私は『レイワ』! 博麗霊和! 霊夢おねーちゃんの妹!!   作:トマトルテ

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六話:水の神

「あづーい……」

 

 セミの鳴き声がけたたましく響く博麗神社。

 じめじめと暑苦しく気力が奪われる中、霊和は手近な涼を求めて廊下に寝そべっていた。

 

「こら、霊和。だらしないから廊下で寝転がるのはやめなさい」

「でも、ヒヤヒヤしてるんだよー」

「そういう問題じゃないわよ」

 

 しかし、そんなはしたない行為を姉が許すはずもなく腰に手を当てながら叱りつける。

 だが、猫のように体を伸ばして全身で冷たい床を感じている霊和は動かない。

 声も頬を床に押し当てて潰れているせいか、どこかくぐもって聞こえる。

 

「ほら、いいから動きなさい!」

「いーやーだー!」

「まったくこの子は……手のかかる」

 

 手を引っ張って起こそうとする霊夢だが、霊和の方は梃でも動かぬとばかりに抵抗する。

 しばらくそのままの状態で拮抗していたが、不意に霊夢が溜息と共に手を放す。

 

「仕方ないわね。あんたはそこで寝ていなさい」

「おねーちゃん…?」

 

 突如として諦めた姉らしくもない行動に、霊和は首を起こし目をパチクリとさせる。

 その様子に霊夢は内心でほくそ笑みながら、なおも知らんぷりを続ける。

 押してもダメなら引いてみろという奴だ。

 

「お姉ちゃんは奉納品でもらったスイカを食べてくるから、霊和はそこに居るのよ」

「スイカ!?」

 

 ガバッとそれまでのごろ寝っぷりが嘘だったかのように起き上がる霊和。

 しかし、今更動き出した所で今までの行いは消せない。

 

「あら? 動きたくなかったんじゃないの?」

「う……」

「いいのよ、霊和の分は私が食べておいてあげるから。あんたはそこで寝てなさい」

「ううぅ……」

 

 そっけない態度を取りながらも、チラチラと霊和の様子をうかがう霊夢。

 目に涙をいっぱいに貯めながらプルプルと震えるその姿は、素直に言って庇護欲を誘う。

 しかし、ここで抱きしめてしまえば全てが台無しである。

 なので霊夢は心を鬼にして霊和の行動を待つ。

 

「……なさい」

「…………」

「ごめんなさい……もうしません」

 

 小さな手で裾をギュッと握りしめながら小さな声で呟く霊和。

 その声を聞いて、霊夢は頬を緩めて彼女の頭を優しく撫でる。

 

「はい、良く言えたわね」

「……もう怒ってない?」

「怒ってないわよ。ちゃんと謝れたんだからそれでいいわ」

 

 涙目のまま上目遣いでこちらを見つめてくる妹の姿に癒されながら、霊夢はさらに頭を撫でる。

 

「んっ、おねーちゃんクスぐったい」

「お仕置きよ。次やったら今度はほっぺを抓るからね」

「はーい」

 

 悪いことをしたら謝らなければならない。

 そんな当たり前で、とても難しいことをやり遂げた妹を、誇らしげに見つめた後に霊夢は頭を撫でていた手を妹の小さな手に持ち換える。

 

「さて、それじゃあ縁側で涼みながら食べましょうか」

「うん!」

 

 そして、姉妹並んで仲良く縁側に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「で、なんであんたが居るのよ、(ゆかり)?」

「おいしそうなスイカがあったからじゃ、ダメ?」

「あんたはカブトムシか!」

 

 2人がスイカの待つ縁側に出ると、そこには招かれざる来客が居た。

 霊和の名づけ親の1人である八雲紫。そして。

 

「あ、(ちぇん)ちゃんと紫さんだー!」

 

 紫の式である八雲(らん)の、そのまた式である猫又の(ちぇん)である。

 霊和は、緑の帽子とイヤリングがチャームポントの彼女を確認するや否や、駆け出していく。

 

