頭チワワな狼に優しい葦名 作:破戒僧の右腕の袖
数回刃を交えて分かったのは、この男の信念の強さだ。
刀の一振一振に、己が魂を掛けるが如き意志を感じる。
そして何より、恐ろしく強い......!!
刃と刃の正面からのぶつかり合いにより、火花が散り一瞬明るくなり、目が焼ける。
その隙を見て御子様に心を寄せる男が空へ飛び立ち、背中の大弓で矢を放ってくる。
地に囚われず縦横無尽に駆け巡るその在り方は、侍よりも忍びに近しいように思えた。
上手く弾けず矢を受けてしまい、体勢が崩れる。
顔を顰めてしまい一瞬視界が狭まる。これは良くないと思い目を開いた瞬間、
―――己が左腕が、飛んだ
急な出血と痛み、半身の喪失による重心の傾きに耐えられず倒、れ込んでしまう。
「忍びとてこの程度か......」
刀を鞘に納めた男は、既に自分に興味がないようだ。
「御子は頂いて行くぞ......」
あぁ.....御子......様......。
「狼ぃぃぃぃぃ!!!!!」
御子様....!?危ないでござりまする!!
「狼ぃ!!大丈夫か!?う、腕が!!あぁどうすれば良いのじゃどうすれば良いのじゃああああ!!!」
「弦一郎様.....申し訳ありませ......」「狼ぃ!!狼ぃ!!」「ぐえぇ!?えぇ...!?」
御子様が鷹の様な面をした忍びを締め上げながらお声を掛けてくださる.....申し訳ございません......御子様.......。
そんな思いと共に、意識が沈んだ。
☆
「あぁ.......狼ぃ.......」
「竜胤の御子よ......」
涙を流し、忍びに声を掛ける竜胤の御子を城に連れていこうとする葦名弦一郎。
「来い、竜胤の御子よ」
「嫌じゃ!!狼も一緒じゃ!!」
しかし動かない。仕方ないと思い力ずくで.....
「ぐんぬうううううう!!!!」
「狼ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
だが強いッ!!圧倒的怪力ッ!!地面の岩に掴みかかりどうにか狼から離れまいとする竜胤の御子ッ!!
動かざること山の如しッ!!これには葦名の国現当主であらせられる葦名弦一郎も冷や汗をかいたッ!!
(ま、まさかここまで手を焼くとは思わなかったが、これも葦名のため。どうにかして連れてからねば!!)
「いい加減にしろ御子よ!!お前の力で葦名を救わねばならんのだ!!」
「嫌じゃ!!狼を犠牲にする国など滅んでしまえ!!」
「何ぃ!?!?」
とんでもないことを言い出した御子に頭が痛くなってきた葦名弦一郎。そろそろ締め上げられている寄鷹衆の息の根が止まりそうなこともあって早く連れていかねばと思っていたその時、弦一郎の頭に巴の雷が落ちた!!
「御子よ.....無駄な抵抗はやめた方がいい。城で大人しく、忍びの助けを待った方が良いのではないか?」
「狼の.....助け.....?」
その時御子の頭の中に妄想がほわんほわんと浮かぶ。
『御子様、お待たせいたしました......もう二度と離しはしませぬ......』
『あぁ、狼....!!』
顎クイされるときめき顔の御子に、狼が追い打ちをかける。
『御子様......いえ、九郎様......』
『はう!?』
ときめきポイントその1!!名前呼び!!
普段名前を呼んでもらうことのない御子にはこうかはばつぐんだ!
さらに狼はおもむろに御子に抱きついた!!
『我が将来の、伴侶となっていただきませぬか.....』
『はうはう!?』
ときめきポイントその2!!抱きしめ告白!!
相手の心臓の鼓動を感じながらの愛の囁きに御子はもう骨抜きだ!!
そんな感じで囚われの姫ポジになれることを察した御子は、手のひらを返した様に弦一郎を連れて葦名の城に飛び込んだ。
「さぁ狼よ、ワシを助けに来い!!」
肘掛に肘を掛け、不敵に笑うその姿は、もはや魔王のようであったという。
(こ、これも葦名のため.....)
その近くには、胃痛に悩み道順に胃薬を頻繁に頼む当主の姿もあったり無かったり.....。
全く話が進まねぇ!!