「義勇よ。儂は鬼にあったことがある」
そう言った鱗滝左近次の弟子、冨岡義勇は困惑していた。引退しているとはいえ鬼殺隊であった以上、鬼と会い、戦うのは当たり前のことだからだ。
「普通の鬼ではない。人を喰らわずに生き延びている鬼だ」
言っている意味がわからなかった。鬼は人を喰う。それが当たり前で、覆しようのない事実だった。この時までは。
「初めて会ったのは明治の初めの方だ。藤の花の家紋の子でな、好奇心が旺盛で頭がよかった。聞き上手でもあったから儂が教えられる範囲の知識を全て教えた。鬼のこと、倒し方、呼吸について。・・・人であった時に会えたのは、この時が最初で最後だった」
冨岡義勇はただ黙って聞いていた。恐らく、目の前の師も返事を必要としていないだろうと感じたからだ。
「次にその子の存在を思い出したのは、それから数年経ってからだ。その家のものが鬼に襲われたと通達があり、調査に向かった。何故か庭に埋められていた両親は食いちぎられ、その子の姿は跡形も残っていなかった。恐らく骨も残らぬほど食い尽くされたのだろうという調査結果だった。・・・だが、違った」
黙って聞いている間、冨岡義勇は冷や汗をかいていた。鬼は人を喰う。人を喰うから鬼を殺す。それなら・・・人を喰わない鬼は、どうすればいいんだ?
「数ヶ月後、遠くの山で鬼の目撃情報が入った。丁度他の任務で付近にいた儂がそこに向かうことになった。鬼を倒し、近くの里で体を休めようとして再会したのが、鬼に変貌したその子だった。匂いで人を食べていないということはわかったがどうにも信じられなくてずっと警戒していた。あの子は儂を覚えていて、昔のように接してきていたのが余計に痛ましくてな・・・」
冨岡義勇は、人を喰わない鬼に遭遇したことがない。鬼は須らく人を喰う。人を喰わない鬼に遭遇した時、自分は一体どうするのだろう。
「義勇。お前も今後、その子と出会うかもしれない。その子は人を喰わない代わりに鬼を喰って生き長らえていたし、鬼を心底憎んでいた。だからきっとお前の力になってくれるはずだ。敵視しないでやって欲しい。」
再度、冨岡義勇は困惑した。人を喰わない?鬼を喰う?俺の力になる?そんな馬鹿な事があるものか。あっていいものか。人と鬼が手を組むだなんて夢物語、師の話であろうと誰が信じられるものか。
「・・・いつか、分かる時が来る。きっと人を喰わない鬼は今後も現れるだろう。人を殺めず鬼を殺めるのなら、それは人類の敵ではない。」
ーーー禰豆子は違うんだ!人を喰ったりしない!
冨岡義勇がそれを知るのは、もっと後の話だ。
お気に入り、しおり、コメント、評価、ありがとうございます!ただただ鬼滅夢が書きたい一心で始めた作品ですけど、楽しいです・・・!
ちなみにそろそろネタが尽きそうなので、ネタをください・・・
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない