胡蝶さんに通されたのは居間だった。大きめの机が中心にあり、壁際に箪笥や掛け軸や壺がある部屋だ。まだ泣き通している私は、胡蝶さんと炭治郎くんに促されて机に向かって座った。それを確認したしのぶさんは用事があるからと部屋から出ていく。炭治郎くんは私の向かいに座ってから背負っていた箱を降ろした。先程はパニック状態で気が付かなかったが、箱の中から鬼の気配がする。鬼に変わってしまってはいるが私はこの気配をきちんと覚えている。この子は・・・。
「・・・鬼になってしまったのは、禰豆子ちゃんだったのね」
そう言うと同時に、箱から禰豆子ちゃんが現れた。何故か竹を噛んでいるものの、可愛らしさは変わらない。周りを見渡して、私を視界に入れた禰豆子ちゃんはなぜか私の頭を撫でて抱きついてきた。・・・引っ込んだばかりなのに、また涙が出てきた。
「あ、ちょ、禰豆子!」
「いいの。嬉しいから気にしないで」
「・・・2年前に禰豆子は鬼になりました。でも、それから今日まで人は食べていないんです」
「大丈夫、分かってるわ。人を食べていないことくらい判別がつくもの」
「ありがとうございます。・・・あの、聞きたいことがあるのですが、シロさんはどうして鬼殺隊に?」
炭治郎くんの質問を受けて、私はこの20年間にあったことを伝えた。人だった頃に出会った隊士と鬼になってから再会したこと。それからずっと監視をされていたらしいこと。人を守りながら鬼を喰っているということで協力関係を申し込まれたこと。暫くしてから炎柱に鬼殺隊に入るよう勧められて、お館様にも了承されてそのまま鬼殺隊入りしたこと・・・。それを聞いた炭治郎くんは、納得したように何度も頷いた。
「なるほど・・・20年間の積み重ねがあったから、シロさんは認められたんですね。それに比べたら禰豆子は2年間だし、その2年間お館様に監視されていたわけじゃない」
「そうね。それに、私は協力関係を結んでいる時に十二鬼月の下弦を倒してるから・・・それもあるかも」
「えっ!?十二鬼月倒したんですか!?シロさんが!?」
「え、ええ、まあ、倒したわよ。ちょっと手こずってしまったけれど」
十二鬼月の下弦を倒した事を話すと、炭治郎くんは目玉を向いて驚愕を顔全体に現した。なんなら体中プルプル震えている。・・・もしかして、那田蜘蛛山に炭治郎くんもいたんだろうか?あとから、あそこに下弦の鬼が居たと聞いた。討伐したのは冨岡さんらしいが。
「俺、那田蜘蛛山で下弦の鬼と戦ったんです。でも全然敵わなくて・・・目の前で他の隊士も何人も亡くなりました。シロさんは、シロさんが戦った時はどうでしたか・・・?」
「そうねぇ・・・下弦の鬼と会った時は下級隊士がいたから守りながら戦うのは大変だったわね。でも、誰も亡くならなかったわ。全員守り抜いたもの」
「っ・・・!」
「ああもう、唇を噛まないの。私は鬼だし、血鬼術があるから一緒にして考えない方がいいわ。むしろ下弦の鬼と戦って生き残ったんだもの、炭治郎くんは凄いわよ」
正直、目の前で隊士を死なせてしまったという炭治郎くんにこれを言うのは酷だと思う。でも本当の話だし、きっと炭治郎くんはこれを聞いて心が折れるほど弱くはないと思っている。私のことを知らなかったということは最近鬼殺隊に入ったばかりなのだろう。それなのに那田蜘蛛山で生き延びれたのだから才能はある。・・・まあ、鬼殺隊になど入らず穏やかに暮らして欲しいと思わないでもないが。
「そういえば、炭治郎くんはどうして鬼殺隊に入ろうとしたの?私が言うのもなんだけれど、ここは鬼を倒す所よ?鬼になってしまった禰豆子ちゃんがいるのに・・・」
「あ、そうだ!俺は禰豆子を人に治す方法を探すために鬼殺隊に入ったんです!シロさん、何か知りませんか!?」
・・・ふと、以前に冨岡さんが言っていたことを思い出した。
ーーー人を喰わない鬼だ。家族全員が殺され、無事なのは1人の息子だけだった。その息子の妹が、鬼に変貌していた。
ーーー今は鬼殺隊に入るための修行をしている。鬼になった妹を人に戻す方法を探すそうだ。
もしかして、もしかしなくても、あれは炭治郎くんと禰豆子ちゃんの事だったのか!と思うと同時に他のことも思い出してしまった。
ーーー俺は最初、その鬼を殺そうとした。・・・が、色々あり兄の方を攻撃した。
「・・・炭治郎くん、冨岡義勇って知ってる?」
「え?え?はい、知ってますけど・・・」
「その人に、攻撃、された?」
「あっ!いえあの、あの人は、その!恩人で!」
「されたのね?」
「うっ・・・はい・・・」
オーケー分かった。冨岡さんには今度ヘッドロックを仕掛けてやろう。鬼になってしまっていた禰豆子ちゃんはともかく(全く良くないが)、可愛い可愛い炭治郎くんに攻撃を仕掛けたなんて許せない。
「ああ、ごめんなさいね。話が逸れちゃったわ。人を鬼に戻す方法だけど、知らないの。知ってたらとっくに戻っているだろうし。・・・珠世さんっていう方には会った?」
「はい!会いました!鬼の血を取って提供してます!」
「そう。珠世さんに鬼の血を渡し続ければ、そのうち薬が完成するかもしれないからそれに期待するしかないわね」
「そうですよね・・・。いきなりすみませんでした、ありがとうございます!」
「ううん。またいつでも連絡してね」
そう言って、炭治郎くんと別れて蝶屋敷を後にした。家に戻っている最中の私の頭を占めているのは1つだけ。
・・・鬼舞辻無惨、ぶち殺す。
鬼舞辻無惨に対する憎悪メーター爆上がり
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない