オルタナ少女と夜の獣   作:たかしげる

2 / 5
 第1話 新しいキャプテン
(1)「俺がキャプテンだ」


 男は途方に暮れていた。

 月森町の玄関口である駅の前。

 整備された広いロータリーであるのに、停まっているタクシーは一台もない。

 バス停はあるものの、停まっているバスはない。

 そのロータリーを囲むように建物が並んでいるが、人の気配すらない。

 看板が撤去され、シャッターは閉められ、打ち捨てられた商店街。

 ……いつの間に、こんなに寂れてしまったのか。

 男はロータリー内に建つ看板を見つめる。

 

『自然豊かな海のまち 月森町』

 

 男にとって、月森町は憧れの地だった。

 かつて、この町は映画やアニメの舞台となることが多く、風光明媚な町として知られていた。

 だからこそ、この男は月森町にある学園に就任することに決めたのだ。

 駅前の大きな地図を見れば、地理に不慣れなこの男でも、道を迷うことはないだろう。

 しかし、男はこれから生活する月森町のことを、少しでも知りたかった。

 それを尋ねるべき人々の影は、駅前ロータリーであるのに関わらず、見られない。

 いや、一人いた。

 月森町が舞台となる作品では必ず描かれる名所の、駅前の鳥居。

 その赤い鳥居をくぐって、制服を着た長い黒髪の少女がやって来るのが見える。

 もしかすると、学園から来た案内者かもしれない。

 男はそう考えながら、ゴーグルのスイッチを入れる。

 さて、この男の外見だが、不審者と疑われても仕方のないものだった。

 服装はリクルートスーツと言うべき、濃紺の背広である。

 しかし、顔には目立ちすぎるゴーグルをかけている。

 サングラスのように黒色で目を覆い隠しているそれは、道具というより機械といったほうが良いだろう。

 そんな不審者が駅前に立っていたのだから、若菜はたじろいでいた。

 ……あの人が、キャプテン?

 オルタナを指揮する頼もしき存在である、キャプテン。

 若菜は新たなキャプテンを迎えに行くように、学園の理事長から指示されていた。

 なぜ、生徒の若菜がそのような案内役を任されるのか。

 それは、学園の特殊な事情による。

 理事長にとって、月森町に生まれ育ち、親戚でもある若菜は、数少ない信用できる人物だったのだ。

 しかし、当の若菜は、駅前に立つ男におじけついてしまった。

 背広なのにゴーグルをつけている。いったい、なぜ?

 こうして立ち止まった若菜に、今度は不審者のほうから近づいてきたのだ。

 男のゴーグルは、目の前のロングヘアの少女を捉えている。

 オルタナ能力126。まちがいない。

「君が、妃十三(ひとみ)学園から来た生徒だね」

「は、はい」

 思わず若菜は声が裏返ってしまう。

「ははは、緊張することないよ。俺がキャプテンだ」

 当然のように若菜に話しかける自称キャプテンの男。

 もしかすると、オルタナを指揮するキャプテンは、このようなゴーグルをつけるのが義務づけられたのかもしれないと若菜は考える。

 それなら、先に教えてくれれば良かったのにと思う。

 ただ、その声が若いことが若菜を安心させた。

 顔はわからないが、キャプテンをかたる不審者ではないはずだ。

「あ、あの……私、若菜です。雪城若菜です」

「ああよろしく、雪城さん、じゃなくて、若菜」

 若菜は、初対面の年上男性に名前を呼び捨てにされて、びくんと身を震わせる。

 そういえば、キャプテンはオルタナをファーストネームで呼んでいた気がする。

 このキャプテンも、きっと、そういうルールに従っているだけだろう。

「そ、それでは、妃十三学園に案内します。ここから歩いてすぐのところです」

「この鳥居の先にあるんだよな? この鳥居、映像で見たことはあるが、実際にくぐるのは始めてだ」

「ええ、結構有名ですよね」

「……しかし、ここまで寂れているとは思わなかったよ。あの月森町が、ねえ」

「そ、それは……」

 若菜は唇を噛みしめる。

 この月森町に生まれ育ち、妃十三学園に通う若菜は、月森町の衰退をこの目で見続けてきた。

 夜獣という正体不明の存在が出現し、少女たちを襲うようになった。

 その少女たちの言葉を、大人たちは集団催眠だと相手にしなかった。

 しかし、我が子が行方不明になることで、大人たちは本気になった。

 警察や自衛隊が動いて解決しようとしたが、その原因を究明することはできなかった。

 結果、住民がどんどんいなくなり、観光地として栄えていた月森町は寂れた。

 それを解決するために、あなたは来たんじゃないですか、と若菜は叫びたかった。

 自分は候補生だけど、美弥花たち覚醒者たちは、キャプテン不在でもがんばって、この町を守ってきたのだ。

 まず、そのことをねぎらうべきではないのか。

 若菜は新しいキャプテンの顔を見る。

 でも、ゴーグルに隠されて、その表情を察することはできない。

「じゃあ案内してくれ、若菜」

 まるで散歩にでも行くように、キャプテンとなる男は軽い口調でそう言った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。