2度の人生と1度の鬼生   作:惰眠勢

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第43話 記憶

 本人は自覚していないことであるが、シロの精神年齢は10代後半で止まっている。

 

 前世では30手前まで生きられたとはいえ、20歳になって少ししてから死ぬまでずっと入院し、世界の全てがベッドの上だけになっていた。そんな状態で精神が成熟するだろうか。答えは、否。また、20代に入ったばかりということもあり、当時のシロの意識は10代後半のままであった。そのせいで前世の精神年齢は幼いまま命を落としたのだ。

 

 今世ではどうだろうか。10代後半の精神年齢のシロが精神年齢と同じほどの歳になり、鬼になって体の成長が止まった。鬼になるのがもっと遅かったら違っていたかもしれないが、精神年齢と肉体年齢が一致した状態で成長が止まってしまったのだ。そのせいで、この先20年生きていたとしても中身がこれ以上成長することは無かった。つまり――。

 

 

「ひ、うう、お、かあさ、おと、う、さ・・・」

 

 

 凄惨すぎて両親との思い出を全て脳から抹消し、覚えていないことすら認識していなかった10代の少女。写真を見て全てを思い出してしまったシロは蹲り、嗚咽をこぼしながら号哭した。20年分封じていた記憶が一気に蘇ってきたのだ。両親との暖かい思い出と、鬼に破壊された悲惨な記憶が同時に脳内に流れ込み、シロはどうすることも出来なかった。このままでは廃人になるであろう、ということももちろん予測出来るはずもない。

 

 

 

「・・・死んだ人間は二度と戻らねえ。だから仇を討つ為に鬼殺隊に協力をしたんじゃねえのか」

 

 

 

 そもそも、不死川実弥は冷酷な人間ではない。鬼や鬼に協力するものに対しては憎悪や殺意の対象とするが、そうでない民間人に対しては口は悪いものの攻撃的なことをしたことは無い。どちらかといえばケアはきちんとする方だし、本人は自覚していないが人情に厚い者である。そんな人間が、鬼であるものの人であると認識してしまった場合、彼女を見てどうするのか?

 ーーー決して優しい言葉ではないが、過去に浸り現実から目を背けた彼女を諭し、現実側に引き戻すことであった。

 

 

「おかあさん、おとうさん、なんで、それなら、私も一緒に・・・!」

 

 

 正真正銘、彼女の心の奥底から出た本音であった。前世では家族を置いて逝った。今世では家族に置いて逝かれた。双方の立場を経験した彼女は、共に死ぬのが幸福だと本気で考えていた。なぜ生き残ってしまったのか。なぜあの時自分はいなかったのか。なぜあの場で自死を選ばなかったのか。あの鬼に反抗せず、大人しく喰われていれば腹の中で一緒にいられたはずなのに、と。

 心の枷が外れた彼女は心のままに全てを打ち明けた。打ち明けたと言うには理性も冷静さも欠けていたが、偽り1つ含まない彼女自身の言葉であった。

 

 それらを黙って最後まで聞いていた不死川実弥は、全てを無にしたような顔で彼女の胸ぐらを掴み、今までの彼を考えたら信じられないほど静かに話し始めた。

 

「いいか、ここで這いつくばって嘆いても何も変わらねえ。嘆く時間があるなら力をつけろ。てめえの仇はなんだ?鬼だ。鬼の元凶はなんだ?鬼舞辻無惨だ。てめえの使命は鬼を殺すことだ。自分も死ねば良かっただ?死んだところで何も変わりゃしねえだろ。身内を鬼に殺されたやつなんか鬼殺隊に大勢いる。全員、それでも必死こいて鬼を殺してんだ。自分だけが不幸だなんて思い込むんじゃねえ」

 

 場合によっては死体蹴りのような言葉たちだったが、真っ直ぐシロの心には届いた。絶望に呑み込まれ死んだ目をしていたシロに、少しだけ生気が現れる。

 

「・・・そ、うですよね。両親も、きっと私が死ぬのは望んでないですよね。仇を取れば、あの世で褒めてくれるかな・・・」

「俺はてめえの親じゃねえ。俺に聞くな」

「正論、ですね・・・うん、うん。おかあさんもおとうさんも優しいから、きっと褒めてくれるはずです。頑張らなきゃ」

 

 小さな声で呟いたシロはゆっくりゆっくりと立ち上がる。写真立てをしばらく眺めて、元あった場所に戻した。そのまま写真立てにも部屋にも背を向けて、廊下に出る。

 

「過去を嘆いても何も変わりませんよね、未来を変えないと。鬼のいない未来を作らなきゃ。ご迷惑をかけてしまいすみません。この家から出たら、普段の私に戻るので」

 

 それを聞いた不死川実弥は何も答えず、目の前を歩く鬼の足元に数滴の水が零れている事にも気付かぬ振りをした。

 

 




なんだかんだ不死川(兄)は悪い人じゃないと思うんだ
少なくとも我が家ではそういう扱いなんだ。そうでも無いと会う度にシロが殺されかけてしまう

遊郭編にシロを同行させるか

  • させる
  • させない

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