鬼は藤の花を嫌う。だから、鬼狩り様を助ける藤の家紋の家は常に藤の花をストックしている。回復ポイントを奪うのは戦闘において定石だから、襲われないようにするためにだ。
しかし藤の花も一年中ある訳では無い。藤の花がない時期は、藤の花があるうちに乾燥させてそれを炊いているという。だがたまに無くなりそうになってしまう時がある。そんな時は花屋まで行って乾燥させた藤の花を買ってくるのだ。
ここまで言えばもう分かるだろう、私は藤の花を買うために花屋まで行っていた。ぬくぬくと過ごしているうちにあっという間に10代だ。夜間のお使いだって、心配はされたが楽勝なのだ。ドヤ顔しながら用を済ませて家に帰り敷地内に入ると、まるで誰もいないかのようにシンと静まり返っていた。両親共、何か急用でもあったのだろうか?
玄関を開ける。誰もいない。
廊下を歩く。誰もいない。
和室を覗く。誰もいない。
台所を覗く。誰もいない。
風呂場を覗く。誰もいない。
誰もいないだろうと思い、家の一番奥にある自室を覗く。倒れている人影が2つ、それを貪り食っている人影が1つ。それを視認し、理解する前に趣味で飾っていた日本刀を手に取り唯一動いている人影に刀を振るった。
その人影は鬼だった。角が生え、爪は長く、白目は黒くなり黒目は赤くなっていた。
2つの人影は両親だった。玄関から入った鬼から逃げるように奥へ逃げ、私の自室に逃げ込んだのだ。母親の頸は引きちぎられ、父親の両腕は食われていた。
「なんだァ、美味そうな餓鬼が残ってやがったじゃねえーか!」
私に剣術の心得なんてない。ひたすら無心で刀を振るった。その間の記憶は何一つない。静かになったと感じた時にようやく腕を止めると、鬼は肉塊になりウゾウゾと蠢いていた。気持ちが悪くて、何度も何度も刀を刺し、抜いて、また刺した。その度に鬼は小さな悲鳴を上げた。
鱗滝さんが言っていた。鬼は、日光に当てるか日輪刀で頸を切らないと死なないのだと。私が持っている刀は日輪刀ではない。だからきっとこの鬼は死ねないのだろう。楽にしてやりたいとも思うが、今生の両親を殺された恨みもある。どうしようかと思案しているうちに、朝日が昇り始めた。おかしいな、帰ってきた時はまだ前世で言う8時くらいだったのに。私は何回鬼を刺したんだろう?
「ふむ。雑魚とはいえ、鬼を生身で倒すとは驚いた。お前も鬼にしてやろう。私の血に順応出来るか見物だな」
気配が無かった!気づかなかった!冷や汗をかいた時にはもう遅く、振り返ると同時に私の顔面を何者かに突き破られた。そこから先の記憶は、ない。
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない