2度の人生と1度の鬼生   作:惰眠勢

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第40話 白目

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

「あ、あの・・・?」

 

 稽古場での稽古帰り、自宅に向かう途中の山の中腹でかなり体格のいい人に出会った。その人物は黒目が存在せず、どこを見ているのか全くわからない。私の存在を気配か何かで察知したのか、違う方向を向いていた謎の人物(便宜上白目の人としよう)はこちらを向いて何故か念仏?を唱え始めた。そして数秒経ってから、再度口を開いた。

 

「柱の者数名が・・・君のことを認めていると聞いた・・・」

「君は鬼であるが・・・悪人ではないと心の目で見て確信している・・・」

「だが・・・認められるかは別の話だ・・・」

「君が既に強いことは知っているが・・・よければ私の修行に付き合って欲しい・・・」

 

 ・・・なるほど。おそらく話の流れ的にこの人は柱の誰かだ。確かに柱の人数人に私の事を認めてもらっているが、逆に言えば残りの数人は認めていないということになる(柱が合計何人いるのか知らないが)。この白目の人は後者の認めていない側なのだろう。でもなぜそこで修行に繋がるのか・・・?

 

「修行、ですか。はい、是非同行させてください」

「そう言ってくれると思っていた・・・私の修行場は少々離れている・・・着いてくるように・・・」

 

 

 そして、およそ2,3時間かけて少し離れた山に到着した。山を登り始めてしばらくすると小屋が見えて、同時に滝がすぐ側にあることに気がついた。滝に打たれる修行だろうか?僧侶のような見た目をしているし、似合っているかもしれない。

 

「普段の修行だが・・・まず滝に打たれ・・・丸太数本を同時に担ぐ・・・最後にそこの岩を押して運ぶもの・・・」

「下から火で炙るものもあるが・・・鬼とはいえ素人が行うと危険な為・・・無しとする・・・」

「なるほど、了解です」

 

 今更だが、私は鬼になったせいか温度や痛みに対する感覚がかなり鈍くなっている。さっそく滝の下の岩に座ってみたが、本来あるはずの痛みも冷たさもほんのり感じる程度だった。これで修行になるのだろうか。白目の人に聞いたら、この状態で念仏を唱えながら丸一日打たれ続けるのだと。なるほど、ずっと同じ体勢でいる訳だしエコノミー症候群になりそうだ。まあやるけど。

 

 幸か不幸かこの山は木が生い茂っているから、丸一日滝に打たれていようと日光にやられることは無い。丸一日に及ぶ滝打ちが終わり、次は丸太数本を担ぐ修行になった。ただ、鬼の腕力だと簡単すぎるため木を伐採する所から始める。勿論素手だ。手刀で根元を抉り続け、15M程ある木を5本程倒して縄でグルグル巻きにした。横方向にするとスペースがないため、縦の状態のまま持ち上げたり降ろしたりを何回か繰り返した。丸太というか木そのもののような気がするけど気にしないことにする。

 

 最後は岩を押し運ぶ修行。これも鬼には簡単すぎるため、ただでさえ大きい白目の人の2倍ある岩・・・の上に白目の人と同じくらいの岩を乗せて押した。ちなみに固定はされていないため、落とさないように注意しながらである。何回か落としてしまったからまだまだ修行が足りないと痛感した。が、こちらもなんとか成功した。これで白目の人が言っていた修行は終了である。

 

「あの、終わりました!」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

「えっと・・・」

「今までの任務では・・・誰一人傷をつけることなく鬼を滅した・・・そしてここでの訓練も達成した・・・私も君を認める・・・」

「え、えと、え?」

「試すようなことをして申し訳ない・・・とある事情があり・・・かなり疑い深くなってしまった・・・」

「・・・」

「君が少しでも音をあげるようなことを言ったら・・・認めないつもりだった・・・未来でどうなるかは分からないが・・・出来る限り君を手助けしよう・・・」

「あ、りがとうございます。皆さんの判断が間違っていたなんてことにならないように、これからも頑張ります!よろしくお願いします!」

 

 そういうと、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏とまた念仏を唱え始めてしまった。だが、修行に同行してから今までの間ずっと名前を聞いていなかったため、改めて自己紹介をして名前を教えて貰った。この白目の人は岩柱の悲鳴嶼行冥さんというらしい。

 

 

 




悲鳴嶼さんは三点リーダが多すぎる

あと、悲鳴嶼さんは自分がやっている内容を、柱稽古でそのまま課題にしていたということにします。

遊郭編にシロを同行させるか

  • させる
  • させない

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