鬼になってから暫くの間、金がなかった。
基本的に、人は金銭がないと生きていけない。私は鬼を食べるから食費はかからないとはいえ、衣服などの身なりを整えるためにはお金が必要だ。鬼になったとはいえ、汚いのが嫌だという乙女心は無くならない。盗みをすればいいんだろうが、そんなことはしたくない。家から持ち出すということも忘れていて、気づいた時には家の場所が分からなくなっていた。ので、近場で働くことにした。老夫婦が経営をしているこじんまりとした茶屋だ。足腰が弱くなってきて接客が難しくなってきたと言っていたから駄目元で打診したら働かせてくれると言ってくれた。ありがたい。
「シロちゃん、いつもありがとうねぇ」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。雇ってくれてありがとう」
ここで働き出して1ヶ月が過ぎた。この店は現代で言うアーケードのような所にあるため、日中でも日は当たらない。というより、この里は陽射しが強すぎて健康に悪いため里中がアーケードのような街並みになっている。なんなら日が当たる場所の方が少ないくらいだ。
そんな鬼に都合のいい場所だから時たま鬼がやってくる。鬼が来たら私の食事タイムだ。血鬼術・圧砕細粉を使ってすぐさま殺して食べる。この里に入ってきた時点でその鬼が死ぬことは確定しているのだ。言い方は悪いが、Gホイホイならぬ鬼ホイホイ?
私が食べるせいか、今まで行方不明者や謎の死を遂げる人が多かったにも関わらずそういったことが無くなったらしい。シロちゃんは守りの神様だ、と里中のおじいさんおばあさんに手を合わされる。神様どころか鬼なんだけど、感謝されるのは悪い気分じゃない。
ちなみにシロちゃんというのは私の名前だ。というより、雇ってくれた茶屋のおばあさんがつけた。自分の名前がわからないと言ったら、髪の先端が白いからシロちゃんでどうだい?と言われて、そのまま定着した。案外しっくり来ている。
日中は茶屋で働き、夜間はやってきた鬼を食べる生活が続いていた。鬼を喰らい、帰ろうとしたところで里の外からほんのり血と人の匂いがしたことに気づいた。気になってその匂いの方に近づいたら鬼狩りの格好をした男の人がいた。いや、あの人はまさか・・・。
「その姿・・・あの家の、生きて・・・」
「・・・鱗滝さん」
「そうか、そうか・・・鬼になってしまったか。痛ましい」
「鱗滝さん、怪我してるの?」
「自分の心配をしたらどうだ?昔教えただろう。鬼殺隊は鬼を狩る、と」
「うん、そうだね。覚えてるよ。でもね鱗滝さん、私、人を食べてないの。本当よ」
「人を食べない鬼はいない」
「前例が無かっただけでしょ?実際私は食べてない。鬼を食べて暮らしてる」
「鬼を?」
「うん。あのね、鱗滝さん。鬼って、日光と日輪刀以外でも死ぬの。全部食べれば再生しないんだよ」
そこまで話し、鱗滝さんに背を向けた。
「この里には藤の花の家紋の家がないの。私を雇ってくれてるおじいさんとおばあさんならきっと助けてくれるから、来て」
そのまま、私が住んでいるおじいさんとおばあさんの家に向かった。後ろに鱗滝さんの気配がほんのりあるからちゃんと着いてきているのはわかるが、如何せんほんのりあるといってもほぼ気配がないから本当にいるのか不安になる。その度に振り返るが、振り返る度に鱗滝さんが警戒心を顕にするから少し寂しいものがある。
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない