2度の人生と1度の鬼生   作:惰眠勢

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第76話 甘い

 

 

 宇髄さんにシロさんの弱点を教えてもらってから数日後。海にいた漁師さんに頼み込んで生きているタコを売ってもらった俺たちは、シロさんと模擬戦をするために稽古場で待機していた。タコは外側から見えない箱に入っていて、俺が抱えている。狭いだろうが許してくれ。

 

 

 そういえば、稽古場に来る途中に以前会った山田さんとすれ違った。山田さんにこの箱について聞かれたから、シロさんの弱点をつくものが入っていると答えたら変な顔をされたのだ。

 

 

「シロの弱点って・・・もしかして、タコとかイカとかのうねうねしたやつか?」

「知ってるんですか?」

「ああ、まあ知ってるけど・・・。確かにシロが倒せなかった鬼は、手足がタコみたいになってるやつだったらしいけど・・・あれって弱点・・・?弱点なのか?うーん」

「あ、あの?」

「弱点というかあれは・・・いや、いいや。俺ちょっとこの後任務入ってるから、どうだったか教えてくれよ!」

「分かりました!」

 

 

 ・・・これが、先程の山田さんとの会話である。シロさんの弱点についての話で歯切れが悪くなったのが気になるが、まあ実践してみればどうなるかわかるだろう。

 そして、俺と善逸と伊之助が集合してからシロさんが稽古場に入ってきた。俺が持っている箱に関しては一瞥しただけで、何も言わずにいつも通りの稽古が始まった。

 

 

 

 

 

 タコ入りの箱はいつも背負っている木箱の中に入れた。これを背負っている事を疑問に思われないように、禰豆子が中にいると思わせておいて実際は稽古場の用具入れの中に隠れてもらっている。シロさんは感知系は得意ではないらしいから大丈夫だろう。

 

 

「よし炭治郎いけ!」

「ああ、分かった!」

 

 

 善逸の声掛けで俺は箱を地面に落とし、タコを掴んで取り出した。それを見たシロさんの顔が一瞬引き攣ったため、行けると思いそのままシロさんに向かって投げつける。その間に善逸と伊之助がシロさんの頸に刃を振り、俺も構えながら近づく。いける!と思った瞬間。

 

 

「っぐ!?」

「アァ!?」

「ギャッ!」

 

 

 タコが歯車で切断された上に、別の歯車が目の前に現れて行く手を阻まれてしまった。善逸と伊之助の攻撃も同じく阻まれてしまったのだろう。地面に倒れ込んだ俺たちを尻目に、氷のような目をしたシロさんが口を開いた。・・・シロさんのこんな目、初めて見たぞ。

 

 

「・・・確かに私はこういうのが苦手だけど、別に攻撃は出来るのよ。昔倒せなかったのは日輪刀を持っていなかったから。日輪刀を持っていなかった頃、鬼を倒すためには食べるしかなかったから・・・食べたくないだけなのよ」

「そ、そんなあ・・・」

「ごめんなさいね。でも、宇髄さんにきちんと細かく聞いていれば教えてくれたわよ。情報収集が甘かったわね」

 

 

 それを聞いて、がっくりと頭垂れた。まさか、弱点というのが「攻撃できない」ではなく「食べられない」だとは思わなかった。でも確かに、俺たちはそこだけを聞いて深く調べようとしなかった。宇髄さんは嘘は言っていないし、俺たちが甘かっただけだろう。そういえばさっき山田さんも歯切れが悪かったし、その時に教えて貰っていれば良かったんだ。

 反省点と改善点が増えたと考えていると、善逸がプルプルと震えて立ち上がるのが分かった。そしてそれと同時に出入口の方まで走っていく。

 

 

「なんだそれ!なんだそれ!食べられないのが弱点ってなに!?今はシロさん日輪刀あるし実質無敵じゃん!弱点無しじゃん!無理無理無理絶対勝てないって!無理だって!・・・ああ!!」

「・・・善逸くん?」

「こ、これならどうだ!女の子はこういうのが苦手って相場が決まってる!!!」

 

 

 叫びながら出入口付近に近づいた善逸が足元をみると、瞬時にしゃがんで何かを掴んだ。あれは・・・蛇、か?どこかで見た事がある蛇を掴んだ善逸は、走りながらシロさんに近づいて蛇を投げつけた。が、シロさんはその蛇をなんなく掴む。そして一言。

 

 

「・・・あら、この子伊黒さんの子ね」

 

 

 その言葉を聞いた俺は、顔面を鷲掴みにされた記憶が蘇った。善逸と伊之助は不思議そうな顔をしている。なんだか嫌な予感がしてきたぞ・・・と思ったら、すぐ近くから覚えのある匂いがしてきた。蛇柱であり、この蛇を首に巻いている伊黒さんの匂いだ。

 

 

「・・・貴様、よくも俺の蛇を乱雑に放り投げたな」

「ア゙ーーーーー!!!!!(汚い高音)」

 

 

 善逸の背後に音もなく忍び寄り、そのまま後ろから善逸の顔を掴んだ。なんだか心做しかギシギシという音が聞こえてくる。シロさんはというと、「手加減はしてあげてくださいね・・・」と言ったきり目を逸らしてしまった。今のシロさんからは呆れているような諦めているような同情のような共感のような、不思議な匂いがする。それに気がついたのかシロさんが口を開いた。

 

 

「伊黒さん、この蛇をとても可愛がっているの。そりゃあ、乱暴に放り投げられたら怒る気持ちも分かるわ」

「な、なるほど・・・」

 

 

 そして伊之助はというと興味がないようで、用具入れからでてきた禰豆子と一緒に外を眺めていた。なんなんだ、この混乱した空間は・・・!!

 

 

 




何か書き始めても1ヶ月すると書けなくなるという謎の症状が毎回訪れる。シンプルにスランプです。

遊郭編にシロを同行させるか

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