ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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後書きに重要な話を載せさせていただきます。どうかご確認をよろしくお願いします。


それぞれの道へ

────あァ、クソ。あの野郎、ここまでボコボコにしやがってよォ…………

 

 

瓦礫の中で彼はそう考えていた。口に出そうとしても喉の奥から溢れそうになった血の塊によってそれが無理だったからだ。

 

 

そうして、彼────風刃亮斗は地に伏していた。心の中にあったのは怒りといった感情ではなく、何故か落ち着いていた。

 

 

 

────身体が動かねぇじゃねぇかよ、どうしてくれやがる

 

 

 

惨めだと思った。しかしどうしようもなかった。腕も足も折られて痛い、もう簡単には動けない。

 

 

ハッ、と自分を嘲笑う。滑稽だ、挑発などして唆したから負けた。お陰で奴は覚醒したが、()()()()()()とないえ自分がここまで痛めつけられたのは、相当にキツい。

 

 

 

もう寝ようか、そう考えてもしまうほど、無気力だった。当然だ手足が動かないのに、何をするというのだ。

 

 

 

『…………おい、何諦めてんだ』

 

──────しかし、そんな真似を許さなかった。他ならぬ自分自身が。いや自分自身(風刃亮斗)の皮を被ったような誰かが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『思い出せ、お前の根底を。お前を動かし続けた動力源を

 

 

 

 

何なら、この(ワレ)が引きずり出してやる』

 

 

 

頭の中が、弾ける。

 

 

『■■■■■、本当にこの子を───?』

『えぇ、不安なのは分かります。けど、この子まで巻きこまめない。これは私達が原因だから』

 

 

 

────これ、は…………?

 

 

 

『────ごめんなさい、亮斗。貴方を一人にして』

『僕達の代わりに生きるんだ。どうか、幸せに───』

 

 

 

────止め、ろ

 

 

自然と声が出る。脳裏に浮かび上がる途切れ途切れの光景。姿がよく見えない男性と女性が優しく撫でてくる景色。

 

これは知ってる、彼の過去だ。 弱者であったからこそ、奪われ続けた憎たらしい記憶。

 

 

それを見たくないと、亮斗は拒絶した。何故ならこれは彼が経験してきた記憶。

 

 

 

ならば、あの時の悲劇を─────絶望をもう一度味わうことになる。

 

 

 

そんな青年を嘲笑うように景色は切り替わる。そう、心から見たいと望んでいた…………だが、これは違う。これだけは見たくないのだ。

 

 

 

『ねぇ!貴方は一人?皆といないの?』

 

 

普通とは違う街で、一人で弱者に浸っていた彼に、声をかけてくれた人がいた。

 

 

誰よりも優しく笑い、誰よりも強く生きていた少女。自分とは正反対なくらいの彼女は────手を伸ばしてくれた。

 

 

 

────止めて、くれ

 

 

 

『聞いて亮斗。私、『神王』さまの力になりたい。私達を助けてくれたあの人を、支えたいと思ってる』

 

 

 

────嫌だ、嫌だ。止めてくれ、もう見せないでくれ

 

 

 

『約束だよ、亮斗。私と一緒に頑張ろ?』

 

 

 

────止めろ、止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ!!

 

 

必死に祈るが、何も届かない。これ以上は見たくない、何でもするから止めてくれ。頼む、お願いだ。

 

 

 

 

そう言っても、そう祈っても、現実は非常に切り替わる。

 

──────脳裏に映るのは次の映像。

 

 

 

 

炎に燃え盛る街中。暗黒の空には複数の影があり、襲撃された事を意図している。

 

 

そして、風刃亮斗という青年の目の前で。赤々しい鮮血が宙を舞う。残酷な程に綺麗な血が。まるで火花ように散る。

 

 

最後に、地面に倒れ込む誰か。池のような血溜まりの中で沈む、優しく強かった少女の姿が─────

 

 

 

 

「───────止めろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

喉の奥から出てきたのは絶叫ではなく、咆哮だった。血の味がするが構わず叫び続ける。脳内のビジョンの全てを覆い尽くすが、それでも足りない。一瞬して動かない筈の身体はバギバキッ!! と音を立て完全に再生する。

 

 

ようやく動いた腕を地面へと叩きつけ、拳を握り締める。痛覚が、感じられなかった。だがどうでも良かった。両手を再度開き、周囲の力を圧縮して─────解放する。

 

 

 

 

どす黒い闇が、噴出した。漆黒の空気の刃は何十層も重なり、亮斗を中心として大きく広がっていく。全てが風、捻れ狂う本物の破壊。

 

 

おぞましい災厄を思わせる嵐中で、亮斗は顔を上げる。血走った眼は今にもはち切れんばかりに膨れ上がり、一誠達に向けられる。

 

 

だがその眼には何も見えていない。理性すら、感情の全てが黒にかき消される。濁りに濁りきってはいるものの、明確に浮き上がる感情があった。

 

 

 

「クソども、が………忌々しい、もん………見せやがって、よォォォ……………」

 

 

幽鬼の如く揺れる青年の力が段々膨れ上がってきている…………違う、解き放っているのだ。自ら課している制約を。

 

 

 

目の前の憎悪を破壊し尽くす、ただそれだけの為に。

 

 

「もォ、何もかも関係ねぇ!!テメェら全部、何もかも!消し飛ばしてやらァ!!!死ね、死ねェェッ!!!」

 

 

 

ラインハルトは思わずエクスカリバーを低く構える。一誠達の事も少なからず気にはしているが、これ程の破壊はゼノヴィア達をも巻き込む。そんなこと、絶対に許容出来る話ではない。

 

 

 

けれど、自覚もしている。今の状態では暴走する風刃亮斗を止めることも出来ない事は。

 

 

 

 

 

「────止めなさい、亮斗」

 

 

直後、世界が光に包まれた。

光と言っても太陽とは違う、閃光。数多の光が空に何千も瞬き、夜に浮かぶ星空を作り上げる。

 

 

────いや、いや、違う。

両目を細めてラインハルトは「それら』が何なのか理解した。

 

 

全てが魔法を発動する魔方陣。0秒のラグがあったとかではなく、正真正銘同時に展開されていたのだ。そして、光の中に浮遊する一人の美しい女性、銀白のドレスを纏う彼女は手をゆっくりと翳す。

 

 

 

それらの魔法が放たれ──────風刃亮斗を囲んだ。そのまま光の結界が彼を覆い込み、優しく包んでいく。

 

 

精神を安定させる効果でもあるのか、我を失い暴走していた亮斗が正気に戻った。震えた眼で女性を見つめる。

 

 

「 ア ぁ セレナ、さん?」

「気持ちは分かる。けれど目的を忘れないで、そうしたら全て終わりよ。無理を言うけど、セリカの為にも我慢して」

「……………ァ、分かった。すまねェ。おれは、俺は、俺はァ────」

「後は、私に任せて」

 

光の中で崩れ落ちる亮斗を宥めるその姿は母親のようと言っても過言ではない。大人しさや礼儀正しさもあり、印象を深めていた。

 

 

しかし、誰も侮ろうとはしなかった。

 

(あれだけの魔法を数秒で展開した────ただ者じゃない。それに、風刃亮斗の接し方からして………まさか)

 

あれほどの魔法を同時に発動する女性。神器の力ではない、自らの実力によるもの。見た目に反した強さを証明していた。

 

 

そして、彼女───セレナと呼ばれた女性は美しさを損なわないような麗しい動きで礼を示す。

 

 

 

「初めまして、三勢力の皆様。私はセレナ・リンフォース、『神王派』《トライデントフォース》の一人であり『女王(クイーン)』を任されております」

 

三勢力の者達全員が、今度こそ息を呑む。目の前の相手は《トライデントフォース》の一人、つまり風刃亮斗と同等か以上か以下かの違い。

 

 

しかしサーゼクスは少し歩み寄った。彼は魔王として、悪魔達の長として、無益な争いをしないような選択を取る。

 

 

「セレナ・リンォース殿。私達は貴方達、『神王派』と戦いたい訳ではない。どうか話し合いの場を設けさせてくれないだろうか」

 

「話し合う?貴方達と?」

 

変わらず淑やかな笑みでセレナは聞き返す。その声は震えており、今にも暴発しそうだ。勿論、悲しみなどではない。

 

 

彼女が耐えている理由は────今落ち着いている青年の為。彼を宥めた以上、感情的にならないようにと。

 

 

