2度の人生と1度の鬼生   作:惰眠勢

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第42話 写真

 

 

 あの衝撃の初対面から数ヶ月後。お館様の采配で、私は不死川さんと共に少し離れた場所まで鬼の討伐に行くことになった。この人と組むのは数回目である。まあ、特筆することがないから任務中のことは省略する。とても怒鳴られたし睨まれたし殺気を向けられたけど、いつものことである。

 鬼の討伐が終わって帰る道中で既視感を覚えた。この景色を知っている気がする。この道を、大樹を、祠を、見たことがある。見覚えのある物たちを辿り、着いたところは老朽化して倒壊寸前の家屋であった。

 

 

 

「おいてめぇ!何してやがる!」

「不死川さん、ごめんなさい、私、ここ、行かなきゃ、だって」

 

 

 

 自分でも何を言っているのか分からない。何を口走っているのか分からない。だけど、ここに入らなければいけない気がした。私は何かを忘れている。この中に入ればそれが思い出せる気がした。不死川さんの怒鳴り声を背中越しに聞きながら、私は家屋の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 玄関を開ける。立て付けが悪く、ガタガタしている

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を歩く。床板が軋んでいて、歩く度にギシギシと音が鳴る。所々穴が開いていた

 

 

 

 

 

 

 

 和室を覗く。ホコリを被った家具と、畳

 

 

 

 

 

 

 

 台所を覗く。腐った食料、虫や蜘蛛の巣だらけ

 

 

 

 

 

 

 

 風呂場を覗く。風呂桶もコケやホコリでボロボロだった

 

 

 

 

 

 これらの部屋を流し見しながら進み、何かに導かれるように一番奥の部屋へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 ドアを開けると、一面に黒い染みが飛び散っていた。おそらく時間が経ちすぎたために黒ずんだ血痕と、それのせいで腐敗が進んだ床や壁。黒い血痕の傍には錆び付いた日本刀が転がっていた。

 

 1歩足を踏み入れて目に入ったのは腰までの高さの箪笥。その上にある写真立てを手に取り、私は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 不死川実弥は困惑していた。しばらく前にお館様からの打診で鬼殺隊に協力するようになり、いつの間にか鬼殺隊に入隊していた鬼のシロ。その鬼が、任務帰りに崩れかけの家屋に上がり込んだのだ。なにかおかしなことをするのではないかと後ろから監視していたが、鬼は一部屋一部屋確認しながら歩を進めていくだけだった。この鬼は何がしたいのか。全くわからないまま最後らしき部屋の前にたどり着いた。

 

 

 

 これまでの部屋で、この鬼は扉を開けるだけで中に入ることはしなかった。しかし、この最後の部屋に限っては扉を開けて中に入っていったのだ。気づかれぬよう、足音も気配も殺して様子を窺う。そんな不死川実弥が目にしたのは、写真立てを手に持ち泣き崩れている鬼の姿だった。

 

 

 

 そもそも、不死川実弥はシロをただの鬼として認識していた。ほかの柱が認めていようと、そこは揺るがなかった。しかしお館様のご意向で任務を共にする事が多く、その度にシロの姿が民間人と重なることがあったのだ。人と同じように言葉を交わし、口喧嘩をし、店に入り食事をして近くにいる客や店主と雑談を交わす。場合によっては値切る姿や喧嘩の仲裁をする姿も見られた。この者が鬼であるという事前知識と、鬼の気配を察知する能力が無かったらおそらく人として認識していたであろう。

 

 

 

 

 

 そして、今。目の前の鬼と人の姿が重なった。

 

 

 

 

 

 鬼の背後から写真立ての中の写真を覗くと、妙齢の男女に挟まれて満面の笑みを浮かべている少女の姿が確認できた。中心にいる少女と、目の前にいる鬼の顔は全く同じだ。写真より少しだけ成長している上に髪が一部変色しているが、ほぼ変わっていない。それを見て、この家はこの鬼がかつて家族と暮らしていた所だということを理解した。

 

 

 

 この鬼の生い立ちを、お館様から聞いたことがある。両親を鬼に食い殺され、両親を食い殺した鬼を日本刀でひたすら嬲っていた所、誰か

ーーーおそらく鬼舞辻無惨だーーーに鬼にされてしまったと。

 

 

 

 だからなんだと。鬼は鬼に変わりはないと。思っていた。今この時までは。だが、この鬼が人であったことを知ってしまった。理解してしまった。人として生きた証を確認してしまった。・・・涙を流すという、人間特有の行動を見てしまった。写真を見ながら幼子のように泣きじゃくるこの鬼を、ただの鬼だと、その他大勢の屑共と一緒だと、深層心理で思えなくなってしまった。この鬼を一瞬でも人だと認識してしまったことは、不死川実弥にとって衝撃的なことであった。

 

 

 この鬼を、シロを、人として認識してしまった以上、頭でどう思おうと鬼として再認識することが出来なくなってしまったのだ。何度でも再生する体も血鬼術も、鬼にしか出来ないことだというのに。

 

 

 同情した訳では無い。哀れんだわけでもない。もちろん過去の自分と重ねたわけでもない。ただ単純に、形容し難い苛立ちに歯噛みした。

 

 

 




辛い記憶すぎて、両親が鬼に殺されて自分も鬼になったという部分しか覚えていなかったシロちゃん。詳細も親の顔も思い出も覚えていなかった。
忘れている事すら認識出来ていなかったの、凄く悲惨だと思う。ごめんよ

あと、人として見てしまったもんだから今後鬼として対応するのが難しくなりそうな不死川さん。そのままずるずると普通に接してくれ

遊郭編にシロを同行させるか

  • させる
  • させない

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