「橙ちゃーん! 耳をモフモフさせてー!」

「フン! あんたに触らせる耳なんてないわよ!」

「えぇっ!? 橙ちゃん耳がなくなっちゃったの!?」

「そういう意味じゃなーい!!」

 

 そして、勢いそのままにガバッと橙に抱き着こうとするが、サッと避けられてしまう。

 しかし、その程度のことで霊和がめげるはずもなく、ジリジリと距離を測っていく。

 だが、橙の方も慣れているのか、慌てることなく間合いを空けて拮抗状態に持ち込む。

 

「流石は橙ちゃん。他の猫ちゃんなら頼んだら触らせてくれるのに……手強い…ッ」

「当たり前よ。私は藍様の式神! そんじょそこらの猫と一緒にしないことね!」

 

 フンスと胸を張り、ただの猫と一緒にするなと声高に宣言する橙。

 それに対し霊和は悔しそうに手を握り締めるが、諦めることはしない。

 ジリリと地面を擦るように足を動かし、再度飛び掛かるタイミングを計る。

 そして。

 

「いや、何やってるのよ、あんた達」

 

 ポカと、霊夢から頭をはたかれてしまうのであった。

 

「いたーい……なにするの? おねーちゃん」

「それはこっちの台詞よ。今はスイカを食べるんだから大人しくしなさい」

「はーい」

 

 渋々といった声ではあるが、ほんの少し前に叱られていた影響か素直に引き下がる霊和。

 その姿に橙の方も一安心といった風に息を吐くが。

 

「そうね。せっかく温度の境界を弄って、冷やしたスイカがぬるくなったら嫌だもの。食べ終わってから遊んであげなさい、橙」

「紫様!?」

 

 主の主という絶対に逆らえない存在から、まさかの裏切りに合い目を白黒させる。

 隣では、いつの間にか近づいて来ていた霊和が笑っているので、尻尾ではたいておく。

 何故だか喜ばれたがムカつくので無視をし、紫に抗議の視線を向ける。

 

「橙。あなたは藍の式神なんだから、子供のわがままに付き合うくらいの余裕を持ちなさい」

「むぅ……」

「それに、あなたの方が()()()()なんだから、一緒に遊んであげたっていいじゃない」

「お姉…さん……」

 

 姉。その言葉に橙の中で電撃が走る。

 彼女は八雲藍の式であるが、妖怪としての能力はそこまで高くない。

 故に、同種である猫ですら多くは従えられない。

 

「年上…姉…ボス……」

 

 そのためか、人の上の立場に立つことに憧れを持っている。

 なおかつ、精神年齢的に子供なので年上扱いされることを喜ぶ。

 俗に言う、お姉ちゃんぶりたい年頃なのである。

 

「霊和!」

「なーに、橙ちゃん?」

「紫様が言うからしかたなーく、あんたと遊んであげるわ」

「ホント!?」

「た・だ・し」

 

 喜び余り、突進をかましてきそうになる霊和の前に指を突き付けて抑えつつ橙は言う。

 

「あんたは今から私の子分! だから私のことを橙様って呼びなさい!」

 

 ビシッと腰に手を当てた状態でポーズを取る橙。

 これで嫌がるなら遊んでやらないで良し。

 嫌がりながらでも呼べばボスとして遊んでやる。まさに完璧な作戦だ。

 

「分かった、橙様!」

「………や、やっぱり、橙お姉様で良い」

「? 良く分かんないけど分かったね、橙お姉ちゃん」

 

 しかし、何の迷いもなく言われた橙様という言葉にはやられた。

 何というか、嬉しくはあるがこっ恥ずかしい気持ちになってくるのだ。

 やはり人の上に立つというのは、簡単ではないということなのだろう。

 そう自分の中で納得し、使命を果たしたとばかりに紫の方を向く橙。

 

「フフフ、仲良くなれたみたいね」

 

 すると何故か霊和と揃って頭を撫でられてしまった。

 良く分からないが、とても温かな声なので主は満足してくれたのだろう。

 そう、橙は思うことにしたのだった。

 

「さて、それじゃあスイカを食べましょうか。霊夢、切り分けてくれるかしら?」

「いやいやいや、今まで子供のことだから見守ってたけど、私一言もあんたにあげるなんて言ってないわよね?」

「あら、けちんぼう。仕方ないわね、足水もつけてあげるわ」

 

 一瞬、空気に流されていた霊夢だったが正気に戻り、お前にやるスイカはないと言い放つ。

 その言葉に対し、紫は仕方のない子とばかりに笑うとスキマから氷水が入った桶を3人分取り出す。

 橙の分がないのは彼女は水が苦手だからである。

 

「どうする? 今ならサービスで風鈴もつけてあげるわよ」

「……はぁ。いいわよ、別に。どうせ私が拒否しても霊和があげるでしょうしね」

「ふふふ、優しい子に育ったわね。育ての親がよかったのかしら?」

「ああもう! あんたは黙って座っときなさい!」

 

 照れ隠しからか、ガシガシと頭を掻きながら背を向ける霊夢。

 そんな彼女の姿を紫は、ただただ微笑まし気に見つめるのだった。

 

 

 

 

 

「今年のスイカは甘いわね」

「ええ、確かに甘いわね」

 

 結局仲良く並んで、スイカを食べることになった紫と霊夢。

 向こう側では橙と霊和がスイカの種をどちらが遠くまで飛ばせるか競争しているが、もちろん2人はそんなことはしない。

 その光景を温かい目で見つめながら世間話に興じるだけである。

 

「きっと、今年は雨が少なかったのが原因でしょうね」

「雨? それがどうして甘くなるのに関わるの?」

「簡単に言えば、雨が降らない分だけ太陽の光を浴びるからかしらね」

 

 しゃくり、と赤く瑞々しい果実をかじりつつ紫は語る。

 

「もっと詳しく言うと、雨が少ないから水分を必死に吸収しようとして、同時に他の栄養もたくさん蓄えるから。でも、水を吸収できないから中の糖分が薄まることがないってことよ」

「美味しいならなんだっていいわよ」

 

 得意顔で蘊蓄(うんちく)を語る紫だったが、霊夢は当然の如く興味を示さない。

 というよりも、小難しい話を理解することが出来ないのか。

 シャリシャリと口を動かすのに忙しい。

 

「もう……知識っていうものは知っているだけで便利なものよ?」

「必要な時に知れば問題ないでしょ。それにスイカが甘くなる理由なんて巫女にはいらないわ」

「まったくあなたは……」

 

 そんな不真面目な巫女の姿に、紫は仕方のない子とばかりにため息をつく。

 

「知識は黄金より軽く、黄金より重いのよ?」

「言ってることが矛盾してるじゃない?」

「物の例えよ。知識は黄金と違っていつでもどこでも持ち運べて、それでいて上手く使えば黄金よりもなお貴重な財産となる。子供には財産を残すのじゃなくて、知識を身に着けさせろというのはどこの国でもある話よ」

 

 そう言って、紫は猫じゃらしを振る霊和と、それをボスとしての矜持から必死に耐える橙を見つめる。要は、あの子達のためにお前も知識を身につけろと霊夢に言っているのだ。しかしながら、そんなことで動くなら“ものぐさ巫女”とは呼ばれない。

 

「でも、あんまり詰め込んで頭でっかちになってもしょうがないでしょ。ほら、商売には柔軟な発想が必要だって言うし」

「はぁ……その柔軟な発想は、しっかりとした知識を基に生み出されたものよ? そもそもあなたは巫女でしょうが」

 

 ペシリと(おうぎ)で霊夢の頭を叩き、呆れた目を向ける紫。

 それに対して抗議の視線を返す霊夢だったが、紫には効かない。

 