 

「貴方は家族や親友、仲間を殺した相手と話し合ったりするのですか?ありませんよね、敵は滅ぼすのが当然ですよね」

「……………殺した?君たちの家族を?」

「────何も知らないのですか?それとも惚けているのですか?私達の前でよくもそんな事を───いえ、必要ありませんね」

 

その声に怒りが乗り始めてからすぐに、セレナは言葉を切った。もう語る必要は無い、口にした通りに。

 

 

彼女は突然、片手に分厚い本を掴む。虚空から落とされたような光景に目を疑いかけるが、何をするか分からない以上全員が警戒していた。

 

 

目の前で大きな魔方陣が彼女の足元から出てくる。やはり先程のと同じ色の光。セレナは冷静に宣告する。

 

 

「既に私達は用は無くなりました。亮斗を連れて帰らせていただきます」

 

彼女の隣に風刃亮斗が歩み寄った。一誠との戦いで重症だった青年は無傷と言える状態であった。

 

 

彼の視線が体力の消耗しすぎで動けない一誠へと向けられる。

 

 

「赤龍帝、お前は強かったなァ。ただし、お前が勝ったのは『兵士(ボーン)』に過ぎねェ」

「………」

「もしお前が『覇』を越えた時、計画が叶えば────必ず殺す、覚えとけ」

 

 

警告にして決意表明。

一誠に対するものでもあり、自らに対するものでもある。戦っていた時とは違うくらい大人しい青年はそれだけ言い残して、セレナと共に光に包まれる。

 

 

 

 

転移したのだろう、完全に彼等の姿は消えていた。戦いの終わり、それを理解するのに幾らか時間を有する。

 

 

その間に離れた場所での戦いを終えた者も合流していた。校舎から傍観していたアザゼルはその結末を聞く。

 

 

「練、どうだった」

「────引き分けだ。ヴァーリはもう行ったよ」

「…………そうか」

 

ボロボロになって帰ってきた青年に、アザゼルはそれだけ呟いた。哀愁ある目を向け、呆れたような顔で彼の頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。

 

気負うなと言うように。対照的に練は困りながらアザゼルに不満を漏らしていた。

 

 

 

 

一方、

 

「セルク・レイカー。【禍の団】を倒して来ましたか?」

「────はい、問題なく」

 

少し傷を負ったゼノヴィアと近寄ってきたイリナに話しかけるラインハルト達を見ていたミカエルはテロリストの排除を任された騎士王 セルク・レイカーの帰還を聞いた。

 

そして二人で彼等を見る。聖剣使いとして選ばれていたが、それぞれ別の場所に立つ少年少女達の楽しそうな語らいを。

 

 

「─────ミカエル様。このセルク・レイカー、不遜にも貴方様に頼みがあります」

「それは…………何でしょう」

 

微笑みながら振り返ったミカエルはすぐさま顔を引き締めた。護衛としている最強の聖騎士が何時もとは違うくらいの顔つき。

 

 

彼を幼い頃から知る者なら、その顔に気付けたかもしれない。セルク・レイカーという人間が教会により作られた、人工の騎士であった時のモノ。

 

 

 

「ラインハルト・ヴィヴィアンとゼノヴィア・クァルタ。二人が承諾すれば天界の聖騎士へとなれようにお力添えしていただきたい」

 

────自分から死地へ行こうとする自殺志願者の顔。それと似通っている事には、誰も気付けない。

 

 

 

 

 

 

 

数日後の話になる。

会談は終わった後、三勢力の共同作業で戦闘の場となった学園を修復し、彼等の話し合いで『駒王協定』が締結された。

 

 

そして数日前に遡るが、サーゼクスはアザゼルに頼み込んでいた。自身の妹やその眷属達に神器の使い方を教えて欲しいと。

 

 

 

 

 

『────悪いなサーゼクス。俺はあいつらに直接手を貸すのは無理だ。それ以外の事ならサポートは出来ると思うが』

 

しかし、アザゼルはそう断った。彼の話を全て聞いた上で、難しそうな顔して直球に答えたのだ。

 

 

『理由は…………いや、君の考えだから受け入れるよ。無茶を言ってしまった』

『すまないな、借りは返すって言ったのにこんな風に断っちまって』

『それは良いが、理由はやはり────黒月練、彼の事かい?』

 

