの厄が人間に戻らないようにするためだ。
故に、流し雛が形骸化し、厄を川に流さなくなった現状を憂いている。
「代々受け継いでいく雛人形は厄や穢れをため込み続ける。それだと、不幸はより大きくなるし、私の所に厄が来ることも少なくなる。無人販売所で流し雛を売るのも限界があるし、どうしようかしら」
可愛らしい小さな口に指を当て、悩む仕草を見せる雛。
誰も自分を見ている人間など居ないと分かっていても行う行為。
それは独り言のようなもので、誰かに見せる意図などないものだった。
だが。
「何か困ってるの? お姉ちゃん」
「どうすれば人里に厄が溜まらないか考えているの……て、あなたは?」
居てはならぬというのに、近づいてはならぬというのに幼い少女が声をかけてきた。
「私は霊和! 霊夢おねーちゃんの妹!」
「あの赤い通り魔の妹とは思えないほど良い子ね……私は鍵山雛、厄神様よ」
「雛ちゃんって言うんだね。可愛い名前だねー」
「あら、ありがとう。あなたの名前も素敵よ、霊和」
「えへへー」
人懐っこい笑みを浮かべて嬉しそうに笑う少女の名前は博麗霊和。
雛は姉に全く似ていない柔らかく温かな雰囲気に若干戸惑うが、すぐに気を取り直す。
霊和がなぜこんな所に居るかは分からないが、自分と関わっていい存在ではない。
だから、いけないと分かっていても雛は腰を屈めて視線を合わせて霊和に話しかける。
「さて、霊和。悪いことは言わないから『えんがちょ』をして、すぐにお家に帰りなさい。帰ってすぐにお祓いを受ければ、きっと不幸にはならないから」
自らを見た者は誰であれ、不幸になる。
だから、自分には誰も近寄らない。それが不幸だと思ったことはない。
でも、自分に会ったせいで誰かが不幸になるのは好きではなかった。
故に彼女は人間を拒絶する。不幸にならぬように打ち倒そうとする。
全ては人間を愛するが故に。
それは目の前の少女とて例外ではない。
雛は霊和が、厄に飲まれぬうちに返すことを決める。
「へーきだよ、私は」
「平気って……いいから言うことを聞きなさい。これはあなたのためなんだから」
しかし、霊和は雛の言うことを聞こうとしない。
これではいけないと、雛は若干口調を強めて霊和を追い返そうとする。
「しょうがないなー。ほら、見てて、雛ちゃん」
「待って! それは厄の塊だから触れたら――」
しかしながら、雛の言葉は届かずにあろうことか霊和は、雛の周りに渦巻く厄そのものに手を伸ばす。慌てて、雛が止めようとするが間に合うことはなく。
―――霊和の手に触れた厄が消し飛ばされる。
「……え?」
「ね? へーきでしょ?」
ニコニコと屈託のない笑みを雛に向ける霊和。
そんな少女の姿に、雛は呆然としながらも漠然と思うのだった。
まるで、太陽のような笑顔だと。
「……ああ、そういうことね。大河に毒を一滴たらした程度で、大河が毒に染まるはずもない。流されて消えていくだけ。太陽にコップ一杯の水をかけた程度で、その炎が消えるわけがない。近づく前に燃やし尽くされるだけ」
雛は理性ではなく、本能で理解した。
目の前の少女は、到底自分の力が及ぶ存在ではないと。
それはどれだけ厄をため込もうと同じことだ。
最初から器が違い過ぎる。
「それで、あなたは私を消しにでも来たのかしら?」
「むー、そんなことしないよー。私はね、雛ちゃんと」
そんな力の差を感じ取り、思わず棘のある言葉を使ってしまう雛。
その物言いに、思わず頬を膨らませる霊和だったが、すぐに笑顔を取り戻し手を差し出す。
「遊びに来たんだよ!」
満面の笑顔で差し出される小さな手の平。
握手を求めているというのは頭では理解できた。
しかし、雛の心は理解できていなかった。
「わた…し…と?」
「他に誰が居るの?」
「でも…私は……」
子供の小さな手が雛には途轍もなく恐ろしいものに見えた。
嫌われるのには慣れている。恐れられることにも何も感じない。
ただ、こうして掛け値なしの好意を向けられた時に、どうすればいいのか分からなかった。
「ねえ……どうして私と遊びたいの?」
「うーん、なんとなく雛ちゃんにはきんしんかん? があるの」
「きんしんかんじゃなくて親近感ね。間違えたらだめよ」
「それ! でも、他にも理由があって……」
呆れたようでいてどこか戸惑う表情を見せる雛を安心させるように、霊和は満面の笑みを浮かべて告げる。
「―――独りぼっちはつまんないでしょ?」
雛の心に巣くう闇を照らし出す言葉を。
「それは……」
雛は伸ばされた手を見る。
見ただけで不幸に見舞われるのだ。誰かと手をつないだことなどない。
そして、次に天を照らす太陽を見る。
大空にポツンと。月のように星々に囲まれることも無くただそこにある。
太陽はいつだって全てものを照らしてくれる。
平等に全てのものに愛を降り注いでいる。
だとしても、誰も寄り添うことが出来ない。誰も触れることが出来ない。
誰よりも人間を愛してると言うのに。
その手を伸ばせば全てを焼き尽くしてしまう。
「似ている…ね……」
ああ、それはなんと―――
「……そうね。独りぼっちは確かにつまらないわね」
寂しいことだろうか。
「うん。だから一緒に遊ぼ!」
「ええ、こんな私でよければ喜んで」
「じゃあなにしよっか! あ、その前に握手だね。友情パワー!!」
「フフ、なにそれ」
雛は迷いが晴れたように微笑み、腕の震えを抑える様にゆっくりと手を差し出す。
その手を、小さく柔らかい手が本当に嬉しそうに握り返してくる。
「それにしても……霊和の手って温かいわね」
「そう?」
「ええ、とても温かいわ。まるで――」
初めて握るかもしれない他者の手に、知らず言葉を震わせながら雛は思う。
触ることはおろか、見ることすらあたわない自分を遊び友達としたこの少女は。
「―――太陽みたいに」
神様みたいだと。
こうして彼女達は友となり、2人仲良く時間を忘れて遊んだのであった。
「それで? いつまで経っても帰って来ずに心配させたことに対して何か言うことはないかしら? 霊和」
「ごべんなじゃい!」
その後、心配して探しに来た霊夢にこっぴどく叱られ、泣きながら謝る羽目になった霊和だが、それが厄神様の起こした不幸かどうかは誰にも分からないとさ。
ちょいシリアス。
今回で霊和の正体に気付いた人も多いのではないでしょうか。
次回はカリスマお嬢とメイド服霊和(ここ重要)を書きたいと思います。