あれから支部を潰し回っていた戒翔は一度、アリカ姫の下に戻る。
「・・・すまん、もう一度言ってくれないか?」
「じゃから、秘密裏に向こうのヘラス帝国のテオドラ皇女殿下に御会いするから支度するのじゃ。」
執務室に通された戒翔はアリカの言葉に頭を抑える。
「・・・仮にも敵国の人間と会うというのはどうかと思うが・・・俺の他に誰を連れて行くんだ? それとも俺とアリカ姫の二人だけなのか?」
「一応、非公式の場ゆえに妾と騎士たるお主の二人だけじゃ。 なに、妾達に何かあればお主が護ってくれるのじゃろ?」
不敵な笑みを浮かべるアリカに戒翔は深く溜め息を吐き項垂れる。
「分かった分かった。 ただし万が一が起きた時には俺の事は考えずにお姫様は自分自身の事を考えてくれよ?」
「そんな事は言われるでもないわ!」
戒翔の言葉にアリカは怒鳴るようにして席を立つ。
「妾は支度をする。 準備が出来次第城を発つ」
「了解した。」
アリカが執務室を出るのと一緒に戒翔も執務室から出て行く。
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「それで、非公式に行われる会談の席はヘラスとオスティアの境目・・・か。 まぁ、妥当な所か」
「一々口にするでない。 もうすぐテオドラ皇女殿下がお見えになるのじゃぞ。」
岩が立ち並ぶ場所にアリカは戒翔と共に到着し、ヘラス帝国の皇女を待つ。
「しかし皇女か・・・アリカの様な人間ならどうするか・・・」
「なんじゃ、その言い草は」
「ん? 別に他意はないが、アリカの様な美人なのかなと気になっただけだ」
考える素振りをする戒翔にアリカは不満げな視線を向けるが次に戒翔の発した言葉に呆気に取られるが、次第に顔を赤くし
「な、何を馬鹿な事を言っておる! それよりも秘密の会談じゃが、何処から狙われるか分からんからしっかりと見張っておれ!」
「はいはい・・・と、向こうさんも到着のようだ・・・な?」
岩の向こうから歩いて来る王族の様な恰好をした少女とメイドらしき女性の二人組に戒翔は目を丸くする。
「・・・なぁ、アリカ・・・相手の皇女様は子供なのか?」
戒翔の言葉にアリカは呆れた表情をする。
「・・・戒翔は知らんのかも知れんがテオドラ皇女殿下を含めて亞人の者達は容姿通りの年齢では無いから気を付けるのじゃ。」
「・・・そう言うものなのか」
歩いて来るテオドラとそのメイドが所定の位置に着くのを確認してアリカ達も歩を進める。
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「・・・ヘラス帝国のテオドラ皇女とウェスペンタティアのアリカ王女を確認。 テオドラ皇女の傍にいる工作員に持たせた魔法道具が起動するのと同時に仕掛けるぞ。」
「我らが悲願の為にはあの二人は邪魔・・・この戦争が終わるまでは勝手な事をされない様に捕らえておく必要がありそうですね。」
岩の群小地帯から少し離れた場所には数百名からなる黒いフードを被った集団が集まっており、遠見の魔法道具でアリカとテオドラの二人を監視する者と今か今かと疼く者が犇めいていた。
「アリカ王女の近くにいる者はどうしますか?」
「邪魔をするようならば排除しても構わん。 我等は我等の使命を果たし幹部になる為の功績を挙げる。 合図が来る前に事前準備をしておいて損は無いだろう・・・召喚魔の用意もしておけ。」
「召喚魔・・・ですか?」
「万が一の事も踏まえてな・・・アリカ王女は王家特有の魔法無効化持ちだ。 我々だけで対応できるのであればそれに越した事はないが、事柄は常に最悪の想定をしておかなければどこかで手痛い竹箆返しが来る物だよ。」
監視をする者の傍らにいるローブを羽織った人物は不思議そうな表情をするが、監視していた者はアリカの隣に立つ戒翔に目を向ける。
「・・・彼が何者かは知らないが、アリカ王女の隣に立つほどの人物だ・・・警戒しておくに越した事では無いか・・・。」
そう言って監視の者はテオドラの御付きのメイドに視線を向ける。
「上手くやれよ・・・我等【完全なる世界】の妨害工作をたかが王女と皇女の二人に邪魔されるわけには行かないのだ。」
そう言って監視の者は遠見の魔法具を片手に、周りを見、他に異分子がいないか確認をするのであった。
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お互いに自己紹介を終えて戒翔が何処からか取り出した円卓を囲み二人は座って話をしていた。
「しかし、聞きしに勝る御仁なのじゃな、カイトと言う者は・・・なぁ、儂の所に来ぬか?」
「テオドラ皇女、カイトは妾の騎士をしておるのじゃ。 そう簡単には引き抜かせはせんぞ? この男はそこらで簡単に出会えるような人物では無いしの」
円卓を囲んでアリカとテオドラは当初の目的である停戦の為の段取りを粗方決め、アリカの護衛として着いて来た戒翔にテオドラが興味を持ち、話をしている内に帝国内に届いている噂と相まって欲しいと戒翔に告げるが、それをアリカは無理だと告げる。
「のぅ、カイトよ。 アリカ王女の所では無く何故、儂の所に来なかったのじゃ!」
「それを俺に言われても困るのだが・・・」
アリカの言葉を聞いてテオドラが不満を口にするが、戒翔は困ったような表情と言葉にする。
「・・・皇女殿下、そろそろお時間かと」
「む・・・? そうか・・・致し方あるまい、今回はこの辺りにして引き上げる事にするかの? 次に会う時には絶対にお主を儂の所に来させてやるのじゃ!」
「何度来ても同じ結果だと思うの・・・テオドラ皇女様?」
テオドラとアリカのやり取りを苦笑しつつ見守っていた戒翔だが、テオドラの御付きのメイドが胸元から出した物に意識を向ける。
「(・・・何かの合図か?)」
訝しみながらもその動作を観察するように、しかし相手に気取られない様に見ていた戒翔は魔眼を使いソレの解析をすると
「ッ!? 2人とも、おしゃべりはそこまでだ! 敵が来るぞ!」
「「ッ!?」」
胸元から出した魔法道具を亞人としての膂力なのか空高く投げた物は最高到達点に達したのか眩い光と共に空中に巨大な魔法陣を形成する。
「大規模転移魔法陣ッ!? テオドラ皇女殿下、妾達を嵌めたのかッ!?」
「わ、儂は知らんのじゃッ!? どういう事なのじゃ!」
「・・・どういう事もなにも元々このメイドは偽物だからですよ・・・テオドラ皇女殿下」
慌てふためく二人を余所に佇む様に、そして空を仰ぐように見ていたメイドはその顔を三人に向けた時にはその表情は魔族そのものであり、その表情を見た二人は息を呑む。
「ま、魔族じゃとッ!?」
「・・・高位の魔族か。」
慌てるテオドラを尻目に戒翔はメイドだった者を見据えて魔力を、雰囲気を感じてそう零す。
「そう、私は召喚された者で侯爵の位階にいる者です。 彼女、テオドラのメイドをしていた者は命は奪っていません。 無闇な殺しは私の矜持に関わりますからね。」
そう告げた女の悪魔は背中から二枚の羽を生やし、両手の爪が次第に伸び爪の長さは出刃包丁位までに伸びる。
「まったく、俺がいる所でしかも単独で行動起こすなんて「誰が単独といいました?」 ッ!?」
女悪魔の言葉に反応し、周りの岩場を凝視する戒翔はこの世界に来て初めて焦りの表情を見せる。
「ど、どうしたのじゃ!?」
「・・・囲まれている。 少なく見積もっても数百人単位がこの岩場の周囲に陣取っている。」
戸惑い気味に聞くテオドラに戒翔は目の前の女悪魔から視線をそらさずにそう答える。
「す、数百人じゃと!?」
「お主一人でどうにかならんのか?」
「・・・確かに俺一人なら簡単に潰せるだろう。」
驚くテオドラと冷静に告げるアリカの言葉に戒翔は簡潔に答える。
「な、ならさっさと」
「だが、護衛をしながら正確な数を把握しないまま戦闘する事は出来ない。 俺はあくまでもアリカの騎士であるのだからな・・・アリカを危険に晒す様ならば一度素直に捕まった方が得策だ。」
「な、なんじゃとッ!?」
戒翔の言葉にテオドラが狼狽える。
「・・・致し方ないのか?」
「俺はアリカの騎士だ。 アリカの安全を確保出来る様な事ならなんだってしよう・・・」
「・・・では、大人しくこの手錠を嵌めなさい。 魔法はおろか種族特有の能力すら封じる特殊加工された物です。」
魔族の女に言われるままに戒翔はテオドラとアリカの両名の手首に手錠を掛ける。 そして最後に自身にも手錠をかける。
「さて、ではこれからあなた方にはある場所に来て貰います。」
「戒翔・・・」
「安心しろ。 絶対にアリカの望まない事態にはしない。 お前は俺が絶対に護る」
高揚している女悪魔を尻目に不安げな表情を見せるアリカに対して戒翔は優しくしかし安心感を与える様に言葉にした。