とある鎮守府の廊下、2人の男女が言い争っていた。恋愛沙汰ではなく、どちらかといえば仕事のトラブルのようだ。
「司令官! なぜ電を出撃させないのです!?」
「どうもこうもダメだ」
「他の子の方が強いからなのですか!!」
「お前は強い!!」
「なら何故! 電は艦娘なのです。出撃させてください…!」
「…………」
必死に頼み込む少女と、全く意見を汲もうとしない提督。
この頼み込んでいる電という艦娘は去年の中ごろまで、規定に沿って出撃することで着実に強くなっていた。
しかし、急にこの提督は「電を出撃させない」と言い始めたのだ。戦力はある程度整っているが、艦娘を長期間遊ばせる余裕はない。一駆逐艦、最大戦力とは言いにくい電でも、使える戦力を使わない事に上層部からも苦情が来ていた。
この提督は有言実行の男で、なんと半年もの間電を出撃させていない。このやり取りだって何度も何度も繰り返している。
「…司令官さん。電は頼りになりませんか」
「違う。違うんだ電…わたしは…俺は…」
「……」
「電に傷ついて欲しくないし、どこにも行って欲しくないんだ…!!」
それは再び戦うために呼び出された艦娘に言うべきではない言葉。人によっては侮辱しているとも取れるが、問い詰めるたびに出てくるこのセリフに偽りがないことは電が一番理解していた。
電が、
「…はあ。みんな、今日もダメみたいなのです」
「いっそ異動願いを出すのです」
「戦いたくないとは言ったけれど、こう言うことではないのです…」
「これでは穀潰しなのです…」
「帰投する他の方々に申し訳ないです…」
「…なのです」
「また、作戦を作って出直すのです…」
廊下の角からわらわらわらと姿を見せる同じ顔の少女たち。
彼女たちは、提督が近代化改修に消費することも解体することもできず、とりあえずある程度まで強くなった「電」たちである。
その数は6。艦隊を組めるほどの数を、提督は何らかの形で消滅させることができなかったのだ。
傷つけたくないために出撃させないなら何故ある程度は育てるのか。物騒な話だが、万一鎮守府まで敵が侵攻してきた場合などに待機していた電たちが無抵抗でやられるはめになれば、この提督は自死する。
だから他の艦娘で陣形をガッチガチに固めてから電の戦力向上にひとりずつ努め、出来上がったら鎮守府で待機させる。
もちろんこの男も提督の端くれだ。他の艦娘たちも大事な仕事仲間、部下だと思っているし、鎮守府の運営や戦略の立て方も優秀である。しかし、こと電においてだけはこうして暴走とも言える行動をやらかす。
この鎮守府外でもそれは有名で、「電厨提督」とか「対1隻過保護なロリコン」とか「イカレ提督の鎮守府」とか、呼ばれ方は様々だ。不名誉な呼び名でよければ。
「あら? あなたたち、また提督のところに行ってたの? 諦め…られたら苦労しないわね」
「雷ちゃんはたくさん出撃できるから羨ましいのです…」
「うええーん…」
「あーもう、泣かないの」
一番ここに来て日の浅い電が泣き始めると、慣れたように雷があやし始める。その周りで他の電たちはああするべきこうするべきと作戦を話し合う。
半年前からの日課であった。
他の艦娘たちも、贔屓とも言える提督のスタンスには不満を抱いていたため、6隻もの居候に厳しい目をしていた。しかしそれは最初だけで提督の責任10割とわかるとむしろ優しく接し始めた。
介護プレイも慣れたもので、同じサイズの駆逐艦ですらお姉さんぶる傾向にあった。ちなみに当の電たちは不満たっぷりである。当たり前だ。
雷は電たちを食堂に座るよう促して話を聞いた。
「出撃したいの、あなたたちは?」
首を縦にコクコクコク。コクコクコク。
「絶対に司令官はそこ折れないわよ。妥協案として遠征に行けるよう頼みなさい。近場ならいいかもしれないじゃない」
「でもでも、雷ちゃん!」
「わかるけどね、電。こういうのは段階を踏まなきゃいけないのよ。少しずつでいいの。
司令官に『電は必ず帰ってきます』っていうのを教えなきゃダメ」
「なるほど…妥協させるのですね。」
「ありがとうなのです」
「またなのです」
だいたい皆が皆、同じように手を振りながら雷の元を後にする6隻。手を振り返しながら彼女たちの背中を見送る雷の顔は、どこか昏かった。
ところ変わって提督の前、発艦場。
「やはり出撃できないのですか、司令官さん」
「ああ、ダメだ」
「ならば、遠征はどうです?」
「……何?」
いつもと違う提督の反応に、電たちは「おっ?」と思った。これはもしかして…?