「巫女だって神社ビジネスをやってる立派な商売人じゃない!」

「そういうことは、この閑散とした神社を何とかしてから言ってくださるかしら?」

「………今日は暑くて人が来てないだけだから」

 

 フイ、と目を逸らしダラダラと暑さからではない汗を流し始める霊夢。

 紫はその様子に、今日何度目かも分からぬ溜息を吐き、説教を始める。

 

「いい、霊夢? 神社ビジネスって言うのならそれこそ知識がものをいうのよ。自然現象(かみさま)を利用してこその神社でしょうに」

「? どういうことよ?」

「さっき話してたけど、今年は雨が少ない上に猛暑が続いている。さて、こんな時に人間はなんて思うかしら?」

 

 かみさま(自然現象)を利用しろという言葉に疑問符を浮かべる霊夢。

 しかし、なんだかんだ言って信用している紫の言葉のため、無い頭で考えてみる。

 

「うーん……雨が降って欲しいとか?」

「正解よ。じゃあ、次の質問。そんな時に人はどうするの?」

「降らないもんはしょうがないんだし、待つしかないじゃない」

「巫・女・と・し・て! 考えなさい、いいわね?」

 

 あっさりと待つしかないと言い切る霊夢に、紫はニッコリと凄みのある笑顔を浮かべてみせる。

 さしもの霊夢も、その迫力には従うほかなく、コクコクと頷く。

 

「え、えーと……雨乞いとか?」

「そう! 人間は旱魃(かんばつ)の際には雨乞いをするものよね。因みに旱魃の(ばつ)は中国の“ひでり”の神様ことを指すのよね。まあ、巫女の霊夢は言わなくても知ってたでしょうけど」

「そ、そうね。バツよね魃。いやー、巫女としての常識よねー」

 

 実際の所はそんなことはまるで知らないが、霊夢は冷や汗を流しながら相槌(あいづち)を打つ。

 もちろん、紫は霊夢が知ったかぶりをしているのは分かっている。

 だが、こうして彼女の尻に火をつけることが、目的なので黙っていてあげるのだった。

 

「そ、それで、結局の所、雨の少ない年は雨乞いをして稼げってことなの? 神降ろしで龍神様を呼べって言われたら、流石の私も断るわよ」

 

 そう言って、霊夢はブルリと身震いをする。

 この幻想郷に置いての最高神は龍神であり、かつて幻想郷が外の世界と切り離される際に現れ、大雨を降らして幻想郷をまるごと沈めかけた神である。

 

 その時は紫を筆頭に幻想郷の賢者達が、首を差し出す勢いで嘆願したので龍神は矛を収めている。

 しかし、その時に残した爪痕は深く、人里には龍神の像が奉納され今でも供え物が絶えない。

 妖怪達も畏れており、河童などの川に住む妖怪は決してその怒りを買わないようしている程だ。

 

「誰がそんな命知らずなことをしろって言ったかしら。ここで必要なのが知識よ」

「知識?」

「知ってるかしら霊夢? 雨が降る時期にはメカニズムがあるのを?」

「台風がいつ来るとか……後は里のお年寄りが空を見たらいつ降るか分かるとか言ってたわね」

 

 取りあえず思いついたことを口にする霊夢に、紫は満足げに頷く。

 

「ええ、そうよ。外の世界だともっと科学的に解明されているけど、だからといって昔は分からなかったというわけでもないのよ」

「まあ、そうよね。お天気爺さんとか昔からいるし」

 

 昔から空を見て天気を読む人は居た。

 中には、天気を予報して殿様から名字を貰ったという家系の人間も居たりする。

 

「それで? これと雨乞いがどうつながるの?」

「簡単よ。知識としていつ雨が降るか知っていれば、その時期に合わせて雨乞いをすれば必ず降るもの」

「なるほど……て、それやらせじゃない!?」

「あら? 『雨乞いをしたら雨が降った』という事実に変わりはないわ」

 