 

『あぁ、あいつはきっと協定に不満を抱いてるからな。俺があいつらと一緒になるなら練も着いていく筈だ…………多分、いや間違いなくヴァーリのように離反するかもしれない。俺は甘いからな、あいつが復讐に呑まれて欲しくないと思ってんだよ』

 

アザゼルにとって練もヴァーリも、自身の子のように想っていた。ヴァーリは止めることは出来なかったが、練はまだ何とか出来る。

 

 

協定の話を練は受け入れてくれた。アザゼルや皆の為なら、と。静かな笑みと共に、悪魔達との和平を納得したのだ。

 

 

 

『そこまで彼は────私達悪魔が嫌いなのか』

『違うな、嫌いなんじゃない。心の底から憎んでるんだ。あの時現れた、風刃亮斗と同じくな』

 

 

だからこそ練は悪魔達と一緒にいれば耐えられなくなるだろう。彼が抱く────悪魔達への怒り、憎しみを。

 

 

それだけ言ったアザゼルは口を閉ざし、サーゼクスから背を向けた。協力的とは言えど、全面的にとは言えない様子らしい。

 

 

 

───真なる天龍を宿した一人の青年。彼の心境を心配したアザゼル達による配慮と心配によるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、数日後に戻る。

アザゼルとサーゼクス、二人の話に出てきた青年 黒月練は何をしてるかというと。

 

 

「────つまり俺達は今んとこはこのままなんすかねーボス?」

「あぁ、そうだ。大して何も変わらないな」

 

何時もいるグレゴリの本拠地ではなく、人間界にあるホテル。二人用の部屋の中で練は、ベッドの上で暇そうに漫画を読む神父────フリード・セルゼンへの説明を終える。

 

 

練の話を聞き終えたフリードは少しばかり顔を歪ませて笑みを浮かべる。不気味な笑顔に彼は顔色も変えずに質問した。

 

 

「どうした?何がおかしい」

「いやーボスも悪魔達と一緒に行くのかなーって。ほら、あの聖剣使いみたいに」

「…………ラインハルトの事か」

 

 

練は少し考え込むようにしていたが、あっさりと彼について話し始める。

 

 

「残念な話だが、ラインハルト達は天界に所属するらしいな」

「…………えー、何で?でも教会から追放されたんでしょ?」

()()()()はな」

 

その言い回しにフリードは理解する。ラインハルト達は神の不在を知った事で教会によって追放された。しかし教会からであり、天界は彼等を追放する気はなかった。

 

 

だからこそ、聖騎士として保護しようと言う考えなのだろう。やり方にしては悪いように見えるが、意外にもそれが通っているのだから仕方ない。

 

 

 

「それにだ、俺は悪魔どもと仲良くする気は無い。あいつらと俺の価値観は違う、どうせ何処かで衝突するオチさ」

「はいはい、ボスの指示に従いまっせ。あの時アンタにボロ負けした訳ですからね!舎弟らしく忠誠を誓ってやりますぜ!」

 

突然、携帯電話の着信音が鳴り響く。フリードは気にせず漫画を読み続け、ゲラゲラと大笑いするのを横目で睨み、練は電話の相手からの話を聞いた。

 

 

数十秒で終わったらしくポケットに仕舞い込む。そして未だに漫画に明け暮れる舎弟に練がある情報を告げた。

 

 

「いつもの引きこもりからの情報だ。ここから少し離れた場所には転生悪魔がいるらしい。しかも群れ──どうやら奴隷扱いされてた奴等が貴族悪魔から逃げてるらしいな」

 

 

耳にしていたフリードが瞬時に跳ね起きる。無理もない、彼にとって悪魔狩りは趣味の一環。ボスと讃える(嘘っぽいが認めてはいる)練によって自粛させられていたので不満だった結果、それが解禁されたのだ。喜ばない筈がない。

 

 

 

悪魔を狩る事と同時に他にもやることがある。

 

 

「仕事だフリード。ゴミ悪魔の殲滅と被害者の保護だ、楽しさのあまりに逃亡してる奴まで殺すなよ」

「エヘヘヘ!久しぶりの楽しい悪魔狩りですかねぇ!全然ヤれなかったから俺ちゃんも欲求不満でウキウキしてきますよん!!」

「……………お前さぁ、言葉遣いさぁ」

 

