「姉貴ー!見ろ!熊獲ってきた!俺すげえ!」
「さすが伊之助だね。今日は熊鍋にしようか」
「よっしゃ!肉!」
「・・・作るのは私なのよね」
伊之助と知り合ってから、早1年が経過していた。伊之助はちょっとずつ大きくなり、私ほどとはいかないものの強くなってきた。あと何故か私が姉貴分になってた。なんで?
「スゲー食ってスゲー背伸ばす!そのうち姉貴を見下ろしてやるからな!」
「楽しみにしてるよ。ああでも伊之助の顔好きだから、そのままでもいいんだけど・・・」
「???」
男の子に対して言う言葉ではないだろうが、伊之助は可愛い。言動は置いといて顔が本当に可愛いのだ。ただその分、首を境にした上と下の差が激しい。ムキムキの上に美少女の顔を乗っけているようなものなのだ。でもそのアンバランス加減も好きだ。血は繋がってないけど、これが身内贔屓というものだろうか?
「伊之助、熊鍋出来たよ」
「よっしゃ!肉!肉!肉!」
「野菜もちゃんと食べてね」
「・・・」
「変顔しないの」
熊鍋を食べて、稽古して、朝日が登る前に私は消える。毎日それの繰り返しだ。日中伊之助が何をしているのか知らないが、伊之助は強いから大丈夫だろう。そんじょそこらの獣には負けないし人にだってきっと負けない。鬼は日中活動できないし、私がいない間の伊之助に危機は訪れないだろう。最初から大丈夫だとは思っているが、もはや弟のような存在になっている伊之助が可愛くて可愛くて心配で仕方がない。幸せに生きて欲しいから、鬼の獲物になって欲しくない。だから、だから・・・。
「だから、この山に近づかないでくれる?」
「ヒヒッ、やあだね!あんな美味そうな強い餓鬼がいるんだ。喰わなきゃ勿体ねえだろぉ?なぁ?」
「分かった。死んで」
伊之助に手出しはさせない。あの子に鬼の存在を知って欲しくない。あの子は強い。強いから、強いものとの戦いを好む。鬼の存在を知ったら鬼と戦おうとするだろう。鬼殺隊を知れば、鬼殺隊に入りもっとたくさんの鬼と戦うだろう。そんなこと、絶対にさせたくない!
「新しい血鬼術を考えたの。丁度いいから、実験台になってね」
「あぁ?・・・グゥゥッ!」
「血鬼術・六面死潰」
新しい技だが、以前使った圧砕細粉の応用だ。尋問・拷問用とも言える。立方体状に組み合わせた歯車の中に対象を閉じ込めて、足がついている地面側の歯車を高速で回す。遠心力で壁側に吹き飛ばされた対象はバランスを取ろうとするが壁側に張り付いているためどこかしらの辺か角に体の一部が触れることになる。そうすればもう終わりだ。触れている部分の歯車同士を回して、立方体の中から外にかけて潰す。ちなみに、この6つの歯車はきちんと嵌ってはいない。すべてが嵌っていると歯車が回らないからだ。
「ギ、ギィアアア!やめ、やめろおおお!」
「じゃあ教えて。この山に鬼は何人いる?」
「っ!っっっ!3!お、俺を入れて3だ!」
「教えてくれてありがとう。そろそろ陽が登るから、日光で焼き殺してあげるね」
「や、やめ、ギャァァァァ!」
パキ、と後ろで音がした。気配でわかる。これは伊之助だ。
「伊之助。なんでここに居るの?」
「姉貴、が。包帯、忘れてってたから」
「そう。ありがとう伊之助。それはあげるよ。」
「姉貴、今の・・・なんだ?」
「・・・忘れてって言っても、忘れないよね。いい、伊之助。今のは鬼。私も鬼。鬼は人の敵だから、絶対に関わらないこと」
「で、でもよ姉貴!姉貴は!」
「でももだってもない。鬼は人の敵だよ。鬼は人を喰べるの。危ないのよ」
振り返らずに、木陰から淡々と伝える。まるで境界線のようだ。陰の私と陽の伊之助。最初から、姉と弟にはなれないのは分かっていた。それでもこの陽だまりの生活に甘えていた。
「・・・姉貴は?」
「伊之助、言ったでしょ。鬼とは関わらないこと。私はもう行くから安心して」
「姉貴は、絶対に人なんて食ってねえ!俺なら分かる!鬼が全部敵なんて嘘だろ!姉貴は俺の姉貴だ!さっきだって、弱い俺の代わりに鬼を倒してたんだろ!?」
「・・・」
何も言わず、何も言えず、その場を後にした。言える言葉が無かった。鬼と知っても姉貴と呼んでくれる伊之助に、純粋に信じてくれる伊之助にこれ以上何も言えなかったのだ。伊之助は弱くなんてないが、強いと言って自信をつけて鬼に立ち向かわせたくもない。
「俺はまだ!姉貴に勝ってねえ!次会った時はぜってーに勝つからな!危ないなんて言わせねえ!一緒に戦うからな!」
・・・一緒に、なんて言葉を聞いたのはいつぶりだろう。
幼少の伊之助はもっと素直だったのかもしれないという妄想
遊郭編にシロを同行させるか
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させる
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させない