頭チワワな狼に優しい葦名 作:破戒僧の右腕の袖
男はのらりくらりとした動きで刀を振るってくる。
確かに一撃は重い。しかし、受け流せばどうということは無い。
恐らく鍔迫り合い等を主にした戦いをして来たのだろうと思えた。
「其処許、なかなかやるではないか」
「お前もな、知らない人」
すると相手が踏み込んで連撃を放って来た。
膠着状態だったその場の形勢が傾き、
「なんだと!?」
狼がそれを弾いたことで流れが完全に狼に委ねられた。
男は体勢を崩し、体がぐらついていた。
「御免。」
狼はすかさずガラ空きの胸に刃を差し込んだ。
血を流し声も無く倒れる男に、狼は小さく祈った。
躊躇なく、感情なく、ただひと握りの慈悲は忘れるべからず。
それが、義父の教えだった。
そのまま狼が背を向け帰ろうとしたその時、
「ぅうん......やはり、死ねぬなぁ.....」
背後から声が聞こえた。
いやまさか、まさかな。死んだ人間が蘇るわけがない。
そう思いつつ振り返ると......。
「其処許の太刀筋、見事であった。それがしを、斯様に十全に殺した者は、そうは居らぬ」
傷の無い体に不自然に血を浴びている、先程の男が立っていた。
狼はビックリした。ビックリしすぎて怖気ゲージが半分溜まった。
すかさず狼は背を向け、全力で走った。
「そ、其処許!?待たれよ!!」
反射的にそれを追って来る知らない人。
狼はまたビビり散らかして速度を上げ、エマの後ろに隠れた。
「どうしたのですか?何やら遊んでいたようですが......」
なんだかすっごい暖かい目で見てくるエマにたどたどしく事情を説明した。
「し、知らない人が、声を掛けて来て、襲ってきた。倒したら、よ、よ、蘇った.....!!」
「其処許!?それは些か人聞きが悪い!!」
先程の光景を思い出し怖気ゲージが7割に差し迫った狼の震えが一段と強くなった。
すると、エマがゆらりと歩き出し....。
「エマ殿......?」
名を呼ぶ知らない人に一瞥もせず近寄ると、
知らない人が十字に裂かれた。
狼の怖気ゲージは9割強にまで至った。
「まさかエマ殿にあそこまでの剣才があるとは思いも寄らなかった。だが、それでも死ねぬか......」
「半兵衛さん?」
「ははは、わかっておる。其処許よ、急に斬りかかって申し訳なかった。心底驚かせてしまったようだな」
「......いや、いい」
少し落ち着いて怖気ゲージが下がってきた狼は、冷静に考えて女性の後ろに隠れるとか情けなさ過ぎることをしたのを思い出し、少し凹んだ。
あの後聞いたのだが、知らない人の名前は『半兵衛』といい、死なずらしい。本当に存在するとは思わなかった。
そんなのがあるなら色んな人が頼ると思うが、どうなのだろうか。と思う狼。
「其処許が良ければ、それがしで刀の修練をせんか?死なないゆえ幾らでも斬られてやれるぞ?」
なんか凄いことを提案し出した半兵衛に、狼は少し引きながら断るのだった。
「そうか?まぁ、気が向けばで良い。それがしはいつでもアソコに居るからな」
そう言って立ち上がり歩いていく半兵衛。
なんだか悪いことしたなと狼が思っていると、エマがまた頭を撫でて来た。
「貴方は怖がりですからね.....」
よしよしと言いながら撫でてくるエマに対し、義父上とは違う懐かしさを思い出す狼。それが何かは分からないが、どうにも嫌では無かった。
狼の眉間には1ミリも皺が有りません。ただタレ眉のせいで(´・ω・`)って顔してます。