 

黒月練は悪魔を嫌う。しかし種族全体を憎んでいる訳ではない。転生悪魔やはぐれ悪魔、ハーフ───何なら純血だろうとその事情と複雑な理由がある者は認める。もし全てを憎むのなら彼は復讐者ではなく、ただの悪へと堕ちる。

 

だからこそ定義している。特定の条件に合う者だけは極力嫌い、激しく憎悪するのだ。

 

 

 

───自分以外を見下し利用し、格上気取って他者を傷つける者。そのような存在に対して練がする事は単純明快。

 

 

 

害悪なゴミを片付ける。そうしていけば、必ず出会うと信じている。自分から全てを奪った、あの忌々しいクソッタレの悪魔を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、会談を狙っての襲撃を行った【禍の団(カオス・ブリゲード)】。彼等にも大きな変化が生じていた。

 

 

それは、この世界の何処にも存在しない空間にある巨大な城。一番上に位置する玉座の間と呼べるであろう部屋の前で起こっていた。

 

 

 

「────何のつもりだ!《神王派》の『(キング)』!!」

「言葉の通りだが?」

 

片方、激昂して怒鳴り付ける男は悪魔────シャルバ・ベルゼブブ。旧魔王派の一人でかつての魔王ベルゼブブの血統である男。

 

そんな彼は怒りを隠しきれず、もう一人の男性に食いかかるが、男性はシャルバに向けて目を細める。失意に満ちた眼で見つめる視線には最早哀れみしかない。

 

 

「カテレア・レヴィアタン、貴様の同胞は彼女の『蛇』を以てしても堕天使総督に敵わなかった。貴様の我が儘故にテロ行為の先導は任せたが…………全く役に立たなかったではないか」

 

 

もう一人の男、濃い色合いをした黒髪。そして特徴的でもあるのは左の顔にある一本の傷痕。まるで刃で深く切り裂かれたように深く残っていた。

 

 

男の名は 武帝皇我(ぶていこうが)。亮斗やセレナと同じく『神王派』の《トライデントフォース》の最後の一員、そんな彼を示す言葉は『(キング)』。

 

 

その単語が表す意味は聞くまでもなく分かる。彼が『神王派』を直接的に束ねる『王』であると。

 

 

「貴様の言う通りにして我が同胞達を手間取らせるのならば貴様らに従うつもりは無いぞ、小者。これからは我々が指揮をする、貴様らは従っておくがいい。下手な醜態を晒す前にな」

 

まるで本物の王の振る舞いで武帝皇我は、目の前に立つシャルバから目を外す。何事も無いような顔にはシャルバに対する興味は微塵にも存在しない。

 

 

比喩抜きで、道端に転がる石ころみたいな扱い。例え今声かけたとしても返ってくるのは無視、もしくは先程以上の嘲笑だろう。

 

そんなものは、シャルバにとってどうでも良かった。彼にとって優先するべきは一つの事実。

 

 

 

 

 

────下等な人間風情に見下された。

 

初めて味わった激しい怒りがシャルバ・ベルゼブブの意識を簡単に支配する。内側からの憤懣に駆られるまま、シャルバは片手から魔力を捻り出し、容赦なく放った。

 

 

 

たった数メートル。何秒も掛からずに、無防備な姿を狙い打ちしようとした。確実に、仕留めたとシャルバは確信する。

 

 

 

 

 

「人間に見下された事への怒りか────それも良し」

 

 

が、彼の魔力は届かなかった。

禍々しい程の暗黒の球は武帝皇我の直前で潰れる。上から、下から、の力に挟まれるように────一瞬で消え去った。

 

 

眼前の現実に硬直するだけしか出来ないシャルバ。彼に向けて『(キング)』は傲慢な態度を崩さずに言葉を告げていく。

 

 

自らの格を見せつけるように、シャルバ・ベルゼブブへの選定をしていく。

 

 

「しかし分かっているのか?自らの選択を。我々は《神王派》だ、この俺に挑むという事は『神王』の力を真に受けるという事を意味しているのだぞ」

「ッ────!!」

「勿論、我が力ならば貴様を殺す事も易い。何なら今すぐその愚かさを灰にして消してやりたいが」

 

 

その眼を見たシャルバは身動ぎしようとも不可能であった。蛇に睨まれた蛙のように、反応することも出来ない自分がここにいる。

 

 

 

そんな彼に『王』が向けたのは─────無機質な選別。

 

 

「貴様は殺すよりも生かす方が屈辱と見た。俺に見逃された事を安堵しながら次こそ失敗せぬように心掛けろ───俗物」

 

旧魔王の血族 シャルバは見逃された。当たり前の現実に彼は煮え滾る憤怒に囚われる。同時に───生かされた事を、心から安堵する自分がいるのに気付かない。

 

 

出来るのは、今度こそ立ち去る『王』の姿を怨嗟の瞳で睨み続けるだけだった。

 

 

 

 

 

玉座の間、最奥にある王の座席。武帝皇我はその椅子に堂々と腰掛けていた。肘掛け、頬杖をついていた彼は、静かに口を開く。

 

 

「旧魔王派はもう駄目だな。奴が頭である以上、好き勝手にやらせる訳にはいかん。レヴィアタンは亮斗に排除させたが、ベルゼブブとアスモデウスはどうするべきか」

 

この部屋には誰もいない。それは勿論、ここは王のいるべき場所、『(キング)』以外は滅多に居座る事はしない。

 

それなのに流暢な言葉で彼はそのように聞いていた。この部屋に向けて。勿論、返答が返ってくるのは事はなかった。

 

 

 

 

────代わりに。

いつの間にか、誰かが部屋にいた。突然現れたのか最初からいたのか分からない。しかし分かる事は数少ない。

 

 

 

『何者か』は玉座の上にある天窓に座っていた。カーテンらしき布によりその姿は隠されているので、容姿を確認することは無理だ。

 

 

人影は────『何者か』は答えようとしない。それどころか言葉も発する事なく数秒の時が流れた。

 

 

 

 

「───フ、彼等にか?お前にしては意外と投げ槍な言い方じゃないか。俺としては不安だがな」

 

しかし、有り得ない事に話は続いていたらしい。『何者か』が何らかの力で声が部屋に響かないようにしているのか、極力小さな声を『王』が耳に拾っているのか。

 

 

 

何もかも分からない中で、彼等は話を進めていく。

 

 

「神滅具の覚醒か………彼等には『覇』を越えてもらう必要がある。白龍皇はまだ出来てないが良い調子、問題は赤龍帝と真天龍だな」

 

───────?

 

「あぁ、赤龍帝は未熟だから気にする事はないが、真天龍の方だな。話に聞いていたが、禁手を使えんのは精神の傷痕(トラウマ)が起因してるか。あれをどうにかしなけらばならん」

 

 

 

───、───────

 

 

 

 

「────二度も言うな、案ずる事は無い。それを口にするのはお前でも許されんぞ」

 

 

ジロリ、と真上に位置する『何者か』を睨む『王』。シャルバにすら無監視であった彼にして珍しい、怒りの感情であった。

 

 

「我等の誓いは不変。例え全てを敵に回してでも、我等は戦うことを選ぶ。────ただ一つの祈り、願いの為に。

 

 

 

 

 

 

 

お前もそうだろう?我が友よ─────」

 

 

武帝皇我はそう言って険しい顔を崩し、笑みを溢す。王としての振る舞いとは違う、人間としての親しい者に向ける信頼と意思のあるものを。真上に居座る『何者か』に向けて。

 

 

 

そして、『何者か』も応えるように笑う。誰もが気付かない間に、決意が深まった瞬間であった。




読者の方からのご指摘により、今回からそれぞれの主人公を元の陣営側に戻しました。強引かもしれませんが、ストーリーにちゃんと関係するのでどうかご安心ください。



悪魔側主人公 兵藤一誠

ストーリーは原作とほぼ同じ。違う所は話として出します。


堕天使側主人公 黒月練

ストーリーとしてはオリジナル方式で進めていきます。


天界側主人公 ラインハルト

黒月練と同じ方針です。



基本的にこれからの話は合流する以外はそれぞれの陣営でのストーリーを書いていきます。一誠達は少なくなり、練とラインハルト達の陣営でのストーリーが中心です。

皆様からの指摘により、新しい展開を作ることが出来ました。本当に感謝の極みです、この小説をこれからもよろしくお願いします。
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