ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus 作:虚無の魔術師
・七本のエクスカリバーは乙女達が渡した偽物、本物はラインハルトが所持している。
・ゼノヴィアの悪魔から人間へ戻った。元悪魔という扱い(重要になる)
今回からラインハルト(天界)編のストーリーとなります。基本的に悪魔側とは違いオリジナルなのでご配慮のもとよろしくお願いします。
聖剣使いの休息
人生には、悲劇が付き物である。
幸せな時を過ごせば、悲劇はそれ相応のものになる。そう、自分が体験した幸福の代償という形で。普通の人は悲劇を知らない者も多いが、理不尽な悲劇というのも少なくない。
かつて『彼』も、そうだった。彼の人生は何処かから悲劇に転落し、いつの間にか崩れ落ちていたのだ。何かをした訳でも無い、理不尽に巻き込まれた。
相手を恨んでいた訳ではない、救わない世界が許せなかった訳ではない。分かってはいた、自分達にとって他人であると、気にする理由なんて無いと。多くの人が知らん振りするのは絶対的な悪ではないと。
それでも、そうだとしても。
繰り返すしかなかった。あの泉の前で、瀕死となった母親を担ぎながら。誰もが応えてくれず、誰もが聞き入れなかった言葉を。
『─────たす、けて』
そして────『彼女』と出会った。
『貴方は────?』
果ての見えない草原に佇む一人の少女、台座に突き立てられた剣の前で、『彼女』は此方に振り返った。
絶望と後悔、様々な負に満ちた地獄の世界を見続けてきた『彼』にとって、どうしようもない光に見える少女。そんな『彼女』に『彼』は心を奪われ、ただ立ち尽くしていた。
たった一人の少女に恋をした瞬間、それが『彼』の始まりだった。
天界日本支部。
教会とは違う、天界側の人間の為の建物。駒王町とは別の日本国内の町にある一般人も使う教会の関係者専用の施設。
別の国の仲間達と情報を共有し合うこともあるが、目的の為に自分達より下の立場である教会に指示を与える為にもある。
「─────ゼノヴィア、ラインハルト。そう気張らなくてもいい」
その一角でラインハルトとゼノヴィア、そして言葉に挙げられてないがイリナは緊張していた。礼儀正しく立つ姿勢を変えない彼等の顔は強張っており、重圧に耐えようとしているようにも見える。
そんな彼等の緊張の理由は、目の前の机に肘を掛ける男性にある。
「私が聞きたいのは悪魔に転生した理由でも、彼等と協力していた事ではない。もっと重要と判断した事だ」
最強の聖騎士、天界の最終兵器、他にもあるが名高い異名を有する男性 セルク・レイカーがそこにいたのだ。会談や通常時に着ている鎧は無く、今は神父服のようなものを軽く着ている。
それでも、通常とは変わらない程の圧力がある。並々ならぬ威圧感は抑えられていたとしても、彼等が耐えきろうとするのも無理はない。
そんなラインハルト達に、セルク・レイカーは冷徹な顔を整える。犯罪者を裁く執行官のような顔立ちで、彼はラインハルトとゼノヴィアに疑問を提示した。
「君達は─────デキてるのか?」
「いえ、そんな事実は無いです」
「そうか」
キッパリと否定するラインハルトの言葉に、騎士王は受け入れた。やけにあっさりとしていたが、信頼というものがあったのだろう。
しかし、それを聞いて黙っていない人物がいた。真横に立っていた青髪に緑メッシュの入った脳筋少女(悲しいが冗談ではない)ゼノヴィアがその一人である。
「何だとライン!私達は何日も夜を共にした仲じゃないか!?私との思い出はそんな簡単に割り切れるものだったか!?」
「三色ご馳走して貰っただけなのに何その言い方!?後夜を共にしたと言ってもお前が人の布団の中に入ってきただけだからね!?」
「嘘!?ライン、ゼノヴィアと一緒の布団で寝たの!?それってもう関係が進んでるじゃない!?私がいない間にそんな風に事を済ませて────」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁああああッ!!!話が余計な方に捻れてくる!!だから二人とも、取り敢えずオブラートに言うけど─────黙って!!本気で!!」
(…………元気だなぁ、あの子達は)
直立不動でいた筈の三人は次第に掴み合いの言い合いに変わり、激しい口論を繰り広げている。何時もの仏頂面を表面に整えるセルクの心内では、最近の若者のコミュニケーションはこういうものかと若干ずれた解釈をしていた。
「………それよりゼノヴィア、もう大丈夫なの?」
「あぁ、心配ないさイリナ。この通り、悪魔としての弊害は解けてる。今なら太陽に当たっても平気だぞ」
数日前、彼女は悪魔から人間へと戻っている。堕天使側の組織、『
練曰く、『無理矢理悪魔にされて逃げてきた転生悪魔達を助ける為にもその技術が必要だから要求しただけだ。俺達がこうしないと勝手にはぐれ認定されて殺されるからな、どっかの誰かさん達にね(皮肉)』という話らしく、悪魔側もグリゴリの悪魔の駒摘出の技術については何も言うことは無いらしい。
何はともあれ、ゼノヴィアが人間に戻れたのは良かった事だ。その実はラインハルトと練がそれぞれ頼み込んだお陰でもあるのだが、彼等は気にしてはいないだろう。
「そう言えば師匠、聞きたいことがあります」
「何だ?」
静かに目だけを動かしてラインハルトを見るセルク。彼にラインハルトは自らの疑念を述べた。
「何故、俺達を戻ってこれるようにしてくれたんですか?」
「…………なに、大した理由は無いな。強いて言えば、後継ぎの問題だ」
「後継ぎ?まさか師匠も結婚とかあるんですか?」
「─────聞くなよ、聞いてくれるなよ」
有無を言わさない声が部屋に響く。
喉元を直接掴まれたような底冷えに彼等は身動きが出来なくなるが、当の本人は無気力に項垂れる。失意や不満と言った感情をさらけ出しながら、彼は愚痴り始めた。
「モテないんだ、分かるかい?私としても結婚に興味あるかと言われたら、無くはないのだが全くモテた経験が無い。結婚など無縁、恋人すら絶対に作れないだろうな私は!!」
「いや師匠もきっとモテますよ!俺よりも強いんですから!俺よりも人気になりますって!」
その言葉を聞いていた真横の二人が大きく反応する。深刻そうな溜め息と共に残念な奴を見るような眼で視線を送った。
代表するように、ゼノヴィアは何とも言えないように呟く。気のせいか小刻みに震えていたりもする。
「お前、お前………よくそんな事言えるな………」
「え、何?不味いこと言った?」
ラインハルトは戸惑いながらも聞き返す。しかしそれが引き金となったらしい。
勢いよく顔を上げたゼノヴィアがラインハルトの襟元を掴み上げる。『えぐぅっ!?』と呻き声を漏らす彼にゼノヴィアは更に続ける。
「お前どれだけモテてると思ってるんだ!自覚しろ!もうあれだぞ?シスターや女教会戦士だけじゃなくて竜すら惚れさせるとか言われてるくらいだからな!」
「何その話!?モテてるとかいう話にも弁明したいけど、竜は違うでしょ竜は!!」
冗談、と言うべきだろうが当事者である彼女達が強い言葉で言うのだから簡単には否定できない。というかそこまでモテるのか、とセルク・レイカーは自らの弟子との差に戦慄するしかなかった。
その内神まで惚れさせるとかある?と考えるのは止めることにした。現実になったら凄く怖い。
「ともかく!これで三人で戦えるって訳ですよね!主よ、この巡り合わせに感謝いたします────」
「いや、教会と天界でも情報登録に時間が掛かるからな。イリナはもう既に行われているが、君達の手続きには面倒な手間がある」
─────あれ?これは嫌な予感………
ラインハルトは話を聞いている間、冷や汗が出ていた。彼としては普通に考えて何も起こらないと思えるが、予感というものは重要である。戦いでも勘によって生き延びる者もいるぐらいだから。
そして、こういう時に限って悪い意味で予感は当たる。
「その手続が終わったら私から連絡しよう。君達は近くの街で遊んできたまえよ」
逃げる間もなかった。
両脇から腕をガッシリと掴まれたラインハルトは抵抗できずに沈黙する。そのすぐ横で『それじゃあ行ってきます!』と叫び、部屋から彼を連れていく少女達を見たセルク・レイカーは近くの古い受話器に眼を向けながら、懐かしそうに思った。
────若いって良いなぁ、と。
「─────何をしている、娘よ」
ローブを着込んだ複数の影があった。その中の一人、長身の男性だと分かる人物が耳元に当てていた通信端末を離し、自身の後ろに険しい声を放つ。
ピクリと、その中の一人 まだ14歳前後の少女が震える。まるで怯えるように、縮こまっていた。
「…………はい、お父様っ。申し訳、ありません……」
「手間取らせるな、何の為にお前を連れてきたと思っている。自らの使命を果たす為だと言うこと忘れるな」
「───それくらい良いだろう」
男性の詰問に、最後の一人が厳格な声で制止する。彼よりも上の立場の人間なのか、男性は気を引き締めて短い礼をしていた。
声からして相当年を取った老人は男性に向けて言葉を紡ぐ。娘と呼ばれた少女に対する男性の態度を諫めるように。
「この娘も疲れておるのだ、お主の訓練に続けて休まずに移動しているのだからな」
「しかし───」
「それより確かなのか、彼奴を倒せると言うのは。仮にも彼の王の聖剣を宿しておろう」
「はい、彼等からの情報通りならば、王の聖剣には限定封印がされております。その程度の状態ならば、彼等から与えられた『この剣』で充分でしょう」
「…………」
男性が笑みを浮かべながらローブから剣の柄を見せる。まるでそれが自分にとって相当の価値があるものというように、しかしすぐに忌々しそうな眼で睨み、腰に納めた。
「さぁ、行きましょう。一族の悲願、祖王の理想を果たす為に──────」