オルタナ少女と夜の獣   作:たかしげる

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(4)「お前は本当にキャプテンメロ?」

 おかしいな。

 自分の部屋に入り、フリージアドッグの能力ファイルをチェックしていたキャプテンは疑問をいだいていた。

 自分をこの妃十三学園に案内した、若菜の名前がない。

 代わりに、別の名の少女の能力が記されている。

 天堂真知? 誰だコイツ?

 きっと、理事長のミスだろう、とキャプテンは単純に考える。

 そして、五人の能力を自分の能力に叩きこもうとする。

 まず、リーダーの悠木美弥花。体力テストの数値は瞬発力・持久力ともに優秀。運動神経の良い子なのだろう。武器はソード。

 二人目がバスト91の有村詩音。能力はバランス良く、体力テストの振り幅がもっとも小さい。真面目で努力家な性格がうかがえる。武器はランス。

 三人目がツインテールの真野桜子。アイドルアピールが目立っていたが、意外と持久力がある。武器はハンマー。

 四人目は大阪弁のショートヘアの橘直美。瞬発力が高く、チームではダントツの数値だ。武器はショーテル。

 五人目が物静かな印象の織宮結衣。桜子にゆいんご、と呼ばれていた子である。体力テストの成績には種目ごとの差が大きい。好き嫌いが激しい性格なのだろう。武器はサテライト。

 ……ということは、六人目の若菜はガンナーか、とキャプテンは思う。

 この六つの異なる武器種は、オルタナが夜獣と戦うために導き出された先人の知恵である。

 オルタナたちは、覚醒にともない、夜獣たちを討伐するための武器を実体化させる。

 それは想像力の具現化といっていいだろう。

 この想像力こそがオルタナの力の源泉であり、体力テストだけがオルタナ能力を表すのではない。

 ただ、オルタナ能力という未知の力は、計測が難しい。

 その曖昧さに比べれば、体力テストの数字は信用するに足るとキャプテンは考える。

 このチームだと、夜獣との戦闘で先陣を切るのは、美弥花と直美であるはずだ。

 遠隔武器であるサテライトとガンを使う、結衣と若菜が二人をサポートする。

 詩音と桜子は追撃するための後詰めといったところか。

 構想が頭をめぐると、キャプテンはにわかに歩き始める。

 彼は動きながら物事を考えるタイプだった。

 荷造りも最低限終えたし、ちょっと散歩でもしてくるか。

 軽い気持ちで、キャプテンは外出着に替える。

 職員寮を出て校門に向かう。

 そこには警備員が常駐する小さな施設があった。

「あ、キャプテンさんですか?」

「そうです、これからよろしくお願いします」

 宿直の警備員に、キャプテンは頭を下げる。

「……もしかして、外出ですか?」

「ええ、散歩ついでに夜の月森町も見たいと思いまして」

「ちょっと待ってください。確認とってみます」

 確認? 大げさだな、とキャプテンは思う。

 女生徒ならともかく、俺はキャプテンなのだ。

 門限なんて関係ないではないか。

 しかし、着任早々問題を起こすわけにはいかないと、キャプテンはじっと待つ。

「……はい、はい、わかりました。キャプテンさんは問題ない、ということですね?」

「散歩に行くだけですよ」

「キャプテンさん、お戻りになるときは、門にインターフォンがついていますので、そちらからお話ください。いちおう、この詰所の電話番号もお知らせします。こちらになります」