 思わずといった感じで、霊夢がツッコミを入れるが紫は笑ったままだ。

 

「それに、雨乞い自体はタダでやれば誰にも迷惑はかけないし。でも、その後に博麗神社の巫女が雨を降らせた、という噂が広がるのは止められないわよねぇ」

 

 要はパフォーマンスのために知識を利用しろということだ。

 別にパフォーマンスをやることは悪いことではないし、誰にも迷惑もかけない。

 ただ、そのパフォーマンスと自然現象(かみさま)が上手いこと重なって、()()()博麗神社の噂が広まって行くというだけだ。

 

「そ、それはそうだけど……」

「人の不安を解消させるのも宗教の仕事よ。毎年、毎年雨が降るか分からないという不安を抱えて生きるより、何かあったら神様に頼れば良いという安心感があった方がみんな嬉しいわよね?」

「そ、それもそうね」

 

 紫の巧みな話術にそうかもしれないと思い始める霊夢。

 その雲のように流されやすい姿に、紫はこの子大丈夫かしらと一抹の不安を覚えるが、今は自分に都合が良いため何も言わないことにする。

 

「それにね、昔からそういった例はあるのよ。有名どころは安倍晴明、菅原道真、中国も入れるなら諸葛孔明もかしらね」

「まあ……名前ぐらいは聞いたことがあるわね」

「ここで問題。この3人の共通点があるのだけど、分かるかしら?」

 

 ニコニコとした顔で霊夢に問いかける紫だが、先程の凄みが脳裏にちらつき、霊夢はそれどころではない。

 正直のところ、天神である道真はともかくとして、後の2人のことは大して知らない。

 なので、冷や汗をかきながら唯一分かる道真の特徴を答える。

 

「あ、頭が良いとか?」

「正解。学問の神様こと菅原道真も、諸葛孔明も頭が良いわね。晴明の奴はどっちかというと術とかそういう方面が有名だけど、そもそも陰陽道(おんみょうどう)ってあの時代だと最先端の科学なのよね」

「陰陽道が?」

 

 科学とは真反対の方向を向いてそうな陰陽道の意外な事実に、目を丸くする霊夢。

 その様子を紫は扇で口元を覆いながら見つめる。

 

「ええ、考えてもみなさい? 私達妖怪に対抗するのに一番有効なことは正体を暴くこと。だったら、現代科学みたいに妖怪をただの自然現象として扱ってしまえばいい。そう考えれば妖怪退治をする陰陽師が科学を持っているのは道理ではなくて?」

「でも、私はそういったこと学んでないんだけど?」

「あなたは幻想郷の巫女なんだから、幻想郷のやり方でやらないとダメよ」

 

 後悔と無念さで歪んだ口を隠すために。

 

「…と、話が逸れたわね。

 今あげた3人は知識人だった故に“神様”を“自然現象”として知っていたのよ。

 後はそこにちょっとしたパフォーマンスを加えるだけ。

 晴明は天皇の命を受けて、雨が降るタイミングで雨乞いの祭りを行った。

 菅原道真は民を安心させるために、雨の時期を予測して断食のパフォーマンスをした。

 諸葛孔明は台風を恐れて生贄を捧げる民を見かねて、台風が過ぎるタイミングで饅頭を生贄の代わりに川に流した。

 結局の所、神様が居なくても全部知識があれば出来ることなのよ」

 

 そこで一旦話を区切り、紫はどこからか取り出した麦茶を口に含む。

 そして、霊夢へ分かったかと意味あり気に視線を送る。

 

「どう? いい勉強になったでしょう」

「つまり流行を常にリサーチして商売に生かせってことね!」

「……その生かす部分に必要なのが知識なのだけど……まあ、大体あってるからいいわ」

 