遠くとは言わない、近海哨戒…でなくとも、資源調達だけでもさせて欲しい。そう彼女たちは真摯に伝えた。合わせた視線はかなり動揺しているが、彼女たちの意思は強い。
長い思考を経て、ようやく提督は言葉を発した。
「…傷つかないか?」
「はい」
「…帰ってくるか?」
「はい」
「任務達成できるか?」
「はい」
「近場でいいか?」
「近場で信用を勝ち取るのです」
「怒ってないか?」
「少し怒っていたのです」
「俺を…許してくれるか?」
鬼気迫る提督のいいよう。質問に電たちは顔を見合わせて、笑いかけた。
「はいなのです」
次の日。
提督にとっては人生の一大事である待ち時間。そわそわとしながら水平線に見える人影を見つけては凝視した。
30分もかからない遠征だったが、無事電たちは提督の元へ帰ってきた。同じ艦が同時編成できないという事実陳列は野暮である。ここの提督の愛でなんとか可能なだけだ。
「ただいま帰投しました。…司令官さん、帰ってきましたよ」
「…? 司令官さん?」
「泣いてるの…?」
「え、えっ!?」
「どうしよう! 雷ちゃん!」
「はわわ、雷ちゃんは今いないのです!」
提督は泣いていた。声は出さずにそれでいて顔はきっちりくしゃくしゃだし、頰は涙で濡れている上赤みがさしている。
彼女たちは大の男が涙を流すところに出くわすのはもちろん初めてだ。6隻ともわたわたと慌てた所を見て、提督の方が先に立ち直った。
「…ありがとう、本当に……帰ってきてくれてありがとう」
「いえ、はい。当たり前なのです。電たちはこの鎮守府、司令官さんの艦娘ですから」
提督の言葉にただならぬ想いを感じ取った彼女たちは、困惑のままに尋ねた。
「何故電に対してだけそこまで固執するのか」と。
「…俺が着任した時、最初に居てくれたのが…電だったんだ」
「電が?」
「そうだ。俺もあいつもひよっこで、ずっと一緒で。一緒にチュートリアルみたいなことしてご飯食べて、戦って。
俺は嬉しくて楽しくて。一緒に頑張って頑張ってボロボロになったりもして、それから電は────────
──────────異動になったんだ」
「えっ?」
「んん?」
「轟沈などではなく?」
「はい?」
「司令官?」
「続けて」
「忘れもしない。6ヶ月前だ。戦力が充実してきて
唐突だった。俺は理由がわからなくて駄々をこねた。
それでもあいつの意思は固くて、強くて、すごく大きな使命を抱いてるような気がして。とうとう折れちまったんだ…『行っていいぞ』って言ってしまった」
「それで、そのまま?」
「帰ってきてねえし、今月も手紙が来てたよ。『元気にやってます』って…そこの提督と一緒に写った写真と一緒に、な」
「………………」
結局のところ、この男は。男にとって最初の電が忘れられなかっただけなのだ。馬鹿の一つ覚えのように電への思いを抱いて、拗らせた。
「それはいわゆる『寝取り』というやつですか?」
「…多分」
6つのため息が広がる。
6隻の電たちにとってはたまったものではないだろう。しかし。
「ここにいる電たちを見てって言いたいのです」
「わかってる。お前たちはあの電じゃない」
「ちゃんと帰ってきますからね」
「わかっているならいいのです」
「許すと言ったから。
だから、これからもよろしくね。司令官さん」
微笑む電たちの顔は提督の知る『電』と同じ顔なのに、『
ちなみに過去の女性に重ねられていたことに関しては、1人1発ずつの平手許可が下りていたので6つの紅葉が提督の体にできていた。
言い訳すると、同じ艦でも多少は個性が違うと思うんですよ
多分きっと、メイビー