「そうですか」

 校外に出るのに、やたらと面倒なことに、キャプテンは面食らう。

 ここまでしてくれたら、遠出の散歩をするしかないな、とキャプテンは思う。

 まだ夜は長い。ついでに、これから暮らす月森町のことを見ておくのもいいだろう。

 警備員によって鉄製の門が、音を立てて開けていく。

 そのうるさい音にキャプテンは顔をしかめる。

 ……外出もこっそりとできないということか。困ったものだ。

 それでも、彼が後悔することはない。

 オルタナと呼ばれる少女を指揮するキャプテン。

 その立場のためなら、少しばかりの不自由は我慢できる、と彼は考えていたのだ。

 さて、どこに行くべきか。

 まっすぐに行けば、若菜に案内してもらった鳥居に通じる道だ。

 人恋しさに夜歩きしたいわけではない彼は、別の方向へと歩き出す。

 やがて、その道は河川敷に達する。

 街灯はほとんどないが、ほぼ満月であるこの夜は明るい。

 足元を気にせずとも、川まで転がり落ちるような失態をすることはないだろう。

 おっと忘れてた。

 キャプテンはゴーグルのスイッチを押す。

 これで、夜獣が現れても、反応してくれるはずだ。

 彼は気をゆるませる。

 理事長の話によれば、自分が来るまで、オルタナたちの自治で平和は保たれていたらしい。

 つまり、月森町は恐るべき場所ではないということだ。

 もし、毎夜毎夜、夜獣が出てくるような危険地帯であれば、自分のような初心者キャプテンの着任は許されなかったはずだ。

 妃十三学園は伝統ある女子校ということもあって、セキュリティ対策は万全だが、それは夜獣を防ぐためというよりも、女生徒に悪い虫がつかないためだろう。

 そんな女子校に自分は堂々と入ることができたのだ。キャプテンとして。

 これほど素晴らしいことがあるだろうか。

 しかも、指揮する子には、巨乳の子もいる。

 バスト91だぞB91。

 名前はなんだっけ? ええと――。

「……っ!!」

 キャプテンのくだらない思考は、ゴーグルの反応でシャットダウンされる。

 あわてて、その方向を見る。

 黒い霧。夜獣の発生源。

 ゴーグルの数値は、彼の想像を上回る速度で上昇を続けている。

 こ、こんなの、シミュレーターと違うじゃないか。

 グオオオオオ!

 巨大な爬虫類のような外見を持つそれは、高らかに雄叫び声を上げる。

 そして、キャプテンを見つける。

 夜獣を認識するもの、それは夜獣にとっては標的となる。

 キャプテン一人ではそれに対抗することはできない。

 オルタナを指揮することしかできない。それがキャプテンだからだ。

 ま、まずい……どうすれば?

 そんな彼のゴーグルに新たな反応が示される。

 右斜め後方。彼はためらわずにその方角へと逃げる。

 そこにいたのは――

「キャプテン、下がってください!」

 夜獣とキャプテンの間に、立ちふさがる少女。

 黒と白のコスチュームをまとい、獣の耳を生やした、そのオルタナ少女の名前をキャプテンは知っていった。

「B92、じゃなかった」

「詩音です!」

 詩音が手に持っているのはランス。

 身長よりも大きい突き武器を彼女は軽々と身構える。

 ギャオオオオッ!

 夜獣は新たな標的を威嚇すべく、咆哮をあげる。

「詩音、いけメロー!」

 オルタナ少女に命令を下す、謎の声。

 詩音はそれにうなずいて、みずからのランスを操る。

「闇に還りなさい、夜獣! せいやぁっ!」

 黒い霧から出現したばかりの夜獣には、その一突きを交わすほどの能力はなかった。

 グギュゥゥゥ。

 哀れな断末魔を叫びながら、夜獣の形は崩れていく。

「はぁはぁ、危なかった。キャプテン、だいじょうぶですか?」

 詩音が振り返ると、そこには地べたに座りこんでいたキャプテンの姿があった。

「あ、ああ。こっちは大丈夫だ。それより……」

「こんなヤツが新しいキャプテンメロ?」

「そ、そいつは何なんだ?」

 キャプテンが指さしたその先には、白いぬいぐるみのような物体が宙に浮いていた。

「キャプテンは知らないんですか? この子は私たちの……」

「メロはメロメロ!」

 まるでマシュマロお化けのようなそれが、偉そうに自己主張する。

「メロも知らないとはキャプテン失格メロ!」

「……メロ、というのか、コイツ?」

「このメロをコイツ呼ばわりするとは、お前は本当にキャプテンメロ?」

「キャプテンだよ! その証拠に……あれ?」

「ぷぷぷ、よく見ると変な顔をしてるヤツメロ!」

 キャプテンの顔には、あるはずのものがなかった。

 彼はあわてて、ゴーグルを探す。

 先ほどの戦闘で彼は自分の予想以上に取り乱していたらしかった。

 足元には、そのゴーグルが転がっている。

 キャプテンはそれを確認する。傷はない。

「ちょっとメロちゃん。キャプテンに失礼なこと言っちゃダメじゃない?」

 詩音の声に、キャプテンは我に返る。

 しまった。素顔をオルタナに見られてしまった。

 動揺しながらも、キャプテンはゴーグルをかけ直す。

 詩音には反応している。オルタナ能力1054。

 しかし、メロと称するマシュマロお化けには、何ら反応を示していない。

「……コイツは何者なんだ詩音」

「メロちゃんは、私たちと一緒に夜回りしている仲間なんです、キャプテン」

 そう答える詩音の声は、戸惑っているように聞こえた。

 来たばかりのキャプテンと、オルタナのパートナーをしているメロ。

 信用するのはどちらか。言うまでもない。

「……くんくん。どうやら不審者じゃないようメロ」

「当たり前だ。俺はキャプテンなんだ。ちゃんと委員会から認められている」

「たしかに、オルタナの守護者としての素質はあるようメロ」

「守護者? メロちゃん、どういうこと?」

 詩音の疑問にメロはうなずく。

「コイツは変な顔をしてるけど、キャプテンであることは間違いないメロ」

「へ、変な顔って言うな」

「でも、夜に一人歩きするなんて非常識メロ!」

「う、うう」

 マシュマロお化けに常識をさとされて、キャプテンは黙りこむ。

 もし、詩音が助けに来なければ、どうなっていたか。

 彼のキャプテン人生はわずか一日で終わっていたかもしれない。

「メロちゃん、怒らないであげて。まだちゃんと伝わってなかっただろうし」

 詩音の優しい声もキャプテンの慰めにならなかった。

「……このあたりは、夜獣はよく出るのか?」

「ええキャプテン、だから重点的に夜回りしてるんです。時々はメロちゃんと一緒に」

「ということは、いつも一人で?」

「もし、何かありましたら、すぐみんなに連絡しますし。夜獣は放って置くと、どんどん凶暴化しますから」

「そ、そうか」

「はぁ……。せっかくキャプテンが来たと思ったら、こんな素人とはガッカリメロ」

 メロは生意気にも肩をすくめる。

 しかし、彼は反論できない。

 彼は知らなかったのだ。

 オルタナが毎晩夜回りするほど、この町の夜獣発生率が高いということも。

「とりあえず詩音、今日は学園に戻るメロ」

「ええ、キャプテンを送らないといけませんからね」

「まったく、メロと詩音に迷惑をかけるとは、とんでもないキャプテンメロ」

「ちょっとメロちゃん、キャプテンを責めないであげて。じゃあ、キャプテン、戻りましょう」

「あ、ああ。お願いするよ」

 キャプテンは力なくそう答える。

 彼はキャプテンとしての訓練を受けたが、実戦経験はない。

 だから、最初の着任先は平和な町であるはずと思いこんでいた。

 しかし、それは誰も教えてくれなかっただけだ。

 キャプテンはさっきまでの浮かれていた自分を罵りたくなった。

「到着しましたよ、キャプテン」

 妃十三学園の校門前で、詩音はあえて明るく声を出す。

「そ、そうだ。詩音……その……」

 素顔を見せるほどの失態を見せたキャプテンは、それを恥じながらも詩音に声をかける。

「ありがとうな。助けてくれて」

「ふふっ、大丈夫ですよ。じゃあ私はもう少しだけ夜回りしますね」

「気をつけてな」

「お前こそ気をつけろメロ」

「わかってるよ、メロ」

 詩音とメロの姿が夜の闇に消えるまで、キャプテンはじっと立っていた。

 彼は不安に包まれていたのだ。

 ……俺、月森町でキャプテンとして、やっていけるのだろうか

 

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