天華百剣-怪- 御華見衆のご意見番   作:ウォセ

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京都防衛戦線-結界石

 晴明は御華見衆本部の建物の廊下を歩いていた。

 本部に戻った日より幾日か経過し、この館内で働く者達も晴明を七星剣と丙子椒林剣の主として認識しており礼を持って接していた。

 そして晴明も、この日本を禍憑達より守る御華見衆の一員である職員達に敬意を払いながら挨拶を交わしながら移動し、七星剣と椒林がいる筈の司令室へとたどり着いた。

 

「星、椒林、失礼するよ」

 

「おはよう、主よ」

 

「おはようございます~」

 

 入室すれば、満面の笑みを浮かべる七星剣と椒林の2人が目に入る。晴明が戻ってからというもの、彼女達はいつもニコニコと笑顔を浮かべておりご機嫌だった。

 だが司令室には彼女達だけではなくもう1人巫剣が居た。

 

「おはよう。おや、小烏丸も居たのか」

 

「う、うむ! おはよう、主よ」

 

 もう1人の巫剣とは御華見衆の伝令役を務める小烏丸である。

 彼女もかつては晴明に仕えていた巫剣であるのだが、現在彼女は思わず声が上ずってしまうほど緊張しているらしい。

 理由は簡単である。小烏丸も晴明が戻った事を喜んでいるのであるが、小烏丸は素直ではない性格をしているため晴明が戻ってからの距離感を掴み損ねているのだ。

 

 そんな巫剣3人と晴明が朝早くから司令室に集まったのには理由がある。

 

「星、予定では出発は今日になる筈だったと思うけれど…詳細を教えてくれないかい?」

 

「うむ、主。今回主の京都遠征の護衛役が決まった」

 

 京都遠征。それが晴明が御華見衆に戻ってから最初に就く事になった任務だった。

 詳細は、晴明が戻ったあの日に遡る―

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

「さて、それでは早速本題に入ろうか」

 

 涙を流していた七星剣が落ち着き、上野支部めいじ館隊長の聖十郎と彼の巫剣の城和泉も司令室に入室させると晴明がそう発した。

 

「星、結界の維持権を私へ」

 

「あ、あぁ。いくぞ、主」

 

 先ほど大泣きしてしまった七星剣は顔に涙の痕があるのを気にしてモジモジしているが、ここは真面目な所。

 晴明と手を繋ぐと自身の持っていた術の権限を晴明に受け渡す。

 

「……ふむ、やはり結界が弱っているね」

 

「…すまない主よ。私では結界を維持する事もままならなかった」

 

「いいや、星はよくやってくれているよ。あの程度しか教えられなかったのにここまで持たせてくれたのだからね」

 

 何やら負い目を感じている七星剣だが、そんな彼女を慰めるように晴明はいつもの柔らかい笑みを浮かべた。

 

「あ、あの…晴明様、結界とは何なのですか?」

 

 会話の内容が分からずついて行けない聖十郎と城和泉だったが、どうにか内容を掴むためにも城和泉がおずおずと手を上げて質問した。

 それに答えるために晴明は口を開いた。

 

「現在この国には禍憑を自然発生させるのを抑制する結界が張られているんだ。だがその結界の効力が現在は弱まっており、禍憑を発生させてしまっていると言う事だね」

 

「主から司令の役職を引き継いだ際に結界を維持する権限も私に移行されたのだ。だが…」

 

 完璧にできなかった事を悔やんでいるのだろう七星剣が再び目を伏せるが、晴明は七星剣の頭を優しく撫でた。

 

「なっ…あ、主…!」

 

「結界は私が何とかするから大丈夫だよ。先ずは本部の結界石から術を施し直そう」

 

「わ、分かった…結界石は中庭にある…と、と言うか頭を撫でるのを止めてくれ主! い、一応整えているのだぞ!」

 

「おや、それは悪かったね」

 

 晴明と七星剣のやり取りを椒林はクスクスと笑いながら眺めており、聖十郎と城和泉もなんだか微笑ましくなってしまい見守っていた。

 これはかつての日常。御華見衆が全盛を迎えていた時代は晴明を中心にして皆が笑顔を浮かべてこんな光景を過ごしていたのだ。

 それが懐かしくも嬉しく、七星剣は胸が温かくなるのを感じる。

 そして本当に晴明が戻ってきたのだという実感を強く感じていた。

 

 皆は場所を移動して本部の建物に存在する中庭にやって来ていた。

 美しくも広い日本庭園だが庭を歩けるようになっており、その庭園の中央には小さな祠が建てられていた。

 

「あの祠は…?」

 

「あれがこの国に張られた結界を維持するための宝玉、結界石を安置してある祠だ。結界石は陰陽術の儀式によって力を維持しているのだが…」

 

 聖十郎からすれば陰陽術というのが実際に存在したというのも驚きなのだが、巫剣や禍憑といった超常の存在を知っているためそれほど騒ぐ事ではなかった。

 

「ですが現在は先ほど主様が仰っていた通り、力が弱まっているんです~」

 

「これから結界を1度張り直すよ。皆、少し離れていてくれないかな」

 

 晴明の指示通り、七星剣達は数歩退き後ろから晴明を見守る。七星剣達だけではなく、この本部で働く御華見衆の人々も司令である七星剣と共にいる男が中庭で何をしているのかと遠巻きながら様子を見ていた。

 そんな人々を意に介さず晴明は袖の下から幾つもの御札を取り出して自分の周囲に配置すると。両手を合わせて一礼してから祠の扉を開いた。

 祠の中にあったのは紫色に輝く宝玉。その宝玉を手に取った晴明は目を閉じて集中する。

 するとどうした事か、四方を建物に囲まれた中庭だと言うのに、強い風が吹き始める。それは宝玉と晴明を中心にした旋風だった。

 

「こ、この風は…!?」

 

「騒ぐな、これは主が世の理に干渉している証だ」

 

 突然の不自然な風に聖十郎だけではなく周囲で様子を見ていた御華見衆の職員達もどよめきを隠せないが、風はどんどん強くなっていく。

 それに合わせて晴明の持つ宝玉が輝き始める。

 

「儀式は順調なようだ。もうそれほど時間はかからないだろう」

 

 七星剣と椒林は儀式の成功を確信して微笑んだが…そこへ御華見衆の伝令役の男が駆け寄ってくる。

 

「司令! 副司令!」

 

「何だ? 今は取り込み中だ。後に―」

 

「禍憑です! 本部の南口に、多数の禍憑を確認しました! 現在、戦闘を行える職員が応戦していますが長くは持たないと…!」

 

「な、何だと!?」

 

 突然の禍憑の襲撃。それも御華見衆の本部を直接攻撃するような事はこれまで無かったため七星剣も動揺を隠せない。

 しかし今は主がこの国を護る為の大切な儀式を執り行っている最中。邪魔はさせれなかった。

 

「儀式を邪魔させる訳にはいかない。私達で禍憑を撃退するぞ」

 

「小烏丸と抜丸は今本部を出て任務中ですから、対応できるのはわたくし達だけですね。隊長さん、城和泉さん、共に禍憑への対処をお願いします」

 

「勿論です!」

 

「任せて下さい!」

 

 儀式の最中である晴明は動けない。小烏丸とその部下の抜丸も東京の周辺支部への連絡へ出てしまっていたため禍憑と戦えるのはこの場にいる3人の巫剣と聖十郎だけだった。

 

「七星剣、あなたは主様のお傍に。万が一禍憑達がすり抜けてここまで到達してしまえば主様は無防備ですから。どうかお願いしますね」

 

「む…そうだな、分かった。私は守りに就く。迎撃は任せたぞ、椒林」

 

「お任せを~」

 

 椒林の提案で七星剣はこの場に残り晴明を守る役目に就く事になった。御華見衆最強の巫剣である七星剣がいれば、この場の守りは何とかなるという椒林の信頼だった。

 そして椒林、城和泉、聖十郎は本部の南口まで行くと既に建物内まで禍憑に侵入されてしまっていた。

 

「グォオオオオオ!」

 

「ぐあああああっ!?」

 

 菊花刀を持ち禍憑に応戦していた御華見衆所属の衛兵達は善戦していたが、禍憑を倒す事ができないため徐々に不利になってしまい傷を負ってしまっている。

 このままでは突破されてしまうのは時間の問題だったが…。

 

「たぁああああああっ!」

 

「グギャ!?」

 

「はいっ♪」

 

「グゴォオオオオオオオオオオオ!?」

 

