煉獄さんが出ていった稽古場の出入口を見つめていたら、黒髪の小柄な人がぬるっと姿を現した。口元に布を巻いていて、首には蛇が巻きついている。ペットか相棒だろうか。
「煉獄に勝ったからって調子に乗るなよ。そもそも煉獄はここを壊さないように抑えていたんだ。外でやっていたら貴様なんぞ瞬殺だったんだからな」
こちらを指さしながら、ネチネチとした口調で嫌味を言ってきた。ていうか誰だ・・・なんとなく強そうだからこの人も柱か・・・?
「いいか、俺は鬼が嫌いだ。大嫌いだ。だからお前を信用しない。それに貴様が20年近く人を喰っていないこととこれからも喰わないことには関連性がない。第一貴様も鬼だろう。鬼を全て倒した時、貴様はどうするのかね。食料が無くなるぞ。まあ貴様がそこまで生きていられたらの話だが」
ネチネチネチネチネチネチ、まるで擬音語が目に見えるくらいにネチネチとした話し方をする人だった。本当に誰だ。柱だろうけど、まず何柱があるのか私は把握していない。つまり柱が誰かも分からない。分からないことは仕方が無いので一旦思考の隅に追いやり、とにかく目の前の人物の質問に答えることにした。
「確かに、人を喰わない保証は無いと言われたらそれまでです。が、そもそも人を喰う必要がありません。栄養なら鬼で補給出来ますし、普通に人の物が食べられるので美味しいものが食べたくなったら店に行きます。鬼を倒し切ったときの話ですが・・・まあ、日光にでも当たって死ぬつもりです。どうしても幸せに暮らして欲しい子が居るんです。自分含め、鬼は全て消しさらないと」
言わずもがな伊之助のことである。伊之助が今どうしているのかは知らないが、あの時のままあの山で暮らしていけていたらいいと思っている。目の前の人物の目を見て言い切ると、眉間にシワを寄せたのがわかった。
「・・・いいか、俺は信用しない。鬼を鬼殺隊に入れるなど、煉獄も何を考えているのか理解しかねる」
「まあそれは私も思いましたけど、駄目なら駄目でお館様が却下するはずなので大丈夫だと思います」
「当たり前だ。もし承認されることになどなったらお館様であっても反対す、る・・・」
語尾が詰まったなと思うと同時に、目の前の人物の首にいた蛇が床を伝って私の方までやってきた。海の軟体動物と違って蛇などの爬虫類は許容範囲内だが、あまり近くで見たことがなかったためマジマジと見てしまう。
「・・・この子、人懐っこいんですね」
「おい、返せ」
「この子の意思を尊重したいので、そちらに戻るまで待ってあげてくださ、わ、擽ったい!」
蛇がこちらに来たと思ったら足を伝って服の中に入ってきた。なんだこの変態ヘビは!と思っていたら、すぐに出てきて私の首に巻きついた。え、これ絞め殺されそうになってる?
「・・・ハァ。そいつが懐くなど、滅多にないはずなのだが」
そう言いながら、目の前の人物は顔を手で覆って項垂れた。驚いたことに、どうやらこの蛇に懐かれたそうだ。蛇の飼い主には嫌われてるけど不思議なこともある。やーい、蛇もーらい!あっ冗談ですごめんなさい。
「チッ・・・俺は伊黒小芭内。いいか、馴れ合うつもりも信用するつもりもない。少しでも怪しい真似をしてみろ、俺が貴様の頸を跳ね飛ばしてやるからな」
謎の人物、もとい伊黒さんがそう言って出入口から姿を消すと、私の首にいた蛇も伊黒さんを追って稽古場から出て行った。結局あの人は柱だったんだろうか・・・?
蛇が懐いちゃったもんだから、悪いものじゃないと分かってしまった伊黒さん。でも鬼大嫌いだからそう簡単には信用出来ないぞ!
伊黒さんと仲良くさせたいけど、難しそうだなぁ・・・(遠い目)
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない