オルタナ少女と夜の獣   作:たかしげる

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(3)「オルタナとは恋愛禁止じゃぞ」

 

 理事長室で、キャプテンとなった男は、むしゃむしゃとお菓子を食べていた。

 目の前には理事長がいる。民間企業でいうところの社長である。

「こほん」

 理事長の咳払いに気づき、男は手を止める。

「す、すみません。お腹が減っていたもので……」

「ふむ、この饅頭は、キャプテン君のお気に召したかな?」

「ええ、最高です。月森まんじゅう!」

 キャプテンは瞳を輝かせながら言う。

 あいにく、その目はゴーグルで隠されているのだが。

 かつて、月森町が観光地として栄えていたときに、この月森まんじゅうは土産物として大量生産されていた。

 しかし、夜獣の出現により、観光客どころか住民が激減するようになり、今ではこのまんじゅうを作るのは一つの小さな町工場だけである。

 それほど貴重な月森まんじゅうが、新任キャプテンによって食い尽くされようとしていた。

 客人に出すお菓子の量が多いのは、すべてを食べてほしいからではない。

 おもてなし、という好意の形であり、いわば演出上の道具にすぎない。

 そんな社会常識がわからない新しいキャプテンに対して、理事長は寛大にも印象を悪くすることはなかった。

 この学園にとっては、待望のキャプテンなのだから。

「キャプテン君、妃十三学園の建物については、若菜君から案内されたと思うが」

「ええ、立派な施設ですね。寮の居心地も良さそうです」

「女子寮に比べると、職員寮は設備は劣るかもしれぬが」

「この学園は全寮制なんですよね?」

「ああ、すべての生徒が寮で暮らしておる」

「地元の子はいないんですか?」

「この学園の性質上、ほとんどおらんのだ。若菜君と、あと数人ぐらいだな」

「その子たちも寮で暮らしているんですね?」

「もちろんじゃ。この寮は、夜獣から彼女たちを守るためのものでもあるからな」

「なるほど」

 キャプテンはそう言いながら、まんじゅうを食べすぎて乾いた喉をお茶でうるおす。

 グビビ、と音が出るが、キャプテンはそれを気にする様子はない。

 理事長は自分に言い聞かせる。作法などキャプテンには必要ないではないか、と。

「ところでキャプテン君、そのゴーグルのことなのだが……」

 お茶を飲み終えたキャプテンに、理事長は慎重に問いかける。

「これはキャプテンゴーグルですよ」

「……キャプテンがそのようなゴーグルをつけるようになったとは聞いておらぬが」

「試作段階ですからね。これさえあれば、夜獣を察知することもできますよ」

「おお、そうかね!」

 理事長は思わず立ち上がる。

「もし、それが実用化されれば、夜獣の脅威から、あらゆる者が身を守ることができるということかね?」

「いえ、このゴーグルを使えるのは、キャプテンとしての素質がある者だけのようです」

「そ、そうか」

 理事長は気落ちして座り込む。

「……わしは、生徒たちを夜獣と呼ばれる存在から守りたい。この妃十三学園を、オルタナ養成機関としたのは、そのためじゃ」

「でも、この学園では一般科目も教えているんですよね?」

「彼女たちにはこの学園を出ても、社会で独り立ちしてほしいからな。教育者としては当然の責務じゃろう」

「さすが妃十三学園の理事長です。恐れ入ります」

「だから、ほとんどの教師は普通の先生なのだ。オルタナ専門のプロフェッショナルな者は、この学園ではキャプテン君、君一人といっていい」

「そ、それで、問題なかったのですか?」

「ふむ、オルタナ覚醒者となった者たちの自治によって、なんとか平和は保たれておる」

「気が引き締まる思いです」

 キャプテンの言葉に理事長はうなずく。

「そんなキャプテン君には、まずオルタナ六人のチームを指揮してもらうのだが」

「その六人とはすでに顔を合わせています」

 キャプテンは胸を張る。

「おお、さすがじゃな。それで、その六人の資料がこれじゃ」

 理事長は一つのファイルを差し出す。

 表紙にはこう書いてある。

 

『フリージアドッグ オルタナ能力表(関係者以外閲覧不可)』

 

「……フリージアドッグ、というチーム名なのですか?」

「彼女たちが自主的に決めたのだ。良い名前だとわしは思うが、どうかね?」

「ええ、自由を求めて戦う、オルタナとしての彼女たちの決意が感じられます」

「フリージアというのは花の名前なのだが」

「そ、そうでしたか」

 キャプテンはその失言をごまかすために、そのファイルに手を伸ばす。

 そのファイルには、チーム六人の情報が掲載されている。

 彼女たちの名前や出身地、そして身長や体重、さらには……。

「ば、ばばば、バスト91?」

 キャプテンの声に、理事長は眉をひそめる。

「キャプテンたる者、オルタナたちの体型は知っておくべきではないか?」

「え、ええ、わかっていますとも!」

 そう答えながら、キャプテンは二人目のオルタナのスリーサイズに目を奪われてしまう。

 

『有村詩音 B91・W60・H88』

 

「……ひょっとして、キャプテン君、オルタナたちをあらぬ目で見ているのではあるまいな?」

「ち、ちがいますちがいます!」

「わかっておると思うが、キャプテンはオルタナとは恋愛禁止じゃぞ。キャプテンたる者、特定のオルタナをひいきすることなく……」

「わかってますわかってます!」

「……その理由を知っておるかね?」

「はい、聞いております」

 妃十三学園がずっとキャプテン不在だった理由。

 それは前任キャプテンと一人のオルタナとの事件がきっかけであると、この新しいキャプテンとなる男は聞いている。

 だが、くわしいことは知らない。

 そして、理事長も深い話をしようとはしなかった。

「とりあえず、今日はゆっくりと身体を休めるといいだろう。明日にはフリージアドッグのメンバーと正式に対面してもらう」

「わかりました。そのときまで、彼女たちのことは、このファイルをもとに、頭に叩きこんでおきます」

「キャプテンとして、君がその任務を果たすよう、学園としても最大のサポートをさせてもらおう」

「そうですね、あの若菜という子には期待できそうですし」

「ほう、若菜君はキャプテン君の眼鏡にかなったかね?」

「そうですね、このゴーグルでも一番の反応をしてましたから」

「……そうかね」

 理事長は深いため息をつく。

「キャプテン君、若菜君の面倒も頼む」

「もちろんですよ」

 キャプテンは理事長の頼みを軽く聞き流す。

 フリージアドッグの指揮を任されるのだから、若菜のことを任されるのは当然だというように。

 この男、まだ、それが思いちがいであることに気づいていなかった。

 

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