 しかしながら、霊夢の方は分かったのか分かってないのか分からない返事をする。

 そんな姿に紫は、なぜ霊夢が商売下手なのかを理解するが、もうツッコむ気も起きない。

 

「なによ、その目は? ちゃんと分かってるわよ。この間レミリアに今度“日食”があるって聞いたから、それに合わせて日食饅頭を用意する。何年かぶりだからきっとお祭りみたいになるもの。後は太陽を直接見ると失明するから、見ても目が大丈夫なような眼鏡を売り出すとかね。ほら、ちゃんと日食(流行)に対して眼鏡(知識)を活用してるじゃない」

「その知識の中に巫女的なものが、一切見られないのがあなたの問題なのよ」

 

 ムフンと胸を張る霊夢に対して、紫は頭が痛いとばかりにこめかみを抑える。

 一体どこで育て間違ったのだろうかと思うが、過去は取り戻せない。

 この能天気さはこれはこれで可愛らしいのだが、それでも心配になってしまう。

 なので彼女は出過ぎた真似かと思いながらも口にする。

 

「天岩戸」

「ん?」

「太陽が隠れて姿を現さなくなることを人と神は恐れた」

 

 突如として雰囲気の変わった紫の姿に霊夢は首をひねる。

 

「あんたもレミリアもどうしたのよ? やっぱり妖怪にとっては特別な日なの?」

「ええ。暗闇の世界は…月と太陽の力が逆転することは魔の者にとっては願ってもないことだもの」

 

 スッと立ち上がり、眩しそうに太陽を見つめながら紫は語っていく。

 

「太陽の光が届かなくなることを人間は何よりも恐れた。だとしたら、雨乞いって結構怖いことだと思わない?」

「雨乞いが?」

「だって、やっと姿を見せてくれた天照様を自分達で隠してしまうもの」

 

 ふわりと、日傘が開かれて太陽の光を遮ってしまう。

 暑い日には重宝するだろう。日焼けの心配もしなくていいかもしれない。

 ただ、それが一年中続くならどうだろうか?

 

「雨乞いにも色々と種類があってね? さっき話した科学的に予測してパフォーマンスだけをするもの。生贄を捧げて神の恩恵を受けようとするもの。もしくは、水を血や肉で穢して()()()()を買って雨を降らすもの」

 

 太陽が無ければ全ての生物は生きられない。

 人も神も、妖でさえも。

 だというのに、人間は自らの都合でそれを隠そうとする。

 

「最初の2つはともかくとして、最後の1つは怖いわよねぇ。幾ら日照り続きでも、止まない雨が来たら今度は溺れちゃうわ。それに太陽が拗ねてまた引き篭もるかもしれないし」

 

 紫はクスリと笑いながら、遊び疲れて寄り添いながら眠る橙と霊和を脇目に見る。

 

「特に天皇は大変ね。皇祖神である太陽の顔に泥を塗るわけにはいかない。でも、民草を預かる以上はその生活を守らなければならない。難しいわよね。人間でも神様でも2人を同時に立てるっていうのは」

 

 天皇は神の血を引く現人神である。

 故に古来より、神事の中心であった。

 もちろん、そこには雨乞いも含まれる。

 

 太陽の血を引きながらも、時にはその姿を隠すように祈らなければならない。

 しかして、再び岩戸に(とうと)き方が隠れてしまわぬように。

 されども決して龍の逆鱗に触れぬように。

 

「でも」

 

 ゆっくりと、2人の少女があどけない寝顔を浮かべる場所に歩いていく紫。

 

「2人が1人なら。2柱が1柱なら。随分と楽になると思わない?」

 

 不意に自身にかかった影を感じ取るかのように、モゾモゾと身じろぎをする霊和。

 紫はそんな彼女の髪を微笑まし気に撫で、霊夢に聞こえぬように小さく囁くのだった。

 

「ねえ―――■■■■?」

 

 目の前で眠る()()()()()()

 




霊和ちゃんの正体が明かされるまであと少し。
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