 そこへ城和泉と椒林が駆けつけ禍憑を打ち払った。

 椒林は一振りするだけで周囲の禍憑達を纏めて吹き飛ばすほどの強烈な力で一気に戦線を押し戻す。

 城和泉も椒林には及ばないものの次々に禍憑を討ち取っていく。

 

「ここから先は、一歩も通さないわ!」

 

「主様の邪魔はさせませんよ~」

 

「副司令は戦線を押し戻して下さい! 城和泉は俺と一緒に隙から抜けようとする禍憑を狙え!」

 

「は~い、分かりました~」

 

「任せて!」

 

 一歩退いて戦場を見れる聖十郎が指示を出して椒林と城和泉が禍憑を押し戻していく。このままならこの場は守りきれるだろうと聖十郎が思ったその時、中庭の方から大きな音が響いた。

 

「中庭から…!? もしかして他にも禍憑が!?」

 

 急いで中庭に戻らなければと思う聖十郎だが、この場の戦線を放棄する訳にもいかない。

 どうするかと思考を巡らせていると椒林が笑顔で聖十郎に語りかける。

 

「大丈夫ですよ~。中庭には七星剣がいますから」

 

「し、しかし司令と言えども1人では…!」

 

「七星剣は結界の維持に力を裂いていたため、能力が大幅に落ちていたんです」

 

「グギャアアアア!?」

 

「その状態でも御華見衆最強の看板を背負っていたんです。結界の維持を主様に戻した七星剣は、正に全盛期。問題ありませんよ~」

 

「…分かりました。ではこの場を制圧してすぐに中庭に戻りましょう!」

 

 禍憑を袈裟斬りにしながら椒林はそう言うが、聖十郎は不安が拭えなかった。

 しかしこの場を放り出すわけにもいかないため、今は七星剣を信じて目の前の戦いに集中する事にした。

 そして中庭では、聖十郎の予想通り七星剣の前に巨大な禍憑が現れていた。

 大きな体と両腕に翼を持つ禍憑、弩鴉である。この禍憑は飛行できるため本部の外壁を超えて一気に中庭まで侵入したのだ。

 

「ガァアアアアアアアアッ!」

 

「儀式の邪魔はさせん。主は今度こそ…私が守る!」

 

 弩鴉の気迫に全く怯む事無く七星剣は腰にある自らの分身を抜刀する。

 翼を振るい、自分の羽を矢のように放つ弩鴉に対して七星剣は剣を一振りしてその羽を全て叩き落した。

 

「ガァガァッ!」

 

「遅い!」

 

「グガアアアアアアアッ!?」

 

 撃ち落とされても数撃てば当たるとばかりに再び翼を構えた弩鴉だったが、七星剣からすれば遅すぎる。踏み込み一閃すると弩鴉は真っ二つに切り裂かれて消滅した。

 弩鴉は禍憑の中でも強力な大型禍憑に分類されるのだが、それを一撃で倒してしまったのだ。

 これが最強の巫剣、七星剣の実力である。

 

「グガァアアアアアアア!」

 

「ガァアアアアアアアア!」

 

「ギィイイイイイイイイ!」

 

 だが力の差は数で埋めるとばかりに更に空から3体の弩鴉が現れる。

 これほどの数の弩鴉に囲まれてしまったとなると本来なら成す術もないが、七星剣は違う。

 

「どれだけの相手が来ようとも、決して怯みはしない! 闇を切り裂き、いざ咲き誇らん!」

 

 御華見衆の信念でもある闇を切り裂き、いざ咲き誇らんとう言葉を口に七星剣は弩鴉へ切り込んでいく。

 あまりに強大な力に弩鴉はどうにか抗おうとするものの、七星剣を止めることはできなかった。

 

 そして時が満ちる。

 晴明を中心とする風はより強くなり、また宝玉の輝きもどんどん増していく。

 輝きが最高潮に達したとき、風と共に宝玉の輝きは周囲へと吹き抜けた。

 

 光を纏った風は本部の建物を突き抜けるだけには留まらず、更に広がっていく。道を、街を、空を吹き抜けていく風は東京全土へと広がった。

 

 

「グォオオオオオオオオオオ!?」

 

「グギャァアアアアアアアア!?」

 

 同時に、光を纏った風を受けた禍憑達は体が崩れていき塵となって消え失せていく。泥鎧も弩鴉も、大も小も関係なく全ては無へ還っていく。

 これが禍憑を払う結界の光だった。

 

「禍憑達が…!」

 

「消えていくわ!」

 

「主様が儀式を成功させたのですね。戻りましょう~」

 

 椒林の言葉で聖十郎と城和泉は刀を鞘に納めると中庭へ戻ると清々しい笑顔を浮かべた晴明と、彼に寄り添う七星剣が彼らを出迎えた。

 

「椒林、城和泉、聖十郎君、よく持たせてくれたね。これで東京周辺の禍憑発生はかなり抑制される筈だよ」

 

「これが結界の力、なんですね…」

 

 結界を張っただけで本部を襲撃していた禍憑達が跡形も無く消し飛んでしまった。

 それだけでもこの結界の力がどれほど凄まじいのかが聖十郎にも理解できた。

 

「ああ、この国にある結界石は全部で7個。結界石を通じてこの国の結界を張りなおさなくてはならないね…さて星、次は京の結界石で儀式を行おうと思うんだが…」

 

「駄目だ」

 

「え…」

 

 今の話の流れからいけば残り6つの結界石を使い結界を張り直さねばならないため、次の結界石のある場所へ向かうのは自然な流れである。

 しかし七星剣はそんな晴明の提案をバッサリと切り捨てた。

 

「結界を張り直せる主は、当然禍憑や彼岸五将にも狙われるだろう。本部の方から護衛を選出するからそれまで待っていてくれ」

 

「そうですよ~主様。それに結界を張り直したのなら大量の霊力を消費されている筈ですし、少しくらいのんびりとされたら如何ですか?」

 

「ううむ……分かったよ。今の御華見衆の司令は星だからね」

 

「数日ほど時間があれば各所への根回しも済む。任せてくれ主」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 という事があり京都に安置してある結界石を使い京都周辺の結界を張りなおすための遠征へ晴明が向かう事になったのだ。

 この任務は晴明にしかできないため晴明の身を守るたに選出された護衛が紹介される筈だった。

 

「それで、私の護衛は誰になるのかな?」

 

「うむ、私だ」

 

 晴明の疑問に答えたのは七星剣だった。

 一瞬聞き間違いかと思った晴明はとりあえず疑問に思った事を尋ねてみる事にした。

 

「星、司令であるキミが本部から離れてしまって大丈夫なのかい?」

 

「それついては問題ない。急ぎの仕事はここ数日で集中して終わらせたし私が本部を留守にする間は何かあっても椒林が対応してくれる」

 

「護衛は星だけなのかい?」

 

「うむ。私がいない間は椒林に本部にいて貰わねばならないし、小烏丸は主が戻った事を各支部に連絡するのに忙しい。小烏丸の部下の抜丸は小烏丸の穴を埋めるのに忙しいのでな」

 

 晴明も本部に戻った後に聞いた事なのだが、現在本部勤めの巫剣は七星剣、丙子椒林剣、小烏丸、抜丸の4人しかいないと聞いた時は晴明も目を点にして驚いていた。

 

「東京の各支部から護衛を抜擢しようとも思ったのだが、東京の結界も一応経過を見ておこうという事になってしまってな…すまない主よ。本来ならもっと護衛を付けたかったのだが…」

 

「私なら構わないよ。元々は1人で行こうと思っていたくらいだからね」

 

「何を言う主よ! 本来ならば十数人の護衛をつけるべきだ! だが、今の御華見衆は人手不足なのだ…」

 

「それも主が戻ったのならば時間が解決するじゃろう。野にいる巫剣も探して妾が連絡を取っておる」

 

 小烏丸は烏を使い遠くへと目を向けたり声を飛ばしたりする事ができるため、各支部や今は御華見衆から離れている巫剣にも晴明の帰還を報告していた。

 そもそも御華見衆から離れている巫剣がいるのは彼女達を束ねていた晴明がいなくなったからと理由が大多数であり彼が戻れば戻る者も多いだろう。

 

「それでは主よ、早速京都へ向けて出発するとしよう」

 

「分かったよ。星と2人で旅というのも久しぶりだね」

 

「あぁ…安心してくれ主よ。私が必ず主を守ってみせる」

 

 こうして晴明は結界石のある京都へと、愛刀の七星剣と共に向かう事になったのであった。

 禍憑が待ち構えているであろう京都にてどんな戦いが待ち受けているのか…それはまだ、誰にも分からない。

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